29【チームガバル視点】没落
「親父!」
ガバルは故郷の王城に戻ってきていた。
真っ先に飛び込んだのは決まっている。
父親がいる王室だった。
「ガバルか。どうした?」
「金をくれ。なくなっちまった。それから冒険者を2人どうにかして用意してくれ。ディッチも消えちまったよ」
その言葉に対して顔色を悪くする王様。
「そ、それがだな」
王様が続ける。
「お前に分けてやれる金はもうない」
「な、何だって?!」
「悪いな。金が無くなってしまった」
「ど、どうしてだよ?!」
「毎日豪遊していたからだ」
ガバルの父親らしくつまらないことに消費したということを臆面もなく口にした王様にガバルが呆れる。
「おいおいどうしてくれるんだよ」
「そう言われてもだな。だいたいお前も無駄遣いが多いだろ」
「ちっ。言い合っても仕方ねぇからな。それより何で金がねぇんだよ。いつもは豪遊しても残ってただろ」
「それなのだが、お前をサポートしていた国民からの援助がなくなった」
「な、何だって?!」
「今までお前のチームは結果を出せていた。しかしある時を境に出せなくなった。だから援助してくれなくなったのだ。しても無駄だろって」
その時期とは丁度正にゼノンを追放したタイミングだった。
「だから金がない」
そう続けた王様。
「なら仕方ねぇな」
しかし、それで納得したガバル。
その時だった。
「何が仕方ないんですか?」
扉が開け放たれる。
そこに現れたのは
「お、お前。前のくそ生意気な支援職じゃねぇか」
ミオンだった。
「冒険者風情が何を勝手に入ってきている?」
それに対して怒りを示す王様。
しかしミオンはその威勢を崩さない。
「冒険者風情だろうがなんだろうが関係ありません」
そう言って彼女は王様の座っている後ろを指さす。
「そこから見てください。見えるでしょう?全てが」
「何をだ?」
聞き返しながら振り返る王様。
その先はバルコニーに繋がっていて、王様は一歩一歩バルコニーへ歩く。
「今のこの国に不満を持っている人達ですよ」
そこに広がっていた光景は。
「な、なんだとこれは」
王様が叫んだその瞬間、
「王を追放しろ!」
「そうだ!こいつが王のままではこの王国は亡びる!」
そこには庭園を埋めつくすようなほどの数の人々がいた。
そして全員こう叫んでいた。
「王の座を退け!」
「王をやめろ!」
と
「聞こえるでしょう?国民の声が」
そう聞くのはミオン。
この下に広がる光景を見て何を思うのかを王に問いかける。
逆にそれを見てワナワナと拳をふるわせる王様。
「何なのだ?これは?!一体何の真似だ?」
「何の真似というとどういうことでしょうか?」
「この光景だ!どういうことだ!俺に王をやめろだと?!不敬だ!」
「それがどうかしたのですか?」
こんなこと何でもないと言いたげなミオンに対して怒りを顔に出す王。
「な、何?!」
「あなたではこの国をこれ以上維持できない。だから国民の不満が爆発しているだけですよ」
「何の話だ?!」
「貴方ですよね?ゼノンさんを追放したの」
「そ、それがどうしたのだ?!」
「どうしたも何も。そのせいでこの国は何も取り柄がなくなったじゃないですか」
そう言って笑うミオン。
「ゼノンさんが今いる王国は彼のお陰でかなり文明が発達しているのはご存知ですか?」
「な、何の話だ?」
「知らないのですか?ゼノンさんのパーティは既にデッドアビスの攻略をかなり進めていてレア度の高い素材をかなり持ち帰っています。そのお陰で文明が進んだのですよ」
そう言ってミオンはバルコニーの外を見た。
「まだドラゴンの制御は出来ないのですか?」
「な、何だと?」
「ゼノンさんの持ってきた鉱石のお陰でアグラ王国では既にドラゴンの制御が可能となっています。それで国を守っているのですよ。空には無数のドラゴンが飛んでいますよ?」
「な、何だって?」
「本当の話ですよ?」
そう言ってミオンはガバルに目をやった。
「貴方が誰が1番足を引っ張っているのか、誰が1番活躍していたのか、貢献していたのか。それを理解出来ていたら今頃この国の空はドラゴンが飛び回っていて国を守っていたのかもしれません」
「う、嘘だ!そんなことあるわけねぇ!」
それでも認めないガバル。
しかし
「この声が聞こえないのですか?」
ミオンが下を指さした。
「王をやめろ!」
「王をやめろ!」
同じ言葉だけが聞こえてくる。
「あなた方は望まれていないんですよ。国民にね」
そう言ったミオン。
そのすぐ後だった。
ドアが開け放たれたのだ。
そこに現れたのは穏やかな顔の男。
綺麗な服を身にまとった身なりのいい貴族の男。
その男が口を開いた。
「現王のやり方は望まれていません。ので私が新たな王となります」
「な、何を勝手に?!」
そう言っている王だが貴族の男は後ろに手をやる。
そこには、ザッと音を鳴らして整列する近衛兵の姿があった。
「なっ?!」
その様子に驚く王。
「な、何故お前たち!その男の後ろに?!そいつを捕らえよ!反逆者だぞ?!」
そう言っている王だが
「無駄ですよ。彼らは皆私と共に反逆しているのですから」
そう言って貴族の男は王に詰め寄り剣を抜いてその首に向けた。
「貴方の時代はここで終わりだ。これからは私がこの国を統治する。貴方のやり方はおろかすぎた。私がこれから強い国を目指す」
「なっ、何を馬鹿な!この椅子は渡さん!」
「この数に勝てると思っていますか?」
指し示すのはやはり圧倒的な近衛兵の数々。
その兵士全てが反逆していた。
その答えは
「む、無理だ……」
王はそう答えるしか無かった。
この日、王とガバルは身分を剥奪され奴隷の身となるのだった。