第1話-2 白銀のアラルカータ
校門を出て学校の近くにあるマンションに着いた。マンションの扉の前にあるセキュリティーシステムに金城は鞄からカードを取り出しスキャンして扉を開く。
「こっちよ」
さっきから思っていたがコイツ微妙に教室にいた時とキャラが違くないか。気のせいだと思いつつ、指示された通りに着いて行く。エレベーターを使って5階に降りて3号室の扉に立つ。玄関の前にあるセキュリティーシステムにまたカードをスキャンし、扉を開ける。
「はっ……!? ここってお前の家か!?」
「そうよ。遠慮せずに上がって頂戴」
「お邪魔します……」
玄関で靴を脱ぎ、リビングに連れて行かれ、椅子に座らせられる。教科書を入れた鞄はその辺の床に置く。
周りを見るとダンボールだらけでまだ引っ越してきたばかりで片付けられてないのが分かる。急に変な汗が流れ出てきた。僕はこれから何をされるか不安になってきた。
「コーヒー飲む?」
「はい。砂糖とミルクを入れてください。お願いします」
「分かったわ」
キッチンで金城はコーヒーを入れてくれている。ってこれは一体どんな状況だ。今日初めてあった転校生の家にお邪魔してるってどんな状況だ!?
「はい、コーヒー」
「ありがとうございます……」
金城は机の上にコーヒーが入ったマグカップを僕の目の前に置く。恐る恐る僕はコーヒーを口にする。
「アタシはアンタのサポートをするためにこの街に来たのよ」
「ぶっーー!!」
コーヒーを思わず吹き出す。突然の告白にどうしたらいいのか分からず黙ってしまう。
「単刀直入すぎたかしら」
「単刀直入すぎますよ!!」
「でも、それしか言いようがないわ。アンタにはないの? 契約者人格」
「……は? なんですか。それ……」
「寝てるなら起きた方が身の為ですよー。アタシがコイツの頭に風穴を開けるぞぉー」
金城の手に唐突に握られていた拳銃。引き金を引いて僕を射殺とする姿に驚く。
「ちょっ!? いつからそんなもの持っていたんだ!?」
「あれ? 見えるの? じゃあアンタは珍しいパターンの方なのね」
拳銃が光の粒子に変わって消える。手には何を持ってないことをアピールするかのようにグーとパーを繰り返す。
「珍しい方のパターン?」
「ええ。今、アンタはアタシの銃が見えたから間違いないわ。多分、アタシの契約紋も見えると思うわ」
金城はスカートの裾を両手でたくし上げ黒いレースのパンツが露わになる。いきなりの行為に頭が真っ白になりかけた。
「アタシが見せたいのはパンツじゃないわよ!! 太ももの方だから!! HENTAI野郎!!」
「どっちがHENTAIだっ!!」
「アンタよっ!!」
僕はパンツをなるべく見ないようにして太ももの方を見る。太ももに妙な印が描かれていた。描かれている部分は緑色に光っている。スカートを下ろしパンツを見えなくする。
「見えたでしょ」
「ああ、黒いレースの……」
「ち・が・う!! HENTAI!!」
思いっきり顔をグーパンされた。殴られた所がかなり痛い。
「……変な模様の線が緑色に光っていました」
「最初からそう言えばいいのに。これはアタシには見えないのよ」
そう言って金城は太ももを手で抑える。見えないっていうのはどういうことだ。この転校生、かなり電波だ。
「今、アタシの事を電波って言ったわよね?」
「あれ……口に出してました?」
「ええ」
いい笑顔でまた殴られた。金城は椅子に座り、僕と向かい合った。
「この太ももの印はアタシには見えないけど同じ契約者なら見えるの。アンタの場合はその右眼に刻まれてる」
「なんだかよく分からないんだけど……契約者ってなんですか」
「あーそういえば何かは言ってなかったわね。契約者っていうのは精霊と契約した者という意味よ」
「精霊と契約……そんなの僕はしてないよ」
「うーん……精霊と契約する時、精霊が願いをなんでも一つ叶えるの。けど、契約者は願った事を忘れてしまう。何故だと思う?」
聞かれても困る。一応、可能性だけを考えてみる。……三歩歩くと忘れるような奴だったらあり得るのではないか?
「そんな鳥頭だったらどうしようもないな……」
「何を考えたのか分からないけどもう答え言うわよ。答えはいたってシンプル。精霊によって叶えられた願いは世界の記憶を変えるからよ。世界の記憶そのものが変わったらそこに生きている人の記憶も変わる。アンタだって何か違和感を感じるんじゃないの?」
「まさか僕が今日感じてる違和感は……!?」
「願いの影響」
まさかこんな形で自分が感じていた違和感の真相が分かるとは思わなかった。というかこんな予想斜め上の話を信じるしかない自分が思ったより順応してることに気がつく。
「僕は何を願ったんだ?」
「さあ……。契約紋がある場所が願い事と関係しているっていう説もあるけどそれも定かじゃないからね。まあ、精霊に願ったならその代償を払わなければならない」
「代償を払う?」
代償とはなんなのか心して聞く。嫌な予感はやっぱり当たる。
「魔女が生み出す悪夢の魔物……ナイトメアを毎日倒さなければならない」
また電波な単語が飛び出て来た。僅か短い時間でこれまでに飛び出して来た言葉は『契約者人格』『契約者』『精霊』『魔女』『悪夢』。どれも空想でしか存在しないものだと思ったが僕自身が非日常に足を踏み入れるとは思わなかった。
「魔女……そんな存在がいるのか?」
「ええ。おとぎ話に出てくる魔女と能力は然程変わらないわ。アタシ達が契約した精霊と魔女は互いに対立していて1000年以上前から戦い続けているらしいの」
「戦っている?」
それから金城は魔女と精霊について長い説明をした。魔女は精霊と最初は友好関係にあったが魔力を補充するには人の悪夢を魔物化して『ナイトメア』を創り出しのが原因で喧嘩してしまったらしい。
悪夢の元となった夢の持ち主は退治されるまで目覚めないらしい。精霊だけでは対処が出来ないから人の願いを叶える代わりに魔女と戦うという宿命を契約者に背負わす。悪夢を倒すと『夢の雫』という飴に似たものが出て来てそれを毎日2粒食べないと契約者は契約違反で死んでしまうというルール。
「じゃあ、もし僕がその夢の雫とやらを今日食べなかったら……」
「契約違反で死ぬね。間違いないわ。だから、私がここにいる。万が一に備えてね」
血の気が一気に引いていったような気がした。もし、金城が今日という日に転校してこなかったら僕は死んでいたかもしれない。僕はすっかり冷えてしまったコーヒーを飲み干す。
「改めて自己紹介するわ。アタシは金城都姫。風の精霊と契約した者よ。気軽に都姫って読んでくれて構わないわ。それと丁寧語で喋らなくてもいい」
「僕は蒼葉晴翔。多分、昨日か今日に契約した新人だと思う。よろしく頼む」
お互い改めて自己紹介し、握手をする。金城……もとい都姫は椅子から立ち上がり僕が飲み終わったカップをキッチンに持って行った。
「まあ、大体話はこんくらいよ。後は実践あるのみ。いい感じの時間にもなって来たし、外に行きましょ」
僕も立ち上がってその辺に置いた鞄を拾って都姫と一緒に玄関から外に出て行く。