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『――警察は状況から見て暴力団同士の抗争ではないかとみており――』
ベンチに腰掛けながら、巨大な電光掲示板で放送されているニュースを見る、昨晩何らかの取引を行おうとしていた暴力団関係者が全員気絶させられた状態で発見されたという内容だ。
世間では大事件のようだが今の藪木はそれどころではない。
「また新しい仕事探すか……」
ため息が白くなり空へと登って行く。俺も空に向かって消えちまいたいよ、そんなことを考えながら藪木は歩いて行く。
街は何処を見てもクリスマス一色。心なしか街を歩いているのもカップルが多いように感じる。
「……はぁ、今日は帰るか」
「あれ?リョーじゃん、何やってんの?」
後ろから聞きなれた声が聞こえたので、藪木は振り返った。
「光矢か」
速川光矢、それがこの男の名前だった。彫りの深い顔立ちをしており、頭髪は一切指が引っ掛からないほどサラサラの長髪を後ろでくくっている。藪木は日本人は金髪の似合わない人種だと思っているが、唯一の例外がこの男だと思っていた。
よっと軽く手を挙げる彼の右わきにはいつも通りと言うべきか女の子がいた。言う必要はないが前見た娘とは別の女の子だ。
「ごめん、ちょっとだけ待っててね」
むくれるその子をその場に残し、光矢は近づいてきた。
「よう、女の敵、前の娘はどうしたんだ?」
「出会いが何時だって突然なように別れも何時だって突然なんだ」
「答えになってねえよ」
深いため息とともに藪木は世の女と言う生き物の見る目のなさに失望を覚える。どうせ次に会ったらまた違う娘と居るのだろう。
「で、何で呼び止めたんだ?まさか見せびらかしたいだけってんじゃないだろ……だとしたらぶっ飛ばすけど」
「いやいやいや、そんなことに時間使う訳ないじゃん!勿体ない」
人を呼びとめておいてそんなこと呼ばわりする友人に文句を言うべきか藪木は本気で迷ったが、光矢が真顔になったのをみると、黙って続きを促した。
「昨日の荷物なんだけど」
「……『アタリ』か」
「残念、ただの覚醒剤だった。」
顔の横で手をひらひらさせる光矢を見て、藪木は短く「そうか」とだけ返した。
「淡白な返事だね、もっとこう、何かないの?」
「そんな簡単に見つかるなら苦労してないだろ」
だよねぇ、と苦笑いで返すあたり恐らく光矢にとっても解りきっていたことだったのだろう。
「用はそれだけか?」
「うん……あとさ、ユーは知ってると思うから鉄に伝えといてくれない?」
「自分で言えよそんくらい」
「僕は今からあの子猫ちゃんと一夜のアバンチュールなんだよ」
「やっぱぶっ飛ばしてやろうか?」
藪木は返事の代わりに一つため息をつくと、片手をひらひらと振りながら、光矢から遠ざかって行った。次あった時にはぜひ頬に手のひらくらいつけといてほしいものだ。