或るロボットと妖精
いま、私は、ロボットの母胎の中にいる。このユニットは、そう呼ばれているのだ。
天、女神ロボ。これが彼女の呼名だった。この、ロボットのなかに入れば、それは楽しい事が出来る。このロボットの構造はこうだ。まず、このロボットはあるドーム型の部屋の中に入っている。居る。そして、身長はニ、三メートル有る。上から、目型のアンドロイドの胴体、そこから下は、光の線やファイバーや、ロボっぽい手足が出ている。まるでその空間は聖なる空間。赤ちゃんのベッドのよう。上からは、あやすためのおもちゃがぶら下がっている。ぐるぐる回って。
そんな感じの、ロボット。ーーアンドロイド。私はいま、聖なる空間に居る。
「侵入者、侵入者」
とアンドロイドが叫ぶ。
カンと、このドームに「何か」がぶち当たった。固い。どうやら電化製品か何かのようだ。
「ほっほー」
と、僕に向かって敵意を剥き出しにして攻撃してきたのは、どうやら、僕の幼馴染の少年らしい。彼の名はドール。名前に反して少し太っている。そして荒々しく無邪気。
「何すんだよ」
彼は、そのまま帰っていった。
「どうする? マザー」
と、僕はマザー・女神ロボに話しかける。
「うん、まあ、様子を見ましょう」
と、これで彼の話は終わった。
「いや、なんだ、ちょっかいかけたくて」
「迷惑だよ」
「ゴメンなさい、兄さんが」
と、そういうのは、ドールの妹、サーシャ。彼、ドールの二歳下。
「いや、あのロボット・アンドロイド、かっこよくってさ。いいなあと思うわけよ」
「……」
あのロボットは僕のものだ。アンドロイド、僕の愛するアンドロイド。
「おまえ、あのアンドロイドの仕組みを知っているか」
「へ?」
「あ、おまえ自分が一番詳しいと思っているだろ。父さんのだと思って。ところがな」
あの、ロボットは、父さんの制作物の一つ。僕は、子供の頃からあれで遊んだ。懐かしい思い出。ちなみに今僕は十七歳。
「あの、ロボットはな、コレなんだ」
といって、彼は、その右指の薬指を、立てた。その他の手は握ったまま。
「これって?」
「ん? なんだ、おまえ、知らないのか、町でいま流行っているんだぞ」
彼の言では、このジェスチャーは、廃棄品のことらしい。何故だ。
「要は、直ぐに捨てなきゃいけないということだ」
「そう、なるほどな、どうもありがとう教えてくれて」
「まあ、そうふて腐れるな。あれはおまえにとっても大事なものだろう。だから、うちの倉庫に隠そう」
「ああ、でも、どうやって」
「だからな、明日の番、うちに集合」
その晩、僕は眠れなかった。廃棄品。ロボットの処分。確かだ。彼がいうのだから。ドール。人形。そんな、名前を息子に付けた父さんはーー。いや、よそう。それは、ドール、いい名前だ、きっと。よく寝よう。
朝、僕は、学校に言った。帰ってきて、寝て、本を読んで、宿題をして、深夜、ドールの家に行った。
「よう、よく来たな。じゃあ、さ、始めようか」
と、いって彼は、手前にあるレバーを回し始める。すると、この、僕たちのいる倉庫に、女神ロボが現れた。ーー謎の原理。ここの世界の。世界は謎めいている。この、構造には、詳しくはいまは触れない。それは危ないからだ。とにかく。危険。危ない。とにかく。危険。とにかく。ーー危険。
「おい、御託はいいから始めようぜ」
と彼はいって、二人でレバーを回し始める。すると、女神ロボは、回転しだした。……具体的には、胴体の下の、赤ちゃんをあやす、ベッドの上に吊り下げる機械のようなものが、くるくると、回転している。ああ、早くあの中に入りたい。暖かい。
「あっ、まてまて。それはまだだ。あと、俺にも体験させろよな」
と、僕はちょっと嫌だった。彼に、あれを体験させるなんて。汚されるようだ。なんだ、まあーーいいか。
瞬間、列車が突っ込んできて俺たちは終わりを告げた。