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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ホンモノ

作者: 未無知

2~3年前部活で書いたものそのままです。暇なときにどぞ

「好きです。あたしと付き合ってください!」

「……嬉しいよ。これから、よろしくな」

 校舎の隅、あたしと茂武君の男女二人。告白をして、受け入れられて、甘酸っぱい契りを交わした。



 校門から出て帰路につく。しばらくはふわふわした、何とも言えない気分だったのだが、家に近付くにつれてそんな浮ついた気持ちも薄れ、どす黒い憂鬱だけが胸を支配してゆく。

「ただいま」

 玄関の扉を開ける。中は定期的に換気しているはずだが、空気が淀んでいるように思える。

 ――当然か。

 それは、あたし自身のせいだろう。今日、やると決めたことがあるのだ。その決意があたしの気分を悪くし、空気までもまずくしてしまっているのだ。

 居間へ行くと、姉がテレビを見ながら胡坐をかいて座っていた。あたしがいることに気づくと、一瞬じろりとこちらを見たが、すぐにテレビの方へ視線を戻した。

「今日なんか変わった事あった?」

 別にどうでもいいけどね、と言わんばかりに聞いてくる。そんな態度でいられるのも今の内だ。あたしは今日〝爆弾〟を抱えて、いや、作って帰って来たのだよ。

「茂武君に告白してオーケー貰ってきたよ」

「……はあ?」

 途端に立ち上がって、あたしの方に詰め寄ってくる。ああ、想像していた通りの反応だ。思わず笑ってしまう所だった。抑えなければ。

 姉の顔が、あたしのすぐそばに迫っている。近くで見るといつにもまして気持ち悪いな。姉も同じことを思ったのだろう。舌打ちをして、一歩下がったのだ。何故気持ち悪いかって? だってあたしと姉は完全に同じ顔なのだ。

「……そう、よかったわね。ご苦労様」

 よかったわねと口では言いながら、たいそう不機嫌そうだ。いや、不機嫌というより怒りとか憎いといった表現の方が正しいかな。

「それはいいから。ねえ、前々から言ってるんだけどさ、そろそろ死ぬか消えるかしてくれない?」

 死ぬ? 消える? ずいぶん勝手なことを言うものだ。元々あたしはこの姉に望まれて生まれたというのに。姉が幼かった頃、妹が欲しいと父にねだった結果生まれたのがあたしなのだ。当時、父に妻はいなかった。そこで、科学者である父はその技術、知識を用いてあたしを作ったのだ。姉の遺伝子やら量子やらをコピーして。

 新たな妻を求めようとしない所は、いかれているとしか言いようがない。

「あれ? 怒った? あんた怒っていいんだ。そんな権利あるんだ。へえ、知らなかったなあ」

 姉の理不尽な言い分にむっとしてしまって、顔に怒りが表れてしまったのかもしれない。抑えなければ、もう少しなのだから。

「だってあんた認知されてないじゃん。コピー人間だって言っても、親父の技術が認められて無い訳だから、そもそも生まれてないってことよね」

 あたしも怒ったら、こんな風にとめどなく罵ってしまうのだろう。あたしの事だからよくわかる。それ故に胸糞悪い。

「つまりあんたは人間なんかじゃない。そんな奴に人権なんかない。わかるわよね。あんたが存在すること自体いけないことなの」

 殴り飛ばしてしまいたい衝動に駆られたが、落ち着くのだ。姉が、というより、あたしは激怒すると周りが見えなくなり、注意力散漫になる。そこに隙ができる。だからあたしは冷静でいないと。

「だから死んでくれないと迷惑なのよ。存在が迷惑。ね、この世の為よ」

 言うと、姉は台所の方へ足を向かわせた。最後の晩餐にリンゴでもむいてあげるね、などと言いながら。

 あたしは完全に姉の視界から外れている。

 ――今だ。

 鞄から、用意していた丈夫な紐を取り出し、ゆっくりと姉へ近づく。そしてその紐を首に巻きつけ、思いきり絞める。悲鳴はない、声を出せないのだから当然だ。が、紐を緩めようともがいてはいるようだ、首の辺りをひっかいているらしい。しかし抵抗もむなしく、両腕は宙ぶらりんになり、姉の全体重があたしの両腕にのしかかってきた。手を離すと、眼前のあたしと同じ容姿の肉体は、崩れ落ちるように床にうつぶせになった。瞬間、眩暈と吐き気があたしを襲う。――びちゃり。嘔吐物が目下の女を汚しながら飛散する。膝が抜け、立つことができない。震えが、寒気が、悪寒が、動悸が止まらない。しかしともかく、ともかくこれでやったのだ。

 あとは、父を待つだけだ。



「ただいま」

 父が帰って来た。これですべてが果たされる。まあ、事後処理を頼むだけなのだが。

「どうしよう、父さん。あたし、妹を……」

 父は、一瞬だけ驚いた表情をしたが、辺りを見回し状況を理解したのだろう。すぐに穏やかに微笑んで、あたしを抱きしめてくれた。

「大丈夫だよ、倫理。あの子はね、認められていないんだ。だから、いなくなっても誰も何も言わないよ。倫理は気にしなくていいんだよ」

 優しく諭してくれたあと、姉の死体を、いや違うな、〝人間の形をした何らかの物質の塊〟を運んで、どこかに行ってしまった。流石あたしの父だ。いかれている。

 だが皮肉なものだ。自分で作ったものなのに、実の娘との区別もつかないとは。

 しかしおかげで、あたしは自由なあたしになることができる。あたしはあたしで、コピーなんかじゃないし、父の娘だし、茂武君の恋人だ。そして、認知された人間でもある。誰かの偽物なんかじゃない。あたしはホンモノのあたしになったのだ!


皮肉しかなかったですが、まあ、アレ

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