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流転  作者: 股旅
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No.04 旅人

 奥深い道無き川辺を歩く三人の姿がある、一人は青年のようであるが童顔で少年といった方が似合うそんな男と、それにべったりと横について歩く少女。

 そしてワーリザード。2メートル近い強靭な体躯で、皮膚を覆う硬い鱗のようなものは半端な鎧よりも硬く、胸当て、手甲、脛甲、尾にもそれに合わせた防具が付けられている。裸ではなく厚手皮製の服を着ている。背には大戦斧、襷掛けのような太いベルトの金具のような部分に引っ掛けてある簡単なものである。

 重量はあるがそれに引っ張られているという事は無い。

 そのワーリザードが男に声をかける。


「クレス」

「ん?」

 ワーリザード顔を向けそう返事をするクレス、クセ毛の強い長髪を後ろで縛っている。

 体躯は細身で鎧のような防具は一切していない、背には大きなリュック、中身がぎっしりと入っていそうな感じである、外のポケットには色々と入っているようだ。

 装備は腰に鋼の剣が一本のみの軽装である。


 そして銀髪。


「旅は長いんだろ」

「そうですね、17の時からです。ネネが16になった時からですね」

「今は19、いや20くらいか? 人間はどれも同じように見えるが、体躯がそういう感じだが」

「そのくらいですか、旅をしているとそこらへんの感覚が。ネネは一つ違いですけどね」

「一つ違いにみえねぇな、確かにこんな旅してたら解からないな」

「兄様、お腹空いた」

「そうだね。あそこの川辺で昼食にしようか」


 その少し開けた所へ走り出すネネ、それを見つめながらそこへと歩みを進める二人。


「しかしなぁ、聞くタイミングを逃していたが、お前強いよな。誰から教わったんだ」

「両親からですね。幼少の頃から鍛えられました」

「ほーすげぇんだな。相当強いのか?」

「父様もそうですが、母様も強いです。私は父様、ネネは母様に鍛えられました」


 到着し会話をしながら装備を外すワーリザード、クレスもリュックを下ろし食事の準備に取り掛かり始める。

 ネネは浅いところでばしゃばしゃと水で遊んでいる、すでにズボンがびしょびしょである。それを見たクレスはネネのリュックから着替えを取り出す、中から小さな鳴き声がする。


