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子犬ですが狼にもなれます

「それじゃあ、またね」


 帰省前に挨拶に来てくれたマージュとハンリックが手を振って去って行く。それにエンリエは頷いて応え、自分はふっさふさの尻尾を振ることで応える。先程美味しいおやつを貰ったのでいつもより多く振っております。


「さて、こっちもそろそろ時間か」


 エンリエがマージュたちよりも随分と小さくまとめられた荷物を持って立ち上がる。長期休暇に入り、およそ一年ぶりに家に帰ると言うのに随分と荷物が少ない。しかも荷物の中には俺のおやつまで入っているのだからエンリエ自身の荷物は極わずかだ。


「帰るぞ」

「ワンっ!」


 元気に返事をして先程よりも更に尻尾を振る。

 エンリエの使い魔になって以来、学校の外へ足を踏み出すのは初めてだった。




 家の近くまでは乗合馬車で向かうらしく、停留所まで歩いて行く。街中では色々なお店が出ていて、美味しそうな匂いで誘惑してくる。最初はエンリエの横をちょこちょこと歩いていたのだが、右へ左へと気を取られ、注意力散漫な様子にエンリエは呆れたようにため息をつき、抱きかかえてくれた。ぶつかったり迷子になったりする心配がない分、存分に街の様子を堪能できて素直に感謝する。


「今朝採れたばかりの美味しい林檎だよ! お兄さん買って行って!」


 エンリエは声を掛けられても無視して足を進めようとするが、置いてあった林檎が美味しそうだったので腕の中でもがいて主張してみる。


「食べたいのか」


 問いかけに頷いて応えるとエンリエが林檎を一つ買ってくれた。そのまま丸ごと渡されたので前脚で挟むようにして受け取る。俺だから良いものの普通の子犬だったら受け取れなかっただろうに。まぁ、エンリエも普通の犬猫にこんな風に渡したりしないと思うが。いっただきまーす。

 うん、みずみずしくて美味しい。少し強い酸味が堪らない。


「随分と器用な子犬だねぇ、兄さん良かったらペットグッズを見て行かないかい。オシャレな首輪もあるぞ」


 シャクシャクと前脚を器用に使いながら食べる様子を見て、近くにいた男性に客引きされる。無視して歩くかと思いきや、エンリエが足を止める。


「首輪か」


 じっと見つめられる。

 首輪? え、嵌めたいの? やーね、趣味を疑うわー。

 林檎を頬張りながら顔を上げてエンリエの突っ込みを待っていると、意外そうな顔で見られる。何で?


「……嫌じゃないのか?」


 あぁ、そういう事。別に首輪くらいなら構わない。自分は使い魔であり、主はエンリエだ。ただ、鈴とかが付いているのは煩いから勘弁してほしいが。


「良く分からん奴だな」


 いやいや、何でそこで呆れたような視線を向けるんだよ。解せぬ。

 結局首輪はそこまで欲しかったわけでは無いのか、買わずに停留所へと向かった。



 停留所へ着いてから、乗合馬車を乗り継ぎ王都の少し外れにある家へとたどり着く。家と言っても屋敷と称した方が良いのか悩むくらいの大きさだ。やっぱりエンリエって良い所の坊ちゃんなのか。雑に振る舞っていても随所で育ちの良さが伝わって来る。

