最終回 第一話
光が、真っ赤な、熱い、重い、苦しい、体中がきしむ……。
……ん?
まぶしすぎてまぶたの上からでも光が目に痛い。
あまりに刺激が強かったので目が覚めた。
あれ?
と思ったら、まだおかしな夢の続きを見ていた。
さっきまでのはどちらかといえば悪夢の類だった、歩道を歩いていたはずの俺がトラックに轢かれるとかありえないし。
そして今俺は、おかしな白い空間に浮かんでいる。
これが明晰夢か、まるで起きている時みたいだな。
ふわふわ浮かんでいると結構楽しい。
夢の続きがまた夢か、と考えていたらいつのまにか直ぐ傍に誰かが居た。
そいつが神を名乗ったので、俺はその瞬間夢だと確信する。
神なんて居るわけねーだろ、常識的に考えて。
そしてそいつは
「お前は死ぬはずではなかったが、こちらの手違いで死なせてしまった。
お詫びに一つだけ、なんでも好きな能力を使えるようにしてから転生させてやろう」とか、上から目線で、内容的には謝っているのに相手を不愉快にさせるという素晴らしいテクニックを披露してくれた。
謝罪しているのか煽っているのか、どっちなのかはっきりしろ! と言いたい。
しかし、俺の夢の登場人物とはいえ酷いな、なんだこの頭のおかしい生き物は?
まじめに答えるのもばかばかしかったので、適当に
「じゃあ、何でも望んだものを具現化する能力をくれ」と願ったら
「それは、あまりにも願い事の範囲を逸脱している。
もう少し限定的な願いにするべきであろう」とか、今度はわけの分からない言い訳を開始しやがった。
どうせ夢の中の出来事だ、俺も普段は出来ないような強気な態度で
「最初になんでも好きな能力っていったのはそっちだろうが」と言いかえすと
「では、能力を制限する代わりに、転生先の世界を選択する自由を与えてやるのでそれで我慢するがいい」とか勝手に新しい条件を付け加える始末。
これが現実なら詐欺で訴えてやるところだ。
ほんとにおかしな夢だな。いや、夢だからこそおかしいのか?
俺はあれこれ考えるのも面倒だったので「OKOK」と流して、代わりに結構前にオンラインサービスが終了してしまった所為で遊べなくなった、構築要素が非常に秀逸なロボットゲームの世界を選ばせてもらう事にした。
いける世界を選べるなら俺的にはやっぱり此処だろう。
国は最後に傭兵として活躍していた砂漠の国を選択。
夢の中までスカッド((squad)他所のゲームで言うギルドの様な物。英語の意味としてはチームや分隊を指す)の仲間達が居てくれるとは思えないが、それでも思い入れがあったのでこの国にする。
そして肝心の能力のほうは熾烈な交渉の結果
「オンラインゲームの頃のガレージ機能と、そこにストックされている当時俺が保有していた全てのパーツセット(武器弾薬等消耗品は無限、ただし所持金消費)を利用可能」というかなり偏った物になった。
発動キーワードは「ガレージ」だ。
夢の中とはいえ、ゲームを楽しみたい俺にしてみれば、これだけは最低限どうしても必要なラインだったので絶対に譲れない。
誰かに迷惑がかかるわけでもないしな。
夢の中でぐらい、自分の好きなゲームをもう一度遊ばせてもらってもかまわないだろう。
ちなみに、このゲームはオンラインとオフラインが完全に独立しており、オフラインモードはオンラインへ参加する前の練習ステージの様な扱いだ。
オンラインサービスが終了した時点でオンラインモードにあった豊富なパーツ、構築したお気に入りのロボット達、資金、その全てが凍結され、ユーザー達はオフラインモードで弄れる練習用のわずかなパーツで昔を思い出してたまに一人で練習用ステージを遊ぶくらいしか出来なくなっていた。
ああ、夢とはいえ久々のオンラインモードか、わくわくするな。
そして俺は、途中で目が覚めて良いところで中断させられたら嫌だな、位の軽い気持ちで転生した。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「あるぇ~?」
蜃気楼が見える。
物凄く暑い、暑くて死にそうだ。
何で俺は砂漠に突っ立っているんだ?
