第18話 もう一度会いたくて・瑞泉視点その4
と、いうわけで。
俺は執務室である風朔殿での書類仕事の合間合間に指先で造花のかんざしをいじくりながら、少年のことばかり考えていた。
思えば大胆な奴だ、かんざしを俺にくれるなんて。かんざしは恋人が恋人に贈るものだ。一生あなたを愛する、という意味を込めて。
……俺たちは恋人同士じゃないからいいのか?
うう、それもなんだか悲しいぞ……。
ことあるごとにそんなことを考えながら、あれからもう数日が経過していた。
「……」
こうして書類仕事をしていても気がつけば少年のことを考えてしまう。
あんなふうにかっこつけて別れるんじゃなかった。俺の馬鹿。理性が飛んだっていいじゃないか。いやよくないか。
少年、お前は俺のことを覚えていてくれているのか? たったあれだけしか触れあわなかったから、もしかしたらもう少年は俺のことを忘れてしまったかもしれない。
ああ……せめてあいつの名前だけでも聞いておくのだった。お互い名前も知らないとは……。
「……」
ダメだ。やっぱり少年のことばかり考えてしまう。
とにかく会いたい。会いたくて会いたくてたまらない。一度だけでいいから会いたい。
少年のことを思うだけで身体がまるごとむず痒くなる。
少年……お前は今どこで何をしているんだ? どうか俺を助けてくれ。
少年、少年、少年、少年。
少年、少年、少年、少年、少年、少年、少年、少年、少年、少年、少年、少年。
少年……。
「失礼いたします、龍帝陛下」
そんな俺に扉の向こうから声がかかった。
「御前随身・趙世臣、陛下のお呼びによりただいま参上いたしました」
「入れ」
「はっ、失礼いたします」
部屋の中に入ってきたのは御前随身である趙世臣だ。
御前随身というのは、皇帝――つまり俺の側近兼護衛官のような役職のことである。
世臣は俺より十歳ほど年上の男で、細身で長身、黒い髪を撫でつけていた。
眼鏡をかけた知的な風貌で一見すると文官のようだが、剣の腕がかなり立つ。その意外性と整った容姿から女性からの人気が高く、宮中では彼のことを慕う女性がわんさかいる、ということである。
拳を組み合わせて深く頭を下げる世臣に、俺は椅子に座ったまま話しかけた。
「よく来てくれた、世臣」
世臣は顔を上げてこちらを見る。
「陛下直々のご指名ですからね。なにをしていてでもすぐに馳せ参じますよ。それで、私にご用件とはいったいなんでしょうか?」
俺はしっかりと世臣の眼鏡を見つめて聞いた。
「世臣、お前は女の子みたいに滅茶苦茶可愛い少年を知っているか?」
「は?」
世臣は眉を寄せた。
……なんだこの反応は……。
「申し訳ありません、陛下。陛下のご質問の意図がよく理解できませんのですが……。そういう稚児をご所望なのでしょうか、それとも人捜しですか?」
「人捜しだ」
俺は紙の束を世臣に差し出した。
ここ数日かけてしたためた、あの少年に関する資料である。これを見れば分かってくれるだろう。
「お前にはここに書いてある少年を捜し出して欲しいんだ」
「……なるほど。では拝見いたします」
世臣は紙を受け取り、それをじっと見つめはじめた。
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