「なるほどな、銀髪ってことは西出身か?」

「そうでもないんですけどね、言いたくないと言うのが本音ですね」

「あー神官かぁ、銀髪の人種は俺の村にも昔よく来たらしい、西へ渡っていったって話だが」

「私達も西へ行ってきましたよ、東もですけど」

「すげぇな! その歳ですでに周ってきたのか? 海超えのタイミングも良かったのか」

「別に周ってきただけですよ、特にこれと言って何もしてませんよ」

 そうそっけなく言い川辺で遊ぶネネに向けて言葉を投げかける。


「ネネ、食事の準備と魚取りに行くのと、どちらがいい?」

「お魚とって来ます!」

 元気よく手をあげるネネ。

「じゃぁお願い、私は昼食の準備をコメルリードさんとするから」

「はーい!」

 川を見ながら上流へと走り出し、岩に飛び乗り姿が消える。


「大丈夫なのか? 結構な水深がある川だが、泳ぎは俺の方が」

「ネネに任しても大丈夫ですよ」

「そうか、じゃぁ任せるか。どうすんだ、この後」


 そういいつつ石を積み上げ、麻袋から取出した炭を置くワーリザード。

 鍋やフライパンなども次々と取出すし、クレスは調味料などを用意している。


「基本、行った事のない土地を周っているだけですから特にはないですけど?」

「親への旅土産だろ?」

「ですね、コメルリードさんの出会いもその一つですし、西には見事な大きな滝があったりとかそういうのもですよ」

「くぅ、あまりいい思い出じゃねぇ、ボロボロに負けたからな」

「手加減しない性分ですから、失礼になりますし」

「勝負事に手を抜くのは勘弁して貰いたいな」

「ですよね」


「旅土産、旅土産ねぇ……ドラゴン退治とか?」

「退治って別に何もしていないドラゴンを倒す意味がないのでは?」

「そりゃそうだな、やっぱこう強いモンスターを退治したみたいな土産話のほうが盛り上がるだろ」

「盛り上がると思いますが、退治って事は何かしら被害があるわけですよね、それを望むってのも」

「ま、そうだな、俺の居る村がそん風に襲われろって思われるのも嫌だしな。バジリスクやコカトリスにでも襲われればいいんだけどな」


「強いんですか?」

「強い……らしいな、どちらも肉が美味いらしい。が、ここらではお目にかかれるモンスターでもない」

「コカトリスは西で食べた事がありますよ、鶏の肉の方が好きですけど、肉が硬いんですよね、調理に工夫がいりますよ」

「鶏のでけぇやつみたいな感じだってな」

「似ているけど違いますね、胴は蛇みたいな感じで外皮が硬いですし、尻尾は蛇ですよ」

「蛇なのか、こっちはそんなのはないが」

「蛇っぽい尻尾ですね、見たままだと蛇ですよ。噛んで毒も流し込みますね。バジリスクですか……美味しいんですか、ネネに食べさせてあげたいな」

「喜ぶだろうな、肉好きだし、俺も食ってみたいんだ」


「バジリスクってどんなのにゃ」

 ひょこりとネネのバッグから顔を出すミィ。

「なんだミィ、起きたのか」

「ずっと起きてたし、話も聞いてたにゃ」

「バッグの中でゴロゴロしてたのか」

「そうにゃ、居心地いいにゃ、魚はカツオがいいにゃ」

「カツオは川魚じゃないよ、ミィ」

「そうにゃの? 残念にゃ」

「ミィも山菜取りに行く?」

「いくにゃ、木の実もあるかもしれにゃいにゃ」


 するりとバックから抜け出しコメルリードの肩に乗るミィ、道の無い森の中へと入る三人。

 キャンプの鍋にはお玉が引っ掛けてある、食料を取りに言っていると言う合図である。


「バジリスクなんだが、実はな、見た事がない」

「それじゃどれがバジリスクか解からにゃいにゃ! 食べてみたいにゃ!」

「村で取引していた商人の話だからな、ドラゴンに次ぐ貴重な食材だそうだ、ちなみに商人も見たことが無い」

「食材って、ドラゴン倒せる奴がいるとは思えにゃいにゃ」

「いや、倒したのは勇者だぞ? 村を襲われていたのを助けた時のドラゴンだ」


 山菜を積み始めるクレス、ミィは肩の上で木の実を探している。


「それ知ってるにゃ、英雄譚でも語っているにゃ、四人目の話にゃ」

「だな、それが今でも商人の間で語られているってだけの話だ。伝説の食材だな」