夢にしてはあまりにリアルで、砂漠に手をおろしたら一瞬で火傷しそうになった。
「あっちぃ!?」
え? 夢だよな? 夢じゃないの? 何なの? 馬鹿なの?
俺の予定では、最後に構築した自分のお気に入りのロボットに乗った状態で始まる筈だった。
しかし、実際はこれだ。
生身とか砂漠の真ん中でありえねー。
混乱している間にも体は熱と砂漠の輻射で見る見る日焼けし、まるで軽い火傷の様な状態になってくる。
死ぬ、死ぬって、これ、俺が死ぬ!? マジでやばい!? このままでは何も出来ずにゲームオーバーだ。
夢とはいえあまりに理不尽すぎる。
たまらず、変な空間で交渉した記憶を頼りに「ガレージ!」と叫んでみた。
溺れる者は藁をも掴むのである。
フリーフォールで落下するような不思議な浮遊感に包まれた次の瞬間、俺は画面越しに何度も眺めた懐かしいガレージの中に立っていた。
「……し、死ぬかと思った」
さっきまでの砂漠とは違い、空調の効いた快適な空間に移動したことにより一気に気が抜けて両手両膝を床に付けて頭を垂れる。
床がひんやりとしていて気持ちがいい。
でも、瞬間移動とか、やっぱり夢だよな。
あんまりにも砂漠の暑さがリアルで一瞬現実かと思ったぜ。
ふぃー、明晰夢半端無いな。
あんの自称「神」め、とんでもないところに放り出しやがって、今度会ったら絶対ぶん殴ってやる。と誓い、心の中で自称「神」の顔にストレートパンチを一発お見舞いしておいた。
むしろ俺の夢の中なら俺こそが神だってーの。
瞬間移動の様な方法で入ったガレージの中には、俺がオンラインで最後に使用していた懐かしい機体が、こちらにコクピットを向ける形で整備エリアに収まっているのが見える。
それを発見した瞬間頬が緩んでしまい、長い間離れ離れになっていた可愛いわが子にようやく出会えたような抑えきれない衝動が俺を突き動かす。
思わず駆け寄って、子供のように「うおー!」とか「ほぉぉぉおおおお!」とか奇声をあげて跳ね回ってしまう。
「夢の中とはいえ再びお前に出会える日が来るとは! しかも凄い質感! まるで現実! ひゃっほう!」テンションがあがりすぎて、ボディをぺちぺちと叩きながら思わずそう叫んでいた。
俺の夢、良い仕事しやがるぜ……。流石俺!
こいつは戦闘能力は度外視で受け狙い用に作った一台で、見た目はまるきり戦車という、ロボゲーとしては一寸異様な見た目に仕上がっている。
戦闘MAP上のノンプレイヤーキャラクター(NPC)としてなら戦車も勿論居るのだが、プレイヤー機体(PC)として作ると、色々と欠点があり、通常作られることは無い。
まず普通の戦車に比べてサイズが明らかにでかくなる。
それも、普通の戦車が体積で1とするならPCの構築で無理やり作った戦車は10以上になってしまうのだ。
なので、被弾面積を小さくするとか、もっともらしい理由をつけたとしても結局は受け狙いにしかならない。
しかも、キャタピラータイプは足が遅いのだ。
敵に発見されると後は逃げようが無いので撃ち合いになるのだが、戦車型に収めようと構築するとどうしても外観重視になり火力不足になってしまう。
足が遅い上に火力がないのでスカッドの足を引っ張ってしまうのが一番痛い所だ。
いつまでこの夢の中に居られるのかは分からないが、まずは久々に構築を楽しませてもらおうと思う。
オンラインの時も皆、明らかに戦闘時間よりも構築にこそ時間を掛けていたというくらい、このゲームの構築は面白いし飽きが来ない。
というわけで早速、一人でも十分戦える構築を組み上げることにしようと思う。
別に戦車もどきに乗って観光でも良かったのだが、折角久々にこうやってオンラインモードを楽しめるなら、このゲームの主目的である戦闘もやっておきたい。
残念ながらスカッドのメンバーは俺の夢の中まで出張してきてくれなかったようだが、それならそれで汎用機を構築して一人でも戦えるMAPに突撃するだけだ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ガレージ内の操作はどうするんだ?