 家では坊ちゃんとか呼ばれているのだろうか。エンリエ坊ちゃん。笑える。


「お前はまた――」


 何かを察したのか、不愉快そうな顔で口を開く。小言が始まりそうな気配に耳を伏せるが、タイミング良く家の門が開く。

 中からは品の良い執事が現れた。執事だ。カフェとかに居る執事では無く、リアルな執事だ。初めて見た。


「お帰りなさいませ、エンリエ様」


 ふわりと目元を和らげて微笑まれると、ストイックなイメージから急に親しみやすくなる。このギャップにやられてしまう人は多そうだ。

 って言うか、坊ちゃんじゃなかった。ちょっと残念。


「そちらの方がエンリエ様の使い魔でしょうか」

「あぁ、ウィルフだ」

「ウィルフ様ですね。この家の管理を任されておりますローレンスと申します。ご用命の際は何なりとお申し付けください」

「ワンっ!」


 子犬相手にも丁寧な姿勢を崩さないローレンスに背筋を伸ばして挨拶をする。すると微笑ましそうに見つめられ、褒められたように感じて尻尾をパタパタと振る。


「ありがとうございます。長旅でお疲れでしょう。まずは中でおくつろぎください」


 中へ案内され、飲み物とおやつを用意してローレンスが一旦離席する。荷物を置きに行ったのだろう。美味しそうなおやつにエンリエの前に行儀よくお座りして尻尾を振る。


「……伏せ」


 最近はすっかり諦めていたのかと思ったが、エンリエが支持を出して来る。仕方がないと素直に伏せる。くわりと欠伸が出たのはご愛敬だ。


「お座り」


 伏せたばかりなのにお座りをさせられる。やれやれ、座らせるのなら最初から伏せさせなければ良いのに。


「お手」


 差し出された手のひらに顎を乗せる。ねぇ、まだー?


「お前は、本当に――っ!」


 怒りのためかエンリエが口元をヒクつかせる。だからこんな事で怒って居たら高血圧でそのうち倒れるのではないか。

 これは確実に説教コースだと耳を伏せて抑えるが、またもタイミング良くローレンスが現れる。流石執事さん。タイミングがばっちりだ。


「おや、楽しそうですね。それでは私からも」


 ローレンスは微笑みながら持っていたおやつを見せる。何だか美味しそうなおやつに尻尾の勢いが増す。


「手紙でウィルフ様の事をお伺いしておりましたので、取り寄せていたら先程丁度届いたようです。街では人気のおやつだそうです」

「ワン、ワン!」


 人気、その単語だけで期待値がうなぎ上りになる。早く食べたい。

 期待の瞳で見つめると、白いハンカチを敷き、その上におやつを置いてくれる。おぉ、近くで見るとより美味しそうだ。

 いただきまーす。


「待て」


 大きな声では無いが鋭い響きにビクリと身体が強張る。恐るおそる顔を上げると優しい顔のままローレンスが微笑む。


「待て、ですよ」


 決して強い口調では無いが、逆らってはいけない雰囲気を感じ取って、切なく鳴いてみる。瞳をうるうるさせるのも忘れない。


「きゅ、きゅーん」

「まだ駄目です」

「きゅーん……」


 再度切なく訴えてみるが、慈愛に満ちた笑顔を向けられ、敗北を悟る。こりゃ駄目だ。コロンと横になりふわふわの腹を見せる。

 ローレンスは服従の意を正しく受け取り、品の良い笑い声を零した後におやつを食べさせてくれた。

 何コレ、超うまい。


「……お前、結構な世渡り上手だよな」


 いえいえ、それほどでも。もっと褒めて。




 食事の準備が整うまで部屋でおやすみくださいと言われ、エンリエの私室へと向かう。

 エンリエの私室は学校の部屋とどこか似通っていて、確かにこの部屋にエンリエが住んで居たのだろうと分かる。けれど、同時にどこか違和感を覚える。なんだろうか。


「……変わっていないな」


 どこか懐かしいような目で部屋を見渡し、窓に近づいて開け放つ。草木の匂いが流れ込んできて、エンリエの髪を揺らした。

 そのまま遠くを見ているようなエンリエに近づいて、跳躍して窓枠に乗る。


「キャン」


 鳴けば、エンリエの視線がこちらを捉える。そして乱雑に撫でられる。


「大丈夫だ。少しだけ、昔を思い出していただけだ」


 そういうエンリエはすでにいつもと同じ様子で、毛が乱れるのも構わずエンリエの手が止まるまで好きに撫でさせることにした。




 食事の準備が整い、食堂へ向かう。テーブルには二人分の食事が用意されていて、その横に食べやすく工夫された自分の食事も用意されている。内容は二人とほぼ変わらないようでペットフードで無くて良かったと安堵する。もしかしたらエンリエが事前に伝えておいてくれたのかもしれない。


