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10話 仲間にしてあげますか?

 いつかの光景を再現するように、レティシアはつかつかとこちらに歩み寄ってきた。

 ものすごく睨みつけられている。

 視線に力があるのならば、俺の顔にはとっくに穴が空いているだろう。


 先日の騒動を知るギルド職員たちは、ざわざわとする。

 そんな中、レティシアは俺の手を掴み、


「話があるの。ちょっと来なさい」


 外に連れ出そうとした。


 さすがに、以前と同じ失敗は繰り返さないみたいだ。

 ただ、俺が素直に従うかどうか、それはまた別の話。


「お断りします」

「ほら、さっさと歩きなさいよ。ホント、ハルはグズなんだから……って、はぁ!?」

「どこの誰か知りませんが……いきなり声をかけてきて、外に出ろというのは、不躾すぎませんか?」

「ちょ……ハルっ、あんた、なんで私のことを知らないフリをするのよ!? そんなことをして……あっ、まさか、他人って言ったのはそういう……? ぐぎぎぎっ」


 俺たちは他人だ。

 先日の言葉を思い出したらしく、レティシアは悔しそうにこちらを見た。


「あからさまに、口調も丁寧にしてぇ……ぐぐぐっ、でも、この前負けた以上……ぐぎぎぎっ……!」


 意外と律儀なレティシアであった。

 まあ、ただ単に、人目のあるところで騒ぎたくないだけかもしれないが。


「はぁ……」


 ため息一つ。

 アリスを見る。


「悪い。ちょっと、話をしてきてもいいか?」

「いいけど……あたしも一緒していい?」

「え? アリスも?」

「あたしはパーティーメンバーでしょ? なら、ハルのこと、放っておくわけにはいかないの」

「……ありがとう」




――――――――――




 その後、アリスとレティシアと一緒に、公園に移動した。

 陽は登っているのに、子供の姿はない。


 なぜだろう?

 不思議に思うものの……

 こちらにとっては都合がいいため、あえて理由を探すようなことはしない。


「……それで?」


 レティシアに向き直る。

 すると、彼女はふてくされたような顔をしつつ、口を開く。


「ハルごときが、私にそんな口を……」

「今までみたいにふざけた態度を貫くなら、やっぱり話はなしだ」


 俺も覚悟を決めた。

 これ以上、レティシアが変わらないというのなら、今までと同じく暴君であり続けるのなら……

 先日の言葉通り、他人になりきるだけだ。


 どんなことを言われても。

 なにをされても。

 ひたすらに無視をする。


「ぐぎっ……!?」


 こちらの本気を感じ取ったらしく、レティシアはとても悔しそうな顔をした。


 すぐに暴言が飛び出すかと思ったのだけど……

 意外にも我慢をして、話を続けようとする。


「……ハルが私のパーティーを抜けるっていう話、一応、理解したわ。納得はしてないけど、でも、理解はした。っていうか、もう報告された後だったし、勝手なことをしてるし……」

「レティシア」

「ぐっ……と、とにかく! ハルがパーティーを抜けること、認めてあげる」

「そうか。じゃあ、やっぱり俺たちは他人同士だな。これで終わり。さようなら」

「まだ話は終わってないわよ、このアホッ! 勝手に決めないでくれる、ハルなんかが!」


 この幼馴染は、暴言を吐かないと生きていけない体質なのだろうか?

 呆れつつも……

 今のは俺の言葉にも誘う部分があったかと思い、聞き流すことにした。


「本題はこれからよ」

「本題?」

「ハルは私のパーティーを抜けた。なら……今度は、私がハルのパーティーに参加してあげるわっ!」


 ……はい?


「ふふんっ、光栄に思いなさい! 勇者である私が、ハルなんかのパーティーに参加してあげるのよ? 涙を流して、跪いて、神様に祈るかのように感謝するべきね!」

「さようなら」

「だからなんでそうなるよ話を聞きなさいってば!?」

「聞く必要ないだろ」

「ぐがががっ!!!」


 話を一蹴してやると、レティシアは壊れたおもちゃのような声をあげる。

 妙な迫力があって、ちと怖いぞ。


「……ちょっといいかしら?」


 ずっと様子を見守っていたアリスが、初めて口を開いた。


「なんだ、お前は。私は今、ハルと話をしているんだから勝手に……」

「あたしは、アリス・スプライト。冒険者よ。よろしくね」

「え? あ……うん。よろしく……」


 噛み付く犬のように吠えるレティシアに対して、アリスはあくまでもにこやかに友好的に笑い、大人の対応を見せた。

 そんなアリスに毒気を抜かれたらしく、レティシアはわりと素直に握手に応じていた。


「隣で話を聞いていれば、なんとなく事情がわかるかなー、なんて思ったんだけど、やっぱ難しいわね。だから、だいたいの事情を説明してくれると助かるかな?」


 もしかして……

 俺とレティシアが再び衝突しそうなのを見て、アリスは緩衝材的な役割を果たすべく、口を開いたのだろうか?

