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第14話 朱い瞳の男

「……あっ」


 市場の雑踏に戻った私は、朱い瞳の男の手を引いたまま間の抜けた声をあげた。


「別にあなたを連れてこなくてもよかったんですね……」


「はぁ?」


「あ……、すみません」


 私は頭を下げた。一言多かったわ。


「あいつらが目覚めそうだったので、咄嗟に逃げようって思っちゃって」


「なんだよ、なにか考えがあるのかと思った。お礼になんか買ってくれるとか」


「お礼……? あ、そうだ」


 と、私は懐からかんざしを取り出した。さきほど商人に買わされてしまった造花付きのかんざしだ。


「これでよければ、どうぞ」


「え、え、え。これは……」


 差し出したかんざしを受け取って、面白いくらいうろたえる青年。

 その様子が面白くて、私はついくすっと笑ってしまった。


「お兄さん格好いいし彼女くらいいるでしょ? 女の子にこれあげたら喜ぶらしいですよ。一生愛することを誓う……とかいう意味があるらいしです」


「……なんだ。お前が俺を一生愛してくれるのではないのか」


「……えっ」


「あ、いや……」


 男は真っ赤になって視線をそらした。


「す、すまん。そうだよな! 初対面で愛を誓うなんておかしいよな!」


 ……え、なに、この空気。

 なんで私、こんなにドキドキしてるの? ていうか私いま男装していて……この人にとっては男の子、よね?


「あっ、あのさ。いないからな、俺」


「え?」


「彼女、いないから」


 それから、慌てたように男は付け足した。


「あっ、嫁ならはいっぱいいるか。でも会ったこともないしな……。俺が自ら求めた女なんてそもそもいないし……。だからいないってことにしてもいいんじゃないか。いいか、俺は初恋もまだってことだからなっ」


 え? なに言ってるのこの人。突然自分の恋愛遍歴はゼロだと言い出したわよ?


 ……ああ、そうか。

 きっと龍帝陛下を揶揄しているんだ。


「ふふふ、面白いこと言いますね。龍帝陛下みたい」


「へ!?」


「龍帝陛下は後宮に一度もお渡りになったことがないといいますしね。お兄さんもそんな感じなんですか?」


「あ、ああ。まあ、一応は……。俺は……ほら、貴族だから。龍帝陛下と似たようなもんなんだよ、血統を残すだのなんだって、そういうやつ」


「え、お兄さんって貴族の方なんですか?」


「ああ、まあな」


「なのにお嫁さんたちに会ったこともないんですか……?」


「……苦手なんだよ」



 青年は後ろ頭をかいた。


「女が……、というか、あの場所が」


「あの場所?」


「嫌な思い出があってなぁ……」


 沢山の嫁がいて、その嫁たちが住む場所がある……ということか。

 この人、かなりの高位貴族のお坊ちゃんなんだろうなぁ。


 それで女性が苦手って……。なんだか本当に龍帝陛下みたいじゃないの。


「でもお嫁さんたちに挨拶くらいはしたことあるんでしょう?」


「……挨拶、か。まあな……」


「それだけでも龍帝陛下より立派ですよ。龍帝陛下なんて遠い国からきた新しいお妃様に挨拶にすらいかないそうですし。せっかく遠い国からきたっていうのに無視してるんです、無視」


「……そ、そうか」


「ご大層なご身分ですしねっ、思い上がってるんですよきっと。こういうのちゃんとしない人って絶対に足下すくわれるから、今に見てろって感じ。きっとそのうち暗殺とかされちゃうんですよ、暗殺とか!」


 できたら私がしたいんだけどね……。


「うううう。そ、そうか。そうだな。龍帝の野郎も新しく来た妃に挨拶くらいしたほうがいいよな……。そうしたら寿命も少しは延びるかな」


「うーん……」


 龍帝陛下の場合、私に挨拶にきたら暗殺されるから寿命は短くなるともいえるけど……。

 そんな細々したことまで言う必要はないわね。


「延びると思いますよ。挨拶ってなんかいい『気』が巡ってきそうですし」


「そうだな……そうかもしれないな」


「はい!」


 うん。やっぱり挨拶って大事よね!


 って、なんの話をしているんだか……。







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