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聖母系彼女と奉仕系幼馴染  作者: クロジャ
第一章 幼馴染と僕のつながり
2/8

001 "ひさしぶり"な感覚

「お邪魔します」


いつぶりだろうかと奉子は頭を悩ませ考える。

中はあの頃と変わらない、その事にホッとしている自分に気が付く。自分の知らないそーちゃんがいたら、そう思うと不思議と胸がチクリと痛むが、この少女はその痛みの正体を知らない。


「いらっしゃい」


いつからだっけと蒼太も頭を悩ませ考える。

特に合図もなく、気付いたらお互い家に呼び呼ばれなくなってから、距離の取り方も分からなくなっていった。それに加えて、彼女が出来ることでさらに距離が空いてしまった。


ふたりとも今日はひさしぶりに話し、夕御飯も一緒なことに、少々浮き足立っている。男と女の間に友情は生まれないというが、この場面、このタイミングにおいては、確かに、深く強固な友情という名の鎖がふたりを縛っていた。


「とりあえずどうする?夕御飯までまだちょっと時間早いけど...」

「そうですね...そしたら」

「うん..そしたら」


『勝負!』


ふたりとも勢いよくテレビへと移動すると、蒼太は電源をつけ、奉子はリモコンを取り出して、なにかを準備し始める。

しばらく話せなかったと言っているのが嘘のよう。やはり幼馴染というべきか、連携力は昔のまま、健在である。


「あの時の雪辱、いまこそ返すよほーちゃん!」

「寝言は寝てから言ってください、今回も私が勝ちますよそーちゃん!」


ぴこんと始まったのは、有名なキャラクター達がたくさん集うクロスオーバーなゲーム。

それぞれがそれぞれ、その作品にあった攻撃手段を用いて、相手を倒すゲームである。


ふたりはこの作品の熱狂的なファンであり、数年以上前からこの作品が出ているのだが、一作品目から現在の五作品目まで全てをやりこなしている。

そして無論、この作品は対人戦が可能。お互いがライバルとなり、高め合うことができる面白いゲームだ。


なのでこの二人が勝敗を争うのも必然的、である。


「あっ、ちょペチペチ叩かないで鬱陶しい!」

「このキャラはそれが正攻法...そして、これが倒し方です」

「え、なにそれ?!僕そんなの見たこともなーー」

「ジエンドですよ、そーちゃん」


蒼太の鬼を模したキャラが倒され、奉子の可愛らしい猫のキャラクターがガッツポーズを上げ、リザルト画面へ。

勝敗は奉子の圧倒的勝利に終わった。二機も差をつけられた蒼太は悔しそうに指を一本立てる。


「..もう一回!!」

「何度でも返り討ちに合わせてあげます!」


ぼこぼこと戦い合うふたつのキャラクター達。それを操作するふたりの表情は柔らかく、笑いあっている。

心の底から、楽しそうに遊んでいた。


やがて。


「...蒼太、そろそろ」

「うん、これが...」


『最後の勝負!』


蒼太の操る亀のような生物が、奉子の操る少し大人っぽい格好をした女性の博士に向かって砲丸を打つ。

それに負けじと女性の博士が青色の薬品を作り出し、亀へと投げてぶつける。すると、亀はたちまちふらふらと混乱し、操作が効かなくなってしまう。


「くっ...それ、本当に厄介だよね」

「じわじわと、少しずつが私のやり方ですから」


その言葉通り、ダメージはいまいちながらも、連続で当てたり、毒やらなんやらでダメージを持続的に与えたりと、確実にダメージを増やしていった。


「...でも、何回もやられる僕じゃないよ!」

「...っ!それは...」


ダメージがたまったことで、亀のようなキャラクターが持つ特殊能力が発動。与えるダメージの一撃一撃が、どんどん上がっていく。ダメージに応じて、攻撃力が上がっていく能力らしい。


