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不滅の法王  作者: 白神凛子
13/20

貫く短刀

(※ 流血、暴力的な表現を含みます。)

 隙を探しているのに、その隙が見つからない。もう限界というほど近づいてから、キトリは思い切りアーヴェの尻を叩いた。

「おい! その馬逃がすな!」

 山賊の頭らしき男が怒鳴ってその尻を追いかけるが、人間が馬に勝てるはずがない。呆気なく撒かれて、アーヴェの背中は見えなくなった。


「…嬢ちゃん、お馬が逃げちゃったよぉ、どうすんだ?」

「何とか言ったらどうだよ、え?」

「…きゃ!!」

 突如、男のひとりが短刀を突きつけてくる。

 身を反らしたお陰で体を貫きはしなかったが、その尖った刃に引っかかった橙色の僧衣が、びりりと音を立てて裂けた。


「おっと、裂けちまったな。なんだぁ? そんなもんでぐるぐる巻きにしてんのか」

 わずかに膨らんだ胸――を隠すために、薄手の布を何重にも重ねて胸に巻きつけている。刃はそれには触れずに、上の僧衣だけを裂いていた。

「どこかから逃げ出して来たんだな? そんなもの着て、誤魔化せる筈ないだろう。この辺は俺らの縄張りだって、地元の奴らはみんな知ってるってのになぁ」

 アーヴェはどのぐらい逃げられただろう。ここで捕らえられてしまうよりは、うまく逃げ切ってくれたらいい。野性に還るにも、寺院に戻るにもアーヴェ次第だ。


「私を殺すの?」

「ひゅううう、可ぁ愛い声。殺して金をぶんどろうと思ってたが、その前に可愛がってやるのも、悪くねぇかもなぁ」

 キトリはずっと、男たちを睨み付けていた。隙を見せないように、そして相手の隙を見逃さないように。

 けれどここで、何も言わず殺してくれるなら、それに任せてもいいかもしれない。

 …どうせ死ぬのだ――ふとそう考えて、首を横に振った。


「ああ…だめだな」

「は…?」

 苦笑交じりに呟いたキトリを見て、男たちは呆気にとられた顔になる。

 瞬時に棒をぐるりと回して、男の腹に叩き込む。ぐふっ、と呻いてその男が突っ伏した。


「…ひとり」

「な、なんだ? こ…んのォォ!!!」

 男たちが一斉にキトリへと飛びかかる。

 その瞬間を待ってしゃがみ込み、キトリは一気に棒を振り回した。

「ぐふぉっ…」

「はがっ!」

「ひぎぃっ!」

 まるで絡めとるような動きで、一人、また一人と叩きつけていく。すべて急所を狙ってあるから、食らったらしばらくは眠ることになる。


「…八人」

 ぐるりと一周、男たちが地面の上に伸びている。対複数棒術…だったか、教えてくれたのはナナサだ。久々にその顔を思い出して、初めて感謝する。

 だが、安心するのはまだ早かった。

「…っあ!?」

 棒を握っていた腕を強く掴まれて、キトリは息を吐いた。

「…っくしょ、胃ン中がムカムカするぜ」


 甘かった。一人、気を失わなかったのが残っているとは。

「油断…したぜぇ、お嬢、ちゃん。その、棒っ切れが、飾りじゃねぇ…とはなっ」

「はっ、離せ!」

 男の腕を握る力があまりに強く、武器である棒を取り落としてしまう。

「…っ!!!!」


 刹那、焼けるような痛みが背中に走る。油断、した。

「ふん、ざまぁ…みやがれ…」

 どさり。ようやく気を失った男を踏み越えて、キトリは駆け出した。




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