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電気のつけられていない倉庫内は真っ暗だった。
そこにいるのはざっと二十人の男達、その一人一人が立ち姿だけで他人に威圧感を与える雰囲気を纏っていた。
服装は黒のスーツで統一されており、中心に居る白衣の男だけが非常に浮いていた。その男は周りを気にして居心地が悪そうに話し始める。
「それで、期日は今日だが間に合ったのかね?」
「当然です、要求通りの物を用意しましたよ」
返事をしたのは恐らくスーツの集団のリーダーである男。
リーダーが右手を挙げると後ろの集団は二つに割れて、台車に載せられた大きな箱が運ばれてきた。無機質な鉄の箱だ。
「中身を改めても?」
「ご勝手に」
白衣の男はふたをずらし、中身に目をやると「確かに」と短く言った。それを確認したリーダーは白衣の男が持っていたスーツケースに手を伸ばす。
「では私はこれで」
「そんじゃ、今後ともご贔屓にお願いしますわ」
それでこの日の取引は終わるはずだった。そう、はずだったのだ。だれの目にも止まらず、街の知られざる風景として流れていくはずだった。
「はっくしょい!」
間抜けな声が入口の向こうから聞こえるまでは。
倉庫内部にいた男達はそのあまりにも緊張感のない声に一瞬気が抜けそうになるが、表情を険しくして入口へと近づき始める。
リーダーは懐から拳銃を取り出して言った。
「……誰だ」
返答はない。白衣の男はあからさまに取り乱している。
「な、なにをもたもたしているんだね早くそこにいる奴を片付けないか!」
「あんたは黙ってろ、おいそこにいる奴、五秒待ってやる、出てこい」
「そんなに待ってもらわなくても結構だぜ」
藪木はドアを開けて中に入った。その黒髪をオールバックで整えておりカーキ色の何処にでもありそうなジャケットに身を包んでいる。
「悪いな、今日肌寒くってよ。静かに見てるつもりだったんだが」
「……てめえ何もんだ」
「細かいことは気にすんなよおっさん」
「年上は敬えって教わんなかったかガキ」
「チンピラとは関わんなって教わったよ」
「……大人しくその教えに従うべきだったな」
拳銃はその銃口を藪木の心臓に向ける。後は引き金を引くだけで藪木の命は終わる。それが分からないほど藪木は愚かではなかった。
だが――
「……ふっ」
指先一つに生命を握られながらも尚、藪木の余裕は崩れない。正面に立つリーダーは不愉快そうに顔を歪める。
「何がおかしい?」
「そうカリカリすんなよ、クールにいこうぜ。俺はその箱と、そこの白衣の奴に用がある」
「わ、私に!?」
急に名指しで呼ばれた白衣の男はぎょっとして藪木を見る。
「その二つをおいて行ってくれるなら、お前らは無事に帰れる」
「ガキ、状況理解できてねえな、お前は今から死ぬんだよ」
「……そうか、残念だ。交渉は決裂だな」
藪木は右手を頭上に掲げた。それを囲む男達はそれを怪訝そうに眺める。
「俺と、いや俺達と敵対したこと、後悔するんだな」
「…………………………………………あれ?」
いつまでたっても起こらない変化にしびれを切らしたリーダーは無言で撃鉄を起こした。
「待て待て待てって!落ち着けって!」
リーダーは何も言わない。
ほかの男たちも何も言わない。ただじりじりと藪木に近づく。
彼らは思った、ただの頭のイタいガキにからかわれたのだと、その思いは確かな怒気となり男たちの間に充満していった。
「うおあー!来るなぁぁ!」
その瞬間、倉庫の屋根に近い位置にある窓が弾けた、とっさに男達はそっちに目をやる。
綺麗な金長髪をなびかせて、一人の男が降って来ていた。月の光を背負ったその姿は一種の美しさの体現だった。
そして、見とれてしまったことにより男達は次の異変に対応出来なかった。
最も、真横の壁を拳で壊して大男が入って来るなんて異常事態には、はなから対応できなかったかもしれないが……
すいません、遅くなってしまいました