16 お断りします!勝手に落ちぶれてください!
ガバルは俺に一分くらい土下座していた。
そしてまた同じことを呟く。
「ぜ、ゼノン。また俺達と一緒にパーティを組もう」
そう言って立ち上がるガバル。
「お前は優秀だった。いや、超の付く天才。それなのに俺はゼノンを追放してしまった。本当に愚かな男だった。もう一度戻ってきてくれないか?やり直さないか?お前以上の冒険者はいない!」
この言葉は本当に凄く意外だった。
だからこそ数秒沈黙してしまった。
「知らなかったんだ。お前が命令で俺達を活躍させろって言われてること。だから、頼む」
「へー。そうなんですね。知らなかったなら許してもらえると思ってるんですか?」
クルルが冷めた目でガバルに目をやった。
「ちょっと闘えば分かりますよね?私ですら初戦で気付きましたよ。誰かが私が戦いやすいように裏で何かしてくれてるって、それに気付かず馬鹿なことして許せって都合良すぎないですか?」
軽蔑した目でガバルを見るクルル。
それには一切目もくれず俺にまた懇願してくるガバル。
「本当に悪かったって思ってる。戻ってきてくれ」
魂を込めたような感じ絞り出したような声に笑顔を浮かべた。
それを見て奴は嬉しそうな顔をしたが何を勘違いしているんだろう?か分からないけど答える。
「見て分からない?今更過ぎだよね」
「え?」
ガバルが凍った。
いや、ガバルだけじゃない。
見守っていたガランもただ動作を停止していて時間が止まったようだった。
「前回出会って試合をした時であれば考えたかもしれない。でも遅すぎだよね?俺はもう本格的にパーティ組んでるんだよ」
そう言ってクルル達を手で示す。
「千矢一条、俺たちのパーティの名前だ。もう仮のパーティじゃない」
「そうだよ。私とゼノンは繋がってるもん♡」
そう言ってルゼルが俺の腕に抱きついてきた。
それも見ずにガバルから目を逸らさない。
「お前とは違うんだよガバル。何だよチームガバルって。何もかもがガバガバなチームであることをパーティの名前で伝えてるのか?面白いよね」
クスクス笑う。
しかしそんなこと聞こえないといったような感じのガバル。
「ま、待ってくれ!お前に払うべきだった給料を全額払う!」
「在籍中にも明らかに正当な報酬が払われていないことに気付いてたけど、それって当然の事だよね?」
俺に払われていた分は必要最低限だった。
だからこそ分かっていた。
こいつがかなりの額を横領していることは。
「そ、それだけじゃない!お前の望むもの全部与える!」
「もう与えてもらってるから要らないよ」
そう言ってクルル達を順番に見た。
「俺を信頼して背中を任せてくれる仲間をね」
それからガバル達を交互に見て口を開いた。
「全員俺を信頼して指示を聞いてくれる。前に出てくれ。撤退してくれ。サポートしてくれ。皆言うことを聞いてくれる」
そう言って続ける。
こいつらとの日常を思い出しながら。
「お前たちは何か一つでも出来たか?ガバルはいつも突っ込んで怪我をしている。ガランはいないようなもので話にならない。ディッチは簡単な自衛も満足に出来ない。挙句の果てに実力もないのにSランクになりたいからなれるようにしろと言い出された時はビックリしたよ」
そう言ってフッと笑う。
「そこを改善したらいいんだろ?!直すから戻ってきてくれ!俺は突っ込まないしガランも前に出させる!ディッチにも自衛を覚えさせる!」
「あのさ?俺それ何度も言ったよね?でもお前ら聞かなくて、弱い癖に自分勝手に動いて上手くいかなかったら全部俺のせい」
かといって勝てたら勝てたらで対応がおかしい。
「上手くいっても全部自分の手柄で俺を足でまといと叩く。そんなヤツらと最初から俺を信じてくれて強い子達。どっちとパーティを組みたいかなんて赤ちゃんでも分かるよね?」
「だ、だから直すんだよ!」
「今更過ぎるよね」
鼻で笑って答えるとガバルがこう言ってきた。
「俺らのパーティはそろそろランキングから転落する。これでは今まで積み上げてきた物が無駄になる」
「知らないよ。勝手に落ちればいいじゃないか。仮初のSランクから本来の適正ランクのEに落ちるだけだろ?勝手に落ちなよ」
適正ランクにいればいいだろ?
さて、言い合っていても向こうも引かないだろうしこれで最後にしようか。
「俺を引き抜きたいなら俺を納得させるだけの結果を示しなよ。まぁそれが出来ないから何時までも誰かに頼りなんだろうね」
そう言うと俺はクルル達を連れて奥に進む。
しばらく進むとオークの巣穴を見つけた。
いつもと同じように弓を引くと矢を放つ。
手に入る経験値。
「ステータスオープン」
俺はステータスを開いてパーティメンバーのレベルを確認した。
───────
・ゼノンLv99
・クルルLv99
・リリスLv99
・ルゼルLv99
───────
無事に全員のステータスがマックスになったらしい。
それを確認してから俺は巣穴の奥へと進んでいった。
そうすると
「ぜ、ゼノン……?」
薄暗い穴の奥からディッチの声が聞こえた。
「あぁ」
「うわぁぁあぁぁぁあん!!!!」
薄い布のようなものを身に着けただけのディッチが泣きながら俺に飛びついてきた。
それで何があったかは大体想像がつく。
「助けに来てくれたの?!!怖かったよぉぉぉぉ!!!!」
「俺に触るなよ」
何やら言っているが引き剥がしてそう答える。
何を勘違いしているんだこいつは。
「え?」
後ずさるディッチに告げる。
「俺に気軽に触るなよ。オークの臭いがきついよ」
「え?ど、どういうこと?」
俺の後ろにいたガバル達に目をやるディッチだが。
「も、戻ってきてくれたんだよね?一緒にいるってことは」
「俺は破格の金を積まれたからお前を探しに来ただけだぞ」
「そ、そんな……」
「お前らのことは嫌いだし触られるなんて以ての外だよ」
そう言って俺は踵を返す。
勿論帰るためだ。
「ぜ、ゼノン!ちょっと!」
ディッチがそう声をかけてくるが
「俺はもう戻らないよ。残ったメンバーで頑張るんだね」
そう口にして足早にこのダンジョンを後にすることにした。
もう用事もないしね。
さて、ここからどれだけこいつらが落ちぶれるか、見てみたいものだね。