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流転  作者: 股旅
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No.00 銀髪の少女

 心地よい風が吹き抜ける大通り、綺麗に敷かれた石畳の上を多くの人々が歩き語い、そして笑う。路上では吟遊詩人が歌を歌い、その歌が行き交う民の歩みを止め、人々がその歌声を聞き語らう。大通りに面する店や民家の前には、露天商のような簡素な店も所々に店を構えている。

 その大通りの中を、物珍しそうに歩く少女に声をかける一人の大男の姿がある。


「よ、嬢ちゃん、果物なんてどうだい?」


 そう少女を呼び止める男の姿は、顎鬚を蓄えた非常にがっしりとした体躯の男である。看板が掲げられている店の前に露天を構える主人のようだ。


「色々あるが、どれも文句無しに美味いぞ」


 店主の前に、箱わけされた多種の果物が所狭しと並べられている。


「どうだ? こっちはリーリアのだ、ここらはリーベル、後はガルドナの果物だ。美味そうだろ」


 そう呼び止められた少女の背には大きな背負いバッグ、そのバッグの上に綺麗に丸められた毛布の中心部を挿すように細身の長剣が包まれ、毛布はベルトで止められている。

 齢は15か、16か、小さく整えたような眉に、髪は癖の強いくりくりとしたクセ毛のベリィショート。非常に整った顔立ちだが幼顔で愛嬌のある顔立ちである。


 そして銀髪。


 少女の足元に張り付くように白い猫が少女に付き添っている。全身が白く綺麗だが、頭には部分的に赤い毛並みがラインを引く。


「んー、どうしようかな、これ何?」

 と、赤い果物を指差す少女の手の甲は下である。


「ん? リンゴだ、リーベル村の特産だが……知らないのか? 嬢ちゃん」

「リンゴ……美味しいの?」

「ん? あぁ、蜜が多く含んでいて美味い、この大陸では珍しい果物でもないんだが……これはリーベル産で極めて美味い」


 だってと足元の猫に話しかける少女、白い猫がにゃあとひと鳴きし少女のバッグの上に飛び乗る。

 そのやりとりを見ていた店主が、そうだと小さく口から零れ落ち、大きな体躯には似合わない器用さでリンゴを切り分け皮を剥き始める。


「おじさん、ここで銀髪の男の人、見たことある?」

 リンゴの皮を剥いていた手が止まり少女の顔を見上げる。


「んーいや、見た事がないな。ここと言うか、この大陸で銀髪は珍しいぞ」

「……銀髪の女性じゃあないのか?」

「ううん、男」

「そっか、じゃ知らないな。すまないな、嬢ちゃん」


 再びりんごの皮を剥き始める店主、皿の上にはウサギを型取ったリンゴが並べられてゆく。少女はその並べられたリンゴに興味津々で目が釘付けになっている。猫もまたそれを眺めるようにじっと見入っている。


「なんだ? 人探しでここに来たのか?」

「うん」と、即答の少女。

「半年くらい前に別れちゃった」

「へぇ、このご時勢よくある事だが大変だな。しかしだな、この街に来たのは間違いだったかもな」


 小さい眉を寄せ何故といった表情を店主に向ける。白い猫が少女の耳元で小さくにゃあと鳴く、少女は白い猫の喉元を撫でる。


「さっきも言ったがこの大陸で銀髪は珍しい…と言うか全く居ないぞ。街に入ってくればそれだけで噂になるし、ここに来るまで物珍しそうな顔を向けられなかったか?」


 ふるふると頭を横に小さく振る少女、リンゴうさぎから全く目を離さない。


「え? あれ? そうなのか? このタイミングで騒がれないってどうなんだ……」


 店主が小さく物珍しそうには見ているが……と、行き交う通行人の様子を見て小さく漏らす。

 リンゴ二つを切り分け皮を剥き終わり、皿に丁寧に並べだす店主。


「これがリンゴだ、蜜が凄いだろ、食べてみな、美味いぞ」


 リンゴが並べられた皿を少女の前に差し出し、少女はそれに手を伸ばすが、店主はそれを引き戻す。小さい眉をひそめ頬を膨らませる少女が店主を睨みつけるが、迫力が無くどちらかと言えば愛嬌のある表情になっている。


「ちょっと待った。いや、意地悪ってわけじゃねぇんだ、ちょと聞きたい事があってだな。俺はこの果物屋の店主でもあるが、この後ろにある酒場兼宿屋の主人でな」


 親指を突き出し、後ろの宿屋を肩越しに指差す店主。ちょっと待ってなと言い残し宿の扉を開き嫁を呼び出しているようだ。少女はその隙に瞬く間にリンゴを頬張る。


「んー、おいひっ」


 口一杯のリンゴをシャクシャクと食べる少女、大きな背負いバッグに乗った猫はなにやら呆れた顔をしているようだ。


「……うむ、美味いだろ」


 と、肩をすくめながら少女に笑顔を向ける店主。

 果物屋のすぐ横にある宿屋の扉から、お腹の大きな女性がふぅと一息つきながら現れ、店主に視線を向ける。歳は若い、二十代前半だと思われる。店主はすまないな、ちょっと頼むとその婦人の肩にぽんと手を置く。

 やれやれと言った顔で旦那の背を見送り、腰に両手を置き少女の顔を珍しそうな視線で食い入り、にこりと笑い―


「面倒だと思うけど、ちょっと話に付き合ってあげてね」

 と、少女の頭を撫でる婦人、続けて―


「後でお礼に、お昼ご飯でもご馳走してあげるから食べていくといいさ」

 少女に一言残し笑顔を向け座席へと座る。

 少女は膨らんだお腹に目を配りながら店主の後に続き宿屋へと入る。そこには8つのテーブルがあり奥にはカウンター席。カウンター席を正面に後ろ左半分にはグラスや酒類が陳列されている。カウンター右側に調理場へと繋がる出入り口があり、後ろ右半分は料理が出されるスペースがある。向かってカウンター左隣には2階へと続く階段があり、おそらくはその先が宿部屋なのだろう。入り口の横には長テーブルが置いてあり、夜にはそこに果物が並べられるだろうと思われる木箱が並んでいる。そして光は入っているもののほんの少し薄暗い。


「で、だ。嬢ちゃん、聞きたい事があるんだ」


 と、カウンター手前テーブルの椅子にどかりと座り、テーブルに右腕を置き前のめりに座る店主、左手は少女を優しく椅子に座るように促している。

 少女は少し困ったような表情を浮かべ、きょろきょろと周囲を見渡し、店主の顔をじっと見つめる。

 店主は何かを察したように、奥から店員を呼び何か飲み物を用意するように言い渡す。腰まである大きく編みこんだ三つ編みの店員がひょこりとカウンターに顔を出す、年の頃は20歳くらいのようだ。


「いや、心配するなって、別に取って食うわけじゃないさ。言っただろ聞きたいことがあるんだって、ま、座りな」


 やさしく手を椅子に差し伸べる。

 少女は背負いバッグを床に卸そうとすると、猫がにゃっと鳴き肩に飛び乗るが、少女は猫を捕まえ背負いバッグの上に猫を乗せ椅子に座る。きょろきょろと店内を見渡す少女。


「あーまずは自己紹介だな、俺はここの宿屋の主人でガルベイトって言うんだ」

 で、嬢ちゃんは?と続いて少女に尋ねるガルベイト。


「ネネ」

 と、素っ気無く名前を告げる少女。目線が猫へと移り、猫がそれを丸まりながら見上げる形でネネの様子を覗っている。大きな背負いバッグの上に寝転んでいた猫を抱き上げる。笑顔ではあるが警戒しているようだ。


 ガルベイトは困ったなと言った顔で顎鬚を撫でながらしばらく考えた後に、一言あぁと小さく言葉が零れ出る。ライトと言葉を発すると店内は魔法により明るく照らし出される。

 うんうんと頷く少女、手が緩み猫がするりと抜け出て肩にちょこんと乗る。どうやらこれで話すことが出来そうだなと肩を竦めるガルベイト。

 奥から先ほどの店員が飲み物を運んでくる。テーブルにその飲み物を置きどうぞと一言残しお盆を胸に抱えカウンターの裏へと戻っていった。非常に綺麗な笑顔だった。


「で、どうだい? 俺と話ししてくれるかい?」

 と、腕を組み笑顔でネネに問う。気になる店員が調理場からそっと顔をだし様子を覗っている。


「んーいいよ」

 頂きますと小さく呟き、ストローに口を付けちぅとジュースを飲みだし、リンゴだと一言零し続けておいしいと店主の方に笑顔を向ける。


「そうか、なら良かった。嬢ちゃん、もしかしてリーベルの村からここに来たのかい?」


 と、唐突に話を切り出すガルベイト。ネネは明らかに何言っているだろうという表情を浮かべる。


「リーベルって所か知らないけど、近くの村から来たよ」

 そうかと言いつつガルベイトが少し興奮じみた顔になり続けて尋ねる。


「バジリスクを倒したのは嬢ちゃんだったのか、すげぇなそんなナリであのモンスターを瞬く間にぶっ殺すなんてな」

 興奮したように語りだすガルベイト。


「俺のところで扱っているリンゴは、そこの村から仕入れていてな。昨晩友人がここにリンゴを届けた時にその話を興奮しながら聞かせてくれたんだよ」

「村のリンゴ畑が4割ほど荒らされて、村人も何人か食われたんだろ? 応戦はしていたらしいが、そこで! お前さんが現れてあっという間にバジリスクを倒したって話じゃねぇか!」