と思ったら、手の中に慣れ親しんだ感触が現れた、見えないがこれはゲームパッドに違いない。
その積もりで指を動かしたら目の前にゲーム画面が出てきて普通に操作出来てしまった。
流石夢だ、何でもありだな。
このゲームの構築は独特で、最低限、足回り、コクピットブロック、エンジンの3つのパーツが揃っていれば動かすことは可能となる。
ただし、それだけでは単なる動く的でしかないので実戦向けの構築はかなりのノウハウが必要だ。
敗北条件は次のうち一つ、ミッションごとの制限時間内に目標を達成できない場合と、参加している味方機体が全滅(コクピットブロックを全損すると歩兵モードに移行するが判定としては撃墜)、後は、敵味方双方の基地が必ずエリア内に一箇所設定されているのでそれを先に破壊された側が敗北となる。
つまり、構築する際は残り全てのパーツを犠牲にしても良いのでまずはコクピットブロックを守れるように構築する必要があるということだ。
そして、構築の際はジョイントと回転という概念を理解しないといけない。
それぞれのパーツには他のパーツと接続が可能なジョイント部分が1~6程度付いており、このジョイントはどのパーツとも完全互換なので互いのパーツが干渉しない限りはどのような繋げ方でも可能だ。
工夫すれば翼を広げた怪鳥の様な機体も作れるし、ひょろ長い棒の様な機体も作れる。
リブロッ○やレ○が好きな人間なら構築を始めると止められなくなるくらい構築の自由度が高い。
勿論、俺のように現実の戦車に良く似た機体も構築可能だ。
基本となる構築に必須の足回り、コクピットブロック、エンジン。この3つ以外のパーツも豊富にあり、接続のみを目的にしたパーツもあれば、冷却器、予備燃料タンク、レーダーユニット、レーダージャマー、サーモセンサー、スターライトスコープ、シールド、地雷センサー、ミサイルカウンターなどおよそ考えられる全ての種類のパーツがあり、それぞれに種類もあるので膨大な数のパーツが用意されている。
勿論、武器も充実していて爆弾投射器、地雷、パイルバンカー、迫撃砲、照明弾、煙幕弾、榴弾砲、キャノン砲、単装ロケット、多連装ロケットランチャー、スナイパーライフル、アサルトライフル、ショットガン、グレネードランチャー、マシンガン、特殊なところでは、超巨大砲やミサイルなども。
当然、装填する弾の種類も携行弾数も装備によっては変更可能だ。
更に、通常の武器ユニットはマウントフレームが六角形に規格化されていてどの武器も同じフレームの中にコアが納まっているので、前後の長さの違いは有るが接続という点ではどのパーツでも確実に繋ぐことができ、マウントフレームから飛び出した部分で他のパーツと干渉しない限り、真後ろを砲撃する武器や、真下を突き刺すようなパイルバンカーを装備するような運用も可能だ。
そして、コクピットブロックには特殊なスロットが用意されていて、これに制御カードを刺す事により目的に応じた個性を強調することが出来るようになっている。
カードにはメリットとデメリットが抱き合わせになっているので、反動制御を優先する代わりに旋回能力は捨てるとか、同時に発射できる武器数を増やす代わりに照準が甘くなるというような判断が必要だ。
そして、このゲームにはオンラインモードで3つの国が存在しており、その3つの国ごとにパーツに個性があり選択できる種類は更に増える。
足が速い(重量が軽い)代わりに装甲が極限まで削られている、重装甲で大火力だが足が遅い、なんにでも満遍なく平均点は取れるが突出したところが無い。といった様な国ごとの個性があるのだ。
実際のゲームはこの3つの国を渡り歩く傭兵の立場で行われる。
