第1話-1 白銀のアラルカータ
僕は何かを忘れている。
何かが分からない。大抵忘れるとしたらくだらない事だけだった。
だけど、何かが変わった。僕の世界はその忘れている出来事のせいで360度変わった。それは確信している。思い出さなければならない。幼馴染の為にも。
違和感を感じたのは今朝、学校に行った時だった。友達の顔を見ても始めてというわけじゃないのに最初はソイツが誰なのかも分からなかった。本当に僕は普通の高校に通う高校生だったのか…。
考え事をしていたら、隣の席に座る幼馴染が驚いたような顔をして僕を見ていた。
「……!?」
何に驚いたのか分からなかったが他の奴とは違って幼馴染だけは声で認識できた。茶髪にショートヘア、左右の髪を少し結って三つ編みにして制服をちゃんと着こなしている。それとけっこう胸が大きい。銀縁眼鏡の向こうに見える瞳は空を映したようなスカイブルーで僕の事をちらちらと見る。
「は、晴翔……?」
「どうかしたのか、心愛?」
「あ、あのね、私ね、晴翔と一緒の高校に通えて凄く嬉しいよ!!」
嬉しそうな顔をして言うがまともに目を合わせようとしない、余所余所しい雰囲気を漂わす幼馴染の少女、天羽心愛。心愛とは長い付き合いで物心ついた時から一緒に遊んでいた。……はずなんだが、この記憶はどうもあやふやで昔の事を振り返ると霧がかかったような思い出し方しか出来ない。
物心ついた時から遊んだのは間違いないが、どう遊んだのかは分からない。それに今は二学期が始まったばかりだ。心愛の言い方はおかしい。まるで、今まで学校に通ってなかったような言い方で何かが引っかかる。
いつも通りの時刻に先生はやって来る。隣に金髪のツインテールの少女を連れて。二学期の夏休み後に転校生は珍しい。黒板に白いチョークで彼女の名前を書く。
『金城都姫』
それが彼女の名前みたいだった。
「では、自己紹介を」
「はぁい、先生☆かなしろみやびでーす☆よろしくねっ!!」
先生に指示されて転校生、金城都姫は敬礼に似たようなポーズをする。生徒達は皆、ポカーンと口をあんぐり開けている。もちろん、僕もだ。まさか、最初からこんなにキャラを濃くアピールする奴がいるのかと驚いた。
「ちょっとした理由で転校してきちゃいました☆」
「というわけだ」
どういうわけだ。担任教師はめんどくさがってそれ以上の説明をしない。
「席はそうだな……」
「せんせ、アタシねぇあの人の隣がいい!!」
金城は担任教師が席の事に悩んでる時に僕の横にいる心愛の席を指を指す。僕の席は窓の近くにあり、隣は心愛の座っている席しかない。
「……っては?」
何故、僕が指名されたのかわからない。突然の出来事により、思考が追いつかなかった。
「い、嫌!! 晴翔の隣の席は譲りません!!」
「まあ、そんな事を言わずに」
担任教師は嫌がっている心愛の意見を聞かずに金城の味方につく。クラスの皆は全員騒ついてる。転校生と晴翔はどんな関係なのか、金城と心愛どちらを応援するか、晴翔は何も言わないのかと小声で金城と心愛と僕の話題で持ちきりだった。
僕の隣の席を譲ろうとしない頑なな態度の心愛に折れたのか金城は『じゃあ、あの人の後ろの席で構いません』と言って座っていた僕の後ろの席に座っていた人を退かせて座った。空席が一つ用意されていたから退かされた人物がそこに座った。というか最初から空席に座って入れば良かったんじゃないか?
釈然としない気持ちのまま授業を受ける事になる。黒板に書かれる板書の内容をノートに書いていく。毎日こうしてノートを書いていたはずなのにそこにも違和感を感じてしまう。
昼休みになると金城の周りに女子達が集まる。どこかは来た?前の学校はどんななの?質問攻めに一個ずつ丁寧に明るく笑顔を絶やさないで答える。
「晴翔も転校生が気になるの?」
「少しだけな。心愛、一緒に屋上で弁当食べないか?」
「……!! よ、喜んでっ!!」
なんでそんなに心愛が嬉しそうな顔をするのか分からないが悪い気はしなかった。2人で屋上に行き、太陽の下で自分で作ったお弁当を食べる。
「はわわ……こうやって晴翔と一緒にお弁当を食べれるなんて夢みたい……」
「今までこうやって一緒に昼飯食っただろ?」
「あ……うん。そうだったね!! いつも一緒に食べてた」
顔が少し紅くなる心愛。僕たちはお弁当を食べ終わって片付ける。授業まで少しあるからちょっとの間横になった。心愛もつられて横に寝転ぶ。
「あったかいね……ふぁああ〜なんだか眠くなってきちゃった」
「僕も」
うとうととしてきて本格的に眠ってしまいそうになる。心愛との会話を続けないと眠ってしまいそうだ。
「なあ、心愛。手作りお菓子、今日は作ってこなかったのか?」
「ご、ごめんね。今日は忘れちゃった。晴翔は見かけによらず意外と甘党だよね」
「そうか? お前の作るお菓子がなんでも美味しいからつい食べちゃうんだよな」
心愛はお菓子作りが得意でいつも僕に作ってくれた。どれも美味しくて僕は心愛のお菓子に虜だった。市販のお菓子は心愛のお菓子ほどそれほど好きではない。今日は食べれないと思うと残念な気持ちだった。
「明日!! ぜったーいに作ってくるから楽しみにしてて!!」
「ああ……。もうそろそろ予鈴が鳴るな、教室に戻るか」
「うんっ!!」
心愛と一緒に教室に戻ってまた授業を受ける。放課後になって心愛と一緒に帰ろうと思って声をかけたら心愛は掃除当番だから一緒に帰れないとがっかりして渋々掃除をやり始めた。仕方なく1人で帰ろうとした時に金城に声をかけられた。
「話がある。一緒に来てもらうわよ」
半ば無理矢理連れて行かれた。僕が逃げないようにしっかりと腕を掴まれる。爪が肌に突き刺さって凄く痛い。
「いててててっ一緒に行くから手を離してくれ!!」
「本当に? ならいいわ」
金城は手を離し、前に進んでいく。仕方なく黙って金城の後ろについていく。目的がなんなのかはわからない。嫌な予感しかしなかった。