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使い魔ですが子犬じゃない?

 暖かい春のような陽気。日は大分傾いて来たが、花粉症に悩まされる事も無く幸せな気持ちで日の光を浴びながら微睡む。

 気持ち良い。ずっとここでゴロゴロして居たい。よし、肌寒くなるまでここで微睡もう。幸いにしてふさふさな毛があるおかげで保温性は高い。


「――おい」


 馴染んだ声が聞こえて耳をピクリと動かす。だが、たった今限界まで此処で粘ると決めたのだ。動きたくない。怠い。


「おい!」


 少しばかり苛立ち交じりに呼びかけられる。本当にこいつは短気だな。少しは俺の気の長さを見習ってほしい物だ。やれやれ。

 内心ぼやいていると襟首を掴んで強引に持ち上げられる。前と後ろの脚がプラプラする。


「放課後になったら来いと言っただろうが」

「くぅーん」


 凄まれたので可愛く鳴いてみる。こっちは子犬なのだ。自由気ままなケモノだ。授業時間も放課後も知った事では無い。先程終業を告げる鐘が鳴っていたのはもちろん知っているが。この春のような陽気が悪い。


「この野郎……まぁ良い、行くぞ」


 感情共有のせいで反抗的な内心はバレバレで、エンリエは一瞬眉間に皺を寄せるがここで言い合うのは得策では無いと思ったのか怒り抑える。

 それから抱えるように持ち変えられ、もぞもぞ動いて収まりが良い位置に身体を調整してエンリエの胸に寄りかかる。微かに聞こえる心音と温もりに身体の力を抜いて目を細めていると、上から視線を感じる。

 見上げるとエンリエの真剣な瞳とかち合った。


「……見た目だけなら文句無いのにな」


 おーい、どういう意味だ。



 エンリエに抱えられたまま向かった先は本が大量にある建物――つまり図書館だった。犬が入って良いのか気になったが使い魔だからなのか問題なく中に入ることが出来た。

 本を探しに来たのかと思ったが、迷いなく進む足取りは本棚では無く図書館の端に設置された小部屋へと向かう。

 いくつか並んでいる部屋の一つの扉の前で立ち止まり、エンリエがノックする。

 少しして肩に梟を乗せた小柄な少年が扉を開く。そして扉の外に立つエンリエの顔を見て、目を見開いて固まった。どうやら予想外だったらしい。


「マージュだな。使い魔について聞きたいのだが、今良いか?」

「あ、え、はい! え……?」


 マージュと呼ばれた小柄な人物は条件反射のように返事をしたが混乱からは立ち直っていないらしく、首を傾げる。それに合わせて梟も首を傾げた。癒される。

 ネクタイの色からしてエンリエと同学年のようだが、小柄な少年がこれほど動揺しているのは、この学校におけるエンリエの立ち位置が特殊なせいだろう。どうやらエンリエは大変優秀らしく、大多数の人間に尊敬されている。そしてそれと共に畏怖もされている。よって、気軽に話しかけるのは同じく優秀な生徒で、他の生徒はあまりエンリエに話しかけたりしない。良く分からんが畏れ多いらしい。思わずカッコ付きで笑いを入れたくなる。

