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22 え?ただの初級魔法ですけど

「という訳でルーラーは倒したよ」


 俺はアネモネにそう報告した。

 すると


「る、ルーラーって、え?」


 そう聞き返してくるアネモネ。


「ルーラーだけど」

「あ、あぁ、る、ルーラーですね。分かりました」


 と言って作業に取り掛かろうとした彼女だが


「あ、あのルーラーってルーラーオブドラゴンの事ですよね?」

「え、うん。それがどうしたの?」


 俺達冒険者がルーラーと言えば今のところルーラーオブドラゴンのことだけを意味する。50層のボスだけだ。


「え、えぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!倒したのですか?!あれを?!!!!!」

「え、うん」


 驚いているアネモネに頷く。

 どうしたんだろう?


「い、今まで天井と言われていたモンスターですよね?!ルーラーって!」

「ん?そうなの?」


 俺はその辺よく分からない。

 ただどうやってガバルに勝たせようか、とそれを考えるのに精一杯だったからだ。


「そ、そうですよ!ルーラーはこれからずっと突破出来ないと考えられていたんですよ?!」

「それ程だったの?」

「は、はい!最前戦だったチームガバルですら負けて戻ってきた。それを聞いた世界中の皆さんはあ、無理なんだなって思っていたんですよ?!今、そんな常識が覆りました!」


 そう嬉しそうに話すアネモネを見ていたらこっちまで嬉しくなる。


「こんな素晴らしい瞬間に出会えてよかったです!」


 アネモネがそう言った瞬間だった。

 ドーン。

 ギルドの扉が開かれる。


「たのもー」


 そんな呑気な声を出して歩いてきたのは1人の少女だった。

 真っ直ぐに俺の所へ来る。

 そして口を開いた。


「お前がゼノン、だな?あの最強と言われていたルーラーを倒した、というのはもう聞いている」

「え、そうだけど」


 俺がそう答えるとうんと頷いた少女。


「私はエリスという者だ。よろしく頼む」


 そう言って手を差し出してくるエリス。

 戸惑いながらも握手した。

 そしてとんでもないことを口にした少女。


「私はこの国の王だ」

「……」


 俺を含めて全員が沈黙した。

 それからしばらくして


「は、はわわわわ。ははぁ……です」


 そう言いながら頭を下げたクルルを見て不思議そうな顔をするエリス。


「どうした?」

「ひ、ひぃぃい!!不敬罪で殺さないでくださいぃぃぃ」


 小動物のように怯える彼女に笑うエリス。


「そんな事するわけないだろう?客人」


 そう言ってエリスは俺を見た。


「ゼノンと言ったな。すごく今更だが私はお前達を歓迎する」

「そ、それはどうも」

「聞けばお前は故郷を追放されたと聞く。良ければこの国の冒険者にならないか?」

「い、いいの?ほんとに今更だけど」

「構わぬ。お前は天才と聞いているからな。こう言っては失礼かもしれないが優秀な冒険者が所属してくれるなら国に利益をもたらすからな。私としてもいてもらいたいのだ」


 ふふふと悪うエリスに感謝する。

 それからニマリと悪い顔を作る。


「何か困ったことがあれば私に話せ。大抵の事は解決してやる」


 そう言ってくれる彼女。


「それから、これは報酬だ」


 そう言って皮袋を渡してくる彼女。


「こ、これは?」

「ルーラーにかけられていた報酬金だ。受け取れ」


 え?あいつに報酬金なんてあったの?

 そんなことを思いながら受け取った。


 ずしりと重い感覚が手にあった。


「それでは私はこれでな。また何かあれば会おう。戦場の支配者」


 そう言って歩き去っていった少女。

 閉じた扉の向こうで


「お、王様!探しましたよ!また1人で出歩いて!」

「うるさい。問題ないのだ」


 そんな声が聞こえてきた。

 どうやら無断で会いに来てくれたらしい。


「不思議な人だなぁ」


 そう思った。



 数日後。

 俺たちの名はかなり広まっていた。

 普通に広まるだけならいいが。

 ほら、今も街の人達に目を向けられている。


「見ろよあれ!戦場の支配者ゼノンさんじゃないのか?!」

「あ!ほんとだ!戦場の支配者の異名を持つゼノンさんだ!」


 というふうに何故か俺に異名が付くようになっていた。

 ところで戦場の支配者って何なんだろう?


 不思議に思いながら隣にいるクルルに目を向けてみたが


「戦場を自分の思い描いた通りに動かすから戦場の支配者と呼ばれているみたいですよゼノン様は」


 なんでそんなことを知っているんだろうか、と思いながら答えてくれたクルルに感謝しておく。


「しかしまぁ俺達がついにここまで来るなんてな」


 そう思いながらギルドのランキングに目をやった。


───────

12位チームガバル

13位千矢一条

───────


 あのガバルのパーティと俺のパーティは変わらない順位まで来ていた。

 俺たちはそれほどポイントを稼いでいる訳では無いがあのルーラーの討伐がそれだけ評価されていたのだ。


 ちなみにこのランキングのお陰だろうか。

 俺たちがこうしてギルドの椅子に座っていると


「あ、あの」


 少女が来た。

 こんな風に俺達に話しかけてくれる人が増えた。


「戦場の支配者ゼノンさんですよね?」


 そう聞かれた。


「ゼノンでいいよ。どうしたの?」

「あ、あのゼノンさん、薬草を採取しに行ったら」


 そう言って後ろに回していた手を俺に見せてくれる。

 その左手は血まみれになっていた。


「ぐすっ……オークに見つかって命からがら逃げ帰ったんです」

「痛そうだね。分かったよ」


 そう言って俺は少女の腕を見せてもらって


「ヒール」


 呟くと少女を緑色の光が包み、彼女の頭の上に数字が現れた。

 999、と。


 これは回復した体力量を意味してそして


「わぁぁぁぁぁぁあ!!!!治りました!!!!もう痛くないです!!」


 怪我が治った少女が喜んでくれる。


「す、すごいです!ゼノンさん!アタッカーと聞きましたが回復魔法も使えるんですね!」

「アタッカー?そもそも俺は支援職だからね」


 苦笑いでそう答える。

 いつの間にアタッカーになっているんだろう。

 俺は今も昔も変わらず支援職だ。

 まぁ前は支援職(ざつよう)だったけどさ。


「こ、こんな回復量。でもSランクパーティに所属するヒーラー並ですよね?!」


 そう聞いてくる少女だが


「そ、そうなの?」

「今のハイヒールを使ってくれたんですよね?」

「いや、ヒールだけど」

「ひ、ヒールなんですか?!それでこんなに回復するんですか?!」


 驚く少女


「俺は初級魔法しか使えないしね」


 軽く笑ってそう答えると


「と、とにかくありがとうございます!!ゼノンさんは本当になんでもできるんですね!」


 そう言って俺達の前から去っていった少女を見てルゼルが口を開いた。

 彼女は眠そうな目をして顎をテーブルに乗せている。


「前から思ってたんだけどさ」

「ん?」

「戦闘面に関してだけど、もうゼノン1人でよくない?私達いる?あー、でもね夜戦なら私も頑張るから♡」


 彼女がそう呟いたらぶっ!と飲んでいた水を吹き出すリリスと、顔を青ざめさせるクルルの姿があった。


 その後ブルーになっていた2人にみんなの必要性を話し続ける俺だった。

 現に俺は一人ならここまで来れていないと思うし。


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