 捲し上げるように喋るガルベイト、続けて―

「嬢ちゃんが来てくれなったら、俺の店からリンゴが消えていたよ、友人もだがな」

 と、大きく笑った。ネネは実に不思議な顔をしている。


「何の話?」

 と、ガルベイトに目を合わせ、そう言いつつズズッとリンゴジュースを飲み干すネネ。


「ん?」

 と、目を見開きガルベイトはネネの顔を直視する。


「……何の話?」

 と、ネネはガルベイトに不思議そうな顔で尋ねる、すこし困惑するガルベイト。


「ん? いやだから、嬢ちゃんがリーベルを救った話しなんだが……違うのか?」

 顎鬚を右手で撫でる。

「いや……確かに銀髪で細身の剣を振るうって聞いたんだが……あれ?」

 と、階段の方へ目線を送る。


「んー? 村で大きなトカゲを倒したけど、そんな村人が食べられたとか無かったよ?」

 と、ネネは空になったグラスの中のストローをくるくると回す、猫がそれに反応すようにそれを見つめる。


「何か話が噛み合ってないが……嬢ちゃん、ここから南西にあるリーベルと言ってもアレか……村から来たんだよな」


「……うん」

 ネネは少し間をを開け、軽く首を傾げるようにそう答える。


「大きなトカゲ、それバジリスクって言うんだけど……倒したんだよな」

「うん、大きなトカゲ倒したよ。村長さんに晩御飯ご馳走になった、凄く美味しかった」

 と、何かを思い出したように、ほっこりとした笑顔になるネネだが少し涎が垂れている。


「どういうこった?」

 と、ぼそりと小さくこぼした時に、ふしゅっという音が猫から聞こえ、ガルベイトは猫の方に視線を向ける。なにか笑っているようにも見える。

 しばらく考え込むガルベイト。リンゴおいしいなーのみたいなーとネネの呟きを聞いてガルベイトは店員にジュースを持ってくるようにカウンター奥に向かって話し、奥からはーいと明るい声で返事が返ってくる。


「うむ、そうか、意味が解らん。ちと質問だが……ワーウルフって種族の村がリーベルの村なんだが、それで合ってるよな?」

「ワーウルフ? んー? わんこ達そんな名前だったかなぁ」

 首をかしげ思い出すように天井あたりを見つめるネネ、そして猫に向かってどうだったかなぁと頭を撫でながら語りかける。


「わんこってお前……袋叩きにあうぞ。お前それ本人達に言ってないだろうな」

 顰め面になると同時に階段のほうへと目線を送り大きくため息を付くガルベイト。


「仕方がないな、このままじゃ仕事にならん……嬢ちゃん今から友人を連れて来るが、間違ってもそいつの前でわんこなんて言うんじゃないぞ?」

 席を立ち階段を駆け上がり奥へと消えて行く、調理場から店員がリンゴジュースをお盆に乗せ運んでくる。


「ネネちゃんだっけ? 私リーネって言うのよろしくね」

 三つ編みの店員がジュースをネネの前にトンと置き、そしてどうぞと一言置いて同じテーブルの椅子に座り両手で頬杖をつき、ネネをじっと見つめるリーネ。


「ありがとー、よろしくね、リーネ」

 と、軽くリーネの方を向きにこりと笑い、グラスを両手で持ってジュースをちぅと飲みだす。猫もそれを飲みたいように肩の上からそれを見つめている。

 その様子をじっと見つめるリーネ、顔が緩み、はぁと吐息が漏れる。

―……何この子……かわいい。なでなでしたい!―

 ほんの少し静かな時間が流れる、それを破るかのように二階から声が聞こえる、少々荒立ったような声をガルベイトがなだめる様に会話をしながら階段を降りてくる様子が見える。


「さっき寝たばかりで悪いがよ。どうにもなぁ、話しが噛みあわねぇんだ、だから頼む」

 と、階段上に居る人物に顔を向けながら手すりを擦るように降りてくる。


「あー眠いッ、夜までには帰りてぇから仮眠取ってたっつーのによ」

 階段上から聞こえてくる声は荒々しいが、怒っているわけではなさそうだ。


「つか、そもそも興奮して夜通し語っていたのはお前だろ……お前に付き合わされて俺なんか寝てねぇんだぞ」

「商売しているからだろ、寝たい時に寝りゃいい」

 呆れ顔を前に向きなおし、ネネの方へ軽く手をあげるガルベイト。


「嬢ちゃん、こいつがワーウルフのガルムって奴だが見覚えとかあるか?」

 階段を降り終え、ネネの方へ向かいながらガルムの方へ手を差し伸べる。


 じっと見つめるネネ、ぼけっとしているが何かを考えているようでもある。猫もそれに習いじっとガルムを見つめる。

 ガルムが頭をボリボリと掻きながら、ネネの方をジッと見つめながら歩いてくる。青く綺麗な毛並みで所々に色分けのように白い毛もあるワーウルフである。

 頭は狼、体の部分は人間に近いがかなり絞られた体躯をしており、手は人よりも大きめで爪は短く鋭い、脚は人間のそれとは違い狼に近いが、筋肉のみで出来ているように絞られた様だ。

 胸の部分は体毛が無く大胸筋がギチっと詰め込まれている。下半身は膝まであるハーフパンツでベルト部分は荒縄で結ばれており、如何にも寝起きそのままじゃない?って感じだ。

 その男から一言ぽろりと言葉が零れ出る。


「誰だ?」


 ぼそっとネネに一言言い残し、ガルベイトに向かって「誰?」と聞き直すガルム。

 ガルベイトはガルムの方を向き、ネネの方へと向きなおす。ストローを咥えたまま、ふるふると首を振るネネがちぅとジュースを飲む、少し迷惑そうに小さな眉を寄せている。


「え、あ? なんだ? この嬢ちゃんじゃねぇの? 銀髪で細身の剣持ってんぞ? バジリスク倒したって嬢ちゃんも言っていたしそうだと思ったんだが」

「あーいや、知らねぇ、この嬢ちゃんじゃねぇ」

 ネネの目をじっと見つめるガルム、上目遣いでネネもガルムの目を見つめる。


「……嬢ちゃん名前は? 俺はガルムってんだ」

 と、椅子を引きながらネネに尋ねる。ストローから口を離し―


「ネネ」

 ガルムの目を見て、にこりと笑いそう言葉を渡した後、ストローを咥えてちぅとジュースを飲みだす。ガルムとガルベイトが椅子に座りガルベイトが興奮気味でガルムに―


「銀髪で戦士っていやぁ、この国にいねぇぞ? しかも嬢ちゃんバジリスク倒して……」

 ガルムは右手をそっと上げガルベイトの言葉を遮る。


「まぁ、なんだその辺は後で話してもらうとしてリーネ、取り合えず酒をくれ。こいつの払いでな」

 にやりと牙を見せ付けるように笑いながら、言葉を遮っていた手の親指をくいっとガルベイトに突き立てる。


「どういう事だ、嬢ちゃんがそうじゃねぇのか……」

「まぁ俺の話を聞け、昨日は興奮して詳細には話さなかったが、嬢ちゃ……じゃねぇネネだな、俺が話した勇者は彼女じゃねぇよ」

 と、両手を広げ脚を組み、頭を横に振るガルム。


「まずなぁ、勇者の名前はジオネェルって若い女だ、間違ってもネネじゃねぇ」

「ちょっと待て、お前そんな事一言も言ってねぇぞ」

「あの圧倒的な剣技と、魔法に驚かせられたからな、名前は問題じゃねぇ」

 大きく笑いあの興奮は、今でも思い出すとガルベイトに笑みを向ける。


 酒をガルムに手渡すリーネが、ネネの隣の席に座り、リンゴをむき出す。受け取った酒を飲もうと木のジョッキに口を付けようとするが、ガルベイトがそれを押さえる。


「まてまて、すぐ酔うくせに酒豪だからな、飲む前に話せ。飲んだらまた昨日と同じ事しか喋らねぇかもしれねぇからな」

「お前から聞いた話は銀髪、細身の剣で後はどう倒したか、友人がどうなったか、勇者と大宴会したとかばかりだったな。というか事後の大宴会の話ばっかじゃねぇか。しかもこっちの聞きたい事も言わねぇし」


 トンとジョッキをテーブルの上に置き、まぁ長くなるがと前置きをし腕を組み語りだす。

「さっきも言ったが名前はジオネェルだ、何故かジオネールというと怒る」

 俺はどっちでもかわらねぇと思うけどなと笑う。


「そして銀髪で長髪だ、髪は腰まである長さだな。まぁ俺はワーウルフだから他種族の美醜ってのは解らねぇが、その時来ていた人間の商人の話しでは、かなりの美女らしい」

「体に合ったぴたりとした白銀のフルプレートだったな、ヘルムはしていなかった。ありゃ動きやすそうな鎧だな」

「獲物は、嬢ちゃんみたいな細身の剣だ。あの切れ味といったら、この世のものとはとても思えねぇ。バジリスクの鱗が、バターでも斬るかのようにスパーンだ」


「あっと言う間にスパーンだ」


「わかった、わかった。二度言わなくていい、昨日もそればっかじゃねぇか」

「剣技を使ったとしても、あの切れ味は説明のしようがねぇ。魔法もそうだ、使ったのは治癒魔法だが、体が真っ二つに噛み千切られて死に掛けていた俺のダチが元に戻ったんだぜ。大陸一の魔法国家であるこの国でも聞いたことがねぇ、リーリア神国も無理じゃねぇか?」