 そんな事を考えているとエンリエにアイアンクローをされた。カッコ付きの笑いが許せなかったらしい。


「おい、マージュに何の用だ」


 入り口で固まっていると、目つきの鋭い青年が姿を現す。眼光だけならばエンリエと良い勝負をするかもしれない。

 痛い、痛い。アイアンクローが強まった。酷い、虐待だ。


「ハンリック」


 小柄な少年が目つきの鋭い青年を呼ぶ。すると青年の目つきからほんの少しだけ剣が取れる。あ、そうなの。へぇー。


「使い魔の事ならマージュが詳しいと紹介されて来た。少し話をしたい」

「フェイル先生に聞けば良いだろう?」

「……もう聞いた。その上でマージュを紹介されたんだ」


 目つきの鋭い青年のもっともな指摘にエンリエが苦虫を噛み潰したような顔をする。その理由が分かるだけに思わず遠くを見てしまう。


「あの! 良く分からないけど、僕で何か役に立てるなら、その……」


 声を上げたことで視線が三人の視線が集まったのに気付いてマージュが頬を染める。あ、三人じゃなくて二人と一匹か。梟もいれるならプラス一羽だ。

 だろう? と同意を求めるように梟を見ると、梟がホーホーと鳴く。

 ほうほう。なるほど。さっぱり分からん。





「それで聞きたい事って?」


 小部屋に入り、小さなテーブルを囲むように席に着く。ちなみに俺は荷物のようにテーブルに乱雑に置かれた。全く、ペットをテーブルに載せるなんてどんな躾をしているんだ。

 突っ込みどころ満載だが誰も突っ込んでくれる訳も無く、ふわふわの前脚で顔を洗い、丸くなって欠伸を零す。おやすみなさい。


「お前と使い魔は以心伝心と噂されていると聞いたが、実際にどの程度意思疎通が可能なんだ?」

「以心伝心って噂が尾ひれ付けて広まってるだけで、実際は他の人たちと同じように相手の感情くらいしか分からないよ。ただ、感覚が似ているのか他の人たちより寄り添う事ができるってだけで」


 マージュが肩に乗る梟のおでこを撫でると梟は気持ち良さそうに目を閉じて手のひらを受け入れている。

 何だか羨ましくてエンリエにすり寄れば面倒そうに撫でられた。気持ち良いが釈然としない。


「エンリエも仲良しなんだね」


 微笑ましそうに言われエンリエの眉間に皺が寄る。自分も思わず視線を逸らしてしまった。


「その梟は、お前の言う事をどの程度理解している?」

「どうだろう。訓練による条件定義で動いているだけのような気もすれば、僕の言っていることを本当に理解していると感じる時もある」


 そうなのか? 梟に問いかけるように首を傾げて見せるが、傾げ返される。なるほど、分からん。

 マージュの話を真剣に聞いてエンリエは考えるように頷く。そして言いにくそうに口を開く。


「その、使い魔が言葉を発した事は……?」


 エンリエは真剣に問いかけるが、マージュもその横で黙って座っていたハンリックも何を言っているのだろうと怪訝そうな顔を浮かべる。


「僕は聞いたこと無いけど……ハンリックは?」

「ある訳が無い」


 断言されてエンリエの表情が険しくなる。それにマージュがビクリと怯えたような反応をし、ハンリックが咎めるような目を向ける。

 本人の気付かない所で誤解されているようなので、可愛く一鳴きしてエンリエの手の甲を舐める。

 エンリエは険しい表情をしていたことに気付いたのか、小さく息を吐きだしながら表情を元に戻し、頭を撫でてくれる。あぁ、そこそこ、気持ち良い。


「変な事を聞いて悪かった。こいつが喋ったような気がして。フェイル先生にも散々そんなはずは無い、空耳だと言われていたんだが、どうしても気になってしまって」


 ちなみにフェイル先生と話した時はエンリエがしつこく食い下がったため、最終的には疲れているのか可哀想にと憐れみを含んだ眼差しを向けられていた。その事に気付いたエンリエはこの上ない屈辱を感じたようだった。

 良い経験したな。どんまい。


「あ、の……使い魔は色々だし、パートナーの数だけ形があるから、話しても不思議じゃないと思うよ」


 頬を染め、視線を逸らしながらマージュが告げる。

 それにエンリエは、少し驚いたように眉を上げ、それから表情を緩めてありがとうと礼を言った。わぉ、明日は雨だな。頬を思いきり引っ張られた。




 次の日、本当に雨が降った。

 エンリエのせいじゃないのかとチラリと視線を向けると俺のせいじゃないと否定してくる。エンリエこそ俺の思考が読めるのではないだろうか。

 雨のせいで外に出る気も起きず、教室に居るエンリエの横で丸くなっていたが、聞き覚えのある声がして顔を上げる。そして見知った顔を見つけ、小さく鳴いてエンリエの注意を引く。


