15 今更戻ってこいですか?
パーティネームを決め、4人に迫られている俺。
「ゼノン様ぁ♡今夜繋がるんですよね?」
クルルがそう言った時だった。
カランカランとギルドの扉が開く音がした。
そちらに目をやると
「……」
あの時の威勢は大分削がれたガバルが立っていた。
そいつが俺を見るなり小走りに近寄ってくる。
「よ、ようゼノン」
クルルとリリスもガバルを見る目は厳しいものだった。
それを見たルゼルもアネモネも目を細める。
「何?」
それでも俺は返事をする。
声をかけられて無視というのもどうかと思ったからだ。
仮令どれだけ嫌いでも返事はしておいた方がいいかもしれない。
俺達のパーティはまだこいつらより評判は下だし。
「とある依頼を受けちゃくれないか?」
「何故俺に?自分でやればいいだろ?」
「理由は聞かないでくれ。金なら積む」
そう言ったかと思えばガバルは俺に向かって頭を下げた。
「こ、この通りだ」
これには俺も目を見開いた。
あの傲慢なガバルが俺に頭を下げたからだ。
ノーコンと俺を呼び追放し、ゴミのように扱ったこの俺に頭を下げた。
それを見てギルド内もザワつく。
「お、おい!あれランキング1位のチームガバルのガバルだろ?!」
「あ、頭を下げてるぞ!何が起きてるんだ?!」
「頭を下げられてる方って最近有名になってきたゼノンさんだよな?!それでも100位とかなのに何故1位のガバルさんが頭を下げるんだ?!」
ガバルのランキングは下がったはずだが?そう思って目の前のアネモネを見たが彼女はまだランキングを公開していなかった。
なるほど。そういうことか。
一先ず俺は立ち上がって口を開いた。
ガバルではなくギルド内に集まった人に向けて、だ。
「勘違いしないで欲しいが俺が頭を下げさせた訳では無いよ。勝手に向こうが下げているだけだ」
そう言っておく。
それからガバルに目を向けた。
「前回再会した時俺に負けたと思うがまたよく顔を見せる気になったね?恥ずかしくはないのか?」
ガバルにそう聞いてみると
「俺も悩んだ。悩んで悩み抜いてここに来たんだ」
そう言って頭をまた下げるガバル。
「頼む。お前にしか依頼出来ないんだ。受けてくれ」
「ガバルが頭を下げるとこ俺は見たことがないな」
フッと馬鹿にするように笑ってみたがそれにも激昴の様子を見せない。
仕方ない。
「報酬は?」
「う、受けてくれるのか?!」
「報酬次第で話は聞くよ。お前は俺の言葉何も聞かなかったけどそれじゃ俺はお前と同類になるし。同類にはなりたくないからさ」
そう言うと
「か、感謝する!ゼノン!」
またもや頭を下げると立ったまま話し始めるガバル。
「お前も気付いてると思うけどディッチの件だ。あいつとハグれた。場所はデッドアビスだ。捜索して欲しい」
さっきからあの「守って!守って!この使えないノロマ!」と、うるさかった女がいないことについて気になっていたがそういうことか。
それにしても出来れば先に報酬を話して欲しかったがまぁいい。
「いくら出せる?」
「金貨100」
ガバルの言葉に
「ひゃ、100!!!!」
リリスが絶叫した。
「人探しではありえない枚数じゃないか!」
そう言っているが確かにそうだ。
人探しの相場なんてせいぜいが10がいいところ。
それをこいつは100出すと言っている。
罠か?と思って改めてガバルに目をやった。
しかし
「くそ何でこんなことに」
そう愚痴るガバルの姿はあの時より酷くボロボロだった。
「デッドアビスへ向かったのか?」
「あ、あぁ。途中で超強力なモンスターにやられちまってな。とある筋からお前の話を聞いた。デッドアビスを攻略してるってさ。だからお前に頼む」
「分かった」
罠の可能性はないと思う。
別に俺が強いと言うわけじゃないけどこれだけは言える。
こいつらの立ち回りでデッドアビスを攻略出来ないことなんて俺が1番知ってる。
ならばこのボロボロの姿も納得の話だ。
「前払い出来るか?」
「あぁ。ほら」
そう言って皮袋を投げてくるガバル。
それをアネモネに預けた。
罠ではないと思うけど念には念を、だ。
というよりこいつに罠を考えるだけの知能があるとも思えないが。
「仮に俺が戻らなかったら処分して欲しい」
そう言いながら立ち上がるとガバルに目を向けた。
「行くぞ?」
◇
デッドアビス1層で歩きながらリリスが口を開いた。
「話は聞いている。ガバル?ゼノンが依頼を受けてくれて良かったな?」
「あ、あぁ。本当に感謝してる」
そう口にするガバルに
「どうだかな」
と呟くリリスだが今はどうだっていい。
金は払ってくれているのだから。
そう思いながら先に進んでいると
「前方からシャドウゴブリンの大軍が来ていますよ!ゼノン様!」
そう報告してくれるクルルの言葉に頷いて俺は弓を引き、そして
「終わり、と」
いつもの様に弓で倒す。
その光景を見ていたガバルが口を開いた。
「な、なぁゼノン」
「何?」
必要以上は顔も見たくないし話もしたくないが返事をした。
「ゼノン。こんな奴の言うこと聞かなくていいよ。そうやってゼノンが甘やかすからこういうクズが付け上がるんだよ?ほらこんなクズとよりこの可愛いルゼルちゃんと話そうよ」
ルゼルがそう言ってきた。
たしかに俺は甘いのかもな。
そう思いながらガバルに続きを促す。
「今の弓は俺が追放してから練習したのか?」
「いや。前から出来たよ」
「そうか。ほ、本当に悪かったって思ってる。話も聞かずに」
そう言って頭を下げたあと続けるガバル。
「あの時の言葉の続き聞かせてくれないか?」
「俺が1発も当てていない理由について、か?」
俺はあの時聞いてもらえなかった、攻撃を当てていない理由について話した。
「ただ、ガバル達が1番活躍出来るようにお膳立てしただけって訳さ。だから俺はそのために外した。敵の行動を誘発してお前らが1番戦いやすい形になるように、敵を動かした。それこそただガバルが突っ込んでるだけでも勝てるようになる形にな。そうやってゲームメイクするのが俺に与えられた命令」
「ほ、本当にそんなことが出来るのか?」
頷いて告げた。
「現にお前たちと再会した時も俺はちゃんとお前たちを1箇所に誘導した。覚えてるだろ?」
「あ、あの時のことか」
流石に覚えているらしい。
その話を聞いてクルルが口を開いた。
「す、すごいですね!ゼノン様!ま、まるで戦場の皇帝のようですね!全てを思うままに動かすなんて!」
「別に大したことじゃないよ」
そう答えてからガバルに目をやった。
何か言いたそうにしていたからだ。
「本当に悪かった。いや」
その後ガバルは驚くべき行動に出た。
スっと膝を折って地面に両膝を付け、それから頭を地面に擦り付けた。
土下座だった。
「も、申し訳ございませんでした」
やったことがないのだろう。
少し違和感のあるものだったが確かな土下座で少し驚く。
そんな中更に驚くべきことを口にしたガバル。
「俺のパーティに戻ってきて欲しいです」