「でな―「まぁまて、その先はいい。昨日散々聞いたからな」とガルベイトが言葉を遮る。


「今からがいい所なのによぉ、まぁいい、ガルベイト、バジリスクってピンキリなのは知っているな」

 あぁと呟くガルベイト。ネネに目を向けるガルム、その目に入ったのはリーネがネネにリンゴをあーんさせている姿であった。


「ネネは興味なさそうだな」

 と、笑うガルムが極自然に酒を口にしようとするが、ガルベイトがそれを押さえる。


「で、だ、なんだっけ」

 ピンキリだとガルベイト。


「そうそう、昨日言った……か? 言ったよな、ちょっと覚えてねぇが、体長10mになるジャイアントバジリスクだ」

「おい! なんだそれ! お前、昨日バジリスク、バジリスクって言ってたじゃねぇか」

「まぁなんだ、そこはどっちでも良いだろ……ヤバいのは変わらねぇだろ、どっちも猛毒持ちだからな」

「よくねぇ! 全く持って違うだろ! 俺はこれで飯食ってんだ、いい加減な情報の為に昨日アレだけ飲ませたわけじゃねぇぞ」


「細けぇ奴だな……産まれてくる子供がかわいそうだな」

 と笑うガルム。ほっとけとガルベイト。


「簡単に言うとだな、そのジャイアントバジリスクの口元から剣筋を入れて魚の開きのように真っ二つにし、ダチの体の真っ二つをあっという間に治癒してしまったって話だ」

「ありゃ間違いなく、勇者だ。本人は知らねぇ興味ねぇとか言ってたけどな。英雄譚でも、もう語られているんじゃないのか?」

「勇者は1年以上も前から出てるぞ……」

「ありゃそなのか、バッカスの英雄譚ばかりだからな、今度バニーに頼んでみるか」


「話を聞いてから飲ませるんだった……じゃあ嬢ちゃんとは全くの別人だな、嬢ちゃん聞いていたか?」

 ネネに目線を送るガルベイト。口一杯にリンゴを頬張ったネネがリンゴを飲み込み、興味ないと一言こぼしプイと顔を背ける。


「なんだよ……本人から色々聞けると思ったんだけどなぁ、だったら嬢ちゃんは何者だ?」

 と、ネネに問うが、ちらりと視線を送りツーンとワザとらしく言葉を残しリーネに笑顔を向ける。


「ハハハハッ! 嬢ちゃんがダメなら、そこの猫にでも聞けば良いじゃねぇか」

 大笑いしたガルムが、ネネの頭の上に顎を置いた猫に手の甲を下に指差し、猫がちらりと視線を向ける。

「猫に聞いてどうする……」

 と、大きくため息を吐き首を振るガルベイト。


 にやりと猫が笑う。にゃはッと一声上げネネの頭から飛び降り人化する。

 膝裏まで長くかるくウェイブがかった光る白髪に、つむじから前髪の毛先までの部分メッシュのような赤い前髪が中央を流れる、同じくつむじから後ろ髪の先まで同じく赤くラインが入っている特徴的な髪でまつげも白い。

 目つきは鋭いが威圧的なものは感じ取れない、それどころか優しげでもあるように見える。美しい部類に入る人間そのものの顔立ちだが、口元から牙が見え隠れする。

 容姿は人間そのものと言ってよいが、頭には大きめの耳、長い尾。容姿はワーキャットと言われる種族と酷似しているが、ワーキャット特有の大きな胸がなく、ネネのように小ぶりのそれだった。ネネの場合はペタンコに近い。長身で非常に締まった体である。

 シューっと尻尾の根元を軽く握り込み、尻尾の先まで撫でるように滑らすと、声を上げて笑い出す。


「にゃっはは、凄いね、何故わかったのかな? 私の正体なんてそうそう見破れるもんじゃないんだけどね、さすが亜人って言ったところかな」

 と不敵な笑みをガルムに向ける猫。


「いや、あーなんだ……冗談だったんだがな……なんかアレだ、スマン」

 驚いた顔のままガルムが、そう人化した猫に謝る。その横であっけに取られているガルベイトがいる。


「あ、そう」

 と、つまらなそうにそっぽを向く猫、少し頬を赤く染めている。横であーんと口にリンゴを運ばれるネネだが、じと目で猫の顔を覗い目線が合う。


 少し悔しそうな顔をして、平然を装い語りだす。

「まぁなんだ、とりあえずリーネちゃん、私にもそのリンゴ……汁? 持ってきてくれないかな、飲んでみたい、ずっと気になってたんだよね」


 ぼけっと呆けていたガルベイトが思う。

―私のタイプだ……なんだこの背筋に走る感覚、いやだめだ私には愛する嫁と産まれて来る子がいる、しかし美しい―

 ガルベイトが大きく頭を横に振り邪念を払う。


「あーえっと、そうだな、何から聞けばていうか……君はワーキャットなのか? だとしたら獣化なんて魔道士以上になるが……」

「ミィ」

 とだけ答える猫娘、目線は持ってくるリンゴジュースに向けられている。え?と答えるガルベイト、名前ね、と答えるミィ。


「あーうん、ミィさんね、解った。で、先ほどの質問には答えてくれるのか?」

 と、やや真剣な顔で問うガルベイト。リーネがどうぞとリンゴジュースをミィに手渡す。

「いやーありがと、リーネちゃん。んーいい匂いだ、おいしそう」

 と、ストローを咥えながら目線をガルベイトに向かわせる。


「ワーキャットでも魔道士でも大魔導師でもない。そもそも君たちが言うところの魔法使いではないし、言い方がころころ変わるのがそもそもおかしい、黒だの白だの闇だの聖だのと」

「ただ魔法使いではないとだけ言っておくよ、というか私の話は関係ないんじゃないかなぁ」

 と言い、ちぅとジュースを飲み出すミィ。おいしいねとリーネに笑みを向け、それに答えるように笑みを返すリーネ。


「なんだぁ、そのまどうしとかなんとかって俺もはじめて聞いたな」

 手にずっと持っていたジョッキを口元に運びグイっと酒を飲むガルム。


「ああ、そうだ、そうだな、嬢ちゃんか。俺……いや私が嬢ちゃんを勇者と間違えたって話なんだが、嬢ちゃんの話を聞く限り勇者だと思い込んでいたが……」

 お前なんでそんな喋り方してんだよと茶々を入れるガルム。うっさいとガルムの足を軽く蹴るガルベイト。


「ガルムの話を聞く限り全くの別人なんだが、何故ここまで似た寄った話になるんだ? そもそも銀髪だしな……リーリア出身じゃあないよな……」

 にゃはっと一つ笑う。


「この子も大概だけど、あんたはあんたで思い込み激しいね。そして全く似た寄った話でもない」

 ネネ、と小さくネネがミィにそう言葉を渡す。自分の事をネネと言ってくれと言う意味だ。


「はいはい、ネネが銀髪なのは私達では珍しいものでもないし、ましてやリーリア出身でもない。アレは髪を染めているだけだし銀髪ですらない」

 睨むように言い放ち、これ以上この話に踏み込むなと意思表示を二人は感じとる。

 ネネはリンゴを剥いているリーネに、ウサギがいいとぽつりと話しかけている。そうだねーとネネのほうに目を向けるミィ。


「君達は視野が狭い。ここらで銀髪は珍しいが、西の大陸へ行けば腐るほどいる。そう言うことさ」

「ちなみにこの大陸に銀髪がいないのは、リーリア神国のせいでもある」

 と、言葉をつなげ、にゃはっと笑う。


「ほらよ、待っている間、俺のリンゴでも食べな」

 ガルムは皿を滑らせネネに渡す。ネネは目を輝かせガルムを見つめ、ありがとうと言葉を贈る。

 その様子をミィは目で追いながら―

「えっと、ごめん。ガルベルドだっけ?」


「ベイトだ、ガルベイト」

「そうそう、ガルベイト君。ネネに大トカゲを討伐した時の村長の名前を聞いてみるといい」

 そのままネネに同じ質問をするガルベイト。モーリスと答えるネネ。続けて美味しかったなー、晩御飯。と、にこりと笑い何かを思い出したようにたりっと涎が垂れそうになる。


「モーリスって、ワードッグのモーリスか?」

 とガルムが問いながら酒をぐいっと飲む。


「そうだな、北東に1時間も行かない所にある集落だな」

 だから、わんこかとボソッと付け加えるガルベイト、ちらりとガルムに視線を送るが平然としている。


「んでさ、ネネはバジリスクなんて一言も言っていない。ちゃんと大きなトカゲと言っているのを、君が勝手にバジリスクと言っていただけなんだよね」

 と手の甲を下にしガルベイトを指差す。


「いや、でもバジリスクって納得していたようだったが……」

 ネネに視線を向けるがこちらの話を全く聞いていない様子を確認し、そのまま目線をミィに送るガルベイト、目線が合いこくりと頷くミィ。


「まぁそうだね、だって普通のトカゲも、大きなトカゲも、バジリスクも、ドラゴンも、この子……じゃないネネにとって皆トカゲなんだからね」

 にゃはとひとつ笑う。

「噛み合うわけが無い、バジリスクを知らなかったんだ」


「いやいやいや、全然違うだろ。トカゲと言えばトカゲのようなもんだが、バジリスクをトカゲと一緒にしちゃダメだろ」

「だから知らなかったと言っているし、そもそもその大きなトカゲとバジリスクを一緒にしたのは君だけど? 何故、話をすり替えて自分を正当化しているのさ」

「すり替えて……正当化? どういうことだ?」

「解からない? 無自覚だね、出した言葉に責任を持っていない証拠だ。人間社会で言葉というものは影響力が大きい、まずそれを理解していない」


「君が大きなトカゲをバジリスクと言い始め、事を知ると今度はネネにその間違いを押し付けた形になっているのに気がついていない」

「話半分で聞いている人や、考えない人にとってはその言葉に誘導される、そして確認もせずそのまま他人に話すわけだ」


「まぁ、大抵の人間はそうなるよな、ここらじゃバジリスクと大トカゲなんて見間違うわけがねぇからな」

 と、酒を飲み干し追加をリーネに頼むガルム。


「ネネは気にしていないどころか聞いてもいないけどね」

 そう言葉を発しながらネネを頭を撫でるミィ。


「結果どうなるか考えてもみなさい、言い方は悪いが間違えたのは俺じゃないネネが悪いといっているのと同じ事なんだけどね」

「そういうつもりは全く無いが」

「そういうつもりが無くても周りがどう思うかだよ、出した言葉に責任を持っていない証拠だといっているのさ」

「だから最初にも言っている、人間社会に取って言葉の影響力は大きいとも。何も聞いていないんだね、君は。考える事を止めているのかい?」

「いいかい、多くの人間は自分達の都合の良いように解釈し考え、そして決め付ける。それが人間だ」

「いや―「ほら、今頭を過ぎったはずだ、人間すべてとは言っていない、それもまた自分の都合のいいようにだ」

 ガルベイトの言葉に重ねるようにミィが言葉を遮る。


「君はその典型だよね、それが無自覚でまるで当たり前かのようになっている」

「いや、まて。そう言うつもりは全く……無いが、そう言うことなのか」

「君はこのガルドナでも古いタイプだね。出身はガルドナじゃないのかい」

「あぁ、リーリアだが、妻はガルドナだ」

「そこはいいか、話を戻そう。参考までに氷竜だっけ? フロストドラゴンともアイスドラゴンとも言われるドラゴンだね」

「ここらじゃ氷竜だな、近くで一度だけ飛んでいるのを見たな。リーリアに居た時だが」

「別に氷で出来てるわけじゃないけどな、雪山に住んでいるからか?」

 ガルムが付け足すように言葉を繋げる、そして酒の追加をリーネに頼む、ピッチが上がっている様子である。ガルベイトの視線がガルムに向くが特に答えを待っている様子ではないようである。