「ドラゴンの食材を扱ってみたいと商人が夢を熱く語っていた時にな、せめてバジリスクでもって事だ」

「にゃるほどにゃ、どこにいるにゃ? 食べにいこうにゃ」

「いや、詳しくは知らん。ガルドナのほうに生息しているらしいぞ、卵も美味いらしい。大陸を周っている商人ですら手に入らない食材だろ? 簡単に見つかるとは思えねぇが」

「倒せにゃいからじゃにゃい?」

「そっちか、ドラゴンは山脈に生息している、青っぽいのがたまに飛び回っているぞ」

「クレス行くにゃ、ドラゴン食べたいにゃ! きっとしっぽくらいにゃらまた生えるにゃ」

「食べきれないよ、ミィ、どれくらいの大きさかも解らないしね」

「誰かにあげればいいにゃ? 保存食にしてもいいにゃ? それとも売るにゃ?」

「そうだけれど、売るとなると話は別だね、ここの大陸はどうかな」


「あー、それもそうにゃ、面倒にゃ、東の大陸でひどい目にあったにゃ」

「でしょ?」

「何があったんだ」

 キノコを毟り取ろうとしていたコメルリードの手が止まる、それダメにゃと頭をはたかれるコメルリード。


「村を襲っていたモンスターを討伐したんですが、ドラゴンみたいな貴重な食材でもあったようで、事あるごとに討伐依頼が来るんですよ、すべて断りましたが」

「食材目当てでか」

 木の実を取ろうとしていたコメルリードにそれもダメにゃ!と、ミィに頭をはたかれる。


「そんなに数のいないモンスターですしね、基本人を襲ったりしないんですよ」

「何で村が襲われたんだ」

 キノコを取ろうとしていた手が止まる、ちらりとミィの反応を見るが何も無いのでそのまま毟り取るコメルリード。先ほどと何が違うんだと、キノコを眺め首を傾ける。


「卵にゃ、卵盗んだにゃ、そしてばれて襲われたにゃ、アホにゃ、巣も荒らしてるにゃ」

「たまたま通り掛かった私達が討伐したって話です」

「事情知ってたら放置にゃ!」

「そんなわけにもいかないよ、関係の無い村まで襲っていたんだから」

「そうだけどにゃ、痛い目に合わにゃいと同じ事繰り返すにゃ、痛い目にあっても繰り返してるにゃ」

「それはそれで凄いな、食に対するこだわりか?」

 少し移動を始める三人。

「それもあるにゃ、でも盗むほうはお金にゃ、卵が結構な値段で売れるらしいにゃ」

「それで命捨てるのか、凄いな、しかも他人巻き込んでか」

「村って言うけど規模は大きいですから、二百人くらいの方が亡くなりましたね」

「大型か」

「そうにゃ、クレスとネネは目立つし、ちょっと有名ににゃったので逃げるように大陸を去ったにゃ、あいつらどこ移動しても追いかけてくるにゃ」

「追いかけてるわけじゃないと思うよ、噂の方が広がる方が速いんだろうね、生息地から離れてやっと無くなりましたから」

「あそこ下手に長居したら、わざわざ巣を荒らして肉狙いが出てくるにゃ、殺されるのは自分が先にゃのに理解しにゃいにゃ」


「あぁ、そっちが問題だな、そういうやつらって他所の村の奴等だろうな」

「だから、銀髪で目立つしとっとと西に行ったにゃ、欲しいなら自分で倒せにゃ」

「まぁそうだね、景色が独特で好きだったんですけどね、西は銀髪が多くて良かったですけど、そっちが長いですね」

「そのモンスターも、他の村を襲わなければ良かったのにな」

「見分けが付かないですよ、人も同じですよ」

「そうか?」


 木の実を毟り取ろうとしていた手が止まる、何も無いのでそのまま4つ毟り取る。

「蜂なんて解かりやすいじゃないですか、蜂に襲われるから巣を排除する」

「一緒ですよ、モンスターの巣を襲い生活を脅かすから村と言う巣を徹底的に排除するんです。人間も蜂一匹一匹分けて考えないじゃないですか、モンスターにもそうでしょ、個体では見ません」

「人間同士ですらそうですよ、戦争が良い例じゃないですか」

「たしかにな、巣を潰すだろうな」

「でしょ、やっている事は変わらないんですよ」

「人と並べるにゃって言うのが多いにゃ、確かに一緒じゃないにゃ。人は欲のために潰すからにゃ、根こそぎにゃ。人間の目線だけで語るとトンでもにゃい凶悪なモンスターに早変わりにゃ、そもそもモンスターから巣を襲わにゃいにゃ」