勿論、所属していない国の装備は滅多に手に入れる機会はないのだが、俺の場合はスカッドリーダーをしていた立場的な理由から、一般のメンバーとはプレイスタイルが若干異なり、新規隊員が何時入っても良いように、3つの国の全ての装備を常時10人分ガレージにストックしていた。
というのも、ゲームシステム的に最短でも1ヶ月は所属国を変えることが出来ないのと、オンラインでは必ずスカッドに所属しなければミッション自体に参加が出来なかったので、新規参入でオンラインに入ってきたメンバーは必ず最初の壁として所属国1つ分しか装備を手に入れることが出来ないという縛りがあるためだ。
しかし、そのままでは構築に制限が発生してしまい、実際の戦場では不利な戦闘を強いられてしまう。
そういった不都合をなくすため、俺はいつでも新規隊員が入った時に、相手が希望する場合は全ての国の装備を一式渡せるよう常時ストックを切らしたことが無い。
残念ながらオンラインサービス終了間際に繋いでいたような連中は、古参ばかりになってしまっていたので渡す機会自体が終盤は殆どなくなっていたが、まさか夢の中でその時の恩恵を受けることが出来るとは思わなかった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
今回の構築は、中・近距離用に大容量マガジン仕様のマシンガンを4連装、遠距離用にHEAT弾(対戦車榴弾(成形炸薬弾))を装填した大容量マガジン仕様のスナイパーライフルを3連装、これを発射制御にマシンガン4連は一斉発射、スナイパーライフルは個別で1丁ずつ発射できるように登録しておく。
制御系は反動制御優先で組み上げるが、マシンガンを4連同時発射するので命中精度はあまり期待できない。
足回りは反動制御に向いている逆間接の物を選び、その直ぐ上に小型のコクピットをジョイントで繋ぐ、コクピットの天井面のジョイントにはコクピットとほぼ同じ大きさのコンパクトなエンジンユニットを繋ぎ、回転させて向きを調整し、正面下方にジョイントが来るようにしてそこにシールドを装着しコクピットを防御する。
コクピットの後ろ側のジョイントには予備燃料タンクを繋ぎそのジョイントに冷却ユニットをシールド兼用として装着。
エンジンユニットの天井面のジョイントにはまずはじめに縦に3つスナイパーライフルを積み上げる。
これで六角形のフレームがきれいに3つ縦に並ぶ。
そしてその下二つの六角形の上側のジョイント左右にマシンガンをそれぞれつければマシンガン縦2丁で挟まれたスナイパーライフル3丁の出来上がりだ。
エンジンユニットの左右にジョイントが2つあるのでそこにもシールドをそれぞれ取り付ける。これで、最低限の汎用機が完成した。
見た目は、あーー、まあ、捨てているというか、武器のフレームが7個繋がっている所為で蜂の巣を上に積んだ四角い箱に鳥の足が生えたような、凄く実用的で美しい機体に仕上がっている。
実用的な物には機能美が宿る、つまり美しいはずだ、多分。
だせぇー。と言う声がどこかから聞こえた気がした。
後は、速度、重量、発熱量、航続距離(燃料)のバランスを計算しながら目的にあった調整をしていくのだが、今回はまだ何処へ出撃するかも決めていないのでとりあえず、テストも兼ねて先ほどの砂漠へといってみようと思う。
生身じゃないなら砂漠もどんとこい(死語)だ。
そこまで考えてふと、何か足りないことに気が付いた。
バランス確認用のテストモードは有る。
ガレージから出撃するコマンドも有る。
機体データの管理も有る。
機体構築のメニューも有る。
あれ? ミッション画面に行くボタンが……ねえーーーー!? あほかー!?