「ん、それを見た時は、凄く大きなトカゲって言っていたよ」

 おいしそうともねと言いつつ、にゃはっと笑う。

「全くの別物じゃねぇか」

 と、小さくガルベイトの口から洩れ落ちる。


「何か言いたそうだね、無知は罪なんて言いだすのかい?」

「話が進まねぇぞ」


「そっかそっか、そうだね、ガルム君。えっとガルベイト君のおかげで、あの不味いただの大きなトカゲをネネはバジリスクだと認識している」

「どういう事だ?」とガルム。

「さっきこの子も大概だと言ったけど」

 ミィの目を見てネネと呟くネネの眉がきゅっと困っているかのようによる。


「うん、ネネね。ネネはね、基本美味いか不味いか好きか嫌いかで、物事を覚えている残念な頭の子なんだよね。必要かそうでないとも言うね」

「間違っては困るけど、残念とは頭が弱いとか頭が悪いという意味ではない。この子……じゃない、ネネの頭はいい、ちょっと普通じゃないくらいにね」

 ただと付け加え―

「美味しいもの食べたりしている時は、本当にそのまま残念な頭の子なんだけどね……」

 はぁとため息を付くミィがネネを覗き込む。全く持って興味が無い様子でリンゴをしゃくりと食べている。


「まぁ、そこはどうでもいい、そういう事から君―」ガルベイトを先と同じように指差し「のおかげで変な知識を付けちゃった訳なのよ」

「いや、話を戻すか。要するにだ、ワードッグの村にたまたま寄った時に、野菜畑を荒らしている2メートルくらいかな? その大トカゲを食べようと思って退治しただけなんだよね。ワードッグたちは、その大トカゲをなんとか追い払おうとして四苦八苦していたよ」

「そうだな、あいつらの性格では倒そうって考えはねぇな」

 ガルムがミィに目線を合わせ、酒をこくりと飲む。


「ちなみに、2週間前の話だ」

 と付け加えるミィ。


「私達はね、退治した大トカゲのおかげで、ワードッグの人達に随分感謝されてね。晩御飯をご馳走してくれるって話になったんだ」

「その時に、ネネは退治したそのトカゲ料理も頼んでたけどね」

「あんなものどう料理しても不味いだろ……」

 ガルムが表情を顰める。同意するようにガルベイトも頷く。


「うん、不味かった……いい匂いはしてたけど凄く不味かった。だからネネは、そのオオトカゲの事を覚えていたんだ」

「食ったのかよ」

 と大きく笑うガルム。


「そうだね、今思い出してもあの顔は面白かった。食べきったよ、それもそうさ、ネネのためにと頑張って作ってくれた料理だからね、私も食べたけど……尻尾も不味い」

「ネネがおいしくありませんでしたというと、ワードッグたちはそうだろっと笑ってたけどね」


「何がそんなに面白いんだい?」

 店の中に入ってきた妊婦がガルムにそう問う。酒を飲みながら妊婦に目を向け、にかっと笑う。

 ずっとネネを見つめていたリーネが妊婦に駆け寄り―

「義姉さん、大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫」

 笑いながら答える婦人がお腹を優しく撫でる。


「それより遅くなったけど、お昼食べるだろ?」

 婦人が腹を抱えるように立ち、返事をするかのようにネネの腹がくぅと小さく鳴る。

「あれだけリンゴ食ってたのに」

 とガルベイトがボソッと呟く。


「義姉さん、ネネちゃん、クル村の魚料理が忘れられないみたい、ご馳走してあげたらどうかな?」

 リーネがそう喋り終わる前に、ネネが小さく「ネネ」とリーネを見つめそう言葉を送る。リーネが振り向き、にこりと笑みをネネに返す。


「あそこの魚料理と野菜は絶品だからねぇ。そうだねぇ……アンタ、クルから仕入れた魚使うけど構わないよね」

 あぁ構わんと、何やら考えながら、そう小さく答えるガルベイト。


「兄さんが作ったらどうなの?」

 と、リーネ。あーうんと生返事のガルベイト。


「いいさ、いいさ。なにやら考えてるから何言っても無駄さ」

 大抵は空回りだけどねと付け加え、困ったお父さんだねとリーネが婦人の腹を撫で、私も手伝うねとカウンター奥の調理場へと消えてゆく。


「おや? 何を考えているのかなぁ、ガルベイトちゃんは」

 と、ネネと椅子の背もたれの間に滑り込んでネネを抱え込むミィ。


「いや、魚で思い出したんだが、昨日の昼に仕入れであの村に行ったが、そんな話は無かったなぁと思ってな」

「いやいや、さっき言ったじゃないか、2週間前の話だって。さすがにちょっとしたイベント程度の話は2週間もたてば飽きるでしょ、あの人達も」

 野菜でも仕入れていれば話題に出ていたかもね、と付け加える。


「まぁ、そこは別に問題でもなんでもないんだけどね、ちなみに君とネネのやり取りに嘘はないよ」

「どういう事だ? 俺は納得いかねぇんだけど」

 ガルベイトがガルムに目線を送るが、ガルムは俺なんて何のことかさっぱりだという表情を浮かべる。


「まぁネネの性格が解ってないと、全く持って話にならない話なんだけどね」

「そうか、まず俺が嬢ちゃんをガルムの村に現れた勇者なんだと、半信半疑で情報を聞き出そうとして誘ったのは間違いない」

「うん、そうだね、銀髪と細身の剣ってだけじゃあねぇ」

「で、店の中に呼んでリーベルの村から来たのかと確認した。嬢ちゃんはそこから来たと言ったよな」

「そうだね、言っていたね、名前は知らないけどとも言っているけどね」

「まぁ、馬車でリンゴを運んだガルムがこの宿に来たことから、近隣の大都市なんてここしかないから来ても不思議じゃないと勝手に思い込んでベラベラと喋ったわけだが……」

 と目線をネネに向ける。ミィに甘えるように擦り寄っているネネが目に入る。頭を撫でるミィ。


「村人が食われてないという話からおかしな事になったんだよなぁ……ま、大トカゲを勝手に私がバジリスクだとも言ってたがな」

 ため息混じりで言葉を吐き出すガルベイトの顔をじっと見つめるガルム。


「お前、俺なのか私のかはっきりしろよ、ふらふらしてんな。普通でいいじゃねぇか」

「うっさい、で、確認の為にガルムの村、ワーウルフの村から来たのかと確認を取ったわけだ。まぁその時はワーウルフの事をわんこって言ってた事にびっくりしたんだけどな」

 今思えばワードッグだった訳だけどなと笑う。


「そもそも、そんな事でいちいち怒らねぇ、勝手な事を言うな。俺も人の区別はつかん、人間もワードッグとワーウルフくらい見間違うだろ」

 と、ガルムが酒を飲みながらそう答える。


「バジリスクの件と、ただの大トカゲの話は理解したんだが、村の方角だよ。嘘をついてないと言ってたけど矛盾している」

「噓はないな、臭くないしな」

 と、ガルム。

「だろうねーそこだろうねー、だからネネの性格を解ってないとおかしな事になる、にゃはは」


「ネネは興味のある事しか覚えない、それも食に関するものとネネの探している男性の事が頭の中のほとんどを占めている」

「要は、その情報以外はどうでもいいと思っている。だから村の名前とかに頓着しない、そこの村で仕入れた情報は、おいしい物を食べさせてくれた村長達と、不味いただの大きいトカゲの二つしかないんだ」

