ゆるがないアコ
『ああぁぁぁ===っ!!』
アコはもう死ぬと思った。たった今の今、アコの住むS市をマンモスのジダンダのような地震が襲ったのだ。幼い頃、運動神経がカラッきしなかったアコは、体育の時間が苦痛で生きていたくないと思ったものだ。だが、今、地震による死を目前にしてアコは「死にたくない!」と強く思った。
それよりも何よりも、アコは、自分の部屋の飾り棚から乱れ落ちてくる、或いは壊れていく数々の小物たちを見るのが非常に辛かった。これらの中には、ネットオークションで競り勝った努力の結晶(?!)といっていい彼女にとっての貴重な品々も多く含まれていた。これらの彼女の所望品、アコの愛でている品々は彼女にとっての生活そのものでもあった。
そんな品々で占拠された(アコにとっては飾られた)部屋(彼女にとっては"お城")とでもいうべき彼女の部屋が、所望品の中の香水瓶が見事に割れどぎつい匂いを部屋中に放ちお城をいっそうグチャグチャなものにしていた。
明け方、寝床のアコは本棚などの家具たちにも殺されずに命拾いはしたというわけだ。
しかし、部屋の中はもはや"お城"から"ゴミ屋敷"に変貌していた。
アコは、「命は助かった!」という安堵感と、しかしお城がゴミ屋敷になってしまったという絶望感で複雑だった。
アコは変わり果てた部屋を見渡してみた。お城として見ていたこの部屋は一体何だったのだろうか。私にとって。命の他に大切なものなんて他にあるんだろうか。果たして。
小物が壊れたくらい何だっていうんだ。彼女は冷静に考えようと努めた。そこで、彼女の脳裏にこんな思いがふとよぎった。この私の所持品の中で私は何が一番大事なのだろうかと。数々のオークションをこなしていた彼女がこれまで考えたことがなかった事がなかったわけではなかったが、この状況での彼女の心にはその疑問は強く突き刺さった。
余震もおさまった。そろそろこの部屋を何とかしよう。アコは、散らかった部屋の片付けに取りかかった。
どこぞの銀行のフランス人形が象られた貯金箱。ある心暖かい方からオークションで譲ってもらったオルゴール。これらは無事だったが、オークションで手に入れたウエッジウッドのジャスパーの小物入れは無惨に棚から落ち割れてしまった。
そうだ。そこで彼女は目覚めた。私は、自分の"タカラ"と認識していたものをこんなにしげしげと見つめたことがあっただろうか。日頃の私はオークションや買い物にかまけてこれら一旦手に入れたものたちをナイガシロにしていたのではないか。自分で手にした事によってそれで満足していただけではないのか。
コレクションとはよくいうが、私の場合、何のポリシーもなくただ欲しいがままに手に入れていただけだ。コレクションの"コ"の字もないではないか。
しかし、アコは思った。でも、私が手にしたものはガラクタだらけかもしれない。他人にとっては。でもやっぱりこの部屋のものたちにはときめく自分がいるのも否定できないアコであった。
アコは、この地震が落ち着き部屋の片付けもひと段落するとまたネットオークション三昧になるだろう。
あの恐怖の死に怯えたひとときを忘れて。。懲りないアコ。
人は簡単に変われないということか。