9 え?そんなに地雷パーティだったんですか?
俺達は何だかんだありながらも4層まで上がってきていた。
「あれ、最高難易度とは聞いていたけど意外と進めるね」
正直1層くらいでギブアップになりそうな気もしていたが意外と進めていることに驚きを隠せないのが本心だ。
そんなことを思っていたらクルルが声をかけてくる。
「あ、そのゼノン様はこのダンジョンに来たことがあるのですよね?」
「え?あるけど。それがどうしたの?」
「その時は何処まで進めたのですか?」
「えーっとね。確か50層だね。50層でボコボコにされてすぐに降りて帰還したんだよね」
「ご、50層?!!!!」
驚くクルルだがすぐに続ける。
「で、でもどうしてゼノン様がいるのにそこで止まっちゃったんでしょうか?もっと進めそうですけど」
「俺はいないのと同じだったんだよ」
今思えば俺にも落ち度はあったかもしれない。
「ど、どういうことなのですか?」
「そうだねその質問に答えるよりももう少し先に進もう」
そちらの方が都合がいいと思うからだ。
そう思って俺達は5層に繋がる階段の前まできていた。
「この先はボスのフロアだ。準備はいい?みんな?」
この先にボスがいることは既に伝えてあったので改めての確認になる。
でもみんなは頷いてくれた。
「よし。なら進もう」
そうして階段を進みボス部屋へ。
真ん中にはこのフロアのボスであるモンスターが立っていた。
10メートルはあるだろうか?と思われる巨大な体は頑強な岩で出来ており武器は持っていない。
表示されたウィンドウに目をやった。
───────
名前:ゴーレム
レベル:80
───────
「皆にはいつも通りに動いて欲しい」
俺は説明するためにもそう言って、それから
「ただし俺はゴーレムに1発も当てない。もし危なそうだと思ったらその時は当てるけどさ」
「え?どういうことなのですか?」
当然の疑問を浮かべるクルルだが細かく説明している時間もあまりない。
ゴーレムがこちらに気付いて歩き始めたからだ。
「さぁ、行ってくれ」
みんな頭に疑問を浮かべているが先に進んでくれる。
そうして初めてのボス戦。
「やぁぁあ!!!!」
クルルが前に出てターゲットを取りに行く。
しかし
「グォォォォォォ!!!」
吼えながらゴーレムは右拳を後ろに下げる。
クルルは何かをしようとしているのに気付いていないのか更に突っ込む。
「させるか」
ゴーレムに通常の弓ではダメージを与えにくい。
あの防御力の高い岩を覆っているから。
だが2箇所だけそうでない部分がある。
やはり左目と、右目。
そこは柔らかくゴーレム側も潰されるのを嫌がる。
俺はゴーレムの右目に向けて矢を放った。
すると
「グゴォォォォ!!!!」
吼えながらゴーレムは左にステップ。
今のは行動の誘発だ。
この弾速なら左にステップするしかないだろうと狙ったものだ。
しかしその先には
「せい!」
リリスがいてその体に剣を叩きつける。
「す、すごいじゃないか!リリス!」
俺は思わず叫んでいた。
何故って?こんなに俺が誘発させた行動をうまく使ってくれる人がいるなんていないと思っていたからだ。
「そ、そう?」
満更でもなさそうな顔をするリリスの攻撃をモロに受けたゴーレム。
しかしゴーレムの性質上物理はあまり通らない。
だが少し姿勢を崩したゴーレムは隙だらけだった。
「これで終わり!フリーズ!」
そこにルゼルが、対象を凍らせる魔法であるフリーズを叩き込む。
ピシッ!と凍りついたゴーレム。
その後
「砕けろ!」
ルゼルが叫ぶとゴーレムの氷像は綺麗な氷の破片となり飛び散った。
表示されるウィンドウ。
【ゴーレムが討伐されました】
そう表示されて
「や、やりました!!!!!」
「やった!ゴーレムを倒した!」