「あーもう一つあったか、銀髪の男を捜すならリーリアへ行くといいって、村長さんからの情報もだね」


「亜人は村長と言うか族長になるけどな」

「なるほど、ついでに言うなら、曜日とか日数とかにも無頓着。まぁ長く旅をしてると、そこらへんは適当になっちゃう所もあるからね」

 ちなみに2週間前ってのは間違いない、なんなら族長に…あぁそれは別に関係ないかと言葉を添える。

「まぁ致命的なのが、この子が方向音痴だという事と、探し人に対する執着はあるが軽く考えているという点だ。深い事情は話す気は無いけどね」


「いや、たしか半年前に生き別れた人を探してるって言っていた気がするが……軽く考えてるってどういう事だ?」

「そのままの意味だけど?」

「執着はしてるんだろ?」

 とガルム。そだよと答えるミィ。

「大切な人じゃない……のか?」

 ガルベイトが顎鬚を触りながらそうじゃないかといった感じでミィに視線を送る。


「そりゃ大切だよ、ネネの兄さんだからね」

 にゃはと笑うミィを睨みつけるネネが兄様ッと強い口調で訂正を促す。

「うん、まぁ、お兄様だよね」

 兄様ッと、ミィの下顎に頭突きをするネネ、いてっとミィ。


「その兄様を探す為にワードッグの村を出たって訳だ」

 ガルムとガルベイトが、顔を見合わせて何がなんだかといった顔だ。

 ちなみにと、人差し指を立てて言葉を続ける。半年じゃなくて丸一年だけどねとミィは笑う。

 明らかに頓着無いって言っても限度があるだろうという顔でネネを見る二人。全く気にした様子も見せずに残ったリンゴを大事に食べるネネ。


「面白い顔も見られたし、さっさと終わらせよう」

 と、ミィはネネの頭を撫でる、ネネは奥から匂う料理に気を取られ始めている様子である。


「細かく言うのは面倒だから簡単に言うけれど、ネネはここをここから北東に進んだ国のリーリアの首都だと思っている」

 残念な頭の子だよと笑う。

「2週間かけて旅をしたこの都市が、リーリアの首都と思っている。そう思っているのだから、ここがガルドナ王国とも思ってないのさ、確認なんてしない」

「ましてやそこらへんの第一村人に話したら、ここはガルドナ王国です、なんて尋ねないかぎり言わない」

「いや検問があるだろ?」

 とガルベイトが不思議そうな顔でミィに尋ねる。


「いや、お前はここだから分からねぇのかも知れぇが、あれって特定の人間種の人種だけに対してだけ厳しいんだぞ、それすらも今では緩いがな」

 説明を始めるガルムに頷くミィ。あー南の商人が言ってたやつかとガルベイト。


「俺みたいな外から来た奴は、滞在期間と理由を簡単に聞かれるだけで終わる、俺はたまーにしか来ないからだろうな、世間話みたいなもんだぞ」

 ネネは見るからに違うから、もっと緩いだろうけどと付け加える。


「まぁ、この髪だからね、マジマジと見られはしたけれど、すんなりだね、馬車も引いてないしね。入っていいの? いいよで終ってる」

 と、ネネの頭を撫でるミィ。


「だよな、俺も特にねぇぞ」

「確かに……ドラゴンロードの膝元だしな」

「ガルドナ王国に来ているんだから、兵士もわざわざここがガルドナ王国なんて言わないしね、出入り激しいから尚更さ。だから何の疑問も持たずにリーリアの首都と思っている」


「一つ聞きたい、ドラゴンロードってのは?」

「あ? あぁ、知らないのか。四百年生きている不老不死だ。この国を立ち上げて四百年守り続けているな、魔法も教えているぞ」

「あぁ? ドラゴンロードってそんなのか? 強ぇってのは聞いているが」

「なんだよ、お前知らないのか」

「魔法教えてるってのはジェバルに聞いてるぞ、俺と戦いたがっているつーのも聞いた。リンゴで忙しいから、まだ会ってもいねぇ」

「へぇ、ドラゴンロードってそんなのなんだね」


 奥の方から婦人の大きく笑う声が聞こえる。ミーネの何がそんなに面白いの?という声も聞こえてくる。

「ま、食べ物が絡まなければ、元気な子でかわいいんだけどね……少しは村と都市の名前でも覚えてくれれば事情は違ったんだけど」

「…ん? あーそう言う事か、確かに南西だな、村のある場所は……」

 かわいそうな子を見る目でネネに視線を送るガルベイト。


「あーこの件に関しては、そんな目をネネに向けられるのは実に不快だ」

 にゃはと笑う。

「勇者の話は、正確であればあるほど教会で高い値で売れるからね。そりゃ勇者から直接聞く話はまじりっけ無しの本物だものね」

「はっきり言えば、私達は君の意地汚い欲に巻き込まれたんだよ。そんな目でネネを見るんじゃない、汚らわしい」

 鋭くガルベイトを睨みつけ強く言い放つ。


「しかもリンゴで情報を得ようとか、いやそのリンゴも正確に言えば渡してないよね、ネネ食べちゃったけど」

 にゃはと笑う。

「勇者さんの冒険譚いい話でした、で終わらせるつもりだったんじゃないの? 夜にならないとここの酒場も始まらないだろうし。酒場なのかい? 家に見えるけどね」

「貴方は少なくとも情報を商売にしちゃ駄目な人だね。酒場だし、たまたま勇者の話を聞いて教会に持っていってみたら良い金貰ったんじゃない? 味をしめたのかな」


「あぁ、いや、そうつもりじゃ……いや違うな、そうだな確かにそうだ、すまない」

 と深く頭を下げるガルベイト。

「ネネの言葉が少ないのは確かだ、君が最初に村長の名前を確認するか、一昨日の話かどうか確認していたらネネは違うと言っていた、確認する情報はまだまだある。その村にリンゴ園はあったかどうかだ、まだあるよ、言ったほうがいいかい? そもそもリンゴ知らないしね、大宴会していたらリンゴは出ているだろうし……あんたほんと色々酷いね、んーもう少し言おうか?」


「いや、もういい、十分だ」

「ハハハ、そりゃ出してんぞ、自慢のリンゴだからな!」


「それでも納得しそうではないけどね、君の狭い常識で型にはめるからこうなる、それも視野が狭く盲目的だ」

「そんな君が教会に正確な英雄譚を伝えられるとは、とてもじゃないが思えない。虫食いだらけで話の繋がらない英雄譚になる。最初の英雄譚を語った旅人は話が上手かったんだろうね」

「目撃した本人なのかもしれない、君は容姿を語ってない意味も解ってないようだ」

 と、ネネにねーと同意を求めるが全くもって興味がない様子だ。


「まぁいいよ、反省してるならね、ほらネネは銀髪だし、よくある話だろうさ」

 ほっとガルベイトが胸を撫で下ろす。


「今回が初めてだけどね」

 と、付け加えてじと目でガルベイトを見つめる。ちらりと目線を合わせるがすぐさま外すガルベイト。

 調理場から大きな笑い声が聞こえ、バカだねーという声が聞こえてくる。もうすぐ出来るよ、待ってなネネちゃんと婦人の声が聞こえる。たりっと垂れるネネの口元。


「ほんと、食べ物が絡んだら残念な子だね」

 と、ため息まじりでネネの頭の上に自分の顎を置くミィ。ずっと話を聞いていたガルムが口を開く。


「へぇ勇者話って売れるのか、俺は酒場のネタでも集めてんのかと思ってたが……なぁガルベイト」

 まぁ俺は別にそんなもんに興味はないけどなと大きく笑う。ガルベイトは少し後ろめたそうな反応をガルムに返す。


「一つ残念な事があるんだよね」

 ネネの頭に顎を置きガルベイトに向かって甲を下に指差す。

 条件反射のようにガルベイトがすまないと言ってしまうが、正直何の事か分かっていない。


「ネネが、ただの大トカゲをバジリスクと認識している点だ」

「それが何で残念なんだ?」

 と不思議そうな顔をしてガルムがミィに問う。


「バジリスクの肉はかなり美味いらしい、高値だけどな」

 肩を竦めてガルベイトが首を振る。ガルムがなるほどなといった顔をミィに向ける。


「ネネは美味いものに対しては目が無いからねぇ」

「なら、うちに来ればいい、バジリスクの肉なんて腐るほどあるぞ、本当に腐るほどだ。なんていったって10メートルだしな」

「いや、それはそれで嬉しい申し入れなんだけれど、ネネは一度認識したものはそのままなんだ、大きいトカゲ=バジリスクは変わらない」

「一度認識した不味いバジリスクは誰がなんと言おうと食べない、バジリスク=不味いが確立してんだよね。訂正出来るのは、兄様だけかな…ネネはあと両親くらいかなネネは…私は無理なんだよね」

 なるほど、そう言う事かと心の中で納得する二人。


「いやいや、別にそこは問題じゃねぇぞ」

 とガルムがぐいっと酒を飲む。

「村に一緒に来てくれりゃ、美味いバジリスクを食わせてやる、それでいいじゃねぇか」

「ん? あー、先に肉を食べさせた後に、美味いバジリスクの肉と教えるか、美味いと不味いの両方あるでもいいか」

「そういう事だ、大きいただのトカゲを見た時に、不味いバジリスクと口走るのは愛嬌だな」


「ほんと、ネネの兄様いないと面倒すぎる子だよ」

 まぁ私は面白いからいいんだけどねとネネに微笑む。


「ん? 嬢ちゃんのアニキさんがいたらどうなるんだ?」

「あーネネはね、兄様の言う事は素直に聞くんだ、兄様ラブってやつだね」

 ちなみにとガルベイトを指差す、手の甲は下である。


「君の事は全く好きじゃない、全くもってだ。いやそういう話じゃない嫌い、大嫌いな部類だ、もう見てもいないし空気の方がまだ存在感がある」

「君は不味いバジリスクと同じ部類だ」

 と、ミィは笑い、ガルベイトは軽くヘコんでいるようだ。


「ネネは実に解りやすい、自分が好きな人に自分の事をネネと呼ばせるんだ。これは兄様がそう言ってたからだ」

「もちろん大好きな兄様の事も兄様って呼べと言う、私が散々訂正されたようにね。今までのはあえて間違って言っていたんだ、それもネネは知っているが、それも嫌だと頭突きされた」