「ウィルフ様、この屋敷では主と共に食事をすることを許されているのですが、ウィルフ様からも許可を頂けますか?」

「ワン!」


 ローレンスに尋ねられて大きく肯定する。断る必要もないし、何よりエンリエが許可しているのなら自分がどうこう言うつもりは無い。

 いただきますの意を込めて一鳴きしてからスープに口を付ける。何だこれ、物凄く美味しい。少し冷ましてくれているが風味が損なわれることなく、更に奥深い味になっている。その横のお肉も柔らかくジューシーで焼き加減も絶妙だ。


「私が作ったのですが、どうでしょうか。お口に合いますか?」


 何と。ローレンスの手作りだった。自分の中でローレンスの株価が高騰した。美味しい物を食べさせてくれる人はそれだけで良い人だ。


「コイツは何でも食べるから問題ない」

「キャウ!」


 失敬な。人を雑食みたいに。犬には玉ねぎとか食べさせちゃ駄目なんだぞ。俺は食べるけど。玉ねぎもネギもチョコレートも余裕で食べるけど。何だったら林檎の芯まで食べるけど。


「雑食だろ」


 あれ? しまった、否定できない。

 そのやり取りにローレンスが上品に笑う。


「仲が良いようで何よりです」


 仲良し認定されて互いに視線を泳がせる。何故か素直に認めたくない。


「……本当に、エンリエ様が使い魔を召喚されて良かったです」


 心の篭った呟きにそう言えばエンリエは召喚できる条件を満たしていた割に長いこと召喚をしていなかった事を思い出す。大抵は条件を満たした時点で自分の使い魔を召喚するらしい。例外もあるが、大抵は長く居れば長く居る程絆が深まり、唯一無二の存在になる。

 そう考えるとエンリエは何故長い事召喚しなかったのか気になるのだが、視線を向けても疑問に答える気は無いようで視線を逸らされる。

 その後は学校の様子を話したりとゆったりとした時間を過ごしながら食事を終えた。




 翌日、エンリエが外出用の服に着替えていることに気付いて首を傾げる。髪もしっかりとセットされており、どこかの貴族と言われても違和感が無い。


「行くぞ」


 はーい。って、どこに?



 馬車で移動した先は、大きな屋敷だった。どれくらいの広さかと言うと、大きすぎて正確な広さが分からないくらいだ。

 正門から更に馬車で移動し、停車する。するとメイドと執事が流れるような動きで扉を開け、荷物を持ち、屋敷へと誘導する。無駄口も無駄な動きも一切しない洗練された動きに、ボケるのも忘れて見てしまう。ぐぬぬ、存在意義が薄れてしまうでは無いか。別に構わないけれど。

 中へ入ると、白髪が混じった初老の執事が現れ、エンリエに頭を下げる。綺麗な礼は年を感じさせなかった。


「お帰りなさいませ、エンリエ様。旦那様はただいま外出しておりますので自室でお待ちください」


 執事の発言に、思わずエンリエの顔を見る。

 え? どういう事? エンリエ実家が二つあるの?


 案内された部屋は、綺麗に整えられており調度品も全て磨き上げられていた。その整いすぎた環境に息苦しさを感じ、窓を開けようとするが、綺麗なステンドグラスで出来た窓は嵌め殺しで開ける事が出来なかった。

 えぇー、この窓壊して良いかなと思っている横でメイドが紅茶とお菓子を用意して退席して行く。相変わらず無駄も愛想も無い。少しは俺を見習え。愛嬌たっぷりに無駄な動きしかしていないぞ。


