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聖母系彼女と奉仕系幼馴染  作者: クロジャ
第一章 幼馴染と僕のつながり
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007 砕ける、さんが取れる。(らしい)

「お邪魔します」

「えっと、うん。なにもないけど、くつろいでくだ、さい...」


氷にでもなったかのように、かくかくと動く蒼太と比較して、篁はほわほわとした空気を周りに漂わせながら、特にこれといった緊張もなく、ソファに腰掛けた。


震える手でお茶をコップに注ぎながら、蒼太は高速で頭を回転させる。


「(これ、どういう状況ーー?)」


緊張と戸惑い、疑問が一斉に蒼太の頭を襲い、思考回路を滅茶苦茶にしてくる。

噂をすればなんとやら、予期せぬ来客は吉か不幸か微妙なラインではあるが、久しぶりに篁との会話が出来たことは密かに喜んでいる蒼太。


ただこれが喜んでいるだけでは終われない。なんで来たかについては、説明してくれるだろうからそれはいい。問題はいつも篁の近くにいる、蒼太の越えるべき壁達だ。


親衛隊とも呼ぶべきあの人達が、なんの対策もさせずに篁さんを家に上げるはずがない。絶対に、どこかから監視している筈だ、そう確信した蒼太はお茶を入れながら、窓ガラス越しに外をちらちらと確かめるが...見つからない。


「飲み物は、お茶で、良かった...ですか?」

「あ、ありがとう」

「う、ううん、大丈夫..です」


ゆっくりと喉へとお茶を入れる篁。

んく..んく..と喉を動かすのが、またなんともいえない艶かしさを帯びているため、蒼太は思わず、うっ..と声を出しながら生唾を飲み込んでしまう。


出てきた煩悩を打ち消すために、素直な疑問を篁にぶつけた。


「...そ、それで、篁、さん..は、こんな時間にどうしたの?」

「あ、うん、ごめんね?こんな朝早くから来ちゃって」

「い、いや別にそれは..いいん、だけ..です、けど。その、急にどうしたのかなー...って」

「...えっと、どうしてさん付け..?それに敬語...」

「き、気にしないで!..ください....」

「き..気にする、よ。だって、私..達、その、つ、付き合ってるんだから....」


さしもの聖母(たかむらさん)といえども、恋愛事となると恥ずかしいのか、照れた様子で所々噛みながら話す。

蒼太も蒼太で付き合っているという事実を、篁本人から口にしてきたため、喋りはしないが心は浮かれに浮かれまくっていた。


「だから、その..ふつうにさん付けなしで、砕けた話し方で、話してくれると...その、嬉しい.......」


ボヒュっと一瞬に真っ赤になった顔を両手で隠す篁。

普段の篁からは聞けないような台詞が、先程から蒼太の脳内をオーバーヒートさせにきていた。


「わ、わかりまし..わかっ、た、よ。え、ええっと、た、篁、さん。..あ、あの、さ、さん付けしたのはほら、僕にとって篁さんにさん付けするのが、ひとつのコミュニケーションていうか、これが砕けた話し方のひとつだから、その、なんていうか、えっと.....」


なんだか似たようなことを最近...二日前くらいにやった気がする。こういう風な慌てかたをした記憶がある。


「う、うん。いまはそれで、だいじょう、ぶ....」


突然の来訪、聞きたいことはいろいろある。遮られてしまったが、狙い済ましたかのような良いタイミングでの登場。違和感を感じざるを得ない。


...しかし、どんな理由があれ蒼太は高校生である。好きな人が目の前に現れ、幸せそうなオーラを出しているのを見てしまえば、疑問など気づかぬ内に消えていく。


「よ、よかった」

「う、うん」

「...」

「...」


会話が続かない。話題が見つからない。

ちらちらとお互いを見ては、目が合うとなんともいえない笑みを浮かべあって顔を逸らす。


何分かすると幸か不幸か。気まずい空気が生み出した時間が、沸騰しそうな頭が徐々に冷やしていき、冷静さを取り戻していく。


「..そうたく」

「ーーしょの?!たかむらさんはどうしてここへ?!」

「...しょの?」


...終わった。噛んだし裏返っちゃったし挙動不審だったしなにより篁さんに被さって喋ってしまった。

泣きたい...涙が流れないよう宙を眺めていると、どこからかクスクスと笑い声が聞こえてきた。


「慌てすぎだよ、落ち着いて落ち着いて」

「い、いいいやでも、久しぶりに篁さんと話せたから緊張したというか、突然すぎて驚いたというかですね?!」

「....むー」

「へ..?あ、あの、篁さん、どうしてそんなにむくれて...」


ほっぺたをぷくーと可愛らしく膨らます篁さん。

ちょんっと触れただけで瑞々しく跳ねそうなほっぺたを、これでもかと言わんばかりに空気をいれて大きくさせる。


「私、さっきも言ったよ?敬語はなくていいって。さっき、普通に話してくれたから、良かったって思ったけど.....ひょっとして嫌、なの..?」

「い、いいいやとかじゃなくてですねーーじゃなくて、いやとかじゃなくて!その、しばらく敬語が抜けるの、待ってくれま...くれないかなって..」


ダメだ、全然なれない。

心の中ですら敬語で話している人に対して、普通に会って話すなんて僕には難題過ぎる。

..まぁなによりも問題なのは、彼女(仮)に対して未だに敬語を使っている、ということなんだけど..。


「....分かった。待ってるね」

「う、うん。頑張るから、少しだけ待ってて..」


納得いかなそうな顔をしているが、それでも渋々といった形で頷いた篁。ほっぺたの膨らみが心なしかさっきより小さい。

蒼太はその一方で、篁の人間味溢れる表情、行動がそれまでつくられていた"篁さん像"を跡形もなく壊していた。


篁が蒼太の家にきてまだ五分未満。

会話が再度なくなった二人の間には、嵐の前の静けさのような閑散とした雰囲気が立ち込めていた。

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