004 ぐいぐい
どうもクロジャです。ちょっとテンション高めで言わせてもらいます。
日間ランキング第22位、ランクイン!
やっほーい!めっちゃ嬉しいです。
まだ四話しか出していないのにこの反響...ありがたいことにPVも日に日に増していっております。
みなさまのおかげです。本当にありがとうございます。
この調子でがんばっていきますので、今後とも、是非、聖母系彼女と奉仕系幼馴染(彼女いまだです。そろそろ出す予定です)をよろしくお願いします。
あと今回は若干短めです。
「ふぅ...こんなもんかな」
後片付けをほーちゃんと共同作業で終わらす。いつの間にか滲み出てきた汗を拭うと、ほーちゃんがこちらを見てにこり微笑んできた、なんだろう。
「どうしたの?」
「いえ...ただ、なにもかもが懐かしい感じがしたんです。お喋りするのも、一緒に下校するのも、こうしてご飯を食べ、片付け合うのも...。どうしてもしみじみとした気持ちになってしまって。それでその、つい、楽しくて....」
「...僕も、楽しいよ。ほーちゃんと一緒になにかをするのは」
柔らかい表情と喜色の籠った声。幼馴染のそんな状態を見て、自身も表情が柔らかくなっていく。
ふたりの仕草、やり取りはさながら熟練の夫婦のそれ。言葉を交わさずともというが、それを敢えて言葉に出すことで絆を深めていく。
仲がいいからこそ、言葉を掛け合う。それがこのふたりのやり方である。
「嬉しいです、そう言ってくれて。.....ダメですね、私、少しだけテンションが高くなってるみたいです」
「...なら、落ち着くために一回ソファで寝転がったりでもする?」
「女性になんてことを誘うんですか。食べたあとにすぐ横になったら太ってしまいます。体重維持だってかなり難しいんですよ?甘い誘惑をしないでください」
ぷんすか、と緩めた頬を膨らませて、私怒っちゃってますよーとアピールする。
下校を共にしてから数時間。ふたりの距離は昔のそれに戻りつつあった。蒼太は緊張が解け、それにともない話し方、接し方も砕けていく。
奉子も表情に種類が増えたきた。笑ったり怒ったり悲しんだりと、クラスメイトが見たら驚きのあまり、メデューサにでも睨まれたのかと言わんばかりの硬直ぶりを、見せてしまうような光景が広がっていた。
「そ、そんなつもりは....いや、待って。そもそもハンバーグをぐいぐい口に入れてたよね?大量にご飯も食べてたよね?甘い誘惑もなにも、ハンバーグとご飯の組み合わせに負けてるじゃん!横になる話をする以前の問題だよ!」
「ちょっと蒼太がなにを言ってるのか分かりません」
「なんで?!」
弾む会話のなかでふたりは共に思う、「あぁ、この時間が無限に続けばいいのに」と。
しかし無情にも時は流れていくもの、気付けば時刻は夜九時、良い子のみんなは既に寝ている時間帯である。そろそろ帰らなくてはならない。
「...時間、みたいだね」
「そう...だね」
『.....』
お互い遅い時間とは分かっているものの、いまのこの気持ちがいい空間を壊したくなくて、どう声をかけたらいいか分からずにいた。
それを壊したのは....奉子だった。
「..............そ、そーちゃん」
「な、なに?ほーちゃん」
何度目かのデシャビュ。似たような光景を先程から見ており、そのどれもが大事な話であった。
ならば、と蒼太は唾を飲み込む。この流れならきっと、これも大事な話なのだろう。今度はどんな話が飛び出すのだろうかと、思わず身構えていると奉子は口を開いた。
「....その、明日休みですし.....ご飯だけでなく、その...泊まっても、いいですか.....?」
「....へ?」
ぽつりぽつりと紡がれた言葉は、蒼太の予想を遥か上に行くものだった。驚きのあまり変な声を出してしまうのはしょうがないだろう。
再度、蒼太は奉子に聞き返す。
「...えっと、な、なんて?」
「.....二度も言わせないでください。この年でこんなこと言うの、中々勇気がいるんですから...」
なにも知らないものが見れば、ズギュンと心を打つであろうその仕草。かわいさのあまり悶えることも間違いなしだ。
だがいまの蒼太はそのかわいさよりも、奉子の言ったことに対して、どう言うべきかに脳を全て使っていた。
「さ、流石にダメじゃないかな?ほ、ほらお母さんとかお父さんだって...」
「そーちゃんのことを知ってるんですから大丈夫です。ちょっと前まで交流あったじゃないですか。うちの親、寂しそうでしたよ。まるで息子が一人立ちしたみたいに」
なんて反応すべきか悩む答えに、後回し、と印を押して、無理矢理話を続ける。
「やっぱり幼馴染って言っても、男女だし、なにかあったら困るから....ね?」
「彼女さんがいるのに、なにか、するんですか?」
おっしゃる通りです。
ほーちゃんの正論に思わず心の中で敬語になってしまい、ぐうの音もでなくなる。
一個返されたくらいで、何も言えなくなってしまった自分の頭の悪さを呪いたい。でも、諦める訳にもいかないので、それでもなんとか振り絞って奉子に反論する。
「そ、それでもだよ!その、篁さんにも悪いし...」
「...いいじゃないですか、別に」
「え」
「言い方を変えれば、彼氏を放っておき他人に目を向けている彼女さんなんです。一度や二度くらい、それも幼馴染が泊まるくらい許されますよ」
「い、いやでもちゃんとメールでやり取りは...」
「ではそーちゃんは、カップルはメールでのみやり取りするのみだと?」
たしかに世間一般的な考えをするなら、会うことも話すこともほとんどしないカップルなど、もはやカップルではないと言われても仕方がない。
遠距離恋愛の方がはるかに現状の僕よりもマシだ。
正論は強い。言葉というのは、持っているだけで力になる。
その証拠にいま現在、蒼太は奉子に言い負かされそうになっている。
いろいろとキャパオーバーな脳は、奉子の正論に太刀打ちできる材料がなく、どんどんとおされていく。
そして。
語彙力などが不足している蒼太は叶うはずもなく、
「そーちゃん、別に私はなにかをしようだとか、どうこうするだとか、そういうことをしたいんじゃないんです。私はただ、そーちゃんと、一緒に、ひさしぶりに、泊まりたい。それだけなんです。......だめ、ですか?」
聞くだけで蕩ける甘い一言が脳内に響く。上目遣いも相まってか破壊力は抜群。頭を揺さぶれたような、ガツンとぶたれたようなショックが蒼太を襲う。
その一言が決めてとなり、蒼太は白旗を上げて、奉子をうちに泊めることを許可してしまった。
ほーちゃんに甘いなぁ、僕。
「...とりあえず、僕疲れたからさきお風呂はいっていい?」
何気なく吐いた一言。特に特別意味はなく、言葉の通り、字の通り。体を休める場を求めただけである。
だが、深夜+ひさしぶりの幼馴染とのやり取りによって、テンションが(大分)高めになっている奉子は、泊まるだけではあきたらず、暴走するスピードをさらに増していく。
「そーちゃん、それなら一緒に入りませんか?背中、ひさしぶりに流しますよ」
ふにゃと笑う幼馴染。微笑ましい光景のはずがいまは地獄の笑みにしか見えない。
ひさしぶりという言葉のゲシュタルト崩壊に襲われながら、蒼太は少ない頭を再び回し始めるだった。