10 どうやら俺の報告が疑われているようです
俺達はギルドへの帰還を果たした。
俺たちのパーティがどの程度までダンジョンを進めたかの報告だ。
その報告のために俺は今カウンターに立っていた。
「パーティリーダーのゼノンだけどデッドアビスの攻略を5層まで終わらせたよ」
その証拠として5層のフロアボスであるゴーレムの素材を見せる。
「なっ……デッドアビスへ挑んだのですか?」
「え?うん」
俺を信じられないような目で見てくる受付嬢。
「こ、これ本物なのですか?」
素材を指さして聞いてきたから頷いた。
「え?本物だけど、どうかした?ま、まさか偽物が出回ってるとか?でもそんなの証明出来ないしなぁ」
普段ギルドではこうやって素材を提出する事で討伐の証としている。しかし偽物と言われてしまうとは思わなかったな。
そんなことを思っていると
「そいつは偽物だぜ」
そう言いながら聞き覚えのある声をした男サイモンが俺の横に並んでいた。
「見てみろよ姉ちゃん。このパーティ編成。閃光のリリスが剣を失っているというのは有名な話。そんな牙の折れた雑魚に弓使い、それから囮役の雑魚と……怪しい商人……?とかいう訳わかねぇパーティ編成の雑魚雑魚ーズだぞ。勝てるわけがねぇ」
はははと笑うサイモンだが、こいつもルゼルのジョブは初めて見るのか少し戸惑っていた。
「ま、まぁ仰る通りですけど……」
こいつの言ったことを否定しない受付嬢。
やはり新参の俺達が挑むダンジョンではないようだ。
「あそこのゴーレムを倒すには、まだ攻撃の通りやすいゴーレムの内部にサーチ魔法を発生させて倒すのが正攻法だ。見ろよこいつらサーチ魔法を使えるメンツがいねぇ。倒せるわけがねぇよ?」
サーチ魔法。
狙った位置に攻撃する魔法のことだ。
ピンポイントに相手の位置に発生する魔法で移動速度の早い相手には使えずゴーレムのように動きが止まったり足の遅い敵に使うものだ。
しかしルゼルの使ったフリーズはサーチ魔法ではなく範囲魔法。
多くの場合サーチ魔法というのは他の魔法とは異なっておりかなりの練度を必要とする。
だからサーチ魔法のみに特化した魔法使いもいるほどで、そんな人たちはサーチ魔法使いと呼ばれる特殊なジョブになっている。
「サーチ魔法以外であのゴーレムを倒した前例はない。それだけ硬い相手をサーチ魔法以外で倒せねぇよ」
そう言うサイモンだが
「いえ、これは本物ですよ」
「……は?」
受付嬢の言葉に凍っていた。
「は?あ、ありえねぇよ!俺の話聞いてたか?!サーチ魔法がいないのにどうやって!」
「だ、だから私も有り得ないなと思ったんです!でもこの人たちはそれをやってのけたんですよ?!こ、こんなのおかしいですって!」
その言葉に少し痛いところを突かれた気持ちになった。
「あー、やっぱり対策していかないのっておかしいよな?」
モンスターを倒すのには対策を練ってそれに応じた準備を行うのが普通だ。
俺は今回その対策を怠っていた。
おかしいと言われても不思議じゃない。
「そ、そういう意味ではありませんからね?!サーチ魔法以外で倒せたというのがおかしいという話なんです!」
とズイッとカウンターの向こうから乗り出してくる受付嬢。
「ゴーレムは10メートルほどありましたよね?!あんな敵をどうやって?」
「ふ、フリーズだけど?」
そう答えるのはルゼルだった。
「ふ、フリーズなんですか?!」
驚く受付嬢に
「ふ、フリーズだと?!」
サイモンも続いた。
「バカ言うなよ!フリーズなんかで倒せるわけないだろ?!普通のフリーズって1メートルの敵を凍らせるのもやっとだぞ?!それを10メートルの相手に使ったってのか?!」
「当然よ。この可愛いルゼルちゃんの使う魔法なんだから規格外で当たり前なのよ」
何故かそこで胸を張るルゼル。
「ふ、ふざけやがって!おい!受付嬢!お前も有り得ねぇと思うだろ?!」
「え、まぁ……」
