20【チームガバル視点】作戦の破綻と戦場の支配者
素早く50層までやってきたガバル達。
その前にルーラーが現れた。
【特殊ルールか適用されます。全メンバーレベル1固定。スキル封印】
現れるウィンドウ。そうして現れるドラゴン。
白いドラゴンだった。
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ルーラーオブドラゴン
レベル30
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ジェイス
レベル1
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ガバル
レベル1
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ディッチ
レベル1
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ガラン
レベル1
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口を開いたのはルーラー。
「コノサキハカミノリョウイキ。ソナタタチガススムニアタイスルノカコノワタシガミサダメル」
「うるせぇ!」
突っ込むガバル。
しかし
「オロカナ」
ルーラーの尻尾に軽くあしらわれる。
「ぐあっ!まだまだぁ!!」
それでもツッコミ続けるガバル。
その行動を見てジェイスが冷や汗を流す。
「あいつ……マジで連携の取り方を知らないのか?まずは隙を作るのが基本だろ?」
それが基本だが今までガバルが突っ込んでいるだけで勝てたのだ。それで勝てなかった戦闘は0。
それで問題ないようにゼノンがゲームメイクしてきたからだ。
だからこそその戦い方が正しいと思い込んでいるガバルは作戦の重要性も立ち回りも知らない。
自分が突っ込めば勝てるから難しいことを考えなくていいと思い込んでいるから。
ジェイスはガバルの体力に目をやる。
ガバル
体力2/30
既にガバルは戦闘不能間近だった。
そんなステータスを見てジェイスは後ろのメンバーに声をかける。
「おい!誰かガバルを回復してやってくれ!それからガバル!下がれ!」
ジェイスはこのままでは不味いと思い各方面に指示を出すが
「うるせぇ!主役は俺だ!脇役共は俺を引き立たせろ!」
聞く耳を持たず突っ込み続けるガバルに
「もう!」
ディッチが回復させる。
その回復量は2だった。
体力4/30
焼け石に水とはこの事。
「おい!何だこの回復量!」
「う、うるさいわね!それより助けに来なさいよ!私が追われてるのにどうして誰も助けに来ないのよ!」
ディッチは相変わらず雑魚に追い回されていて逃げるだけだった。
Sランクのヒーラーならば小型のモンスターからの自衛くらい難なくこなせる。
しかしそれが出来ていないのは
「た、助けに来なさいよ!ゼノン!」
いつもゼノンが守りに行っていたから。
しかしここにはゼノンはいない。
「ちょっと!何してるの!ゼノン!グズグズしてないで助けに来なさい!ほんとにノロマね!」
何を言ってもここにゼノンはいない。
「ゼノンって誰だ?」
ジェイスは呟くが分からない。
そんな奴はここにはいない事を理解しているから。
というより
「ぐぁぁぁぁぁ!!!」
叫ぶガバル。
その体力は1になっていた。
それを見て叫ぶジェイス。
「ガラン!俺と前に出ろ!このままじゃ崩れて全部終わる!」
「待て。まだルーラーは崩れていない。ここは前に出るべきではない。崩れるのを待つ」
「馬鹿かお前?!待ってれば勝手に崩れると思ってるのか?!頭大丈夫か?!」
そして今
「ぐぁぁぁぁあぁぁ!!!!!」
「きゃぁぁぁあぁぁぁ!!!!」
ガバルとディッチが叫び声を上げた。
そう。戦闘不能となり倒れた悲鳴だった。
「おいおい……」
ジェイスが呟いて後ずさる。
「お前ら本当にSランクパーティかよ……冗談だろ……?」
突っ込んで戻ってこない猪のようなアタッカーに自衛を知らず回復もロクに出来ないヒーラーに一切前に出ないタンク。
戦う以前の問題だ。
「Eランクでももっとマシな戦い方するぞ……?」
膝を着くジェイス。
こんなものでは話にならない。
性格に難があるとは言え真っ当なやり方でここまでやってきたジェイスには分かる。