「何だ?」


 顔を向けることで扉の方へ視線を誘導し、待ち人の存在を知らせる。声を掛けることも中に入ることも出来ずに立往生していた人物は、気付いてくれた事に安堵した表情を見せる。


「どうしたんだ?」


 人目の付かない所まで来てエンリエがマージュに話しかける。


「これ、おとぎ話に近い物なんだけど、この中に話す使い魔が書かれていて」

「本当か!?」


 エンリエが食いついて、マージュから本を受け取るとページを捲りだす。


「うん。この本に描かれた使い魔は神の御使いで、主人を幸せにするために使わされたらしいよ」


 その発言にページを捲る手を止める。


「神の御使い……? 幸せに……?」


 いやぁ、それは


「無いな」


 思わずハモった。


「い、今、エンリエ以外の声が……」


 エンリエとマージュの視線を痛いほど感じる。やっべと冷や汗をかきながら上目遣いで瞳を潤わせながら尻尾を振る。ほーら、可愛いだろう。可愛いただのワンコだよー。いや、使い魔か。

 そのあざとさにマージュは心打たれたのか表情を緩めるが、エンリエには通用しなかったらしい。頬肉を掴んで持ち上げられる。


「何をそんなに動揺しているんだ? あ?」


 ガラが悪い。額に青筋を立てる姿は小さい子が見たら確実に無く。いやマージュも若干涙目になっている。


「きゅ、きゅーん」


 切ない鳴き声を上げてマージュに助けを求める。感情共有していないマージュはお人好しな性格も相まって、ハッとしたようにエンリエの魔の手から救い出してくれる。


「か、可哀想だよ!」


 安全なマージュの腕に収まり渋面のエンリエに心の中で舌を出す。

 やーい、ばーか、ばーか、いじめっ子ー。エンリエから恐ろしいほどの怒気を向けられる。

 そんな風に遊んでいると、ふと静かな羽音と共に影が差す。それの正体を認識する前に反射のようにマージュの腕から飛び降りる。あまりに慌てたせいで顔から間抜けに着地した。痛い。

 ただあのままマージュの腕の中に居て、鋭い鉤爪で切り裂かれるよりはマシのはずだ。


「わっ、何!? どうしたの?」


 マージュが混乱したように自分の使い魔に話しかける。話しかけられた梟はそっぽを向いて知らん顔をしている。可愛い癒し系の顔をしているくせに恐ろしい奴だ。


「ふん、無様だな」


 顔面から落ちた自分をエンリエが嘲笑する。くっそ、一瞬本気で心配して安堵したくせに。素直じゃない奴。あ、お互い様か。


「ごめん、普段はこんな事する子じゃないんだけど」


 マージュが申し訳なさそうに謝罪してくる。

 あー、うん。大丈夫、理由は何となく分かるし。


「気にしなくて良い。それよりもわざわざ本を持ってきてもらって悪かったな」

「え、あ、ううん。話す使い魔とか僕も興味あったし、たまたま見つけただけだから」


 急に挙動不審になったマージュにエンリエは不思議そうに首を捻る。


「他にも何か見つけたら教えるね!」

「そうか助かる」


 微かに笑みを浮かべて答えるとマージュが頬を赤くして、視線を彷徨わせる。


「マージュ?」

「あ、その、ま、また後で!」


 真っ赤な顔をして挙動不審に立ち去って行くマージュをエンリエは不思議そうに見ながら送る。

 あーあ、とうへんぼくー。



 そんなこんなで結成された使い魔はきっと喋る同盟により色んな手段で喋らせようとされる。最初は面白がっていたが、そろそろ辟易してきた。どうにかしてただの子犬だと諦めてくれないだろうか。