 そんな気がしてならない。


 というか、いい加減、アリスに事情を説明しておかないとダメか。


「実は……」


 丁寧に気を回してくれるアリスに感謝しつつ、俺はレティシアとの関係などを説明した。


「ふーん、なるほどねー」


 一通りの説明を聞いたアリスは、納得顔で何度か頷いていた。


「……単純に考えれば、彼女の暴君っぷりは完全にアウトだけど、でも、ハルにこだわりすぎているような? ただ単にいじめたいだけじゃなくて、それ以上のなにかがある? うーん、見えてきそうで見えてこないわね」

「アリス?」

「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた。えっと……レティシア、って呼んでもいい?」

「いいわよ。ただし、あんたのことも名前で呼ばせてもらうわ、アリス」

「うん、よろしく」


 俺たちしかいないからなのか、レティシアは外行きの顔をすることなく、地の性格をさらけ出していた。

 いつもどおり、意味もなく偉そうだ。


「まず最初に質問があるんだけど……レティシアがあたしたちのパーティーに加わるとして、その場合、あなたの仲間はどうなるの?」

「問題ないわ。すでに、あいつらとは別れてきたから」

「はっ!?」


 とんでもないことをサラッと言い、驚かされてしまう。


「みんな、レベル40超えだっただろう? それなのに、別れたのか?」

「まとめて移籍なんて、けっこう無茶な話でしょ? ハルのパーティーに参加するのは、私一人の方が都合がいいじゃない」

「お前……」


 どうして、そこまでして俺に構う?

 理解できず、混乱してしまう。


「ハル、この場はあたしに任せて」

「しかし……」

「どうしても感情的になって、ちゃんと話ができないでしょ? その点、あたしなら問題ないから」

「……わかった、任せるよ」


 アリスの言う通り、レティシアと冷静に話せる自信がない。

 レティシアもまた、同じだろう。


 彼女の目的はなんなのか。

 なにを望んでいるのか。

 手間をかけさせてしまい申し訳ないと思うが、アリスにそれを確かめてほしい。


「じゃあ、次の質問ね。レティシアがあたしたちのパーティーに加わるとして、その場合、ハルに対するパワハラはやめられる?」

「……」

「うーん、返事はなしか。答えられない?」

「……ノーコメントよ」

「ふむ」


 一見すると、レティシアはふてくされているように見えるのだけど……

 アリスは違うものを感じているらしく、思案顔になる。


「続けて質問ね。どうして、ハルにひどいことをしていたの?」

「ノーコメント」

「昔は仲が良かったみたいだけど、どうしてこんなことに?」

「ノーコメント」

「もしも、あたしたちのパーティーに参加した場合、どんな行動に出る?」

「ノーコメント……よ」

「そっか……うん、了解」


 アリスは、なにか納得した様子でうんうんと頷いて……

 実にさわやかな笑顔で言い放つ。


「厳正なる審査の結果、残念ながら、レティシアの望む結果となりませんでした。今後のレティシアの活躍をお祈りします」

「なんでよっ!?」


 パーティー参加を断られて、さすがにレティシアはおとなしくしていられなかった様子で、噛み付くような勢いで叫んだ。


「レティシアが、ただ単に気に入らないとかムカつくとか、そういう理由でハルをいじめていたわけじゃないっていうのは、なんとなく理解したわ」

「そう……なのか?」

「私の勘だけどね。レティシアは、たぶん、今も昔も何も変わっていない。ただ、優先順位が変わった。だから、ハルをいじめるようになった。そんな感じ」


 だとしたら……その理由は、いったい?


「でも、理由は話せない。今後も同じことを続ける。そんなことを言われたら、一緒するわけにはいかないわ。あたしは、ハルの仲間としてハルを守る義務がある。今のレティシアは……ハルの敵よ」

「ぐっ……!!!」


 レティシアが怒りのあまり、腰の剣に手を伸ばそうとして……


「……今日のところは、ここまでにしておいてあげる。でも、ハルは私のモノよ!!!」


 ギリギリのところで怒りに耐えたらしく、そんな捨て台詞を残して、レティシアは立ち去った。


 やれやれ……

 決別したと思ったのだけど、そう簡単にはいかないようだ。

 さて、どうしたものか?

 なにか対策を練ろう。


いくつか修正、加筆してみました。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロインのアリスが、ハルとレティシアの間に入って話を進めてくれたこと [気になる点] ハルにボロ負けしておいて、反省もせずに『上から目線で口が悪い』という態度を改めない アリスの質問に対す…
[良い点] ヤンデレ腐れ縁から離れる感じ凄い勇気貰えます^_^ [気になる点] 宿敵になるのか、どういう路線かは気になります。 [一言] 元の鞘の範囲内エンドは嫌だなと思いつつ楽しみにしてます。
2020/03/08 02:11 退会済み
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