17 ガバル達は順調に落ちぶれているみたいです
翌週。
俺たちは無理なくデッドアビスの攻略を進めていた。
「ゼノン様?!新しいランキングが発表されましたよ!」
ギルドにいた俺たちの元にアネモネが駆け寄ってきた。
「み、見てください!今までずっと1位に君臨していたチームガバルの順位がこんなに急降下しています!1位から5位に。そして5位から10位に下がりました!落ちるにしても普通1ずつです。一気にこんなに下がったのはこのランキング作成以来なかったことです!」
「え?めちゃくちゃ下がってるじゃないか」
驚いてそう口にした。
ついこの前まで1位だったのにこんなに落ちるものなのか?
適正ランクにいろとは言ったけどこんなにも落ちてしまうなんて。
やっぱりノーコン野郎の俺だったとしても数が減る方が厳しいのか。
「そ、そうですよ!こんなに下がったこと過去にないですよ!それに普通こんなに下がりませんから」
「まぁ。当たり前の話だな」
そう言ったのはリリス。
「奴らはチームの本体であったゼノンを追放した。100から99を引いたものだからな。残るのは1。何も出来ないよ」
「俺が99だった、みたいな言い方じゃないか?」
流石に買いかぶり過ぎじゃないか?と思うが。
「だって俺は火力に貢献してなかったんだしさ」
「貢献なんて何も火力を出すことだけじゃないよ。ゼノンはクルルが貢献してないと思う?」
「いや、それは思わないけどさ」
うーん。
まぁいいけど。
話を変えようかな。
と思った矢先だった。
カランカラン。
ギルドの扉が開いて人が入ってきた。
「邪魔する」
男が入ってきた。
それを見た周りの人達が急に喋るのをやめた。
そんな静寂の中男は俺たちの方に歩いてくると口を開いた。
「何をしている?俺が来たのだ。さっさと仕事をこなせ」
「は、はい!お待ちを!」
偉そうに告げた男の言葉にアネモネは立ち上がるとカウンターへ向かった。
しかし男は急ぐ様子も見せず逆に立ち止まると口を開いた。
「この俺に挨拶の1つもなしか?お前たち」
そう言うと鼻で笑う男。
どうやら今の言葉は俺たちに向けたものらしい。
「まぁ、お前らのような間抜けにこんな事を期待するのも野暮というものか。悪いおツムに何かを期待するのも無駄、ということか」
そう言うとリリスに目をやる感じの悪い男。
「だがリリス。お前は何故俺に挨拶の1つもない?」
その言葉を聞く限りどうやら2人は知り合いみたいだが。
そう訊ねられたリリスだが暗い顔をしていた。
どうやら会いたい人物ではないようだが。
「それにお前何故まだこの国にいる?俺の前から失せろと言ったな?」
そう言うと男がリリスの頭を小突いた。
「や、やめてよ」
そう口にするリリスを見てからもう1回同じことをしようとした男の腕を掴んだ。
「はっ。これは何の手だ?小僧」
「嫌がってるじゃないか」
そう言いながら立ち上がると
「ぜ、ゼノン……」
リリスのそんな小声が聞こえた。
「あんたとリリスの関係は知らないけど今リリスは俺の仲間だ。変なちょっかいはかけるな」
「知らないのか?お前」
そう言って笑う男。
「それと俺の名前はジェイスだ。ジェイス様と呼べ」
絶対に呼びたくない。
「ところでだな。その女は以前までこの俺ジェイスが率いるジェイサーズに所属していた」
そう言ってジェイスはパーティランキングに目をやった。
今の1位は……
・1位 ジェイサーズ
「このパーティランキング1位のな!」
なるほど。こいつらが今の1位なのか。
それで思い出す。
先程こいつがアネモネの前で威張り散らしていたのを。
1位だからあんなに威勢が良かったのだ。
冒険者にとって実力とは権力だ。
そして1位として認められたジェイスはそれだけ威張れる事になる。
「だがその女は俺たちの足を引っ張った」
「足を引っ張った?」
聞き返すことにした。
「あぁ。俺たちがデッドエンド攻略中にそこのバカ女は剣を奪われお荷物となった」
そう言われて思い出す。
デッドエンドには冒険者から物を奪い取るモンスターがいることを。
落としたと聞いたからそのままの意味かと思っていたがどうやら違うらしいな。
「冒険者の物を奪うってことは30層のシーフか」
シーフ。あのダンジョン固有のボスで冒険者の所持品を奪ってくる敵だ。
俺がそう聞き返すと
「!?」
ジェイスが少し驚いたように仰け反った。
どうやら正解らしい。
その時
「な、何故それを知っているのですか?」
ジェイスの後ろに控えていた女の子が俺にそう聞いてきた。
「30層のボスの名前は公表されていませんよ?!一般の人が知っているはずが……」
そう聞いてくる少女だがそこまで言って何かに気付いたようだが
「おい!ベラベラ喋んじゃねぇ!」
ジェイスにそう注意されて縮こまっていた。
「とにかく、その女はそんな役立たずってわけだ。そんな奴追放して当たり前だろう」
そう言って今度こそアネモネの方に向かおうとしたジェイスに俺はこういう事にした。
「武器を失っただけで追放するんだな。1度認めた仲間なのだろう?一緒に取り戻そうとは思わないんだな」
「思うかよ。それに武器ってのは冒険者の本体。そいつで言うとそいつは牙を失った。価値がないのは当たり前だろう?それに人なんて幾らでも集まってくるんだよ。武器を取り戻そう?その苦労で他のやつ雇った方が早いわ」
ゲラゲラと笑ってそう告げるジェイスは最後にこう口にした。
「ゴミ共が。この俺様と同じ空気を吸えていることを感謝しろよ?」
そう言ってジェイスはアネモネの方に歩いていった。
アネモネは少し気分の悪そうな顔をしながらもジェイスの対応を続ける。
その姿を見ながらリリスに声をかけた。
「気にするなよリリス」
あれだけ言われたのだ。
それに追放される時俺がガバル達に言われたような事を言われたかもしれないと思ったし。
「ぜ、ゼノン」
顔を上げたリリスの目からは涙が出ていた。
「そ、そんなに悔しかったのか?」
「いや、違う」
そう否定するリリス。
「ぜ、ゼノンが」
「え?俺?俺がどうかしたの?ま、まさか俺がなにか傷つくような事を?」
ど、どうしよう。
そう思っておどおどしていたら
「ち、違うよ。ゼノン。私は今感動して泣いている。こう、ゼノンの言葉で心がポカポカしていて」
そう言って涙を拭うと俺を見てくるリリス。
「その、私のために色々と言ってくれるゼノンはかっこよかった。それにゼノンを見ていると胸がドキドキとしてくる」
「そ、それは大変だな。何かの病気かもしれない。ヒーラーを探さないと」
そうまで言ったその時。
「いや、きっとこれは恋なのだろう。ゼノン。私はお前のことが好きになってしまったようだ……//////」
そう言って顔を赤くするリリス。
俺今何かとんでもないことを口にされなかったか?
と、そう思っていたその時だった。
「皆様!き、緊急クエストです!」
アネモネが真剣なトーンの声でギルド内に聞こえるくらいの声でそう叫ふ。
その言葉で今の空気は吹き飛んだ。