あの自称「神」まじで使えねー。これじゃあ、ミッション受けたくても受けようが無いじゃないか。
はー、まあ無い物は仕方が無い、MAPに戻ってロボの足で歩いてエリア移動するしかない。
徒歩での移動ってどのくらいかかるんだよ……。
念のため予備燃料タンクを一段階でかい物に交換し、追加でスターライトスコープを取り付けてから俺はMAPへと帰還した。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
砂漠へと戻り、MAP上に点在するレーダー中継器を自分の支配下に置きながら都市部へと向かう。
このレーダー中継器というものは破壊不能オブジェクトの一つで、支配下に置くと、一定範囲内の敵性戦力で移動中の物は自機のレーダー上に光点として表示されるようになるという便利施設なのだ。
手ごろな敵を見つけて試射をしたかったのだが、中々発見できない。
仕方が無いので、遠くに見える次に制圧する予定のレーダー中継器を狙って試射を行う。
そこで大変な事実が判明。
なんとなくここまでマシンガンのガンカメラを覗いて移動してきたのだが、コクピット視界に切り替えたら前が見えなかった!
何でこんなことに? と考えてみたらコクピットの前にシールドが来るように調整した記憶が。
しかし、ゲームの頃はその状態でも透視しているかのように正面が見えたはずなんだが、嫌なリアルさを導入してやがる。
流石自称「神」どこまでも俺の邪魔をする気だな。
ついでにもう一箇所ろくでもない変更がされていた。
TPS視点を備えていた筈なのにその機能がなくなっている。
なめとんのか……神ェ……。
これはかなり重要な機能で、ガンカメラからの視界というのは発砲炎と砲煙が多くなってくるとまともに見れた物じゃなくなるのだ。
特に連装マシンガンの場合は連射中はガンカメラが使い物にならないくらい酷い。
この仕様変更は許せないレベルだ……。
仕方が無いので再度ガレージを開き、コクピット視界を確保できるようにシールドの位置を調整した。
しかし、この所為で、コクピットの一部が露出して狙撃可能な状態になってしまう。
自称「神」は確実に俺を殺しに来ているようだ。
しばらく何も起こらず、ただひたすらレーダー中継器を制圧しては都市を目指す。
途中、何故か沢山の廃墟を通過するが、こんな地形ゲームの頃あっただろうか?
いや、それ以前に不思議なのが、NPCの自動攻撃兵器が生きていない。
先ほどステータス画面で確認したところ、今の俺は無所属扱い、つまり何処のスカッドにも所属していないフリーの傭兵という立場になっている。
普通のゲームなら、ああ、フリーなら冒険者ギルドにでも行ってどこかに所属しよう~みたいなノリなんだろうが、このゲームは違う。
自軍に所属していない物はすなわち敵、という扱いなのだ。
じゃあ、傭兵は最初どうやって国に所属するんだ? と疑問に思うだろう。
それは、傭兵は傭兵で巨大な組織を作っており、そこからの派遣という形で各国へと傭兵は所属先を変えるようになっているのだ。
なので、このゲームでは基本的にフリーの傭兵という存在は居ないことになっている。
極一部、例外として存在するのは訓練期間中のまだ戦場に出られない傭兵見習い達がもしかするとフリーの傭兵に該当するのかもしれない。
ゲームとしてはオフラインモードの前半部分がそれに相当する。
つまり、今の俺は、システム的には全ての国に敵対する敵性勢力扱いになってしまっている筈なのだ。
まあ、夢だから別に良いんだけど、あの自称「神」の奴どこまでも最悪だな。
俺を殺す気満々としか思えない。
最初は砂漠に放り出し、次は所属抹消かよ、やることえげつないぜ。
だが、おかしい、その流れなら今頃俺は正規軍と傭兵の混成部隊に包囲されて絶望的な戦いを繰り広げている筈じゃないのか?