「その証拠に、さっきガルベイトが嬢ちゃんのアニキさんなんて言ってたけれど、まったくもって突っ込みは無かった。無視だ無視、虫のように無視だ」

「同じ事を、ネネに向けて質問するとわかる、解りやすく無視するから、さっきのツーンがそうだ」

 にゃはははと大笑いし、まあぁ仕方ないよねとガルベイトに言う。


「まぁフォローすると、ネネは人間種の男の最高値はどうでもいいだ、だから気にしなくていいさ」

「ま、最低値は、付き合いが長い私も始めてみたけどね」とにこりと笑う。

 はははっと笑いながら婦人とリーネが料理を運んでくる。


「もうそのくらいで赦してあげて。図体だけが取り柄なのに、これ以上無いくらい小さくなちまってるさね」

「あんたも、いい加減反省したかい? あんないつ現れるか解らない勇者の影を追うのは金輪際やめな、見るものは他にあるだろ?」

「あぁ解った、やめる」

 と、小さく声が洩れ、遠い目でネネを見るがそっぽを向かれている。


「人生の中で、ここまで人に嫌われたのは初めてだ。正直かなりきついな……あのつれない態度は全部俺に向けられていたのかと思い出していたが……かなりヘコんだ」

「ま、私がどれだけ言っても止めてくれなかったのを、ネネちゃんがここまで反省」

「ネネ」

 と、大き目な声でそう言い放つネネ。

「あ、うんそうだね、ネネのおかげでここまで反省してくれたんだ。ありがとうね、ネネ、私はダリアって言うんだ、よろしくね」


 うん、ダリアよろしくねとネネは屈託のない頬笑みをダリアに向ける。目線がダリアから目の前の魚料理に移り、たりっと涎が垂れる。

「あー食べて良いんだよ、好きなだけ食べるといいさ」

 箸を取り、いただきますと丁寧に食べ始めるネネ。


「もっとガツガツ食べるのかと思っていたら、綺麗に食べるのね」

「まぁね、そこらへんはきちんとしてるよ、リンゴはアレだったけどね。そうだね、もう少し言っておこうかな、ダリアさん」

「ん、なんだい?」

「ここまで人に嫌われたのは初めてじゃなくて、初めて気付いたじゃないかなぁと思ってね」

「あーそうだねぇ、そっちだね」

「……マジか……ちょっといいかい、ミィさん」

「いいよ」

 と、ネネから一口魚を貰うミィが返事をする。


「一体いつからだろうか。俺が嫌われていたのは」

 それはねぇとミィが答えようとするが、ガルベイトが言葉を遮る。

「いや、すまいない、先にちょっと言わせてくれ。間違いないのはガルムを連れてきた地点では間違いなく嫌われている。あれからまともに言葉を交わしてない、うん。それは間違いない」

「そうだねーそれは間違いないね、だから話が詰まった時に私が出たんだ」

「元々出るつもりだったけど、ガルムがいらない事いうから恥かいたけどね、あのタイミングで出るしかない」

 にゃはと笑う。


「いやぁ、あれはすまなかったな、凄く気まずかったな、ハハハ」

「最初にリンゴジュース飲んでいた時は……まだ大丈夫だったんだよな。俺に笑顔を向けてた」

 にゃはっとミィが笑う、違う違うと小さく手を横に振る。


「あれはね、ガルベイト君に向けたものじゃない。君の後でこちらの様子を覗っていたリーネちゃんに送った言葉と笑顔だよ。君はあそこの地点ですでに嫌われている」

「え、うん、目線は合ったわよ、かわいい笑顔だったわぁ」

「会話が何とか成立していたのは、ダリアさんとリーネさんのおかげだ。君じゃあない、そんな都合よく勘違いして貰っては困る」


 ―とことんだわ、義姉さん―いい薬だね―と二人で笑いながらその様子を眺めている。

 ちらりと婦人ダリアとリーネに目線を向けるガルベイト、聞こえては無いようだ。


「いや……あれ? じゃあどこだ? もしかして最初からか?」

「んー違うね、思い出しなさい。君さ、ネネにリンゴ食べてみろって言って皿を引いたでしょ」

「あーあれか、頬を膨らませて困ったよな顔してたな……え? あれか? でもリンゴ食べじゃないか」

「いや、ネネは基本何にでも、ものすごく単純なんだ」

 ミィはネネの頭を撫でる。


「あれは君からの好意のプレゼントだと思っていた、それは間違いない。もちろん君もそのつもりだった」

「でもそれを君がネネから取り上げたと判断して頬を膨らませたんだ」

「あれは激怒だよ」

 と、笑う。何かを思い出すように考えているガルベイトを眺め言葉を続ける。


「顔は愛嬌あるから可愛らしいけど、小さい子供がぷくっと頬を膨らませるのとは意味が違う」

「あの地点で大嫌いメーターが思いっきり振り切ってたね、振り切って壊れてたね、もう戻らない」

「リンゴを食べたのは、単純に自分にくれたリンゴを取り返しただけなのか?」

 そうとミィが答える。


「あー、人を小馬鹿にするというか、おちょくると言うかアンタのよく出る悪い癖だね。私もイラっとしていたんだよね」

 微笑みながらガルベイトを見つめるダリア。


「そうだね、兄さんは別にそんなつもりじゃないのは解ってるんだけど、イラっとするよね」

「まぁ、そんな事子供にしてみたら、好意でくれる人まで疑い出す、皿を引くかもとね、いい迷惑だ。ガルベイト君「だけ」は面白いかもしれないけどね」

 全員の視線が集まる、微笑みながらガルベイトを見つめるリーネとダリア。そうかと二人の視線を避けるかのように自分の行いを振り返っているガルベイト。

 ネネは笑顔で黙々と料理を食べている、ガルムは酒をのみつつ話を聞いている。


「いや、だったらなんで店の中に入ってきてくれたんだ?」

 ちらりとダリアに視線を送るミィ。ダリアは肩を竦めやれやれといった顔だ。

「ダリアさん、旦那さんと入れ替わった時に言った言葉覚えています?」

「面倒だけどつきあってあげてって言ったかな?」

「うんそうだね、でもそれじゃないその後だよ」

「あーご飯食べていきなさいって言ったねぇ、あははは、そっちかい」


 空きジョッキをタンとテーブルに置いて大笑いするガルム。

「ハハハッ、飯か」


「それはそれで大きいけど違う、ダリアさんの好意に答えたんだよ」

「面倒だけど、そのお礼にご飯食べさせてあげるねという好意だ。今日は泊まっていってとも、頭撫でてあげるでもいいんだ」

「解りやすいのがご飯ってだけさ、このご時勢のお礼は大抵がご飯とかだ。たまにお金ってのもあるが、それはネネにとって=ご飯だ、ま、旅先では使わないから貰わないけどね」

「ネネは亜人の方が好きなのさ、亜人のお礼は間違いなく一宿一飯だからね。一飯どころじゃなく大抵は朝まで宴会だけどね、下手したら次の日もだ」

「考え方もネネに近い、とても分かりやすくストレートだ」

「そんなネネだからなんだろう、例外なく亜人に気に入られて何泊もする事がある。そういう時は、色々と村の手伝いをしたりするんだけどね」

「非常に波長が合ったのがワードッグだ、兄様の情報がなかったら何ヶ月も居たんじゃないかなと思う。私としてはそのほうが良かったんだけどね」

「ネネの迷子スキルは半端ない、だったら逆に兄様が迎えに来てくれるのを待った方がいいからね。でもネネがそれを許さない、飛び出しちゃう。そして迷子だ」

「一年迷子だ、正確には381日の迷子だ」

 ダリアがくすりと笑う。


「そこはいいか、飯の美味いか不味いかは、そのまま人にも当てはまる。その人が好きか嫌いか」

「正直いうと、ネネのなにに触れて大好きまで発展するのかは、実は私も解っていない」

 と、ミィはネネの顔を覗き込む、目がとろんとして眠そうにごちそうさまとネネがダリアとリーネに笑顔を向ける。そっと頭を撫でるミィ。


「で、ここからが非常に解りにくい。ネネは好意を好意で返すんだ」

「それが自分の事をネネと呼ばせる事なんだよね、村の手伝いとかもするけどね」

「ネネにとって大好きな兄様の位置に、好きな人を据え置くことが最上級の好意なんだよ」

「兄様と同じようにネネと呼んでいいよという意味だし、愛する兄様の事を私と同じように兄様と呼んでいいよと言うネネにしか解らない好意」

「そういう意味があるんだ。知らない人には全く伝わらないのさ。だから私がこうして説明している、毎度ね」

「私は嫌われた人には、それを伝える為に必要以上にチクチクと攻めてやるんだ」


「これは私の趣味だけどね」


「ちなみに亜人はこんな面倒な事にはならない。人間くらいだ、自覚なしに人を傷つけるのは」

 指を一本突き立てる。皆の目線が集まる。


「そこで一つ、ダリアさんとリーネさんにお礼をしようと思う。ネネが最近お気に入りだった魚料理の私からのお礼だ」

「この幸せそうに寝ているネネの寝顔のお礼でもある。旦那さんも反省している事だしね」

 一呼吸置いて、お子さんも、もうすぐ産まれるしねとにこりと笑う。

「私は隠し事をしている。ネネは小さいトカゲも、大きなトカゲも、バジリスクも、ドラゴンも同じトカゲだと思っているという話だ」


「あーダリアさんは外に居たから知らないか」

「いや聞いていたよ、ほら、窓。結構大きな声だったから聞こえていたよ」

 と半開きの窓を指差しながらにこりと笑う。


「これは間違いなく、二週間前まではそうだった。話の中で氷竜のことを凄く大きなトカゲがおいしそうと言ったのを覚えているかい?」

 おのおの返事は違うが同意の返事が返る。ガルムが酒をこくりと飲む。


「そのドラゴンは、山越えをしようとした馬車を襲っていたんだ、全滅だったがね。結構な麓まで降りてきていたという非常に珍しい事だ」

「私達は、この時にその銀髪の勇者に会っている。そこでネネと勇者が気があってね、美味しそうなら討伐ついでに食べてみようと話しになったんだ。出会ったところで話をしていたら襲われてしまったしね。だから凄く大きなトカゲではなく氷竜と認識している」

「ちなみに戦闘は勇者だけだ、私は見ていただけだし、ネネはドラゴン料理の夢を見つつ勇者の戦いを見ていた。実際美味かったと付け加える」


「食ったのかよ!」

「伝説の食材って言われるほどだねぇ」


「次の昼には食べきったさ、討伐と言ってもしっぽを切り落としたら逃げたからね、まぁドラゴンもボロボロに叩きのめされてるけどね」

「ははは、大飯食らいだな! 遠めで見ても結構でかいと思うけどな。ジオネェルも良く食べる奴だったな」

 ネネが眠りながら、たりっと少し垂れる。それを見たリーネが微笑む。


「ダリアさんにお礼だ、ネネはこの勇者と出会った時から別れるまでに何をして何をしたか、どんな会話をしたかと尋ねるといい」

「ネネは寸分違わず教えてくれる、それをメモして教会に英雄譚として報告し報酬を得ることが出来る」

「私達が喋らない限り絶対手に入らない英雄譚だ、相当な高値が付く」


 さてどうするかねとミィが真剣な顔で尋ねる。ダリアが答えようとしそれを遮るように―

「ちなみに全滅した馬車はとある国のバカ達だろ、卵を盗んでいた。潰れてしまっていたがね、馬車も人も卵もね、人の形を成していないからどこの国かも解からない、ぺっちゃんこってやつだね」

