7 【チームガバル視点】ボアにすら勝てなくなったガバル達
ゼノン達が着々と次の目標に向けて動いている間ガバル達はボア討伐の依頼を受けていた。
「おい!ディッチ!何してやがる!早く回復入れろ!」
「入れてるって!もう!それより突っ込むのやめて!引いてよ!」
「あ?!突っ込んでねぇよ?!」
本来怒号が飛び交うのはよくない戦場で怒号ばかりの光景が拡がっていた。
「おい!ガラン何してやがる!俺と一緒に前に出ろ!」
「お前が前に出すぎなんだぜ!ガバル!」
「はぁ?!いつもこの程度だろうが?!」
ボアは強い個体でも討伐難易度Bのモンスター。
Sランクのガバル達からすれば何の苦労もなく倒せるモンスターだ。
「いってぇよ!」
なのにも関わらずガバル達はたった一匹のボアとの戦闘を始めて既に半日が経過していた。
「こいつ!速いな!」
ガバルが愚痴りながらも再度突っ込む。
剣しか持っていないから当てるためにも前に出る必要はあるのだが
「ゴァァァァ!!!!!」
「ぶべっ!」
前に出るばかりで引く事を知らないのだ。
吹き飛ばされて距離が離れた時以外は基本的に突っ込んでいるのがガバルだ。
そして悪いのはガバルだけじゃなかった。
「おい!ガバル!出すぎだ!下がれ!」
対するガランは盾を持っていて率先して攻撃を受けにいくべきはずなのに相手の攻撃が届かない遥か後方、ヒーラーのディッチより後ろで引きこもっているだけだ。
こんなものでは戦場にいないのと同じだ。
だから
「ぐあっ!」
どさっ!
吹き飛ばされ倒れるガバル。
そして
「ぶべぇ!」
踏み潰されるガバル。
「もう!下がってって言ってるでしょ?!」
回復魔法をかけるディッチ。
この2人しか戦場にいなかった。
そして
「ぶべっ!」
どさっ!
またもやボアの突進を受けて吹き飛ばされ地面に倒れるガバル。
───────
ボアの体力
248/250
───────
───────
ガバルの体力
85/999
───────
この半日でボアの体力を2しか削れていないのに対してガバル達は体力魔力共に消費が激しかった。
勝てる見込みなど微塵もないレベル差。
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!今まで圧勝出来ていて勝てない訳がないだろ!」
またもや突っ込むガバル。
しかし
「フゴォォォォ!!!!」
簡単に吹き飛ばされるガバルだった。
「おい!ディッチ!今のところは支援魔法だろ!それにガラン!今のは俺と一緒に詰めてくるシーンだろ?!」
文句を言っているガバルだが
「フゴォォォォ!!!!!!」
突進してくるボアの攻撃を何とか避ける。
そして
「撤退だ!撤退するぞ!お前ら!」
ようやく撤退の判断が出来たのだった。
◇
酒場に帰ってきたガバルが口を開いた。
「おい!ディッチ何で支援魔法を使わなかった?!」
「使ったじゃん!」
言い合う2人。
だが決定的に話が食い違っている。
「いつもならあのボアにデバフ魔法使ってるだろ?!」
「は?使ってないけど!?」
「は?!何言ってやがる?!支援職はお前だろ?!」
「私じゃないし!私はヒールだけだよ?」
「じゃあいつもデバフ魔法使ってたの誰だよ!お前か?!ガラン!」
首を横に振るガラン。
「じゃあ誰だってんだよ!」
「そんなのゼロのゼノンでしょ。あいつも支援職だし」
「は?あいつが出来るのは百発零中だけだろ?!魔法なんて使えねぇよ!」
「じゃあ他に誰が使うって言うのよ」
ディッチに冷静にそう言われて言葉に詰まるガバル。
「それよりガラン。なんでお前俺と一緒に詰めなかった?詰めてたら終わってただろ?いつもなら詰めてたよな?」
「いや詰めていないが」
「じゃあ誰だよ?!いつも俺と一緒に詰めてたのは」
「ゼノンじゃないのか」
そう。ゼノンなのだ。
突っ込みすぎるガバルの補助をしなくてはならないのが本来はガランなのだが、ガランは引きすぎて戦場にいないのと同じだ。
そんなガバルの補助をしていたのは誰か?残っているゼノン以外にいない。
これはそんな簡単な話だ。
しかし
「馬鹿な。あいつが?あのノーコンが俺と一緒に詰めてたのか?有り得ねぇよ。それにあいつはノーコンで精一杯だろうが?前に詰める余裕なんてねぇよ」
自分で追放したせいか。認められないガバル。
それも当然だ。
パーティが弱体化したのが自分の決断のせいだとは中々認められないだろう。
「ゼノンと言えばさ」
ポツリと呟いたディッチ。
「この前私たち試合して負けたじゃん?」
「思い出させんなよその話。あれはリリスが強かったな」
「本当に?」
ディッチは聞き返す。
「そりゃそうだろ?ゼノンはEランクでリリスはSだ。あいつがゼノンを介護できるくらい強かっただけなんだよ」
「でも私たちリリスに圧倒されたって感じじゃなかったよね?」
「じゃあ誰に圧倒されたんだよ」
「ゼノンか?」
そう聞き返したのはガランだった。
「そうだと思う」
そう答えたのはディッチだった。
「は?あいつ100発放って全部外すノーコンだぞ?あれに追い詰められるってどんな脳みそしてんだ?冒険者やめちまえ」
「冒険者やめるのは貴方の方でしょガバル。馬鹿みたいに突っ込んで下がらない馬鹿」
そう言ってからディッチは続けた。
「私いつも後方で皆の戦い方見てたから分かるんだけどゼノンって───────1回も味方に矢を当てたことないんだよね」
「どういうことだよ?」
怪訝な顔をして聞き返すガバルに答えるディッチ。
「ノーコンなら1発くらい味方に当てない?それか当たりそうな軌道で飛ぶか。でもそれが1回もなかったんだよね」
ディッチがそう言った途端訪れる沈黙。
「それにさ敵対して始めて知ったけどあの矢。おかしいよ。全部避けられる矢だったんだよね」
「そりゃノーコンだからな」
気付きそうなディッチに気付かないガバル。
「下手な鉄砲かずうちゃ当たるって言うじゃない?でもそうじゃないのよゼノンのは。全部避けられる矢だったんだよ。避けた先に飛んできた矢も全部見てから避けれた」
そこまで言って息を飲むガバル。
「まさかノーコンじゃなくて狙って外してるのか?そう言えばあいつ言ってたな。外れてるのには理由があるって」
ここまで言われてようやく気付きそうなガバル。
そしてもう一押しの言葉。
「ねぇ、私達この前の試合みたいにまとめて倒されるような危険があるから過剰に近付かないようにしてたじゃない?でもあの時は近付いた。なんでかって、ゼノンに誘導されたからじゃないの?」
そう言われてガバルは思い至る。
あいつには戦況を自由自在に動かせる力が圧倒的な実力があるのではないか?と。
「まさか今まで簡単にモンスター共を倒せてきたのはゼノンがいたからなのか?」