11 勝負の行方
サイモンの順番が終わった。
「おらぁ!6375ダメージ!」
そう言いながら帰ってくる。
「へへ。おい25の雑魚。俺に勝てると思ってんのか?」
「6300ですか?」
それを見て少し怖気付いているクルル。
「そうだぜ?6000ダメージ。それが俺様のスコアだ。俺様の武器はSランクのクリスタルブレードだ。その俺様にそんなしょぼいEランクの武器で挑むのか?お前。がはははは。俺様のクリスタルブレード貸してやってもいいんだぜ?」
サイモンは仲間たちの元に戻ってハイタッチだ。
さてと
「クルル」
「は、はい、何でしょうか」
「今から話すことはあの動かない人形に最高効率でダメージを与えるだけの技術だ。終わったら忘れていい」
「は、はい?」
俺の言葉に不思議そうな顔をする。
それに受付嬢も何故か興味津々だった。
「あまり知られていない事だがあの人形は殴る場所によってダメージが変わる。胴体なら本来与えるダメージ量の1/10程度しか入らない。そういったように倍率が変わっていてね」
そう言って俺は矢を放っていいか受付嬢に聞いた。
「は、はい。構いませんが」
「よし」
俺は胴体に向けて射出。
ダメージ3。
次に顔に向けて放つ
30。
そして首だ。
60。
「へ?こんなにダメージが違うんですか?」
驚くクルルに
「し、知りませんでした」
そう呟く受付嬢。
「首を狙えクルル。双剣でひたすら首を狙うんだ。あと細かいが首のこの辺りだね。この当たり以外は恐らく防具を着ている前提なのかダメージが少し低くなる」
そう言って首の1点を示す。
「わ、分かりました!あの人形をサイモンだと思って斬り続けます!」
物騒なことを口にしたクルルはダミー人形に向かっていった。
そして始まるテスト。
その間に受付嬢が話してくる。
「な、何故あんなことを知っていたのですか?」
「とある事情でね」
ガバルがどうしてもSランクになりたいと言っていたので効率的にダメージを与える場所を探していたのだ。
ランク上げにこのテストは重要な点になってくるから高ポイントを出しておきたいのだ。
幸いどこの国でもこの試験場は丸見えだ。
足繁く通って他の冒険者がテストしている様子を見ていたのだ。
「す、すごいですね」
そう言って俺を見てくる受付嬢。
その間にテストは終わった。
その瞬間サイモンがこっちにきた。
「どうよ?スコアは。俺様にひれ伏す覚悟は出来たかよ?俺様は6000!ダメージな?」
サイモンがそう言った瞬間
「で、ではウィンドウを」
受付嬢がゴクリと唾を飲み込んでダメージを表示した。
ダメージ
28,258
「ガハハ28か。25から3進化したようだなガキ」
そう言って笑っているサイモン。
最初の2桁を見て満足したようだが
「ちゃんと見ろよサイモン」
「28だろ?」
そう言いながら目を向けたその瞬間顔を白くする。
「に、2万だと……」
「や、やりましたよ!ゼノン様!」
俺の腕に抱きついてくるクルル。
「に、2万?!!!!!!」
2度見して驚くサイモンに俺は口を開いた。
「Sランクの武器使って6000しか出せないのか?6000君。お前が4人いてようやくクルルに勝てるくらいなんだな」
鼻で笑う。
サイモンが歯をカチカチと鳴らす。
「お、おい!受付嬢!こんなの不正だろ?!」
「い、いえ。クルル様はしっかりと公正にテストを受けましたよ?」
「こ、こんなにダメージ数が違うわけないだろ?!特にこのゼノンとかいう男は前回8万ダメージだぞ?!不正しているに決まっている!」
「きゃっ!」
サイモンが受付嬢に詰めよろうと手を伸ばしたが俺はその手を逆に掴んだ。
「ぜ、ゼノン様?」
俺を見つめてくる受付嬢の横でサイモンに口を開く。
「自分が勝てない相手は全員不正か?6000君。あーあ、ご自慢のクリスタルブレードを使って6000しか出なかったその気持ち察するよ」
「て、てめぇ!お前の武器何か仕込んでんだろ?!」
そう言われたので俺は木の弓をサイモンに貸した。
「な、なんだよこれ」
「やってみれば?俺が使ったのは何の変哲もない木の弓だ」
「な、舐めやがって!仕込みがあるはずだ!」
そう言ってサイモンが矢を構えたので受付嬢がテストを開始する。
「おらおらおらおらぁ!!!!!」
魔力で矢を生成して放ち続けるサイモン。
しかしそのエイムは酷いものだった。
「だ、ダメージ23?」
呆然とするサイモンから弓を返してもらい不正も仕込みもないことを証明するために受付嬢に俺もテストしてもらうことにした。
限界に挑んでみようか。
何発か炎属性の矢を放ってから風属性の矢を放つ。
敵にまとわせた火を風によって更に強力にするコンボだ。
それを短時間の間に何度も繰り返す。
結果
───────
スコア99,999
───────
「か、カウンターストップ……?」
受付嬢が尻もちを付いた。
その横で俺は人形に適当に一発だけ矢を放つ。250ダメージと表示されるのを見ながらサイモンに声をかけた。
「なぁ、こんな簡単な武器で30秒もあってどうやって23なんて出すんだ?出し方を教えてくれないか?なぁ?23ってなに?一発で250出るけど。指の先でも掠めて当ててるのか?それはそれですごい狙いの良さだな」
そう声をかけると顔を真っ赤にするサイモン。
「おい!俺は苦手な武器でやった!俺のブレードも使ってみろ!」
そう言いながらクリスタルブレードを渡してくるサイモン。
結果は12,852
「……」
遂に何も話さなくなってしまったサイモンの横にクリスタルブレードを置いておいた。
そんなサイモンの代わりに
「す、すごいです!ゼノン様!」
受付嬢が話し出すようになっていた。
「弓だけでなく剣まで扱えるのですか?!」
「さ、流石私のゼノン様です!」
そうやって受付嬢とクルルが褒めてくれるので照れくさくなったが、サイモンに目を向けた。
寝るのはやる事をやってからだぞ?
「なぁ、23?クルルに謝罪はしないのか?自分は23ダメージしか出せない雑魚でした。雑魚は自分の方でしたってさ」
俺がそう言うとクルル達も口を開いた。
「そうですよ。23様。ゼノン様に謝罪してください。ゼノン様を犯罪者と呼んだ罪深き罪人は自分でした。どうかお許しくださいって」
「そうだな23。ゼノンを犯罪者呼ばわりは許されない」
「そうよこの可愛いルゼルちゃんの王子様を侮辱したことを謝罪しなさい?23」
それから
「そうですよ23。ゼノン様は世界最強の冒険者ですよ。この受付嬢アネモネが保証します。自分のような23が素晴らしいゼノン様と同じ空気を吸えて光栄ですと感謝してください」
アネモネと名乗った受付嬢までもがそんなことを言い出す。
そしてサイモンは俺とクルルに土下座した。
「こ、この度は私のような馬鹿があなた方を侮辱してしまったことをお許しください」
「いいよ。俺は許すよ」
元々俺は特に気にしていなかったしクルル次第だなと目をやる。
「ゼノン様が許すなら私も許しますよ」
「お、お許しくださるのですか。ぜ、ゼノン様、クルル様。俺のような馬鹿があなた方のような素晴らしい方と同じ空気を吸えること天に感謝しております」
と、そんなことを言い出すサイモンだった。