友人Kの証言
取材? あぁ、鈴ちゃんについてですか。いいですよ。そのかわりちゃんと話した通りに書いてくださいね。脚色とか無しで。え、いや基本的にマスコミの人って信用してないんですよ。あなただけじゃないです。記事が面白くなればどんなことでも面白おかしく書くんでしょ。
まぁいいや。鈴ちゃんについてですよね。彼女との関係? 同級生ですよ。見てわかりません? 制服着てるじゃないですか。え、彼女の人柄? 彼女ね、本当に誰からも好かれる人でした。なんて言ったらありきたりですけど。本当に、私彼女の悪口言っている人って見たことないんです。高校生って基本的に悪口って挨拶みたいなものじゃないですか。いや、そうですよ。荒んでる? 知りませんよこっちは誰かの悪口を言うことで心の平穏が保たれてるんです。私だって言われてないわけありませんよ。あっちでは私の悪口言われて、こっちでは別の誰かの悪口を言う。でもそれは表に出さないで過ごす。こういうものでしょ、大人の社会も。
でもあの子は、鈴ちゃんは誰からも悪口を言われることがなかった。地味すぎて目立たなかったとかならまぁわかります。それでも地味すぎてキモい、とか言われそうですけど。でも鈴ちゃんはいつも皆の中心にいたんです。いつも皆が周りで笑ってた。それなのに誰も悪口言わないなんて、神がかってますよ。私が聞いたことないだけかもしれない? そうですね、それもあるかもしれません。でも私、結構女子の中で中心にいる方なんですよ。鈴ちゃんほどじゃなかったですけど。皆の中心にいる女子ってもうそれだけである程度周りの情報が入ってくるんです。だから聞き逃してるってことはあまりないと思うんですよね。
なんで悪口言われなかったのかって? 彼女すごく穏やかな人だったんですよ。周りの人間に危害を加えないのが空気でわかるっていうか。私もよくわからないですけど。彼女って美人だけど優しそうな顔してるじゃないですか。それが空気にも表れてるっていうか。すみません、うまく言えなくって。……とにかく、彼女は尋常じゃなく皆に好かれていたってことです。
去年の文化祭でも彼女には本当に助けられました。彼女去年、文化祭のクラス代表みたいなのしていたんですけど、意見の取り入れ方が本当にうまくて。大体どこのクラスも多数決で物事を進めていたんです。鈴ちゃんも初めはそうやって進めていました。でも多数決ばかりで決めていると、どうしても自分の意見がなかなか採用されないって子が出てくる。そういう子の意見を、彼女はうまく救い上げて、決定した意見と融合させたんです。めちゃくちゃだって思いますよね。多数決で決まっていた意見を、要するに覆すわけなんだからうまくいくわけないって。でもそれをやってのけるのが彼女だったんです。本当にすごい人でした。美人で優しくて頭の回転も速くて、本当に完ぺきな人でしたよ。唯一運動だけは苦手だったそうですけど、そんなの欠点のうちに入りませんよね。
今私の学校全体がお葬式みたいな雰囲気ですよ。生徒だけじゃなくて先生もです。全生徒全先生から人気ありましたからね、彼女は。当分はあの空気のままでしょう。
私は悲しくないのかって? もちろん悲しいですよ。悲しいに決まってるじゃないですか。でもね、彼女はずっと私の中で生きてるんです。だから他の人よりは悲しいのがマシなんですね、きっと。
え、どういうことかって? 私は彼女の分身みたいなものなんですよ。例えばこれ、この鞄のチャーム、これ彼女と同じやつなんですよ。通学用の鞄は全校生徒共通だから、つまりこの鞄は鈴ちゃんのものと全く同じってことですよ。鞄だけじゃないんです。この筆箱も下敷きもシャーペンも消しゴムも、全部鈴ちゃんと一緒のやつを揃えたんです。でも物だけじゃ足りなくて。この髪、私本当は髪の色素が薄くて、若干明るい茶色なんですよ。その髪も個人的に気に入ってはいたんですけど、鈴ちゃんって髪の毛すごく黒いでしょ? だからわざわざ黒染めしたんです。髪型も元々ショートだったんですけど鈴ちゃんみたく伸ばして。顔もね、私も二重じゃないんですけどアイプチでどうにかして、いつか整形したいんですけど。あ、そうそうこのメイクの仕方も真似してるんですよ。すごいでしょ。
鈴ちゃんがいなくなった今、私は鈴ちゃんに誰よりも近い存在なんです。それが私の拠り所なんです。もういいですか? この後鈴ちゃんがいつも学校帰りに寄ってた本屋に行かなきゃいけないんです。
最後に犯人の心当たり? わかりませんね。少なくとも学校の生徒ではないと思いますよ。通りかかった愉快犯に目をつけられたってとこじゃないですか? 彼女かわいいから。もういいですか? はい、じゃあ失礼しますね。