No.03 ガルドナ王国 その2
厳かな雰囲気のある部屋の中にさほど大きくもない円卓があり、椅子が12。ドラゴンロードが座る背の壁には国旗が垂れ下がり、部屋の四隅には見事なまでの花が活けられている。心地よい匂いが部屋を包む。
天井は高く過度な装飾の類は無く、円卓も椅子もいたってシンプルなものである。円卓中央部にはクリスタルと呼ばれる不思議な輝きを見せる丸い珠が据えつけられている。
その円卓には6人の姿が見える。
ドラゴンロードを初めとし右回りに、親衛隊長のハミルト。その隣に表情を全く変えずに黙々と書面のチェックを行っているゲーツ。いくつかの空席があり、ドラゴンロードの真正面にはローブに身を包み顔を隠した魔法師団隊長のクラウディア、いくつくかの空席があり、鋭い眼光を向け立派な髭を蓄えた老兵の第一師団長のザナード。顔の右側面には大きく抉れたような古傷が縦に額から顎先までくっきりと残っている。その隣には10歳程度のポニーテールの少女が老兵と同じような鋭い眼光を向け腕を組み座している、右頬には白いラインのような物がある。そしてドラゴンロード。
「うむ、他は?」
「ファラは相変わらず治療院で……」
続けようとしたハミルトの言葉を手で遮るドラゴンロード。
「いや、すまん。優先させたい事があるならそれでいい、大した話でもないからな」
「そう伝えてありますよ」
「じゃあ始めるか。で、ゲーツ、使者はどうした?」
「言いたいことだけ言ってとっくに帰りましたよ。今回はさっさと街から出て行きましたね」
「護衛は?」
「傭兵四名で、特に動きは無いですね、新しいタイプの傭兵のほうです。銃をぶら下げていましたね」
「で、また月光石か、ここの特産でもないんだがな。自分達の領土で賄えないのか、流通させる気なんて全く無いが」
「それもそうですが、モヒドって国をご存知ですか」
「あぁ、自称王国って話だろ? そもそも何処にあるんだ、誰に聞いてもあるとしか知らないんだが、それもなぜか自称王国なんだよな。王国でいいと思うが……あそこ辺りの小国郡の話なんだろうな」
「おそらくそうですね、私も知りません。その自称国を国として認めろと言ってきましたが、なんでもこの国から追い出された人々だとか、それをメアリタが保護してきたと」
「え、何? お前達が追い出したのを俺達が養ってんだ、金よこせか?」
「まぁそうですね、少し違いますが。簡単に言いますと、国と認めないなら金か月光石をよこせですよ、書面読みますか?」
書面をテーブルにトンと揃えるように置き右手で軽く書面を叩くゲーツ。
「何だそれ、無駄に多い書類だな」
「だらだらともっともらしい事を並び立てていますが、そんな事です。月光石も独占するなと突然湧いた話ですよ、国交も何も無いのに何がしたいのかさっぱりですね」
腕を組んでいた老兵が腕を解き、自慢の髭を撫でながらおもむろに口が開かれる。
「わざわざ遠い所からご足労ですな、それどころか戦争吹っかけられてますけどな」
書面をハミルトに手渡し、そこからドラゴンロードへと手渡されるが、そのままハミルトへとまた手渡されゲーツの元へと返って来る。
「書面はいい、ゲーツがそう判断したらならそのままだ、話にならん。独占も何もそこらにあるだろ、どんな言いがかりだ。国も認めるも何も勝手に作ればいいだろ。何がしたいんだ?」
「本当にそうですね、意図が全く読めません」
「そもそも追い出したというが、あいつらは勝手に入り込んできた人種だぞ。まるでここの民みたいだった言い方をするなよな。また武力行使で戦おっぱじめるのか?」
「まぁ、そう言うことです。要求する月光石と金額が論外な数字です、難癖どころの話ではないです、一言で言うと頭がおかしいってやつですね。何も筋が通ってません」
「もしかして、国交していると思っているのか?」
「まさか! 一度も首を縦に振ったこともないですよ」
「だよな……本当に何がしたいんだ、それともまた何か兵器開発したのか、懲りないな」
「毎年毎年、ご苦労な事です、もしかして開戦ネタが尽きてきたのでは?」
ため息まじりのゲーツが書面を読み返しながらそう答える。
「今までのそれ全部ただの難癖じゃねぇか……それに保護と言ってもあの人種を追い出したのは百年以上前だぞ、メアリタ百年も経っていないだろ」
「確か90年ほどですね、記録では追い出したのは150年前ほどです」
「90年なのか、50年ほどかと思っていた。いつの間にか出来ていた国だったな、ザナード」
「ワシは知らんぞ、生まれてもいない。そもそもそんな国はここに来てから知りましたからな」
「そう言うのは記録してないですね、過去の戦争もそうですね、残っていませんが」
「いるか? 国交もしてないしいらないだろ。まぁいいか、あそこらへんの小国も消えては出てくるしな、その内のひとつだ。ガルドナは最初の使者が来てから注視しているからな。また進みが遅くなるな……」
「ワシの国も戦争で滅んだしな、そのおかげで今ここにいますがな」
「とは言っても元々からある国同士が併合する形が多いですね、離れてはくっつくです」
背もたれにより掛かるゲーツ、腕を組み、そうドラゴンロードに語りかける。
「国としては新しいけど文化などは長いですね」
「ま、そうだな、あそこらへんは元々は一つの国だった、ガルドナと同じ道を進んでいたが解体したな。それがベースとなっている国々だからな、文化などはそのまま継がれているのが救いだな、あそこらへん似たり寄ったりだがへんなのがメアリタだけだが、それもそこらの小国郡辺りに入り込んで文化が壊れ始めているな。魔法文化の魔の字もない」
「メアリタは単独で這い上がってきた国でもあるが、外は国っぽいが全く国として機能していない、なんだあの国、子供が統治した方がマシだぞ」
「完全に軍事力だけに視点を置いてますね、最初の頃はお互いの技術交換なんて話もありましたけど、全く要らないですからね」
「いらん、あんなものゴミだ、本当にゴミだからな、なんて使い方してんだよ」
「ですね、ガルドナでは考えられない事ですが」
「あちらさんはマジックアイテムの技術が欲しいようですな」
「適当なの渡しただろ、使えないし作れないけどな、術式が仕込んであるからな。あいつらの技術では全く理解できない代物だ。あの合金も無理だぞ、今頃捨てられて綺麗に風化しているだろ、一年の期限付きだ、バカの国に残せるか」