自称「神」の方で何か手違いでもあったのかね。
とりあえず、俺は最初に出会った相手には丁寧にHEAT弾で挨拶しようと決めて砂漠をいそいそと進んだ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
街道方面から我々の村へと接近するならず者達の大規模な集団を発見した。と見張りに出ていた若い衆から連絡があった。
敵の構成は不明だが少なくとも歩行戦車は含まれて居たらしい。
そうすると、敵はあと1時間もしないうちに村へと到着するだろう。
しかし、この村に有る自衛用の武器はといえば、年代物のライフルが数丁だけというありさまだ。
それに対してならず者達は数世代前の物とはいえ歩行戦車を含む強力な装備の数々を揃えている筈。
普通に相手をすればライフル程度では足止めも出来ないだろう。
せめて此方にも歩行戦車が有れば……。
勿論ただの村に歩行戦車のような兵器が配備されている筈も無い。
そして、残念ながら救援も来ない事はわかっている。
なぜなら国家も、そして軍隊も既になくなってしまったからだ。
数年前、何かの冗談のように突然国家とその軍隊、そして傭兵達が消えてしまった。
どこかへ行ったとかそういう話ではなく、まるで風に飛ばされる砂煙のように何も残さず消滅してしまったのだ。
国家の場合は首都が丸ごと更地になった。
軍隊は兵士と装備品が消滅、傭兵達はまるで最初から居なかったかのように。
普通なら、その隙を狙って戦争状態だった隣国が攻めてくるはずなのだが、風の噂ではこの異変はわが国だけで起こった物では無かったようだ。
その一点だけを見るなら戦争を回避できたことは喜ばしい。
だが、恐ろしいことに、異変はそれだけでは済まなかった。
その日を境に近代兵器の内、最新に近い物全てが動作しなくなってしまったのだ。
最悪なことに、元から数世代前の劣悪な装備を使用していたゲリラ達や盗賊達はその影響を殆ど受けず、異変発生から数年のうちに大多数の都市や町が滅ぼされるか支配下に置かれてしまった。
この村は辺境にあったおかげで奴らにとってもあまり旨みが無かったのだろう。
今日までは戦火から逃れることが出来ていたが、都市部を奪いつくしたのか、とうとう奴らはやってきた。
どうやら我々の村も此処までのようだ。
せめて女子供達だけでも逃がす時間を稼がなければ……。
絶望的な状況に負けそうになる心を奮い起こし、村の自警団を集め、村の入り口にバリケードの作成と、抜け道から女子供達を逃がすよう指示をする。
ついでに、地面をわざと数箇所掘り返して鍋等の金物を放り込んでから埋め戻させておく。
これは、敵に地雷が埋まっていると勘違いさせるための仕掛けだ。
正直効果があるかは微妙だが、時間稼ぎの一つになってくれればそれで良い。
女子供達は、運よく村を逃げ出せたとしてもこの先未来はないだろう。
だが、ここで大人しく破滅を待つよりは自分達で死ぬ場所を選べるほうがまだましに違いない。
……時間だ、バリケードを少しでも長持ちさせるために戦おう。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
まったく敵に出会わずただ砂漠を歩き続けているだけで、予備燃料タンク内の燃料が半分を切ってしまった。
この先もまさか敵が居ないんじゃないだろうな? と不安になる一方で、敵の居ない今のうちに燃料タンクを交換するか? と悩んで居たら、前方、かなり遠くだが発砲炎と、何かの輝き……多分爆発が見えた。
ようやく、此処に来てはじめての敵とのご対面だ。腕が鳴るぜ。
このゲームの凝っている所の一つに、武器ごとで個別の有効射程が設定されているというのがある。
実際には射程より遥か遠くからでも当てることは出来るし、当たりさえすればダメージ判定も有るのだが。
じゃあ、何のために有効射程なんて物が武器ごとに有るのか。といえば、スコープを覗いた時に見える照準(武器種によってクロスゲージだったり距離のみのシンプルな物等色々)で正確に当てられる距離であったり、カタログスペックどおりのダメージを出せる距離であったりする。
そして、ゲームシステムに素敵な物理演算システムが入っている所為で弾道が自然環境によりかなり左右されてしまう。
重力の影響と風の向きは最低でも考慮しないと獲物に弾を当てること自体がまず無理なのだ。
勿論、相手も動くし自分も動くのだから予測射撃は当然のように行わなければいけない。
だが、慣れてくれば逆に、榴弾砲なんかはスコープを覗かなくてもTPSモードでなんとなく着弾位置が分かるようになってくるので、そうなれば有効射程云々は殆ど関係なくなってしまう。
相手の姿がシルエットでもいいので見える距離にくれば当てること自体は可能なのだ。
そして、今回準備してきたのは榴弾砲ではないが、スナイパーライフルと装填しているのは距離の影響を受けないHEAT弾……。
先制攻撃可能な状況での超長距離からの狙撃になるので一旦足を完全に止めてスコープを覗く。
照準線、シンプルなクロスゲージの先に見える、発砲炎が見えた場所には歩行戦車(自分達の乗る機体はこれの発展系)が居た。
姿かたちは四角い箱に鳥の脚が生えた……俺の機体から上半分を削り取ったような形だ。
何故かそいつは足を止めて近くの民家オブジェクトを撃っていた。
……何をやってるんだこいつは?