「だな、それに必要以上に欲しがるし無駄にするな。なんでだ?」


「ミィたちも人間社会には詳しくにゃいにゃ、わからにゃいにゃ」

「そうだね、私達の村もコメルリードさん達のような村ですから、わからないですね」

「この大陸はそんにゃのばかりにゃ」

「美味そうな食事になりそうだな、戻るか」

「ネネももう戻ってるかな」


「で、西や東はここと違うのか」

「そうですね、西はモンスターとの争いばかりです、東の大陸も一部はそうですね、西みたいな感じですね」

「こっちは一方的に殺されるのが多いが、西はそんなに強くもないのか?」

「西の方が強いですよ」

「そうにゃ、魔法もガンガン使うにゃ、食うか食われるかにゃ」

「かなり高度な魔法だったですよ、あちらはあちらで独特の魔法が進んでいますね」

「そこでも一波乱あったにゃ」

「まぁそうだね、頼られるのはいいんですけど、当てにされるんですよ」


「何が違うんだ?」

「頼られるのは自分達も立ち上がるのですが、当てにされるのはこちらに丸投げです」

「そうにゃ、一足遅く助けにきたら何故もっと早く来にゃかったとめちゃくちゃ言われたにゃ」

「へぇ……なんでそうなる」

「当てにしているんですよ、それまで何度か間に合ってたんですけどね」

「クレスが現れるだろうと勝手に期待して勝手に絶望しているにゃ」

「そんな約束でもしたのか?」

「してにゃいにゃ? だから勝手ににゃ」

「自分達では何も対策もしていなかったですね」


「助言もしたんだけどまるで無視にゃ、嫌になって去ったけどにゃ、もうあの村にゃいんじゃにゃい?」

「かもしれないね、どこかの村にでも逃げ込んでると思うけど、自分達で立ち上がらないと意味がないんだけどね」

「逃げるために立ち上がるにゃ、それだけは素早いにゃ、アホはそれすらしにゃいにゃ、そのまま死ぬにゃ」

「いやな土産話だな!」


「そんなのが多いですよ、当てにされて何もしなくなるなら、いないほうがいいんです」

「自分達で立ち上がったのにゃんてスズメの涙ほどにゃ」

「それも一部の方だけですね、今度はそれにぶら下がる形ですね」

「出ていってそうにゃ、はにゃぁ……良い話の方が少にゃいにゃ。コメの出会いは貴重にゃ良い話にゃ」

「そりゃ、負けた甲斐もあったってもんだ」

「いえ、コメルリードさんはかなり強いですよ、ここの大陸ではなかなか居ません」

「そうか、そりゃ少しは安心したな、この大陸でも上には上がいるしな、勝てない相手が一人いる」


 そういいつつキャンプ場に戻り、鍋に水を汲みにゆくコメルリード、クレスは野菜や山菜を束ね網籠に乗せ一緒について行く。

 川の水を見て驚くコメルリード、めちゃくちゃ澄んだ水だなと言葉が漏れる。

 水を汲み、野菜などを洗う二人、ミィは泳ぐ小さな魚に目が奪われる。

 戻り鍋を掛け、火つけるにゃと一言いうと、墨が赤くなり始めて熱がコメルリードの肌にも感じ始める。


「ひとついいか」

「えぇ、なんですか」

 野菜を切り分けながらそう答えるクレス。

「良くない土産話、それ人間ばかりだろ」

「……ですね、私もそうですけど、私達の村ではあんな考えにはならないですよ」

「そうにゃ、さっぱりにゃ?」

「だよなぁ、クレス達は亜人の生活に近いな、ま、だから皆に気に入られたしな」

「ミィたちも亜人好きにゃ」

「だね」


「そうだ、商人の持ってくる話は、結構面白い話が多い」

「どんなのにゃ?」

「噂話が好きな男でな、食材は奴の夢だが、封印された魔道士とか、棄てられた森の魔女とか色々だな」

「面白そうな話ですね」

「まぁな、眉唾が多いけどな。魔女は居るみたいだな」

「聞いた事ないにゃ?」

 何もする事が無くなった3人が意味も無くお湯が沸き出すのをじっと見つめる。


「有名らしいぞ、棄てられた森の中央部に魔女が住んでいるって話は」

「ドラゴンにゃ? 闇のドラゴンが住んでるにゃ、英雄も会っているにゃ?」