「それで納得して持ち帰りましたからね。国交を通したとしても、与える一方でこちらに意味も得るものもないですからね」
「ない、むしろあいつらの作るご自慢のゴミばかり送られる事なる、処分が面倒だ。あっちは対等かそれ以上と思っているようだがな。奴隷を連れてくるバカの国も存在してたしな」
「色々と技術を見せ付けるために持ってはきますが、見事どれもこれも死んでいますね、あんな合金製法自体おかしいのですが」
「アレでは資源が減る一方だ。見事なまでに見せ掛けだけだな、ある意味凄い技術だけどな」
「まぁ、凄いんですかね、どれもこれも魔法で終わってしまう話ですけど」
「だからある意味だ、魔法無しで作る技術がある、が、その犠牲が資源だ。いずれは枯渇し止る技術なのは先方も解かっているがそれしか出来ねぇ、資源は何処からでも湧き出ると思っているのか?」
「さてな、ワシらには理解できない考えですからな。どうもあっちこっちと奪っているようですがな」
「奪っていると言えば奪っているんだろうな、戦争の流れはまだ大さっぱにしか見ていないからな」
「どくさくさに紛れて国を丸め込んでいるようにも見えますな」
「英雄譚をまず捨てているからな、魔法が何かすら解かってない」
「魔法には興味があるようで」
「魔法の破壊力に興味があるだけだ、魔法ではない、だから技術をと言って来る。魔法を魔法と思っていない、そんなやつらが魔力なんてものの存在を知り得ることは無い」
「お前達に質問しよう、魔力とはなんだ、説明出来るか」
「……いえ、こう魔法を行使出来る力とは思われているみたいですが、違いますから」
「じゃな術式も魔力の一つとも言えるが……説明できる言葉が無い」
「命そのものともいえますからね……それもまた違います」
「そう、説明出来ない、魔法や魔力とは便宜上使っているだけだからな、表現のしようがない。自分で感じ取るというのも違う、内から溢れる力とも違う、ただ表現が出来ないからといって理解していないって訳ではない、理解しているから表現出来ない」
「そんなもの、こうだと決め付けるあいつらに到底理解できない、自分達もその魔力を持っているのにな」
「だからあんなものを平気で作るのでしょう、この紙は違うようですが」
ゲーツがメアリタから送られた書面を軽くパンと叩く。
「他国のじゃないか、小国辺りの紙だぞ、魔力を乗せて書いて見ろ、乗るぞ」
そう言われ羽根ペンでメアリタからの書面の隅に落書きをするゲーツ、それを眺めるハミルト。「かわいい猫ですね」と小さくゲーツに話しかける。「うちの子猫です、産まれたてでかわいいですよ」と答えるゲーツ。
「若干ですが、ただの文字にすぐ変りますね」
「解かって作っているわけじゃないんだろ、だが間違っていない。劣化しないじゃなく劣化しにくい紙ってところだ。メアリタから変な技術が入るとその製法消えそうだな、生産効率はメアリタの方がいいだろうからな」
「まぁそこはいい、話にならんと断ったら今度は武力行使だ、追い払っても追い払ってもしつこい」
「ですな、この四年で何度でしたか」
ちょっと待ってくださいと残し軍事記録をペラペラとめくり出すゲーツ。
「……五度ですね、最初はドラゴンロード一人が三度、ザナード、ハミルトです」
「軍の数は回を追う毎に減っていますね、おおよそ五千、六千、四千、三千、最後が二千ですね、そのかわり武器が回を追う毎に強くなっています、が、意味は無いですね」
「軍事技術の進化は目まぐるしく進んでいますな、たしかメアリタの軍は最初だけだったですな」
「だな、一人残らず全滅させたがな、あいつら武器もなにもかも使い捨てやがるから掃除が大変なんだよ、ガルドナの平野に入って汚すなよな」
「あいつらの通ってきた道が良くわかりますな、普通残さないものですが」
「一番安全なルートというよりも彼らが唯一通れるルートはあそこだけです、あそこはモンスターの縄張りが安定していますからね、と言うか普通に旅人も通る道ですよ?」
「あの武器限定な戦いからだからな、襲われるところでは打つ手なしじゃからな、しかし自国だけでやってもらいたいもんですな」
「メアリタのあそこ一帯は汚染区域だからな、周りの森も数年持つか、もたねぇな、海も酷い事になってるしな」
「結構深刻ですね、風が運んできませんか?」
「それはないな、何年か前くらいからあそこはほぼ無風状態だ。あそこで停滞している」
「海や川などは?」
「一部だけで広がっていない、そこは安心しろ。雨も運ばねぇしモンスターも寄り付かない。強いて言うなら出入りしている商人達がどうかだが、小国方面だからな」
「風が吹かないんですか?」
「吹かないな、いや吹いているがあの中だけだな。リーリア神国くらい大きな国だしな。あいつら気づいてすらいないと思うが、そこより外には流れない。無風状態になる前に水のドラゴンが言うには大きな爆発があったって話だ。それからだな、意図的にそうなっているとしか言えないと言っていた」
「老師は大丈夫なんですか」
「ん、それは問題無い。近いといっても結構離れているしな、あいつらの足だとかなり遠いってほどだ」
「あー、近隣の村がいくつか巻き込まれたというやつですな」
「いい村だったんだがな……跡地へ行ってみたが酷いもんだ、そこが特に魔力が壊れいている、研究施設が村にあったようでもないしな」
「あえて聞きませんが、生々しくいうから」
「見たままそのまま言っているだけだけどな」
「まぁワシも遠慮しておく」
「小国の連中はどうだ、あいつらにも言ってんだろ、国を認めろだとか月光石がどうとか」
「ご存知のとおり、まだ戦争していますね、それが答えです」
「何でもかんでも金で根こそぎ毟り取ろうとするからだ、だから争いが起こる」
「あれも長いですな、奴等の外交の基本は金から恫喝に、それでダメなら軍事力を背景に好き放題が基本ですからな。それで交渉上手だと思ってますな」
「今では矛先が変わり始めていますね」
「メアリタから仕掛けた戦争なんだがな、ガルドナよりもあっちが先だしな、長いな」
「そのせいで金の段階で転ぶ国が多いようです、国の買収と言った所ですか」
「そうなるでしょうね、娯楽なども提供しているようなので友好的とも言えますよ?」
「あくまでも商人や冒険者の話ですな、税はかなりきついという話もあるようで、それももう戦争区域から離れていますからな、かなり前の話になりますな」