「菓子でも食べて居ろ」


 エンリエにお茶菓子を渡されてハグハグと食べる。高級なお菓子らしく今まで食べた事が無いくらい柔らかくて甘い。一流の素材と技術が無いと作れないことが分かる。

 それなのに、ローレンスが作ってくれたお菓子や、学校で仲良くなった料理人見習いが作る料理が妙に食べたくなった。

 あれか、やはり食べなれた物の方が美味しく感じるのか。


 何だかそんな気分で食べるのは食べ物に申し訳ない気がしてエンリエに差し出してみる。今までそんな事をした事が無かったので、エンリエが軽く眉根を上げる。


「どうした? 変な味でもしたか?」


 いえ、とても上品な味でした。普段の俺なら大興奮だ。

 エンリエは不思議そうにしながら差し出された菓子に口を付け、いつも通りの味しかしなかったようで首を傾げていた。食べなれているなんてやっぱり坊ちゃんだ。


 その後、少しして旦那様が戻って来たと執事が呼びに来る。横でエンリエが僅かに緊張したのが伝わって来る。


「大人しくしていろよ」


 エンリエがわざわざ釘を刺して来る。やだな。いつでも良い子じゃないか。お手だっておかわりだってできるぞ。やらないだけで。

 キリッとした顔を向けると胡乱気な視線を返される。けれど、エンリエは頭を振って気持ちを入れ替え重厚な扉を叩いて中へ入る。

 部屋の奥にはエンリエを厳つくして、人を寄せ付けないオーラを百倍くらいにした男性が座っており、その横には黒い豹が控えていた。


「お久しぶりです。父上」


 あ、やっぱり父親な訳ね。赤の他人にしては似過ぎだと思ったよ。うん。

 それにしては空気が変だけど。あと、横の黒豹さん、獲物を見るような目で見つめるの止めてくれないかな。尻尾が丸まっちゃう。


「やっと使い魔を召喚したと聞いてみれば、随分とみすぼらしいな」


 なんだと! みすぼらしいとは何だ。見ろ、このふさふさの毛並と愛らしい肉球を!

 ピッと前脚を持ち上げるが、無視される。スルーは酷い、傷付くわー。


「そんな役にも立たない使い魔はさっさと処分しろ」


 その言葉にうつむき加減に聞いて居たエンリエが顔を上げる。父親と目が合い、一瞬動揺したようだが、目を逸らさないまま硬い声音で告げる。


「処分は、しません」

「そうか。ならば私が処分してやろう」


 父親が黒豹へ視線をやる。途端にギラリと光った瞳に冷や汗が出る。あれ、これやばいフラグ?

 黒豹が大きな体躯をしなやかに曲げて、跳躍する。咄嗟に転がるように横へ避け、鋭い鉤爪を躱す。


「父上! 止めてください!」


 エンリエが声を上げるが、父親は聞く耳を持たない。その間も黒豹に追いかけられ、部屋の中を縦横無尽に駆け回る。小回りはこちらの方が有利だが、何せ一歩が違い過ぎる。あっという間に掴まりそうになって、クローゼットの下の隙間に滑り込む。奥にまで逃げ込んで後ろを向くと鉤爪が近くまで迫っていてヒヤっとする。ただ、幸いギリギリ届かないようで少しだけ安心する。

 いやぁ、危なかった。可愛い子犬になんて事するんだ。綺麗な毛並が乱れたでは無いか。グチャグチャにして良いのはエンリエだけなんだぞ。なんてツンデレの真似ごとをしてみるが失敗する。


 ひとまず安全地帯に入ってふざけてみたが、未だに目の前を鉤爪が通る現状は変わらない。

 さて、どうするべきか。ここにお菓子があれば籠城と称してゴロゴロしていても良いが。掃除も行き届いていて埃っぽくないし。でも、後でエンリエに怒られる気がするなー。

 乱れてしまった毛並をペロペロと整えながら思考する。あー、何か面倒くさくなってきた。クワリと大きな欠伸を零す。丁度良い暗さだし、鉤爪のガリガリという音を子守唄代わりに一眠り。いや、流石に無理があるか。


「リーヴァル、いい加減にしろ」


 一瞬誰の事だか分からないくらいに低く冷たい声でエンリエが警告を発する。その威圧に臆したのかガリガリ言っていた鉤爪がビクリと動きを止める。


「戻れ」


 逆らえない命令に黒豹は小さく唸りながら父親の横へ戻る。隙間から顔を出すとエンリエと父親が睨み合っていた。

 一難去って、また一難。さもありなん。使い方があっているかは知らない。


「使えない物を所持して何になる」

「その判断は自分でします」


 一触即発の雰囲気にどうしたものかと思案する。

 父親は使えない使えないと言うが、一体何を持って使える使えないと判断しているのか。強さか? 見た目か?