 今もそんな二人から逃げ出して校舎内を散歩している。エンリエの不満が伝わって来るがこっちの方が不満だ。不満さでは負けない。張り合っても意味は無いが。

 尻尾を下げながら歩いていると見覚えのある人物に出会う。鋭い目つきがこちらを認識してさらに鋭くなる。


「お前は、エンリエの」


 憎い敵を見るような目を向けられ、小首をかしげてクーンと鳴いてみる。途端に目つきの剣が取れた。ちょろい。


「すまない、お前に罪は無いな。いや、エンリエにだって罪は無いのは分かって居るんだ」


 撫でながら項垂れるハンリックの手を肉球でポンポンと叩く。元気出せや。


「慰めてくれるのか。あ、そうだ食べるか?」


 ジャーキーを取り出され喜んで齧る。この学校の生徒は使い魔用に餌を持っている確率が高いので嬉しい限りだ。


「マージュは今日もエンリエの所だろう?」

「わん」


 その通りだ。散々構われて辟易した。


「マージュはずっとエンリエに憧れていたんだ。ただ、接点なんて無かったのに、まさかこんな事で……」


 ハンリックは深いため息を吐く。何かすまん。


「応援、してやるべきなんだろうな。長年の想いが報われるかもしれないんだから」


 痛みを堪えたように笑うハンリックに額を擦り付ける。ハンリックはしばらくの間ずっと無言で撫で続けていた。





「あ、戻って来た。さっきは構いすぎちゃってごめんね。美味しいおやつあげるから許して。ね?」

「わん!」


 美味しいおやつという単語に尻尾がパタパタと振れる。流石使い魔の事に詳しいと言われるだけあってマージュは機嫌を取るのが上手い。

 お座りをして良い子にして待っていると、二つのおやつを左右に掲げられる。


「ねぇ、どっちがほしい? 右のおやつ? それとも左?」


 右も左もどっちも美味しそうだ。どちらも捨てがたい。うぅ、悩む。


「両方ほしい?」


 甘いマージュの誘惑にコクコクと頷く。


「ちょうだいって言ってごらん? そしたら両方あげるよ」


 ぐぬぬ、何という策士。甘い餌を用意しつつそれすら罠とは。思わず唸る。けれど子犬だからなのか全く迫力は無い。


「ほーら、どうしたのかな? ちょうだいって言うだけだよ?」

「きゅ、きゅうん」

「うん? 聞こえないな。ちゃんとちょうだいって言わないと」


 優しい顔で迫られ、追い詰められる。うぅ、こうなったら最終手段だ。

 マージュの右手に持たれたおやつに齧りつく。マージュは仕方ないかと素直に右手のおやつを渡してくれた。それを綺麗に食べ終えた後に、上目遣いでマージュを見上げる。


「くーん」

「え? 駄目だよ。これはちょうだいって言わないとあげないから」

「くーん」

「だ、駄目だって」

「くーん……」


 しばしの攻防の末、無事にもう片方のおやつも手に入れた。

 我の可愛さを思い知ったか。ふははは。


「……感情が共有されないってある意味幸せかもしれないな」


 一連の攻防を眺めていたエンリエがしみじみと呟いた。こっそり同意する。



 さて、お腹が満たされたので目的を果たそう。

 使い魔の身体能力を駆使してマージュの肩へ乗る。マージュは驚いたようだが、振り払う事は無く好きにさせてくれる。ただ、それを許さないのが一羽。マージュの肩で目を瞑っていた梟が獲物を狙う目をして襲ってくる。

 それを避けるように、マージュの頭へ移動し、肩へ移動し、背中をかけおり、駆け上り……


「ちょ、ちょっと、ストップ、やめてって」

「危ない!」


 バランスを崩したマージュをエンリエが支えようとするが勢いを殺せずに二人して床に倒れ込む。


「大丈夫か?」

「う、うん……」


 押し倒されているような状況に気付いてマージュが顔を赤くする。


「どうした? 顔が赤いが、どこか――」

「ちがっ、そうじゃなくて、僕……」


 意を決したようにマージュがエンリエを見つめ、口を開く。

 しかし、その瞬間に大きな音を立てて扉が開く。そこには思い詰めたような顔をして立つハンリックが居た。

 第三者の登場に現状の姿勢を思い出したのか、マージュが慌ててエンリエの下から立ち上がる。

 まだ赤い顔のまま俯くマージュの手をハンリックが強く握りしめる。


「やっぱり諦められない。マージュ、好きだ」


 突然過ぎる告白にマージュは一瞬ポカンとした後、徐々に意味を理解したのか先程にも増して顔を赤くする。


「幸せにする。だから他の誰かでは無く、俺を選んでくれ」


 真摯な告白にマージュの顔色を赤くするのを通り越して頭から湯気が立つ。そのまま容量オーバーで倒れてしまい、慌てたハンリックが横抱きにしてマージュを保健室へと連れて行ってしまった。