「こちらの国には全く意味が無いですが、同じように圧力を掛けてきますね」
「まぁ、そうだな、こちらから仕掛ける事もしなければ、相手にもしていないからな。ましてやあいつらの大好きな弱みがないからな、あれしか出来ないんだろ」
「リーリア神国には手を出しませんね、ガルドナを跨ぐ形になるからでしょうか」
「いや、出している、最近だが小国の教会の神官が一人殺されている。大神官を筆頭に徹底的にメアリタの連中をその国から排除した。それに死体を一箇所に集めて野晒しだな。リーリアの教会が襲われた、それだけで近隣の国を完全に敵に回してしまったからな。今はリーリアが面倒を見ているが、戦火が他に飛び散ったな」
「彼らもタダでさえ飛び回っているんですけど、余計に体が休まらないのでは?」
「弱ったな、どっちも学ばないな……戦いは好まないが売られた喧嘩は全力で買うからな。こっちは刺激して無駄に戦火を広げて田や畑を荒野にするわけにもいかないだろ、民は守れてもまだそこまでは手が回りにくい。奴等はそう言うところから手を付けるからな。もう少しなんだがな、いや大丈夫か、仕掛けても外街だから守り切れるな」
「また作り直せばいいって言う話ではないですからね。手を出さない、ではなくて手を出せないと思っているのではないですか? だから調子に乗っていると思いますが」
「それもある、まぁそれと文化レベルという奴だな。あいつらから見れば俺達の生活は水準が低いと思っていると思うぞ。使者が偵察しないわけが無いと思うが、後でロレントに聞いてみるか、あいつらうろうろとは街中回っていたからな、何か調べているはずだ」
「装備と言えば鎧や近接武器が多いですからな、大掛かりなものもないですし」
「だろ、魔力がないものとしてみると解かる、ただの剣や鎧、飛び道具は弓だしな、マジックアイテムもあいつらからみれば玩具だな」
「知らないって怖いですね」
「まぁな、しかし戦争で派手に見せ付けたんだがな、隠れて見ていた奴はいるんだが、メアリタじゃなかったようだしな、小国あたりかもな」
「皆殺しにするからですよ、一人残して帰せばば良かったかと」
少し困惑そうな顔でそう付け加えるゲーツ、それを聞いたハミルトが言葉をつなげる。
「二度目以降は、見事傭兵ばかりです、完全に引き篭りましたね」
「ものの見事ですね、傭兵も情報は持ち帰っているはずですが」
「無力化しているだけだからな、あいつらは雇われただけだしな。ま、いい。近々破壊者が現れる、基本放置だ」
無表情のままドラゴンロードに顔を向けるゲーツ。
「現れるのですか?」
「滅ぼされる国は、決まって何かしらの鉱石を必要以上に集める傾向にある」
「英雄譚では外道な国が滅ぼされていますが、鉱石もそうなんですか?」
「まぁ、そうだな。滅ぶ国は、時代ごとに違うが鉱石から同じような兵器を作り出す。おそらく今回はその月光石だ、まだ決まったわけではないがほぼ間違いない」
「英雄譚では、そんな国は侵略した所から全てを奪い取るからな、解かり難い」
「あぁそうだ、ゲーツ。最初に渡したマジックアイテムに月光石を扱ったものはあったか?」
「え、少し待ってください。確か無いと思いますが」
慌てて円卓に詰まれた資料から該当するものを取り出し調べるゲーツ。抜き取ったさいに崩れた資料をまた積みなおすハミルト。
「いえ、ないですね、合金技術の基本的なものばかりです、鉄鉱石類ですね」
「だよな、気になったのでな、ゴルドの爺さんに月光石から何が出来るか調べて貰っている。おおよそ検討は付くが、そこは専門家だからな、詳細が知りたい」
「今日来るはずだが、新しいマジックアイテムの試作品を見せたいと言ってたからな」
「だから皆を集めたんですな」
「ゴルドさんが、直接来るのですか?」
「いや、いつものように弟子だろ。そもそも弟子がそのマジックアイテムを開発したと言ってたしな。爺さんは、闘技場周りの建築設計に忙しいからな、楽しそうだったぞ。今度行く時は酒をたんまり持っていかないとな」
「一応その席は、その弟子の席で空けておいたのだが……リナリザ、楽しいか、こんな話」
「全然わかんない!」
しかめっ面で睨んでいた少女の顔が緩み笑顔となり、大きな声でそう答える。隣のザナードの様子を真似していただけのようである。
「だよな、今日はどうしたんだ?」
「お母さんのお手伝いしに来た」
「そうか、お母さんは何しているんだ?」
「みんなのケーキ作ってる!」
「うむ、円卓でお手伝いか、頬についているのは何かと思ったが生地か」
「付いてるの? じぃじ」
「ついとるな」
ハンカチで頬に付いた生地を拭う少女、取れた? とザナードに投げかける、こくりと頷くザナード。
「いや、すまんな、孫がどうしても座ってみたいと言うものでな」
隣の少女の頭を撫でるザナード。それに答えるように、にこにこと笑みを返す。
「かまわんさ、座り心地はいいからな、別に問題は無い。問題なのはケーキのほうだ、ショートケーキか?」
「ううん、チーズケーキとアップルパイ! みんなで作っているよ」
「いいね! グッドだ、楽しみだな。酒も……」
「ダメですよ、一応は会議中なのですから」
「お堅いなぁ、ザナードも飲むだろ?」
「いや、ワシは孫の前では飲まん」
「あの……ドラゴンロード、破壊者の件ですが、現れるのは本当ですか?」
「勇者現れているだろ?」
「今朝、英雄譚聞いてきましたが、まだ報告がないのですが」
「あれ、まだなのか? マスタードラゴンからそう聞いたけどな、言っちゃまずかったか?」
「そうでもないのでは? 英雄譚に記録されますから、遅かれ早かれですよ」
「勇者! 勇者に会えるの?」
「んー、この街に来たら会えるかもな、来たら一緒に遊んで貰うといいぞ」
「お母さんに言ってもいい?」
「もちろん、いいぞ」
その言葉を聞き、嬉々と椅子から飛び降り部屋を飛び出す少女、閉まりかける扉の外からおかーさんと大きな声が聞こえる。
それを見つめる一同、扉が静かに閉まりゲーツの口から重く言葉が出される。
「破壊者が現れると確定したみたいですが、間違いないので」
「間違いない、現れる。メアリタを事前に俺が潰してしまえば現れないがな」
「メアリタなのですか? 奴隷国家でも外道でもないですが、欲深いと言えばそうですが」