「老婆の魔女って話だが、なんでも森の悪魔を作り出しているって聞いたが」

「悪魔が居るのは知っていますが、魔女は初めて聞きましたね」

「そうなのか、森の英雄ってやつもいるって話だからな、そっちの英雄譚は聞いたことないが今度バニーが来たら頼んでみるか……何番目?」

「三番目にゃ、森出身でもにゃいけどにゃ、にゃんで森の英雄にゃんだろうにゃ」

「まぁ噂は噂だからな、俺も商人から聞いた話だからな、商人も噂は噂だと言ってたしな、行ってみるか?」


「いえ、あそこの森はネネが嫌がるので近づかないんです」

「そうなのか、うーん、だから南から回るのか」

「前にあそこの村近くまでは寄った事があるんですよ、その頃からですね、あまり柄の良くない方もいますから」

「ほう、入ったのか?」

「いえ、一緒に旅をしていたワーウルフとバニーの方は入りましたが、私達は入ってないですね」

「一緒に旅を続けなかったのか」

「えぇ、東へ渡るとなった時にそこで別れました。ワーウルフの方は村に帰ってリンゴを作ると、バニーの方はそのまま旅を続けると言っていましたが、森を出た後は多分途中までは一緒だったと思いますね」


「寄ってみたいにゃ、どこにゃ」

「……そう言えば聞いてないね、帰ったら寄ってみてくれと言われましたけど」

「北の方にワーウルフの村があるとは聞いたがそこじゃないのか? 途中バニーの村に寄れば解かる……あー東が先なのか」

「ですね、ここから東そして西です、で、後は知ってのとおりコメルリードさんの村ですね」

「俺の居ない間じゃなかったのか、変だなとは思ってた」

「海を渡るとき皆引き止められたにゃ、あれはにゃんでにゃ、倒せばいいにゃ。海王とか舟を沈めるモンスターが多いって話は東で聞いたけど、何もいにゃかったにゃ? 海も荒れるわけでもにゃかったし」

「東方面はしらねぇが、噂では間違いなく沈められるとは聞いたぞ」


「別ににゃかったにゃ?」

「無かったね、大陸じゃなくて島国についてしまったけど」

「今は渡れるのか、それとも島国方面は大丈夫なのか? 西はそうでもねぇな、渡る商人はことごとく沈んでいるが、便乗していた舟から一人ものすごい勢いで泳ぎきった若い剣士がいたぞ」

「大丈夫だったんですか、その方」

「半年ほどで西から戻ってきたけどな。春先に渡って秋頃に帰ってきたからな」

「泳いで?」

「一人で普通に舟に乗って帰ってきたな、エルフの舟だったからか?」

「いえ、普通の舟だと思いますけど、動力は魔法ですけど」


「こっちのと同じだよな、渡れる日じゃなかったんだがな」

「かなり強い方なのかもしれませんね。モンスターは避けますから」

「そうか、腕は確かそうだが、そこまでじゃなかったようだが」

「私の時のように申し出なかったんですか」

「いや、言ったぞ。だが母国に早く帰って旅支度しなければなんとかって慌てて出て行ったからな、数年前の話だしな、戦うとなるとケガは付きものだからな」

「何のために渡ったんでしょうか」

「なんでも爺さんの爺さんが島国出身らしくてな、そこに行くとは聞いた」

「何故西からなんでしょ」

 そう言いながら切り分けた野菜を全て鍋に放り込むクレス、それをまた三人が見つめ始め、蓋をするクレス。


「冒険者や商人の間では割と有名らしいからな、俺の所からしか渡れないと思ってるんじゃねぇのか?」

「それはありますね、渡ったとして西からはゲートがありますが、送って貰えるかどうかはちょっと」

「東の大陸横断になるにゃ、半島から天気がいいとぎりぎり島国が見える所があるから間違うことはにゃいにゃ」

「渡る奴は腕試しってのも多いけどな、この大陸でもいいとも思うが、ま、沈むな。拒まれてるとしかいいようがねぇ、舟だけはきっちり戻ってくるからな、忠告はしているが正直どうでもいい、死体が流れ着くわけでも無いしな、まぁ全部食べられているだろうな」