ついでにいうと、博士のキャラクターの特殊能力は状態異常を与える薬品を作れる能力である。


「これでダメージ数は一緒...」

「そしてお互い残り、一機...」


勝負所を探すふたり。相手が油断するタイミングを見計らうが、お互い集中していて中々隙を見せない。

そんなとき、ふと思い出したように奉子が声をかけた。


「ーーそういえばそーちゃん」

「どうしたの?集中力を切らせる作戦だったら無視するよ」

「違います。聞きたいことを思い出したんです」

「聞きたいこと?」

「はい」


ふたりともリモコンからは手を離さない、画面からも目を離さない状態で、意識を少しだけ相手のほうへと向ける。

僕に聞きたいことってなんだろうと、純粋に疑問に思った蒼太は話の続きを促す。


「ーー蒼太、篁さんとキスしました?」

「げっほ!がっ、ごほっ!」

「あ、チャンスです」


図らずチャンスが訪れたのを見逃さなかった奉子は、蒼太のキャラクターに攻撃を加えて倒す。

見事勝利を納めたのは奉子だった。かなり不意をうってはいるが、勝ちは勝ち。勝ったものが正義なのだ。


「ちょ、ちょっと....それはなしだってー.....」

「偶然を見過ごさないのもひとつのスキルですから」

「その偶然、作ったのほーちゃんだよね?わざと、だよね?」

「たまたまです。まさかそこまでオーバーにリアクションをとるなんて、思っていませんでした」


たまたまって...とぼやく蒼太に、自分のキャラクターが勝ち、喜んでいる画面を複雑そうな目で見つめながら奉子が話を続けた。


「それで、どうなんですか?」

「どうって?」

「したのか、していないのか、ですよ。気になるじゃないですか。自分の幼馴染が知らないうちにもしかしたら、大人の階段を上っているのかもしれないんですから」

「い..いやいやいやいや!そ、そそ、そこまでは流石に!ていうか、キスもまだだよ!」

「そうなんですか?じゃあ、手を繋いだことは...」

「それくらいは、その.....あ、あるよ..?」


もじもじと恥ずかしそうにしながら、自身の右手を見つめ、まだ数回だけど...と顔を赤らめ、恋する乙女よりも乙女な表情でそう呟く。

そんな蒼太を見て奉子がくすりと笑う。


「..ふふっ...そーちゃんたら恥ずかしがりすぎですよ。どんだけ初心なんですか」

「....うぅ...もういいから!遅いし夕御飯さっさと作るよ!」


テレビとゲーム機の電源を勢いよく切ると、どたどたと駆けながら蒼太はキッチンへと向かっていった。


「照れてないで待ってください。私も一緒にやるんですから」

「じゃあもうからかわないでよ!」

「分かりました、分かりましたから。そーちゃんの言う通り早く作ってしまいましょう」


それをゆっくりとした歩みで同じ場所へと向かう奉子。


ふたりはキッチンで再び合流し、冷蔵庫のなかを見ながらうーんと考える。そういえばなにを作るか考えていなかったなと。


「今日はなにを作ります?」

「...久しぶりにふたりで食べるんです、なにかこう、特別なものでも作りませんか?」

「特別なものって言っても....そうそう簡単に思い付かないし、高級な食材は買ってないよ?」

「そうではなくて。昔一緒に食べていた、あれ、食べましょう。あれ」

「あれ?...なんだろう?」

「なんで忘れちゃってるんですか。少し前まで一緒に食べていたじゃないですか」


あぁ楽しいな、自然と自分のこころが安らいでいくのを感じる。

他の人からの目線、重圧、排除。ぶっちゃけ凄く心身共に疲れていた。だが、その疲れが今は嘘のように僕の体から消えている。


蒼太は気付いていた。幼馴染が蒼太の寂しさを紛らわすために、話を逸らしたり、あえて入れて蒼太の現状を知り、慰め、奮起させ、どうにかして自分のいまの状況を変えてあげたいと思ってくれていることに。


彼女(たかむらさん)は優しい。僕は彼女が好きだし、彼女も僕のことを好きでいてくれている。

それでも、それとは別種の優しさ。幼馴染だからこその距離感、雰囲気がとても、とても自分には心地がいい。


「...?そーちゃん?作らないのですか?」

「..ごめんごめん。いまやるよ」


頭を振って難しく考えた思考を止めさせる。楽しい雰囲気に、難しいことなんて邪魔だ。

蒼太はエプロンをつけ、いまいち思い出せない料理(あれ)が何だったかを、必死に考えるのだった。

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