「表向きは、だろ? んー言って良いのか、良いか。内情を調べている奴がいる、報告によれば相当下衆だぞ」
「詳しく言うか?」
「いえ、いいです、そんな国は英雄譚で十分です」
「同じ輩じゃろ」
「そう、同じだな、ただあいつらは内輪だけで今は済んでいる。自国でやっている分には何も問題はない。が、もうすぐ箍が外れる、だから勇者が現れる。自制が利かなくなる頃合なんだろう」
「おそらくこの数年で、あの国は豹変する。滅亡した国と同じ末路が待っている」
「豹変ですか、英雄譚では滅んだ国は元からそのような国ですが、メアリタが?」
「本質は変わらない、回を追う毎に姿を変えているからな。今では表立っては解からないだけだ。来年ってことは無いな、二年後かもしれないし、二十年後かもしれない、あいつら次第だ」
「千年前は、世界全土がそんな国だ。そして滅んだ」
「英雄譚の冒頭ですね」
「うむ、俺はそれからこの大陸にいるが、一度目の勇者でこの大陸の半分以上が下衆な国だ」
顎に手を置き、うんうんとうなずいていたゲーツが慌てる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」
「なんだ? ゲーツ」
「ドラゴンロードは、三百年じゃないんですか?」
「またその話か。ドラゴンロードとしては三百年だが、俺はそもそもドラゴンだ」
「……では、七英雄の一人という事ですか?」
「そうなるな」
「知りませんでした」
「言ってないし、言う必要もない。七英雄だろうがドラゴンロードであろうがやる事はかわらねぇんだ。どう呼ぼうと勝手だが、七英雄がどうとかはどうでもいい。魔法を教えるのに意味がある」
「俺の話はどうでもいい、長くなる。二度目だ、これもおおよそ半分近い。二度目と三度目の間だ、この時にガルドナ王国が建国されている」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」
「またか、ゲーツ」
「ガルドナの歴史は三百年です。それ以前の記録は無いですが、二度目と三度目の間となると、四百年ほど前の話です」
「無い、全て俺が消し飛ばしたからな」
「元あったガルドナと言うのは外道な国だ、軍事力を背景に好き放題暴れていたクズ国家。民を民とも思わず家畜のように扱い、死ねば他国から奪い取り、はむかえば殺す」
「同じような外道な国と常に戦争だ。敵国はガルドナとは違い、今のメアリタに近い。銃火器と呼ばれる代物で競い合うように領土を拡張していた時代だ」
驚きの表情を出したままのゲーツに代わり、ハミルトが口を開く。
「大戦乱時代ですか?」
「そう、野を焼き村を焼き森を焼き、野は焦土となり、水や空気は汚れ、常に大陸に黒い煙が舞い上がる。街や村には死体が溢れ葬ってやることも出来ず、死体の山のまま放置だ。死臭が臭わない所なんてあるとかというそんな時代だ、戦争に参加してない所などないほどだ、リーリア神国ですら戦争やっていた時代だ、そっちは防衛だがな」
意外といった表情を顔に出すザナードがドラゴンロードに目線を軽く送った後、ハミルトの方を向く。
「ハミルト、そこらの英雄譚はまだ見ていないのか、そのままじゃぞ」
「えぇ、お祖父ちゃんにまだ早いかもと言えわれてるので、ザナードさんは見たのですか?」
「ワシは見たぞ、今言ったとおり。そのままだぞ、今の戦争なんてもんは随分かわいらいいものじゃしな」
「もう見てもいいだろ、吐くなよ。ま、そんな大戦乱時代に勇者が現れた。当時の俺は間違いなく滅ぶのはガルドナと敵国だと思っていたが、滅んだのは敵国のみだ」
「何故です? 例外なくそのような国は破壊者……あぁ、三人目の時代ですね」
「そう、破壊者が現れない英雄譚だ」
「ガルドナは外道ではあったが魔法文化だった、敵国はメアリタのような文化だ。どちらも戦争で殺し合い自然を破壊していたが、決定的に違ったのは敵国の方だ」
「今のメアリタ周辺と同じですか、汚染ですよね」
「だな、それは公害汚染と言われるものだ。とある兵器を造る過程で生まれる汚染、規模が小さいが武器に転用したのもある。そもそもあいつらの作るものは、大なり小なり必ず汚染が絡む」
「今もこつこつと作っているが、その先にあるのは生きる全てが汚染され破壊される、そういう兵器だ。人体も魔力も破壊する。人が人として産まれてこない、人どころか動物や自然も何もかもだ。時代によって違うが鉱石から作り出される。圧倒的な力を持つぞ、自滅もするけどな」
「何かしらを生み出す鉱石を集めだす国が間違いなく滅ぶ、それを作るのに試行錯誤しているからな、副産物で出来るものは兵器に転用しているからな」
「何かしらですか? 漠然としていますね」
「そらそうだ、結果は同じなんだが、時代によって鉱石が違う。赤炎石、緑光鉱石、石氷柱などだな。今では取れてねぇな、ある場所にはあるがな」
「出来上がる兵器も名前が違うからな、だから漠然としかいい様がない。それを使うと全土に死の灰が舞い、死の雨を降せ、台地を汚し、水を汚染させるとそう言うものだとしか言えなくなる。海は荒れ大地は裂ける、陽の光なんてものは入らなくなる、常に灰雲暗雲が立ち込める。降る雨の魔力も汚い。その兵器を例えるなら破壊の炎とかそんな感じだ。生物組織を破壊する兵器と言えばいいか。木々や草も含まれる。魔力の循環も一気に崩れるからな」
「自然は循環させて綺麗にしますから、そうなりますね。三番目はそういう国が滅んだから現れないのは解かりますが、リーリアでは破壊者は現れたとなっていますが、公ではありませんが」
「いや、現れては無いさ、英雄譚だけが真実だ。ハッキリしないから公には言ってないだろ。そこは俺がまだ火のドラゴンで火山にいた時に大神官が確認してきているけどな、どこから出ている話だ、それ。リーリアはリーリアで調べるからな、何かとかぶってんじゃなのか」
「英雄譚では勇者が絡んでない話でも破壊者の出現は記録されている。現れていないのは、現れる前に滅んだからな。そこで勇者の記録はパタリと途切れている、だから三番目は勇者だけしか記録されていない」
「破壊者のように徹底して何もかもが消え去った、とは言っても下衆な奴等だけという意味だがな。その兵器を作り出す技術や下衆な民これらが一切消えた、おそらく少しでも魔力が汚い民も消えている」
「破壊者と違う点は、奴隷や囲われていた人間などは救われている、それが小国連中だ。多くの敵国を失い、ガルドナは大陸一の大国となった」