「勇者が倒してなければ…ガルムの村もワードックの村も壊滅だっただろうね。ここに来ていたらドラゴンロードが倒していたから問題は無かったと思うけど、かなりの興奮状態だったからこっちにも見境無く襲い掛かってたしね」

「勇者が何故そこに来たのかは解らない、聞いてないからね。たまたまなのか狙ってきていたのか。ちなみにうちらはただの迷子だ、なんとなくあの山を登ってみようってくらいだからね」


「冗談じゃねぇ、ジャイアントバジリスクですら村が壊滅するところだったのに、ドラゴンなんてどうしようもねぇじゃねぇか」

 ガルムが酒を一気にあおり、タンとジョッキをテーブルに叩き置く。


「おそらく奴等は、ジャイアントバジリスクの卵も盗んでいたんだろうね。ま、確証がないから判らないけど、卵はひとつじゃなかったし、ま、そこはさっぱりだね」

 とミィが語る。ちなみにネネは満腹で寝ている。


「しかしどうやってドラゴンの卵を盗んだんだ? 無理だろ」

 ガルムが語るが、続いてミィが言葉を続ける。


「いや、誰にでも簡単には盗める。誰も盗まないのは、その後が容易に想像出来るからだ。盗むバカは、それがどういう事に繋がるか全く理解出来ない奴らだ。それを欲しがる奴が一番性質が悪いんだけどね」

「アレが倒せるならドラゴンは今頃絶滅じゃないかねぇ」


「さぁ、どうかな? で、鼻氏は戻るが私は別にどちらでも構わない、本当に心からのお礼だ。何も、やましい事は考えてないさ。安心しなさい」

 真剣なまなざしで夫婦に目線を向ける。ダリアとガルベイトの目が合い、ダリアが小さく息を吐き出す。


「じゃ、私は旦那に任せるとするかねぇ」

 ガルベイトの顔を優しく見つめるダリア。

「いや、時間をくれてありがたいが、妻が英雄譚を取るなら止めるつもりでいた」

「おや、勿体無いね、本当にそれで良いのかい?」

「構わないさ、正直なところ惜しいとは思っているよ」

 大きく笑いながら答える。だよねとミィ。


「今回の件で正直堪えたよ」

「プレゼントなんだけどなぁ、いや本当に」

「ま、そう言うならそれでいいさ、お子さんを大事にするんだよ」

「嫌われないように治していくさ」

 ガルベイトが妻の腹を撫で、酷く小さな声で嫌われたくないからなとぼそりと呟く。


「えっと、じゃあ……ガルム君いる?」

「いや? いらねぇよ、姐さん」

「なにそのアネサンって」

「いや咄嗟に出たんだが意外としっくりきているな」

「まぁ、いいか」

 ネネ、ネネ起きなさいとネネのおでこをぺちっと叩く。ん?と起き上がるネネ。

「眠たいなら今日はここで一泊しよう、まだ陽は高いけどね」

 と、窓の外に目線を送るミィ。窓の外では吟遊詩人が語り、通行人が多く歩いている風景が見える。


「だったら侘びに今日は自由に泊まっていってくれ」

「いや、いいさ。私は君達にお礼を返しては居ないからね、きちんと支払うよ」

「でも―「そういや肉はどうすんだ、姐さん」

 ガルベイトの言葉を遮るようにガルムが言葉を重ねる。


「だってネネ、ガルムが美味しい肉をご馳走してくれるんだって行くかい?」

 行くと即答のネネ。

「じゃあ決まりだな。馬車で半日だが、かまわねぇか?」

「馬車はダメ、兄様ががっかりする」


「どういう事だ?」

 と、ガルムが尋ねる。


「あーそうか、いやネネ。兄様は行った事のない土地だと言ってたんだよ。だから別に行った事ある土地は使っても構わないさ、兄様と乗った事あるでしょ? 私も一緒にのったじゃないか、馬車から見る風景もまた違うものがあるって言ってたよ」

 何かを思い出しているネネ。

「ん、それなら大丈夫」


「どういう事だ? 俺の村に来た事あったのか」

「ある、ちなみにネネは、リンゴを食べようとしてた。止めたけどね」

「柵からはみ出たリンゴの木があるよね」

「あるが……あそこのリンゴは、実は赤くてもすっぱくて食べられたもんじゃないぞ。ありゃ野生に近い、少しは甘みがあるが……いつごろだ?」


「私達が、リーリア神国に向かっていた二週間の間だ。ちなみにドラゴンを食べた次の日だ」

「真逆じゃねぇか、てかドラゴンもすぐ近くじゃねぇのか?」

「迷子スキルを舐めてもらっては困るね」

「ネネは飛んでいるものが好きなんだ。目で追いかけるだけだけどね、本人はまっすぐ進んでいるつもりでも少しずつずれていくんだよね、道を歩いて旅をしているわけじゃないから」

 当の本人は、ダリアのおなかを撫でている。


「それ、迷子というか注意力が酷く散漫なんじゃねぇのか?」

「そうだね、だから私が居るんだけど、うれしそうな顔で目線を送るからかわいくてね、ついつい」

「兄様居る時は、ぴったりと横について歩いてたからね。いやはや、ここまで酷いとは思っていなかったよ。この一年色んな所をフラフラと放浪しているけど、不思議とこの国以外は行かないんだよね」

「だから大陸の一番大きな国でふらふらしていれば、いつか会うでしょって事で放置を楽しんでたんだよね」


「早く見つけてやれよ……」


「いや兄様は普通すぎるほど普通だ。で、間違いなくネネと再会する、それは間違いない。だから兄様がこの国に来るのを待っているって訳さ、銀髪は目立つしね」

「まぁ、なんだ早く逢えると良いな」

「何、人生は長い必ずあえるさ、これは必然だよ」

「難儀な性格だな」

「まぁそうだね」


「ガルムの所はガルドナかい?」

「ん? あぁ、リーリアも被ってんぞ、教会はねぇからな。昔からどっちも交流があるからな、どっちもだろ」

「ならいいね」

 じゃあネネと声をかけるミィ、そろそろ行こうかとネネの頭を撫でる。出立準備をしてくると部屋へと戻るガルム。



 外に出ると陽は宿の影に隠れている、結構な時間が経っているようだ。馬車を回してくるガルム。軽鎧に身を包み、背には大剣を背負い、腰まで伸びる乱雑そうな髪の毛が腰まで垂れ下がり、立派な毛並みの尻尾をふるっと一度振るう。


「ネネ、赤ちゃん産まれたら会いに来てくれる?」

「うん、来る」とネネはダリアのお腹を優しく撫でる。

「それとお兄さんに会えたら一緒に遊びに来てくれるかな?」

 兄様とネネ。

「そうだったね、兄様と会いに来てくれるかな?」

「必ずくる!」

 と、屈託の無い笑顔を向けるネネ。


「じゃあまたね、ネネ」


「あ、そうだ。私が偉そうに講釈垂れていたけど、それを要るか要らないかは君達次第だからね。要らないと思えば、切り捨てれば良し、いると思えば活かせばいい」

「なにもそうなれと私は言っているわけではないという事を付け加えておくよ。ガルドナの民ならいちいち言わなくても解かる事だけどね……旦那さんはまだガルドナじゃないしね、あえてだ」


「ではダリアさん、ご好意はありがたく受けとっておくよ。またガルドナに来ることがあるなら是非立ち寄りたいと思う」

 と、馬車に乗り込むミィ、後に続きネネが「またねー、リーネ! ダリア!」と手を振り馬車に乗リ込む。


 馬車がゆるりと走り出し、町並みに消えるまで手を振り続けるリーネとダリア。ネネが笑顔で手を振りかえす姿が見える。ガルベイトが手を振ると、そっぽ向いて手を振るのを止めるのでダリアにやめて頂戴と言われ頭を抱えてしゃがみこむガルベイト。

