第20話 衣装選び
「巫貴妃様、ついに明日ですわね!」
「ええ、そうね」
私の目の前にいるのは世話女官の家麗さんである。笑顔が弾んでいて、今日も今日とてとっても可愛い。
で、いま私は与えられた自分の閣――翼玉閣にて衣装合わせをしているところだった。
目の前にある衣装はどれも色鮮やかで綺麗なものばかり。色が濃くて派手なもの、薄い色目に同色の刺繍を合わせた上品なもの、ひらひらふわふわしたもの……。
全部合わせたら20着以上あるんじゃないかしら。
「まあ、いい心がけではあるわよ。ようやく、って感じだけど」
あの女嫌いの龍帝が、何を思ったのか私に挨拶をするなどと言いだしたのである。
とはいえあちらが後宮に来るわけではなく、あくまでも私が政務として龍帝に伺候する、という形式だけど。
……まあ、形式なんてどうでもいいわよ。とにかく近くに行けるってことが重要なんだから。
もちろん、私はその機会に龍帝陛下を暗殺するつもりでいた。そのために玖雷国を飛び出てきたのだから当然だ。
「巫貴妃様、こちらのご衣装なんてどうでしょうか。広がる裾も見事ですしこの刺繍の美しいことといったら! こんなに手の込んだ刺繍見たことがありませんわ」
「うーん。裾が長すぎじゃない? 歩いてるうちに裾踏んづけて転んじゃいそうよ」
「ではこちらは? ふわふわしていて可愛らしいですわ。まるで夢見る薔薇のよう……」
「んー、ちょっと動きづらそうね。もっとこう、シュッとしてパッとしてるのがいいわ」
「シュッパッ、シュッパッ……。あ、これ素敵! この重ねの色味が巫貴妃様の繊細な白い髪にとても似合いますわ!」
楽しそうにあれこれ服を当ててくる家麗さん。
うーん。
確かに素敵な衣装ばかりだけど……。
後宮の妃の衣装って意匠重視でひらひらしていたりふわふわしていたりびろーんと長かったりで暗殺の邪魔になりそうなのばかりなのよね。
私は龍帝陛下の暗殺をしたいのよ。だからとにかく動きやすい格好がいいんだけどな。
……なんて本心を言うわけにもいかない。
「そうね……。その重ね色のやつが一番マシかしらね」
ひらひらふわふわびろーんがいちばん抑え気味だわ。
「はい! ではこの重ね色の綺麗な翡翠の衣装を第一候補にするとして。巫貴妃様、合わせるかんざしはどれになさいます? うわ、これ綺麗……」
家麗さんが手に取ったのは衣装と同色の翡翠のかんざしだった。まるで春の空のような美しい翠……ではあるんだけど。
かんざし、か。
……あの朱い瞳の男にあげた造花のかんざし。今頃どうなっているんだろう……。
「造花のかんざし、とか……ある?」
「かしこまりました、造花のかんざしですわね!」
――あの人、お嫁さんがいっぱいいるって言ってたな。
あの造花のかんざしはそのうちの一人に贈られたのかしら。
かんざしを贈ることは、一生あなたを愛することを誓います、という意味があるらしいし。
そんなかんざしをお嫁さんの内の一人にあげる……うん、とっても素敵な夫婦愛じゃない?
別に私が思い悩むようなことじゃないわよ。
いいことしたじゃない、私。夫婦仲を取り持ったんだから。
……うん。そう思っておこう。
「ええっと、これは……、ダメだわ、これだと子供っぽすぎる。もっと大人の色気を醸し出すようなお花は、と……」
私はぼんやりと家麗さんがかんざしを選ぶのを見ていた。
……この前の外出から、すでに数日が経過していた。
あの外出自体はとても楽しいものだった。いろいろ事件はあったし失敗もあったけど、それでも楽しかった。
ちゃんと目的の丹花茶を手に入れたし、翼龍の真琉がむかえにきた騒ぎで家麗さんと再会できて、二人揃って真琉に乗って後宮に帰って……。
そのあと女官長にしこたま怒られたんだったわね。ま、それもまた良し、よ。
なによりあの男の人と会うことができたのだから、それだけでも大成功だった。
真琉も苦い苦い丹花茶を喜んでくれたし。……ああ、やっぱり女官長に怒られたのは余計だわね……。
「…………」
それにしても、あの人本当に綺麗だったな。
頭巾で顔を隠していたから顔立ちは分からなかったけど、雰囲気とか目つきとか仕草とか、そういうの全部が美しかった。
なのに名前も知らないのよね。名前くらい聞いておけばよかった。
あんな人が私のお兄様だったらよかったのに、と何度ため息をついたかしれない。
そうしたら私だってちょっとくらいお兄さまを受け入れたかもしれな、いや無理だわ。
利祥お兄さまだってけっこうな美形だものね。血の繋がった兄に求めるものは顔じゃないのよ。
なんていうか、あの朱い瞳の人は………………。
あ、なんか……、うん。この話はやめておこう。ドツボにはまる予感しかしない。とりあえず利祥お兄さまはキモい。
「巫貴妃様。こちらなどいかがでしょうか?」
「え?」
「見て下さいこの細工の美しいこと! 手先の器用な職人さんが一針一針丁寧につまんで刺していったのが目に見えるようですわ!」
家麗さんが勧めてくれているかんざしは、確かに見事なものだった。
細やかで繊細な造花がいろとりどりにいくつも連なっていて、まるで花弁のあふれるみずみずしい花束みたいだ。
(……あ)
私は気づいてしまった。
私が朱い瞳の人にあげたかんざしはこんなに豪華ではなかった。
造花の数だって少なかったし、使っている布の質も悪いものだった。
……そりゃそうよね。あのかんざしって普通に市場で売っているものだもの。普通に可愛かったけど、一級の職人が丹精込めて作った特級品になんてかなわないわよ。
あの人、貴族だっていってたし。きっと、ずいぶん安っぽいものくれたな、とか思ったんだろうな……。
余計なことしちゃったのかな、私……。
「素敵ですわ、これ! これにしましょう!」
家麗さんはきゃいきゃいしながらその美しい造花のかんざしをよりわけた。
……ほんと。
いま、あのかんざしってどうなってるんだろう。
それに、あの人……。
あの朱い瞳を思い出すたびに、なぜだか胸がきゅんってするのよね。なんだろう、これ。
……ああ。それにしても名前くらい聞いておくべきだったわ……。
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