「それから百年ほど栄華を極め贅に身を委ね、頻度は少ないが略奪戦争を繰り返す」
「国の中身は下衆の極みだ、娯楽で公開処刑なんて朝飯前だ。そして最後の王の王子が俺だった。民を率いて反旗を翻し小国と供にガルドナを潰したのが、おおよそ三百年前だ」
「ドラゴンロード、王子だったんですか?」
「下衆王の子だぞ、そんなのはどうでもいい、俺であって俺でないからな」
「王が討たれ、軍も中枢も全て壊されガルドナは崩壊。共闘した小国も戦争で疲弊し国を立て直すのに必死。俺が旗印だったもんで王に祭り上げられ、国を新生させてたんだが、似たような国が出来上がる。必ず貴族を作り、格差社会を作り出す。そしてそれを壊そうとする俺は毒で殺されかけた」
「とんでもないですね、外道は外道にしかならないのですか」
「そうだな、そして当時の俺は、火のドラゴンの知恵を借りた」
「それであの伝説ですかな、なるほどですな」
「それは間違いだ、誰が残した伝説だ。さっきハミルトから聞いてビックリしたぞ。そもそも返り血ってなんだ……あ、その返り血って多分俺の吐血だ。だな、あいつ来た時真っ白な綺麗な服着てたしな、ありゃ死に装束だったのか? そこらの記憶が曖昧だな、要らない部分だからな」
何かを思い出すように宙を見るドラゴンロード。まぁいいかと小さく零れる。
「一体どういう伝説が残っているんだ?」
こほんと一つ咳払いをするゲーツ。
「それでは説明を―」
片手を挙げてゲーツの話を止めるドラゴンロード。
「いや、すまん、今はいい後で聞こう。そっちの方へ話が流れてしまう。ドラゴンと一体化といったら良いのか、俺でありドラゴンだ」
ゲーツが、ん?といった顔で首を傾げる。
「二人いるのですか?」
「またかよ! ドラゴンが俺で、俺がドラゴンだ、どちらも俺だ。当時も散々説明したんだが、というか俺が火のドラゴンだ、極端に言うとあいつはおまけだ」
「意味が解かりませんですな」
「くそ、どう説明したら良い。魔力そのものが絡んでいる術式だからな、魔力を説明しろと言われているのと同じだぞ。ドラゴンロードでいいじゃねぇか、今の俺が俺だ」
「そうですね」
「強いて言うなら、二人いるがあいつの個人と言うものは存在しないだ。二人いるがそもそもおかしいんだ、個別と認識してしまうからな」
「個別で分かれてないが、二人いるという事ですかな」
「いる、いるが個人はないぞ?」
「なんとなくでいいんですよね」
「そう取るしかないからな、説明しやすいものが浮かんだら説明する」
「でな、あれだ、そんな感じで国へ戻った俺は、徹底的にぶっ潰したって訳だ。火のドラゴンも滅ぼすつもりだったしな、あれは似非とはいえ魔法文化だからな、ドラゴン側の話になる」
「徹底してですか」
「いつもの戦場平野に文化らしいものなんて何一つ残ってないだろ、徹底は徹底だ。あそこが前ガルドナの跡地だ」
「……もしかして、あの広がる平原全てですか」
「そうだ、今のガルドナは今と比べようも無い位の規模まで縮小化した、国ともいえないほどにな。この国の始まりが記録されているのはそこからだ」
「確かに国ではないですね、村、小さな農村からですが、ええとたしか百人いるかいないかでしたね、ちょっと待ってください」
そういいつつ資料に手を伸ばすゲーツ。
「いやいいぞ、それくらいだしな、ま、集まっては自分で立てないやつらは国から出て行った」
「しかし大戦乱時代は続いている。モンスターが身を潜め始めたのが、三度目の下衆国家が滅んだ頃からだが、人間だけは何処もかしこも戦争だ。呆れたぞ、モンスターの脅威がなくなったから余計に戦火が広がった、疲弊していた小国までもがやりだしたからな、もうアホだぞ」
「モンスターが急激に増えた理由は、その身を潜めたのが?」
「そう、ついでに魔法も使うようにもなった、前ガルドナとリーリア神国が派手に使っていたからな」
「200年前から年代が残っているだろ?」
「そうですね」
「その頃位にまた外道な国が露見してきた、国の基盤が出来ているかのように、ある時期から急激に拡大していった、何国だったかな……おぼえてねぇな、リーリアとガルドナから随分はなれたからな、正直どうもいいしな。南側だ」
「そして四人目の勇者が現れ、現在に至るわけですか」
「四人目は見事破壊者が現れたけどな、都市を丸ごと覆うようなでっけぇやつだ。思わずマスタードラゴンと見学しに行ったくらいだ。勇者達に一番派手にぶっ殺されていたな」
「仲いいんですね」
「そりゃな、ドラゴン達とは仲はいいぞ? 俺後継者じゃなく火のドラゴンだからな? 昔のままだぞ」
「あぁ、そうでした、もう、紛らわしいですね」
「英雄譚にもきっちり残っていますな、汚泥の破壊者のようだが、泥としか言いようがないですな」
「そうですね、今の話もそうですが、このまま記録した方がいいですか?」
「別に構わないが、隠す必要は何処にもない、今のガルドナとは違うからな」
「……別国ですね」
「だろ、だから残していなし、話してもいない。記録し始めた頃は戦争やら建て直しで忙しかった、年代は二百年前からで納得しておけ、俺も覚えてはいない。話したらお前達ヘコむかなと思っていただけだ、魔法文化の考え方になっているから話しただけだしな」
「今の国の雛形が出来たのが200年前だからな、そこからでも良いくらいだ」
「そうですね、で、ドラゴンロード」
「なんだ、ハミルト」
「何故、国名を変えなかったのです? 紛らわしいじゃないですか」
「名前考えるの面倒だからじゃダメなのか? 名前ではなく中身が重要だが」
「知らなければなんとも思わないですが、良い話ではなかったもので」
「今のガルドナは前ガルドナとは全く違う、気にするな。聞かなかったことにでもしろ」
「無理ですよ!」
「そりゃそうか、まぁ実際はドラゴンと一緒になる前の俺は、前ガルドナを教訓にしたかったんだよな。だからあえてガルドナ王国と名乗っていたが、火のドラゴンにアホだなって言われたな」
「ドラゴンが正しいですね」
「ややこしいですな、二人が一人になると」
「同一人物なのに視点が違うと、こうも面倒な感じになるんですね。かと言って分けてしまうと意味がないですね」
「まぁそうだな、火のドラゴンのほうが長生きだからな。王子の方はたった20数年だからな、薄くて薄っぺらい。一緒になってドラゴンロードとしては300年だがな」