「故郷ににゃるのかにゃ、それ島国の人が渡って来たんじゃにゃいかにゃ、港町にもいるにゃ?」

「じゃないか? 腕にも自信がありそうな奴だったしな、行けると思うが戻ってきたな」


「森は、腕試しには持って来いって聞いたから行ってみてぇってのはあるが、ネネが嫌がるのは俺もイヤだな」

「悪魔が強いんですか」

「いや、モンスターがかなり強いと聞いた、腕に自信があるなら挑戦してみたらどうだと言われたが、そういってたのは商人の付き添いの冒険者だけどな」

「あ、珍しい鉱石が採れるらしいですね」

「あぁ、モンスターの素材もそうらしいな。腕試しついでに金も稼げるって話だが金は興味ねぇ、そこに酒のヒントでもねぇかな。リーリアには天然酒ってのがあるらしいが、まぁ銀髪だしな、そっちは行かないほうがいいな」

「いやにゃ」

「森もクレスよりも強い奴がうろついているとも思えねぇがな」

「そうにゃ? そんにゃ森に行く必要が全く無いにゃ、ネネの嫌がる顔見たくにゃいにゃ。ちっちゃい眉がきゅっと寄るにゃ」


「兄様! 大物取れましたー」

 三人が同時にネネの声のするほうへと顔を向ける、大きな魚三匹を胸に抱えて走ってくるネネの姿がみえる、全身びしょ濡れである。


「でけぇな! それニジマスだろ、60センチくらいあるぞ、もっと大きいか」

「兄様、これニジマスって名前?」

「そうだね、ニジマスだけれども、大きいね。普通はこれくらいだよ?」

 そう両手で大きさを表すクレス、それを見て頷くネネ。それを見ていたコメルリードからもそんくらいだと、それを聞いたネネはにこりと笑みを返し、うんうんと頷く。


「なるほどー、わかりました! これは大きなニジマスです!」

「だにゃ、塩焼きが美味しそうにゃ」

「長めの串を出しますね、ネネ、着替え用意してあるからね」

「はーい、天気もいいので乾くと思います!」

 魚を平岩に乗せクレスの横へとちょこんと座るネネ。魚はピクリとも動かない、気絶しているようである。包丁を持ちそのニジマスを手に取るコメルリード。


「切り身の石焼にするか? あそこに丁度良いのがあるが」

「串焼きがいいにゃ? 塩忘れちゃダメにゃ!」

「そうしようか、頭は落としたほうが、串の長さが足りないです」

「俺はパンを焼いてチーズを乗せるが皆はどうだ。卵があればいいが日持ちしねぇからな」

「ネネは?」

「兄様と同じが良いです」

「パンと目玉焼きだよ」

「それが良いです!」


「卵どうした? 立ち寄った村から出て一週間くらい経ってないか?」

「容器に魔法掛かってますよ、新鮮そのものです」

「便利だな! 俺にも卵くれ」

 ですねと笑いながらコメルリードに卵を渡すクレス。紙包みからパンを取り出し切り分け皆に配るコメルリード。


「ミィは、ニジマスってのだけでいいにゃ! 生と焼いたのをくれにゃ!」

「わかったよ、ミィ」

「遠火でじっくり焼くにゃ! あせったらだめにゃ!」

「わかったわかった、準備するから急くな……この前俺がしくったからか……」

「しかし、魔法って便利だよな、火種がいらねぇもんな」

「奥さんも使えるじゃないですか」

「まぁな、女性は皆使えるな、マジックアイテムもあるし。焚き火にしなくてもいい奴もあるぞ、ガルドナ製だが、うちの村のモンが一人ガルドナに行っているからな、それで似たようなのは作れているからな、各家にあるぞ、宴会の時が便利だな」

