崇拝者Sの証言
なんですか? 取材? 霜田さんの? いや、別にいいですよ。僕にとって霜田さんとは? 僕にとって彼女は救世主です。天使、いや女神と言った方が正しいかな? 僕は彼女のお陰で人生を救われたんです。
僕、たまに学校の帰りに本屋さんに寄り道して帰っていたんですけど、ある日いきなり万引きを疑われたんです。僕の鞄の中にいつの間にか入れた覚えのない文庫本が入ってて、その本、レジを通す前の店の商品だったらしくて、それに気づかず店を出たら一斉にアラームが鳴った。すぐに店員がすっ飛んできて僕は店の裏に連れて行かれたんです。もちろん僕は言いました。僕は何もしていない、防犯カメラを見てくれ、僕じゃないって。でも店員は僕の話を全く聞いてくれなくて、問答無用で警察を呼ぼうとしたんです。人生終わったと思いました。いい大学に行こうと必死で勉強してきたのに、こんなところで無駄になるのかって。警察に連絡されたらきっと学校にも親にも連絡がいってしまう。そうすると内申点が下がってしまう。学校中の噂になるかもしれない。最悪の想像が止まりませんでした。
そこに彼女が、霜田さんが現れたんです。
正直、彼女が現れた時は本当に死にたくなりました。よりによって学校の人気者、霜田さんに見られるなんて。軽蔑されるかもしれない、学校中にこのことを言いふらされるかもしれないとも思いました。
でも彼女はそんなことしなかった! 彼女は店の常連だったらしく、店員とも顔見知りでした。彼女は、「普段すごくまじめな人なんです! 万引きなんてするわけない!」って店員に訴えてくれたんです! 店員は彼女の訴えを聞いて一度防犯カメラを確認してくれました。すると僕の鞄に文庫本を忍ばせる男の様子が映っていたんです。この映像がきっかけで僕は無罪放免になりました。
え、鞄に文庫本を入れた犯人? いや、知らない男でしたよ。髪をワックスで固めたチャラチャラした男です。きっと愉快犯でしょうね。本当に不愉快ですよ。
店を出てから彼女にお礼を言うと、「当たり前のことをしただけだよ」って笑ってくれたんです。こんな優しい人がいるのかと感動しました。だから、僕にとって彼女は女神なんです。僕を救ってくれた。
僕は彼女を殺した犯人を本当に許せないんです。僕の女神を汚した犯人を許せない。見つけてズタズタに切り裂いてやりたい。ねぇあなた、犯人の情報を知りませんか? 僕みたいにいろんな人の話を聞いているんでしょう。犯人まだわからないんですか。何のための取材ですか。
じゃあこれ、僕の連絡先なので、犯人の情報が少しでもわかったら教えてください。よろしくお願いしますよ。僕が今日きちんと情報を与えたんですから見返りとして当然ですよね。
ではさようなら。よろしくお願いしますね。