「薄いんだよな……王子の時の名前忘れちゃったし、それに王子もいずれ消えてなくなる」
「随分ですな!」
「それが約束だからな、強いて言うなら契約の一種だな、かなり限定的な術式だ。水に一滴の毒ならまだしも、水を入れたところで変らん。火のドラゴンの名前はある、あくまでもそっちがメインだからな、教えないがな」
「解毒しなかったんですね」
「無理だ、あれはもう死の直前でよく来られたものだと驚いたくらいだ。死を受け入れてしまっているし、毒が隅々まで行き渡っていたからな、解毒に時間がかかる。それまでには死ぬ、死の直前だ、性質の悪い毒だぞ。相当時間掛けて毒で侵したんだな。誰が見ても毒で死んだようには見えない結果になる」
「自分で解毒も出来ないんですな」
「上辺魔法だからな、知識がないからアウトだ。体験して気付いたころにはその様だっただけだぞ」
「なるほど体がそもそも出来ていないんですね」
「だな、来るのが早ければ解毒くらいならしてやりたいくらい綺麗な魔力だったからな。魔法を叩き込んで王子自ら立ち上げればよかったんだよ。間違いなく今のガルドナになってたと思うがな、来るのが遅いんだよ。どいつもこいつも後に引けなくなってから来やがる、そこまでこじらせてから来る奴等ばかりだ。自分の出来る事の許容を超えてかき回すかららそうなる」
「考える奴はそうなってから、考えない奴は飛びついてくる、にっちもさっちもいかないですな」
「その間が無いですね、どうしてそう極端なんだか」
「いえ、その間が今ガルドナにいる方々ですよ」
「だな、王子は毒を盛られてやっと目が覚めたんだろ、歩き出すのが遅すぎた。訪れた時には死にかけだ、だから一つ提案があると出した、それに乗ったのが王子だ」
「いずれ王子だった頃の記憶は消える、俺には不要だからな、今はまだ民を救いたいそれだけが残っている。そしてまだそれは続いている、やっと地盤が出来た所だ。だから元ガルドナの話だ。だから王という形を取っているんだ、これは王子の意味が大きい」
「その姿はどちらのもので?」
「ドラゴンのほうだ、というかだな、ビックリするくらいそっくりだ。生き別れの双子の弟かと思うくらいにな。そんな弟なんていないけどな。ドラゴンの姿だが……顎髭がなぁ……なぜか顎髭だけが生えなくなった!」
「そっちはいいか、ドラゴンの姿で会っていたが、人間の姿に戻った時に王子も驚いていたな。今のこの姿のままだし。違うのは顎鬚が無いそれだけだ、生えなくなってしまった、それが悲しい」
「似合いませんよ」
と、ハルミト、そうじゃなとザナード。ゲーツとドラゴンロードの目線が合い、こくりと頷くゲーツ。
「くぅ、ドラゴン達にも昔散々言われた。似合っているはずなんだけどな……」
「渋い顔立ちではあるが……似合わないですな」
「そうですね、似合わないかと思いますね。普通の髭も似合いませんよ?」
「くぅ、ゲーツまで」
「まぁいい、もう生えてこないしな。奴が拒んだのかもしれないな、あいつも死に際に似合ってないって言ってたしな……姿も同じ、毒も完全に癒え、高度な魔法を使い、王子にない知識が備わって帰ってきた……となれば、まぁあの間違った伝説が生まれるのも解らなくもないな……」
「当時の民は王子そのものだと思いますね」
「散々説明したんだけどな、ピンと来ないみたいだったな。完全に理解の外だ」
「なかなか無理ですよ」
「ま、そんなわけだ、今のガルドナと別物だ。始めた民は前ガルドナの民だけどな」
「ですな、前ガルドナから継がれている国ではないし、ただ名前が同じなだけですな。王子でもなくドラゴンロードですからな」
「あの国から受け継ぐものなんてものは皆無だ。そこはリーリア神国も理解している、当時俺が説明しにいったんだからな。残された民がガルドナでいいって話になったってのもあるが。それよりも俺の間違った話だが、皆俺がドラゴンだと認識している?」
「火のドラゴンそのものではないですが、継承者って意味でドラゴンとは思っていますが」
「ならいいか、そこはどうでもいいしな。返り血なんて違うからな、意気投合しただけで倒したとか違うからな」
「解かりましたって。明日には皆知ってると思いますが、話してもいいですよね」
「いい、何も問題は無いが、むしろ話すがいい。公開した途端皆内容見に来るがな」
「で、おそらく次に来る使者は宣戦布告だろう。それ以後は使者すら来なくなるぞ」
「どういう事ですか?」
「箍が外れると言っただろ、好き放題暴れだすようになる、欲しいものはご自慢の銃火器で奪い取る、武力を用いての侵略戦争が始まる」
「事が上手く行かないから武力ですか、お粗末過ぎますね」
「全く同じ歴史を繰り返す、次の戦は俺が出る」
「ジョルドがへこみますよ」
「じゃあジョルドメインでいい、何かしらの兵器が少しマズイかもしれないからな」
「マズイ?」
「人体の組織破壊するような兵器じゃねぇかと踏んでいる、恐らく広範囲で対処が難しいから俺が出ようと思っているが、ジョルドも出したほうがいいか? 俺はどっちでもいいぞ」
「いえ、さすがに諦めるかと」
「フォローはするけどな、ファラも……治療は無理そうだな。プリエラも想定外過ぎて出来るかどうか微妙だな、あればかりは見てからでないと組めそうにないな……どうすっかな、ま、そこはゴルドに爺さんから聞いてきてからだな。大丈夫だと思うが間違いなく後手になる」
「これは今回見学が多そうですね」
「そうなるといいな」
「第一兵団は各所の外街に配置させたほうが良いですかな」
「ん、そうだな、それは次の戦争後だな。問答無用でお構いなく来る。数は十人ほどでバラけて、魔法師団も数人連れて外街に駐在しておけばいい」
「最初に襲い出すのが小さな街や村だからな、拠点にしてこちらに直接攻め込むと思うが。村人でも対処出来るが問題は数だな。さすがに畑を守りながらで、広範囲魔法となるときついからな、手助けするといい。派遣されている傭兵は減ったがあの国の人口は増えまくっているからな、蓄えているとも考えられるからな」
「人口だけは多いですからな、あの国は」
「しかし第二も第三もないのに、まだ第一なのか、ザナード」
「名残ですな、縮小化は順調ですからな」
「民の底上げが順調に来ているからな、奴等ご自慢の武器も魔法の前では無力だ」
「月光石の採掘場が狙われるって事は?」