俺たちのやって来たことというのはそれだけ信じられない事らしいな。
「しかもおめぇら新人だったよな?何いきなりデッドアビスに行ってんだよ。あそこはな!俺みたいに有能な冒険者が行く場所なんだよ。おめぇらみたいなガキが行く場所じゃねぇんだ。身の程を知れ」
そう言われてもな。
そう思っていたら
「いいぜ!クソガキ共!俺がお前らの実力測ってやるよ!」
そう言って受付嬢に指示を出すサイモン。
「この前のダメージ測定テストで勝負だ」
「お前俺に負けたよな?」
その事で思い出したので口にしておく。
勝負するまでもないじゃないか。
「そ、そうですよ!ゼノン様は3500人の私くらいのダメージ出してましたよね?!」
3500人のクルルの話をまだするのか。
まぁそれはいいけど
「そう言えばあの時お前は逃げて謝らなかったよな?サイモン」
俺はあの時のことを思い出してそう口にする。
「うるせぇ!あの時の俺は1発しかやらなかった!今日は勝てる!」
そう言ったサイモンの目が泳ぐ。
先にリリスを見て次にルゼル、それからクルルに目をやった。
「だがな。この俺様がお前らのリーダーをぶっ倒しちまったら可哀想だからな。雑魚から順番に倒してやるよ!」
そう言ったサイモンがクルルに指を指した。
「俺と対戦するのは一番弱そうなお前だ!俺様に謝罪させたいならお前が俺に勝ってみせろ!」
そう口にするサイモン。
「いいな!俺は先に向かってる!いいか?!逃げてみろ!お前らが逃げたら俺はお前らのことを、偽物を使って不正に評価を上げようとした犯罪者として噂を広めるからな?!」
そう言ってサイモンは自分勝手にテスト場に向かっていく。
面倒な事になったな。
こんな申し出受けなくていいのだが、そう思ってクルルに目をやると。
「向かいましょうゼノン様。私のことをどう言おうと構いません。でもゼノン様を犯罪者呼ばわりしたこと地獄で後悔させてあげます」
そんな物騒な事を言ってクルルがサイモンの後を追うように歩いていく。
放っておけないな。
そう思った俺は受付嬢と目を合わせて呆れたように笑ってから皆とクルルを追いかける。
試験場に付いた俺達の目の前にはクルルとサイモンの姿。
「ルールは簡単だ。あの的を30秒殴ってより多くのダメージを与えた方の勝ちだ」
淡々と告げたサイモンに頷くクルル。
その後にクルルが俺の方に駆け寄ってきた。
「も、申し訳ございませんゼノン様。勝手に勝負を受けてしまって」
「いや、気にしないでいいよ。それより俺の代わりに怒ってくれて嬉しいよ」
クルルが俺を貶したことについて怒ってくれるなら嬉しい話だ。
そう思いながら俺はクルルにとある物を渡すことにした。
「こ、これは?」
「クナイだよ」
───────
名前:ミスリルのクナイ
ランク:A
───────
「こ、こんなに高級なもの頂いていいのですか?」
頷く。
俺にはもう必要のないものだ。
以前弓だけでは処理できないシーンもあったから持っていたものだ。
「いいかい?盗賊の持つ武器は多くが小回りが効きやすく片手で握れる武器だ。だがその分与えるダメージは下がってしまう」
現にクルルはここまでナイフ1本で来ているが俺もクルルが火力を出せるとは思っていない。
そういう役割じゃないからだ。
「だからこそ盗賊が火力を出すならもう片方にも武器を握って両手で挑むことが大切なんだ」
そう言うと
「し、知りませんでした。流石ゼノン様ですね。物知りですね」
と言われたが実戦では両手に握ることは無いので知らなくても問題は無い。
「で、でも不安です。負けてしまう、と思えば……」
「大丈夫だよ」
俺はクルルの頭を撫でた。
「ぜ、ゼノン様♡」
「だからクルルの力見せてあげなよ」
そう言うと頷くクルル。
さて、どうなるだろうか。
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