「旅に出ると良くわかりますね、容器もマジックアイテムですよ。コメルリードさんが帰る時にひとつ渡しますね」

「お、それ見てまた作るかな、樹脂だなそれ」


「これ、川の主ですかね。随分大きいですが」

「いっぱい居たよ? 小さいのも居た、子供かも」

 そういいつつ、魚をつんつんと突くネネ、ミィもペシペシと魚の頭を叩いている。

「ここらは人が入らないような森の中だしな、離れた所では戦争やってるやつらもいるが」

「ですね、小動物くらいしかみませんね、熊くらいはいそうですが、森が比較的新しい感じですね、若木が多いですよ」

「とは言っても外側はモンスターだらけだけどな、守られてんのか?」

「どうかな、肉食が多いですからね……これ放置していると、こんなに大きくなるものですか?」

「ならないだろ……」

「綺麗な場所だったよ、小さな滝が凄く綺麗だった」

「ネネがそう言うなら良い場所なんだね、ニジマスに適した場所なのかもしれないね」

「後で見に行こうにゃ、ネネはそこで遊んでたからびしょ濡れにゃのかにゃ」

「楽しかったよ、ミィも後で水浴びしよ」

「そうしようにゃ」


「さばいたはいいが、この大きさだと内臓が凄いよな、いるか?」

「いえ、私はちょっと苦手で、そのまま食べる人もいますが」

「いらにゃいにゃ!」

「兄様いらないから私もいらない!」

「いや、いらないって訳じゃないんだけどね。内臓だけで調理してもいいですよ。塩があるから漬けておきますか」

「頭と骨はミィが食べるにゃ!」

「人化した方が良くないかな」

「その時は人化するにゃ、猫のほうが、食が細いにゃ。食べごたえがあるにゃ」

 串を刺し焼き始めクレスはバッグから袋状のチューブを取り出し、ナイフの背でにゅるりとペースト状の物を出し鍋へと落とす、調味料をふりかけ味を調える。

「鳥寄ってきてるがどっちが欲しいんだ?」

「思いっきり内臓のほうの皿を見てるにゃ?」

「やっていいか クレス」

「あげてみてはどうですか?」

「すげぇ来たぞ、おい……綺麗サッパリ全部持っていきやがった。調理する分なくなっちまったぞ」

「ミィの生頭まで持っていかれたにゃ……」

「すまねぇな、一つ残ってるぞ」

「それ焼いてにゃ」


「しかしなぁ、旅に半ば無理やり同伴してみたものの、意外と戦闘ないものだな」

「そんなに無いですよ?」

 ネネがスープをとりわけ皆に配り出す、コンソメのようないい匂いが当りを包む。

「クレスとの手合わせで格段に強くなっている気がするが」

「にゃってるにゃ?」

「あーやっぱそうか、なら良し、意味がある旅だ。後は、酒造りのヒントでもあればいいが、こっちがメインだしな……もう少しなんだがなぁ」

 と言いながら、鍋を隣に移し卵を焼き始めるコメルリード。


「この大陸は、モンスターが避けてくれますね」

「そうなのか? 手当たり次第だぞ」

「モンスターもバカじゃにゃいにゃ、襲う相手を選んでるにゃ。勝てない敵に挑むのは野生にはいにゃい、そういうのは滅んでるにゃ、と思ったけどそうでもにゃいにゃ。数を当てにするモンスターはバカが多いにゃ」