 町並みに馬車が消え、はぁと一息リーネがため息を漏らす。


「あんな子供が欲しい、何? あの母性本能をくすぐられる可愛さ」

「そうだね」

 と、ふふと軽く笑いが出るダリア。


「素直に好き嫌いの感情が、そのまま表に出ているからかしら」

「さぁどうだろうねぇ、理由は何であれ、笑顔っていいもんさ」

「しかし心配でもあるけどな、悪知恵の働く奴等にとっては扱いやすいといえば扱いやすそうな娘だしなぁ」

「大丈夫よ、心配要らないって、ミィさんもいるしね」

「そうだね、大丈夫さ」

「それに、どちらかと言えば扱いやすいのは兄さんだし」


「ぐっ」


 居なくなったネネ達の方を見つめた後、自分の膨らんだお腹を優しく見つめ優しく撫でるダリア。

「女の子だったら、ネネって名付けようかね」

「いや、悪くはないと思うが、今の心情だとどうもアレだ、なぁ」

 と、リーアに助けを求めるガルベイト。

「尊敬されるお父さんになればいいだけじゃない? ねぇ、兄様」

 とガルベイトの腰をポンと叩くリーネ。

「そうだね」とダリアが優しく微笑をガルベイトに向ける。


「これで痛い目にあわないと解からないという意味が解かったようだね」

「いてぇよ! ザックザクだぞ」

「まだこの程度で済んで良かったと思いな、1からガルドナを見つめ直してみるといいさ」

「ここに来てから自分で気付かないと意味が無いって、よく言われたてたはこういう事か、確かに意味がねぇな」

「まぁそうだね、ガルドナの民にはそこまではいないけどね、あれはヒントどころか答えだよ」

「思い込みの激しいのも治さないとね、ニ・イ・サ・マ」


「それは良し悪しだね」

「俺のは悪い方だな」

「そういうことさ」


「そもそも何時まで古い考えのリーリアを引きずっているんだい、ドラゴンロードの話もそうさ」

「何、どういう事だ」

「それだけ何も見ていないって事さ、それで英雄譚ねぇ、勇者ねぇ」

「ぐぅ、勇者に浮かれてたのか?」

「勇者じゃなくお金さ、アホだね」


「……確かにな、1じゃねぇな、0からだな」

「崩すのはその狭い常識さ、頭が固いねぇ」

「ガチガチだな、こりゃ」

「兄さん、昔からじゃない」

「それもそうだな、俺は親父もみてねぇな、こりゃ」


「アホよね」

「アホだね」

「ぐうぅ」


「さてと、お店ごっこも終わりだしね、元に戻そうかね、その後このアホ旦那の話はまずはドラゴンロードかねぇ」

「マジかよ!」

「そりゃそうさ、まだまだ反省して貰わないとね! ま、それは晩御飯の時だね、来てもらうからね」

「あ、私そう言って来るね!」

「お願い」



 揺れる馬車の荷台から足を放り出しブラブラとさせ、後ろに流れる景色を楽しむように見ているネネ。

 その横で同じように足を放り出してあお向けて寝転んでいるミィがいる、馬車の中には酒樽がいくつか置かれている。


「ねーガルム、お肉って凄く美味しいのかなぁ」

 ん?と軽く声を出し、ネネを見つめながらむくりとミィが起き上がる。


「そうだな、そう言ってたな。俺もまだ食べた事がねぇから楽しみだ」

「バラして村人に配り終えていると思うが、焼いて食うか蒸して食うか、リンゴもあるしな。部族全員で大宴会だな、ネネ」


「たのしみだなー、お友達一杯出来るかな! お肉いっぱい食べられるかなー」

「あーネネなら大丈夫さ、一杯出来るし一杯食える、子供達もいっぱいいるぞ、俺も友達だな、勇者さまさまだな、ハハハッ」

 と、手綱を握り前を向いて笑うガルム。さまさまーと機嫌よく調子を合わせるネネ。ジオネェルは元気かなーと空に向かって笑顔を向ける。


 四つん這いで、馬車の中をトトトと移動するミィ。

 それに気づいたガルムがミィに話しかける。


「あのよー、ちょっと聞きてぇんだがいいか?」

「なんだい?」

「ネネがガルベイトを凄く嫌っていたのは解る、解せないのは大きなトカゲをバジリスクと素直に受け入れたんだ?」

「あぁ、それね、ネネはトカゲしか見た事がなかったんだ。育った村には、あんな姿のトカゲしかいなかったからね」

「後は豚、鶏、牛、馬、犬、猫とまぁそんな感じみたいなものしかいない。実に平和な村だったんだよ」

「なんだお前たち、やっぱ外から来たのか、この大陸以外は極々平和だと聞いているが……なるほどな」


「平和? いや、この大陸だけど……魔法文化の村だしね、ま、ネネ達は両親に外を見て周るように旅に出て、私は途中で合流しているんだよね。周ったけど魔法文化の村はどこも平和だけど……そもそも人間社会から外れて暮らすのが魔法文化だからね、特に村はね」

「あぁ……それはあるな、亜人の村みたいな感じだな」


「で、何故受け入れたかだけれど、ずっとネネの中では普通のトカゲと似ているけど明らかに違うとは思ってはいたんだよ。でも名前は解らない、そこでバジリスクという知識を得た」

「まぁ明らかに違うが名前はオオトカゲだな」

「まぁそうだね、オオトカゲとは言って無いけどね、大きなとかげとしかね」


「いやでも、なんでそんな簡単に信じるんだ?」

「兄様が居ないからだ、知識は欲しい、取り合えず大きなトカゲをバジリスクと覚えてしまう、ちなみに私もバジリスクの姿は知らなかった」

「で、いつもそれは違うよと訂正してくれるのが、兄様だ」

「要するに間違った事を正してくれるのが兄様、それまではそうとして覚えるのがネネだ」

「ネネが何故そんな風に育ったんだかは知らない、どうも小さい頃から兄様ラブで、いつもべったりしていたとしか私は聞いていないのさ」


「うーん、どうもな、納得いかねぇな」

「あ、あー。あの男は、嘘は言っていない」

「どういう事だ、間違っていただろ」

「そう間違っているだけで嘘ではない、だからさ」

「あ、それは俺もなんとなく解かるぞ、ハハハ、だったら早く兄様見つけないと変な知識ばかり覚えそうだな」

「いや、今回は、前に兄様からバジリスクってのが居るという話をネネが聞いていたからだ。興味の対象だ、だから余計な知識は増えない、名前と言う意味だけどね、基本好奇心旺盛なのがネネさ」


「そうか、まぁなんだ、変わった娘ではあるな」

「兄様いないとね」

 と、お互い顔を見合わせ小さく笑う。


「それはいい、それよりもガルム君」

「なんだ、姉御」

「姉御って何さ」

「いやなんとなくだ。しっくりきたから、これからはそう呼ぶ」

「まぁいいけど、いやそうじゃなくて、ネネがすこぶる機嫌がいい」

「そういや言葉数が多いな」

 と、ネネへ視線を送るガルム、空に向かい鼻歌を歌っている姿が目に入る。


「いや、あれが素なんだけどさ、アレは兄様と居る時のネネだ」

「へぇ、あれがそうなのか?」

「鼻歌出てる間違いない……君、ネネに何かしたのかい?」

 ガルムの肩に手を回し、顔を近づけ優しく質問するミィ。ガルムの耳がプルっと揺れる


「いや? 特別何かしたつもりも、言ったつもりも更々ねぇが……あーリンゴはネネにあげたな、それか?」

「いや、それくらいではあそこまでご機嫌にならない」

「じゃあ美味い肉が食えるからか?」

「それでもないのは間違いはない、私が分からない所で君が何かしたとしか思えないんだけど」

「な、な、何もしてねぇよ!」

「君は何を動揺しているのだ、やましい事かい?」

 と、ガルムを睨み、囁くように言葉を投げかけるミィ。


「ちげぇって、そんな事は何もしてない」

 と、少し慌てるガルム。後ろからネネの鼻歌が聞こえる実に楽しそうだ。それをチラリと見るミィ。

「ちょっと、ネネにちゃん付けして話かけてみなさい」

「なんで、いまさら」

「いいから」

 仕方ねぇな、と小さくぼやき、ネネに語りかけるガルム。


「なぁ、ネネちゃんー」

 ネネ!と強く言葉が返される。その言葉の強さにちょっとびくりとなる二人。


「あーそうだな、ネネは村に着いたら何がしたい、子供達と遊ぶか?」

 ミィが隣で小さくガルムに謝っている姿がある。

「お肉食べたいなー子供たちとも遊びたしー、一杯色々ー」

 と、後ろに流れる景色を眺めながらそう答えるネネ。

「そうかそうか、そりゃ楽しみ一杯だな」


 ぼそっとミィが語りかける。

「どういうこと? ねぇガルム君、あ、ちゃん付けはすまなかったね。私もびっくりした」

「どう言う意味だ?」

「何故大好きギアが、いきなりトップに入っているんだ? それもいきなりトップスピードだ」

「何を言ってるのかさっぱりわかんねぇが、どういう意味だ」

「ネネは大好きマックス状態が、ネネって呼んでアピールなんだけどね。何故リンゴあげただけでマックスなんだ? 何をしたんだよ」

 と、ぐいっと肩にまわしていた腕で首を締め付けるミィ。


「知らねぇ、むしろこっちが聞きたい。まぁ好かれるのはいいもんだけどな、ガルベイトの前で出なくて良かったと思うが」

 うーんと唸り首を傾げるミィ。


「本人に聞いてみりゃいいじゃねぇか」

「いや返ってくる答えは分かっている……聞いてみるか」

 二人がネネの様子を見るべく振り向く。


「ネネ、随分ご機嫌だけどガルムの事好きなのかい?」「だいすきー」と即答のネネ。

「どこがだい?」「全部大好き!」

「何故、大好きになったんだい?」

「わかんないけど大好き、綺麗だから大好き」

 ガルムの方へ向き直るミィ、それに釣られ前を向き手綱を握りなおすガルム。


「ほら、君何したんだ」

「わかんねぇよ」と笑うガルム。

「付き合いは長いが、まったくもって解らない。あいつもそうだったがなんでだろう、亜人は確実のこうなるんだよね、でもここまでじゃあない。解っていると思っていても解ってないもんだねぇ」

 と夕日を眺めガルムの頭を撫でるミィ。

「お肉美味いといいね!」

 とネネが屈託のない笑顔で二人に振り向き話しかける。

「そうだな」

「そうだね」


 正面に向き直ったガルムの表情が少し険しくなり頬に一筋の涙が零れ落ちる。

 それをじっと見つめるミィ。


「……眠たいなら代わるけど?」


「うむ、実はそうだ……少し頼む、村を知っているみてぇだからな」

「ネネもほら、少し仮眠取るといい、二人とも眠いだろうからね」

「はーい」



開けることで読みやすくなるかなと思ったけど、横書きと縦書きとではずいぶん印象が違います。

なんか変な分け方になったみたいですが慣れていこうと思います。

特に今後は特に会話がメインとなっていく話です、徐々に意図的に行動の描写が削れていきます。

自由に想像してキャラを動かしてみてくださいといった感じなるので小説なのかと言われれば違いますとなるかと思われます。

無理に描こうとしてセリフのテンポを邪魔してしまうのが文才のない私です。

キャラなお設定が細かいのは意図的な部分もあります、逆も然り。

どんな子かな、どんな人かなと個人個人違うと思います、それもまたいいかもといった感じですね。

文字数がこんな感じで進んでいくので、長いうざいと思う方は無理しないようにお願いします。


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