 すげー、お姫様抱っことか初めてみた。


「……何だったんだ?」


 あー、唐変朴だもんね。仕様が無い、仕様が無い。ははは。


「機嫌良さそうだな。今までずっと不機嫌だったくせに」

「くーん?」

「感情共有しているんだから誤魔化したって分かる。探られる事の何が不満だったんだ? 探られて痛い腹をしている訳でも無いだろう?」


 そうだな。綺麗な真っ白なふわふわなお腹です。コロンと仰向けになって身の潔白を示す。乱雑に撫でられた。


「お前は本当に何なんだろうな」


 ため息を吐きながら撫でるエンリエの手を噛む。あまり力はいれていないが、こちらからの明確な攻撃にエンリエが驚きに目を瞠る。


 何かだと? そんなの決まっている。

 使い魔だ。エンリエに召喚され名付けられたその瞬間から、俺はエンリエの使い魔だ。それ以外に何を求めるのか。


「……そうか、そうだな。お前が話そうが、魔力が使えようが、俺の使い魔である事に変わりはない。悪かった、ウィルフ」


 めったに呼ばれない名を呼ばれ、噛んだ手を離してぺろぺろ舐める。分かればいいのだ、分かれば。大事な事は言葉にしなくても伝わる時は伝わる。


「――だが、この一連の中で一つ確信した。お前、確実にこちらの言う事を理解した上で馬鹿にしているだろう」


 頭をギリギリと握りつぶされる。ギブギブー。

 残念ながらその訴えは伝わらなかった。




 翌日、マージュとハンリックに会ったら何というか空気がピンクだった。マージュはあらぬところが痛むのか動きがぎこちなく、それをハンリックが心配そうに気遣い、それにマージュが気恥ずかしそうにする。

 食べられてしまったらしい。様子からして合意のようなので何よりだ。無理やりは良くない。

 二人から感謝と謝罪の言葉を貰ったが、エンリエはやはり不思議そうにしていた。うん、お前に恋愛はまだ早い。


「そう言えばこの子が攻撃的だった理由なんだけど、その子に嫉妬してたみたい」


 この子で梟を指し、その子で俺を指される。やっぱりそうか。


「嫉妬? 使い魔が?」

「うん、結構報告例は多いんだ。初めてだったから気付かなかったけど、ハンリックに指摘されてなるほどって」


 マージュがハンリックに同意を求めるように視線を向けるとハンリックが甘い瞳を向ける。おい、目つきの悪さはどこへ行った。デレデレじゃないか。


「だからその子にも悪いことしちゃったなって」


 何かこの後に続くであろうマージュの発言が物凄く都合が悪い気がする。


「何か機嫌悪いなって思ってたら、僕がエンリエと仲良くしてたから妬いてたんだよね」

「――は?」


 マージュの発言にエンリエが俺を見て固まる。

 俺は子犬だ。白くてちっちゃくてフワフワで可愛い子犬だ。マージュの言っている意味なんて分からない。

 エンリエが信じられない様子で嫉妬? と呟いてるのも知らない。


「あ、それと多分なんだけど、その子、犬じゃなくて狼だよ」

「マジで?」


 間抜けな声が響く。

 三人から疑惑の目を向けられ、そっと視線を逸らす。

 俺は子犬だ。いや、子狼か。ええい、まどろっこしい。子犬で良い、俺は犬だ。


「きゅ、きゅーん?」


 可愛く鳴いてみたがエンリエに通じるはずも無く、両頬の肉を限界まで引っ張られた。




END

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