「ガルドナの真後ろだが、来ても俺が出る。が、出なくてもドワーフにボコボコにされるだろ。まわりもモンスターの生息地だしな。そもそも仮に制圧出来たとしても、どうしようもない」
「正直無くても別にいいですからね、彼等の兵の補充も無理ですね。そもそもあそこに駐留している人なんてのもいませんし……意味無いですね」
「運び出すのも掘り出すのも見過ごすわけないですしな」
「それもそうですね」
「制圧したから俺の物なんて言い出しそうだが、運び出すにしてもガルドナを避けるならモンスターの巣を突っ切るしか無いし、ガルドナを通すわけもない」
「そんな話になればワシらが今度制圧するだけになりますな」
「そちらの心配は無いようですね」
「自然なんて誰のものでもないのですがな、独占欲とは面倒なものですな」
「数があるからな、それを知っているのに枯渇させるバカだぞ。普通に冒険者も素材取りに入ってるんだがな、そっちから流れていないよな」
「流れませんね、携帯用の夜灯光としてガルドナでマジックアイテムにしているくらいですが他者には渡しませんね。術式が仕込んである以上他には流用出来ないです、そもそもそう言う人には採掘させませんよ」
「それも若干の魔法を使える人達ですので、流れるってこともないですね」
「だよな、そんなに数も出ないしな、何でガルドナに拘るんだろうな」
「ほら、だから独占がどうとかって書面読みます?」
「いや、いい、そうだったな、あいつら数なんて知らないからな、たんまりあると思っているだけだったな、こっちはドワーフとガルドナで枯渇保護してるだけなんだがな」
「しかし戦争となると、また彼等の行軍中にモンスターに襲われそうですが」
「まぁ、そうなるだろうな。いつもの平原なら襲われないが、村近辺は生息地だからな。それで終われば楽なんだがな」
「心配もすることもねぇが、まるでどこぞの子供の喧嘩だ。回を追う毎に国の質が劣化している」
「ですな、勝てない相手に躍起になっていますし、纏まりも戦略も戦術も政治的駆け引きも何も無いですからな、金を出せばなんでも手に入る、思うように行かなければ力でねじ伏せる、はた迷惑すぎますな」
「戦争も子供が新しい玩具を振り回しているようにしか見えませんね」
「あぁ、武器の性能だけは上がっていますね、それに頼るからずさんになるんですね」
「どの時代の戦争好きはそういうもんだ、下衆の国としてのピークは大戦乱時代だな。今回は酷すぎる、放置しても自滅するんじゃないのか、ある意味あいつらが破壊者を滅ぼす形だろ」
「ドラゴンロード、ガルドナはどこまで縮小化する予定ですか?」
「近衛兵とか、親衛隊とかいらないと思うが、守るものは民であって王ではない。守る側が守られる形は変だと思うが……そもそも、いつの間に出来たんだ?」
「さて、ワシが来た頃にはあったようですが」
「多分……うちのお祖父ちゃんだと思います。その前から基盤みたいなのはあったみたいですが」
「確かにあったが……あぁ言い出したのは確かにハミルトの爺さんだな。ならいいか、多分意味が違うな」
「名前だけですな、召集するのに便利ですからな」
「あぁそれだけのためか、あの頃誰も通せなかったもんな。形だけだから今までどおりで良いな、今の規模でいいか。皆やりたい事を優先しているのだろうな」
「それはもちろんですけど」
「仮に魔法文化に切り替わったとしても、こちらの国が停滞しないかぎり何手も先だからな、実際戦争にもならない」
「停滞はしないでしょうね」
「まぁそうありたいな、お前達は大丈夫だが他は世代が変わると人はどうなるか解からないからな、決め付けない方がいい」
「小国との小競り合いの様子が知りたい、試験的に今回の戦争に持ち出す試作兵器を使っているかもしれん」
「ジョルドかな?」
「そうだな、あの手の兵器に詳しいですからな。戦地行ってももう大丈夫じゃろ」
「じゃあ、ジョルドで。暇な時でいいぞ、無いと思うが。話はそんなもんか、お開きで良いか?」
「お弟子さんがまだですよ!」
「あ、そうだった、そっちがメインだ。来ないおかげでどうでもいい話が長くなった」
「いや、結構重要じゃろ」
「うー、公開未公開分けが面倒です」
「思いつきで喋ってますから……大変そうですね」
「まぁ、好きでやっているからいいですけどね、ことが終れば全公開になりますから」
「約束の時間は過ぎているが、酒場で飲んでいるか?」
「あ、そうかもですね」
「あ!」
「どうしました」
「チーズケーキもまだだ。いや、まず連れてくる、多分ダリアの所だろ」
「そうしてください」
何も無い空間に手をかざすドラゴンロード、炎がぼっと燃え上がり光り輝くような赤い空間が目の前に突如として現れる、まるで炎のようなその中に何の迷いもなく歩み入る。姿が消え、その空間も消える。
ゲーツはクリスタルの前で頭を悩ませ、ローブを羽織った人物は微動だにしない。
ハミルトとザナードがそれを見届け、口を開く。
「ハミルト、ゲートは組めるようになったか?」
「いえ、まだですね」
「だな、経験が足りないな、ワシ達は」
「ですね、経験もそうですが何が足りないのか解からないですね」
「そうだな、そろそろ使えてもおかしくないらしいが、使えん」
「まぁ、拘らなくても問題は無いですけどね、それにドラゴンもまだ三箇所ですから」
「闇は棄てられた森だと聞いたが、会いに行ったか?」
「森には行きましたが、入り口で止めました」
「何故だ?」
「いや、ちょっと語るのもいやな悪魔がいたので、日を改めてからと」
「そうか……そんなヒドイのか?」
「噂以上ですよ、冒険者が好んで入るんですよね、素材や鉱石に魅力があるといえばそうですけど」
「……どんなのだ?」
「入ってそれ見てすぐ出ましたから……行ってみればいいじゃないですか、ザナードさんもまだでしょ?」
「いや、ワシはなぁ。噂以上なんだろ?」
「悪魔は下劣極まりないし臭いですが、お勧めもあります。あそこの街のアイスはガルドナよりも美味しいですよ、濃厚って感じですか。ミルクがいいんですね」
「ちょくちょく商人の護衛で付き添うのは、それが目当てか」
「いえ、ン……まぁ少しは」
「大半がそれだろ、まぁワシもあそこ女将のところのピザとやらは好きでよく行くが、あれはトーストの上もいいかもな、いや、あの生地が美味い。ガルドナ風のピザもいいかもしれんな、今度聞いてみるか」
