めざせ完走!はじまりはじまり
生きているとはどういうことなのだろう。
活きているとはどういうものなのだろう。
自由な事、楽しむこと、困難を乗り越えること、新たなものと出会うこと、愛すること。
おそらくどれか一つではない。そのすべてが、それ以外の全てが、複雑に組み合わさって人は生きている。活き活きと生きている。
少年は瞼を上げた。ただそれだけの行為に体中のすべての力が持ってかれているように感じる。
視界に入る色は白、白、白、白、白、雪原にいるわけではない。ここは『部屋』だった。
入口はない、窓もない、どうやってここに入れられたのかも解らない。ただやたらと広い。少年はそこに横たわっていた。
否、少年たちは、そこに横たわっていた。端から端を見渡すのが困難なほど広いその部屋の中で、床が見えないほどの人間が横たわっていた。
皆一様に顔に生気がない。それも当然だろう。もう二週間は水以外は摂取していないとなれば。
少年は力を振り絞って、辺りを見回す。もはや何人死んでいて何人生きているのか、それを知るすべすらない。そしてそんなことを知る余裕すらない。
口から音にもなっていないうめき声を発しながら、少年は残っていないはずの力を腕に込めて這って進んだ。数十センチさえ動くこともままならない。
長い長い永い、果てしない時間をかけて少年は目的の場所へとたどり着く、そこには三人の少年が同じく横たわっていた。
這ってきた少年はほとんど残っていない握力で、目前の三人の脈を測った。
生きている、非常に微弱だが脈がある。意識はとうの昔に切れているが体はまだ生きようと必死にもがいている。それに安心して少年の意識はまた深い闇の中へ――
『半数以上の生存を確認、実験を第二段階へ移項する』
手放すことさえ許されない、どこからか聞こえたその声、憎しみを原動力に少年は虚空を睨みつけた。
しかし次の瞬間、その行動すらも封じられる。
「!?がっ!ぐぁ――」
脳内を埋め尽くす圧倒的な痛みの信号。どこが痛いではない。まるで体が痛みそのものになっているのではないか。悲鳴すら上げられずのたうち回る気力もなく、度が過ぎた痛みはもはや熱となって彼の体を蹂躙していた。
部屋のあちこちですべての人間が全く同じ苦痛を味わっていた。うめき声が部屋を満たす。白目を向いて泡を吹く者もいる、耐え切れず舌を噛み切る者もいる。痛みの限界を超えたのか静かに笑い続ける者もいる。この状況を客観的に見ることのできたならば一言で形容できるだろう。
ここは地獄だった。
少年は自らの上にいる三人に手を伸ばした。激痛の余り意識を取り戻した彼らもまた同じように手を伸ばす。
「……生き、残、るん、だ」
誰が口にした言葉なのかもわからない。もしかしたら幻聴かもしれない、それでも確かに四人全員その言葉を聞いた。
――そうだ、生きてみんなで帰るんだ。
全身の感覚が麻痺してくる、それでも重ね合わせた手の感触だけは決して消えない。そのことがなんだか嬉しくて、こんな状況なのに幸福を感じる自分への滑稽さも合わさって、少年は少し笑った。
それが、彼の覚えている最後の記憶で、始まりの記憶だった。
一応終わりまで考えてますが、なかなか時間が取れないので、更新は遅くなります
お付き合いのほどをよろしくお願いします。