このパーティは本来の実力ならばEランク相当かそれ以下のパーティだ、と。
なら、何故このパーティがここまで来れたのか。
ジェイスには分かる。
存在は聞いたことがあるが。多くはCランク程度で終わると聞くが。
「こいつら介護パーティかよ……しかもランキング1位の維持か、こいつらを介護したやつとんでもない化け物だな」
普通SランクパーティはSランク冒険者が複数集まってようやくなれるパーティ。
それをこんなお荷物を3人連れて達成など、本来ありえない事だ。
それを成し遂げたゼノンを化け物と評価したジェイス。
その時
「ふぅ、ここが50層なんですね!」
後ろから声が聞こえた。
そこには
「なっ……さっきの……」
そこにはゼノンが立っていた。
そして弓を構え、こちらに向かってくるとジェイスにこう尋ねた。
「俺たちが戦ってもいいか?ガバル達は寝てるしあんた達に打てる手はなさそうだけど」
「あ、あぁ」
ガバル達が伸びた時点でジェイスの作戦は破綻した。
もう撤退しようかと思っていた頃合だったのだ。
「リリス、右から回り込んで。クルルは左だ」
「了解です!」
「分かった!」
ゼノンの指示に従って仲間が動く。
その動きに迷いはない。
ゼノンを信頼して必ず勝利に導いてくれると確信している人間の動きだった。
そして
「オロカナ」
囮として前に出たクルルを尻尾で凪払おうとするルーラー。
そこに
「!!!!」
ルーラーをも驚かせる程の光のような矢が迫る。
それは正確にルーラーの右目を狙っており避けざるを得なかった。
無理やり行動を中止して回避に専念するルーラー。
しかし
「グオッ!」
そのせいで隙を作ったルーラーに
「爆ぜろ!」
リリスが潜り込みガンブレードを爆発させながら斬りつける。
「グォォォォ!!!!」
ルーラーの体力が減った。
150/250
ジェイス達があれだけ作りたかった隙をこれだけ簡単に作りこれだけの体力を削っているゼノンパーティ。
そこに
「凍って!」
何の指示もなくフリーズを使うルゼル。
足を凍らされ身動きの取れないルーラー。
そこに
「終わりだ」
ゼノンが矢を放つ。
だがルーラーも
「マモレ!」
【ルーラーオブドラゴンの絶対防御が発動しました】
どんな攻撃も防ぐことの出来るバリアを貼ったルーラー。
だが
「ふっ」
ゼノンが笑った後
「サーチ魔法発動」
そこまで言ったルゼル。
魔法名を最後まで言い切っていないのだが
「!!!!」
ルーラーが焦ったのか自ら絶対防御の範囲外に出るが
「今度こそ終わりだね」
それを読んでいたゼノンが矢を放つ。
狙いは正確に目。
柔らかいそこから侵入した矢の先端は突き刺さった瞬間に全方向に拡散した。
ルーラーの頭は内側から破裂し絶命。
【ルーラーオブドラゴンが討伐されました】
あれだけ苦労したルーラーがこんな短時間で討伐された。
それを目の当たりにしたジェイス。
そしてゼノンの周りに少女達が集まってゼノンの名を呼ぶ。
そこで思い出すジェイス。
『ゼノン!早く助けに来なさいよ!』
ディッチの声。
ジェイスは確信した。
この男こそがゼノンであり、ガバル達をSランク、更にはその先、パーティランキング1位の維持という化け物じみた偉業を成し遂げた存在であること。
更に
「戦場の支配者……」
ポツリと呟いていた。
ジェイスには理解出来ている。
ひたすら介護されてきたガバルとは違い、真っ当に己の実力のみでのし上がってきた彼だから分かる。
今の戦闘はまるで誰かが指揮者となり全ての存在を動かしたようなオーケストラのようなものであったこと。
その指揮者はここのボスであるルーラーではなく紛れもなくゼノンだった。
「すげぇっすねあいつら。特にあの子フリーズで敵の動きを止めるなんて」
そんなジェイスに声をかけてくるパーティメンバー。
だが
「いや、違う。俺は一応各ジョブをこなせる。その上で言ってやる。今の流れを作り上げたのは全てゼノンだ。一発目の矢、あれから完全に流れを作ったな。あの土壇場であれだけ正確に矢を放てるなんて。化け物だぞあいつ……普通。弓を極めた狩人でも少しばかりは狙いを外す。それをあいつは少しもミスすることなく放った。よく考えても見ろ。あいつらの距離何十メートルもあったのに───────動く敵に1ミリも外すことなく矢を放つなんて信じられん」
更にポツリと呟いたジェイス。
「ゼノン……お前は一体何者なんだ……」