 それならご希望通りに示してやろうじゃないか。


「きゅーん」


 一鳴きして空中一回転。そのまま四足で綺麗に着地する。ただし、目線が前よりも随分と高い。

 威厳がある方がお好みならそれらしくしてやろうじゃないか。そっちは豹かもしれないが、こっちだって狼だ。


「グルルル――っ!」


 脚に力を入れて父親との距離を縮める。その瞬間に結界でも張ったのか透明な障壁が現れるが鋭い牙で噛み砕く。その時点で初めて父親の顔に驚きの表情が現れる。

 至近距離にまで近づいて喉笛に牙を押し当てる。喉を鳴らすとグルルと低い唸り声がする。その横で動き出していた黒豹が、主の殺生権を握られてしまって止まる。

 この中で動けるのはただ一人。


 エンリエはカツカツと足音を立て、すぐ横に立つ。

 そして、思いっきりグーで殴られた。

 いったい! 本気で痛い!


「キャン、きゃん!」


 大きな狼の姿から一転、子犬の姿に戻って暴行に対して抗議する。


「やり過ぎだ。阿呆。あのまま少しでも力を入れていればお前の命の方が無い」


 あ、やっぱりそうなの? 通りでやられたい放題だと思った。元から寸止めのつもりだったが、何か嫌な予感がしていたというのもある。

 多分だが、本当に身の危険が迫ったときに緊急で発動する術をかけているのだろう。それがどういったモノかまでは見当がつかないが。


「父上、非礼をお詫びします。使えないと称されて不貞腐れたようですが害意はありませんので、どうか許して頂けると」


 エンリエが非礼を詫びるが、知らん顔をする。先に手を出したのはそちらなのだから謝りたくない。

 それに父親の方も謝罪なんてどうでも良いと思っているようだし。


「まさか姿を変えてくるとは。使えないと言った事は撤回しよう。お前に似合いの化け物だ」


 冷たい響きにエンリエが一瞬身体を強張らせる。やっぱり噛み付けば良かったか。

 エンリエの足に前脚でテシテシとタッチする。ねぇねぇ、今からでも噛み付いて良い? 大丈夫。甘噛みにしておくから。

 エンリエがこちらを見て、緩く息を吐きだす。そのまま襟首を掴まれて雑に回収された。


「コイツと一緒なら化け物も悪くないです」


 失敬な。化け物じゃないやい。見ろ、この愛されボディを。可愛い子犬な使い魔なんだからな。

 ベーと舌を出しているとエンリエは一礼をして退室する。その閉まった扉に一度だけ視線を向けて、踵を返して歩き出す。

 少し離れたところまで歩いて、エンリエが肩の力を抜くように息を吐きだす。


「さて、帰るか」

「ワン!」


 はい! ローレンスのご飯が食べたいです! でも現在空腹なので街に寄っておやつ買ってほしいです。おやつ、おやつー。

 期待を込めて見つめるとエンリエの呆れた視線とぶつかる。それでもめげずに目をウルウルさせていると、エンリエが微笑んだ。ぞわっと毛並が逆立つ。


「お前、約束を守らなかったな」

「きゅ、きゅーん?」

「大人しくしてろと言っただろうが」


 あ、忘れてた。

 そう言えば釘を刺されていたのだったか。黒豹と追いかけっこをしたのは不可抗力だが、その後に勝手に変化してでっかい狼の姿になった事とか、腹立つからとちょっと脅した事は言い逃れができない。

 いや、でも仕方ない。黒豹に追いかけられてちょっと本気でビビったんだもん。結界を張れば多分傷は付かなかったが、それでも捕食されそうな体験とかトラウマものだ。


「全然反省してないな」


 えー、俺が悪いの? エンリエってば頭硬い。

 その後、耳にタコができるような説教をされたが、途中でちゃんとおやつを買ってくれた。




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