「その分連携などは多彩だよ、バカではないと思うけれど、引き際のわからないモンスターってのがそれだよ。縄張りや巣を守るためじゃないからね」

「そういやそうだな、しかし襲われるが……」

「固体では勝てると思っているにゃ、その差を埋めているのが武器にゃ?」

「なるほど、確かにな」


「ここもほんの一部ですが、襲ってくるのがいますね、避けるもんですけど」

「西にはいっぱい襲ってくるのいたよね、兄様」

 皆の卵を焼き終わりパンの上に乗せる。コメルリードは固焼き、ネネとクレスは半熟、パンの上で黄身を潰しサンドにする。

「だね」

「あそこは節操が無いにゃ、魔法を使えるから遠慮無しに襲うにゃ、あそこはアホにゃ」

「ほう、そうなのか面白そうな土地だな」

「ミィ達は、飽きたからここに戻って来たにゃ」

「いや、ミィ、飽きたからって訳じゃ……」

「そうにゃの? ミィは飽きたにゃ、焼けたにゃ、くれにゃ!」

「じゃあ食べようか、では頂きます」

 各々頂きますと一言いい、ニジマスにかぶりつく。


「もっと大味だと思ったが、こいつは美味いな」

「兄様、美味しいです!」

「だね、ここではこの大きさが普通みたいですね」

「ミィ、骨も食べていい? 柔らかいよ」

「ミィがたべたいにゃ……さっきの鳥達にミィの分持っていかれたにゃ、ミィの身を少しあげるにゃ、骨は頂戴にゃ」

 皿の上に乗った生魚の一切れを見ながら寂しそうにそう答えるミィ。


「はーい、身はいいよ、骨あげる」

「骨と頭貰うにゃ!」

 最後の一切れを食べ、ひょいとコメルリードの隣の石に乗り人化するミィ、石の上で胡坐をかき、皆から手渡された骨を手に取る。

「じゃあ、頂くよ」

 そう言いながらがぶりと頭からかじるミィ。


「東のモンスターってのはどうなんだ?」

「あそこはね、モンスターと戦う人種と、人同士が争う人種に分かれているね。人同士のほうはあれも戦争だね」

「そうだね、東の島国は平和だけれど、モンスター討伐が多かったね」

「だね、島国も面白いね、あそこはモンスターが独特で実に面白かったよ、仲の良くなったのもいるし、なんか色々言い方が違うんだけどね、同じなんだけど産まれ方が違うのさ」


「ヨウマとか、ヨウカイとか、そんな名前だったね、アヤカシとか色々だね。モノノフなんてのも―」

「モノノケだよ」

 間髪いれず訂正するクレス、お互い顔を見合わせにこりと笑う。

「あの国、自然が綺麗だよ。ね、兄様」

「どこの大陸も綺麗だけどね」

「あれだね、島の方は紅葉が見事だったし、桜もだね、自然と建造物が共存している、極自然なんだ。東の大陸もそうだね、西もだけど……ここだけ変、あ、コメの村は違うからね」

「ほう、一度行ってみたいもんだな、俺はこの大陸から出た事はないからな、海までだ」

「あれ、エルフと交流はないのかい?」

「あるが、海の上でだな。あっちは薬草や珍しい果物、こっちは酒、お互い土地には入って無いな。たまに渡ってくるが、すぐ帰るな」


「まぁ、わからなくもないね」

「そうなのか。今度渡ってみるか、酒のヒントあればいいが、むこうの薬酒ってのも気になるからな」

「いつか行けば良いと思う、西にはワーリザード達もいるしね、もちろん東にもいるけど」

「ま、酒造りがあるからな、これでも族長だし」

「モンスターの強さなら西かな、この大陸は弱いほうじゃないかな」

「そうなのか、ドラゴンもいるが? モンスターの方な」

「そうだね、ここではまだみた事はないけれど」


「基本ブラブラしてるだけだしね、私達」

「目的がないってのもな、あ、土産話探しだったか」

「ですね、両親も楽しみにしているし、基本行った事のない土地を歩いている感じですよ」

「ブラブラしているだけでも見るもの得るものは多いもんだよ、目的が無いわけじゃない」

「そういうものか」

「現にネネが綺麗だったと言った滝などがそう、どちらかといえばそっちの目的の方が多いんだ。視点を変えるんだね、ただ歩いているだけじゃ意味が無い、戦いだけが経験じゃないさ」


「なぁ、ミィ」

「なんだい?」

「頭を後ろからかぶりつくのはいいが、こうなんだ、ばくりといかないのか」

「ん、そうか。ちびちびと楽しみながら食べていたんだけど、気になる?」

「まぁ、こっちに魚の視線が来てて気になって仕方が無い程度だが、気になる」

「そりゃすまないね、気になって仕方が無い程度だもんね、食べきるよ」

 フフと笑う二人。


「でな、ネネ」

「ん?」

「着替えるのは良いが、女の子なんだから木陰でも入って着替えたらどうなんだ」

「平気!」

「平気か、気にならないが……ワーリザードだしな、もしかして人前でもこうなのか?」

「まさか、コメルリードさんが好きなんですよ」

 と、ナイフでコメルリードが採って来た果物をむき出すクレス、梨である。


「あ、いや? そうなのか?」

「兄弟、家族とかそんな感じですね」

「あーなるほどな、息子たちとも普通に一緒に温泉に入ってたな」

「何で気に入られたかわからないね、よかったね、コメ」

「さっぱりだな」


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