「でしょ?」
「あそこ近くの村のパンプキンパイも美味しいですよ、素朴な村ですが立ち寄ってみてはどうですか、村人の為の小さな酒場ですけど、集会所の意味が強いですね。オニオンスープもいいですよ」
と、クリスタルから目を離さずゲーツが付け加える。
「クラウディアは、ゲートどうなんだ?」
終始同じ姿勢で会議に出ているローブを羽織った人物にそう問いかけるザナード。
「……」
返事はなく、ただ一点を眺めて何かを考えているようにも見える、ザナードが言葉を続ける。
「魔法師団の配置に頭を悩ませているのか?」
返事はなく、ザナードがちいさく頷く。
「しかし魔法師団というのも名残だが、勘違いされそうだな」
ゲーツが何かを書きとめた紙をトンと机で揃え、クラウディアに視線を向けた後ザナードに話しかける。
「そうですね、魔法が使える人と使えない人がいると勘違いされそうですね、そういう意味ではないのですが、クラウディア団にしますか」
「それと寝ていますよ、始まる前から」
そう言われローブで隠れている顔を覗きこむ。
「本当だ、ぐっすりではないか、すこしヨダレが垂れとるな」
「朝方までマジックアイテムを作っていたと、そう言いながらそのポーズで寝始めましたよ」
「だからローブで顔を隠しているのか、しっぽはゆらゆら揺れているぞ、無理して出なくていいのにな」
「ですね、女性の寝顔をじろじろと見るものではないですよ、ザナードさん」
そうザナードの肩を叩くハミルト。
「あ、そうだな、この椅子気持ちいからな」
突如、先ほどの赤い空間が現れ、ドラゴンロードの半身が現れる。
「だめだー!」
「どうしたました」
「弟子じゃなくて、ゴルドの爺さん来てた。ほら、熟睡だ」
そう羽交い絞めのように運ばれきた老人を皆に見せる、身長は140センチほどだがずんぐりむっくりといった表現が似合う体躯ではある、その全てが鋼のような筋肉に覆われている。
太い足太い腕太い首、白髪でオールバック、耳は太くやや尖っている、長い髭には焦げたような縮れた部分も見える。自分の背丈よりも大きなバッグを片手に握ってまるで離そうとはしない。
ドワーフと言われる種族である。そして顔が赤い、元々ではなく完全に酔っているのである。
「これはまた随分幸せそうに寝ていますね」
「だろ、ザナードみたいだな」
「ワシは、ここまでじゃないぞ……そうなのか?」
「これ以上に、顔がゆるくなりますよ」
ハハッだなと言葉を発しながら靴を脱がせ、ゴルドの爺さんを円卓の上にそっと寝かせるドラゴンロード。
「何故、円卓の上で寝かせるのですか?」
「面白いかなと思って」
「ベッド出してあげませんか」
「そうか、起きた時の反応が見たかったんだが、酔いが覚めても寝てそうだな」
そう答え、活花の下に手をかざしベッドを生成するドラゴンロード。ザナードが小さく相変わらず見事ですなと言葉が漏れ出す。
「随分乙女チックなベッドですね」
と、ハミルト。クラウディアを除き皆、生成するその様子に見惚れているようである、ゴルドの爺さんを抱えそっとそのベッドに寝かせる。
寝ているゴルドを4人が覗き込む。
「ギャップが凄いですな……しかしこれは当分起きないと思うが」
「だな、クラウディアも一緒に寝かせるか? 寝てんだろ、寝るなら横にならねぇとな」
「寝ぼけて噛み付かれますよ、寝起き悪いんですから」
「まぁ確かにな、俺も起こされるのは嫌いだしな、このままでいいか」
扉に二度のノックがあり、ゆっくりと扉を開く女性の陰から少女が飛び出る、手には大皿の上に乗せられたアップルパイがある。
「みんなーアップルパイとチーズケーキ!」
「お、ナイスタイミングだ」
「リナリザ、お母さん達はどうしたのですか?」
そう問うハミルトがリナリザから大皿を受け取りテーブルへと置く、女性が引いてきた台車からナイフを持ち出し切り分け始める。
「お料理場で食べるって」
「そうなのか、エリナ」
「後片付けもあるし」
そう答える少女、年の頃は14。髪は長いが後ろで束ねてあり、束ねられた毛先がちょろりと垂れ下がっている。白い布が頭を覆っておりエプロン姿である。
「呼んでくるといい、皆で食べた方が美味しいぞ、片付けは皆でだ」
「はーい! 私呼んで来る!」
走り出すリナリザ、エリナはそれを目で追いかけた後、飲み物の用意をしだし、それを各場所へと配るザナードとドラゴンロード。
クライディアのフードがピクリと揺れる。
「……ん? アップルパイの匂い?」
「クラウディア起きたか、チーズケーキもあるぞ」
「ミルクティが欲しい」
そう言いながらぐぐっと背を伸ばすクラウディア、尻尾がピンとなる。
「それもあるぞ」
「じゃぁ、食べる……その前に顔洗ってくる、眠い……」
手を口にあて欠伸をし、そういい残し部屋をあとにする。入れ違いで母親達が自分達のケーキを持ち込み各椅子へと座りだす。各自、前の座っていた場所とは違う所へと座りだすが、どうやらハミルトだけはドラゴンロードの左隣が定位置のようである。
サラダもあるわよとお尻で扉を開きリナリザの母が部屋に入り、テーブルの中央にサラダを置きあいている場所へと座る。そうこうしているうちにクラウディアが戻り、空いていたドラゴンロードが座っていた場所へと腰を下ろすと同時に、ぐぅとひとつ大きな寝息がゴルドの爺さんから発せられる。
「では」
「頂きます」
各々、会話しだし、皆の為に作っていたのではなく料理教室だったようであることがわかる。中には不恰好なものもあるが味は十分に美味しい。
食と会話を楽しみながらクラディアの口が開く。
「ん、食べてから始めるの?」
「もう終ったぞ?」
「……寝てたんだけど」
「ぐっすりだったな、気持ちよさそうにしっぽも揺れていたからな、起こしてないぞ」
「うー、ゲーツ後で記録見せて」
「えぇ、まだ纏めてませんが」
「それでいいわ」
「時にドラゴンロード」
「なんだ、ハミルト」
「他の国の会議も、この様な感じなのですか?」
「全く違う、元老院やら、議会やら、国会やら国によって言い方は違うが、やっていることは同じだ。国のトップが組織化している。そいつらが集まり会議をする、まぁそこでも喧嘩してるけどな。チーズケーキなんて食べない。大半が民を無視してそれらで国策、国事やら政策、法律などなどだな」
「うまくいくんですか?」
「いってないだろ」
「ですよね」