とクルルとリリスは喜んでいた。
正直俺も嬉しかった。
でも
「や、やった!フリーズが成功した!」
1人だけルゼルだけは違うベクトルで喜んでいた。
というよりそれが気になったから聞いてみた。
「何?フリーズが成功したって」
「え?私のフリーズ精度が悪すぎて不発に終わることが多いの」
と首を傾げて答えてくれるルゼル。
おいおい。
まぁいいや。とにかく
「ゴーレムを倒せたのは皆が自分の役割通り動いてくれたお陰だ。ありがとう」
とお礼を言っておく。
「え?私たちはセオリー通り動いただけだよ?それに1番いい動きだったのはゼノンだよね?」
そう確認を取ってくるリリス。
「え?」
「ほら、最初のゴーレムの動きを中断させたのはゼノンだし」
「いやいや、でも俺がしたのはそれだけだよ?俺は火力を出せていない。だからいないのと同じだよ」
現に俺はそうやってガバル達に言われたし。
そしてそれが理由で追放されたわけだし。
「で、でも私は凄く助かりましたよゼノン様」
そう言ってくれるのはクルルだった。
「本能的に何か来るとは思いましたけどそれがパンチだとは思えず、あそこ援護が無ければ多分吹き飛んでました。ありがとうございます」
そう言って頭を下げてくるクルル。
ま、まさかこんなことでお礼を言われるなんて。
「私もあそこでステップさせたことから流れを一気に持っていけたと思ってるよ。あんな弓使い他にいないよゼノン。Sランクにもいや、全世界を見てもね」
そう言ってくれるリリス。
「でも、追放されたって聞いたけどこんなに有能なゼノンをどうして追放したんだろう?」
「俺が火力を出せていないからだってさ。事実そうだったし」
「それはガバルだっけ?あいつらが悪いね。ゼノンの有能さを分かってないよ彼らは」
そう言ってくれるリリス。
「以前に通りがかった時に君たちの狩りを見た事があったね。凄腕の狩人がいたのは覚えてるけどあれがゼノンだったんだね。ゼノンは必死に動いて隙を作ってるのにそれを活かそうとしないメンバーだらけで可哀想だったよ」
その後にそうやって同情してくれているようだ。。
それが嬉しくて俺もお返ししておく。
「いや、でも今回勝てたのは皆のお陰だよ。皆が素晴らしい動きをしてくれたからさ」
俺がそう言うと顔を見合わせるリリス達。
「え?私はただ最低限の動きをしただけだよ?」
「わ、私もですよ?リリス様に教えてもらった通りに動いただけです」
最後にルゼルに目をやった。
「あんなに大きな的が棒立ちしてればこの可愛いルゼルちゃんの魔法でキルするだけじゃん?全部当たり前のことだよ」
胸を張る彼女。
彼女たちの言い方はほんとに大したことをしていないと思っているようなものだ。
「ゼノン?あんな当たり前のことを素晴らしいってガバル達はあの状況ならどんな動きをしてたの?」
怪訝な顔で聞いてくるリリスに答える。
「えーっと。タンク役はルゼルより後ろで盾構えててアタッカーは何故か既に死にかけで回復。ヒーラーは何故か雑魚に追いかけられてて自衛もせずに逃げながら『ゼノン!暇なら雑魚追っ払って!』って叫んでたかな?」
俺がそう言うと3人はまた驚いた。
「な、何そのパーティは。地雷過ぎない?ゼノンの足を引っ張ってるだけじゃないか!」
とリリスが
「まだ冒険者歴の浅い私でも地雷行動だって分かりますよ?!」
とクルルが
「それゼノンの足を3人が引っ張ってるだけじゃない。よくそれで勝てたねゼノン」
とルゼルが言ってくれる。
「と言うよりそれゼノンが1側の1vs4以上をやらされてるね。今までよく我慢できたねそんなこと。私なら絶対無理だよ」
ともう一度リリス。
それからも3人は俺の所属していたパーティがヤバすぎるという話を繰り返すのだった。