このゲームでは、木、橋、住居、柵等、壊せそうに見えるオブジェクトは大抵壊すことが出来る。
此処に来る途中、何故かやたらと廃墟が多かった訳はこいつの所為か……。
NPCが異常動作してフィールドオブジェクトを壊して回っているのか?
本来NPCが積極的に破壊可能オブジェクトを壊して回るということは無い。
こんな所にも自称「神」が勝手にゲームの仕様を変えた影響が出てるのかと少しうんざりする。
遥か遠くに居るそいつに向けてスナイパーライフルの弾を、心臓の鼓動一回よりも短い間にヘッドショット(コクピット狙い)で3発とも叩き込んでやる。
ちなみに、ヘッドショットを狙うのはそれに意味が有るからだ。
機体構築の際、コクピットブロックが弱点になるので最優先で防御せよと説明したが、それは敵の場合も一緒で、ヘッドショットを決めると大ダメージを与えることが出来る仕様になっている。
とりあえずこれは、挨拶代わりなので別に当てる必要は無い。
だが、わざわざ足を止めてくれている相手に外してやるつもりも無いがな。
敵味方、お互いに共通して言える事だが、一旦完全に足を止めてしまうと初動まで少しのラグが発生する。
つまり、今からでは敵はよけることが出来ない。
撃った瞬間に既に当たっているような物だ。
これからお邪魔しますよ、という意思表示のつもりなので遠慮せずに受け取ってほしい。
細部まで見える距離ではないが、敵は国境警備とかで使われていた筈の一番貧弱な歩行戦車だろう。
ゲーム的な分類で言えば4番目の雑魚だ。
ちなみに、一番は歩兵(よーっく見ないと分からないくらい小さいが、隠れてチクチクと攻撃してくる)で二番は戦車で三番はホバー戦車になる。
おっと、相手は運が無かったようだ、3発中3発、つまり全てをコクピットに食らって大爆発してしまった。
さて、此処から見えたのはあの一機だけだったので、近づかないと何が起きているのかも本当には分からない。
単に異常動作を起こしたNPCだったのか、それとも何かのイベントの一部だったのか、出来れば後者を期待したいところではある。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
先行して偵察に来たのか、それとも逃げる村人を遊び半分でいたぶりに来たのか、一機の歩行戦車が村の入り口から少し離れた場所で発砲を繰り返している。
その砲撃は村のみんなの思い出が詰まった住居を容赦なく撃ち抜き破壊していく。
理不尽な仕打ちに対して目に涙が浮かぶ。
悔しい、憎い、反撃の手段が無いのが辛い。
そんな歩行戦車だが、たまに何も無い地面を撃っている。
時間稼ぎのため地面に埋められた鍋を地雷と勘違いしているのだろう。
おかげで村には入って来れないらしく、今はまだ死人も出ていない、しかしこのままではそれも時間の問題だ。
幸いなことに女子供達は稼いだ時間を使って抜け道から無事逃げ出せた。
歩行戦車の様子を眺めながら、土木工事用のダイナマイトを握り締め、奴が油断して村の入り口近くに寄ってきたら、その脚にダイナマイトを抱えてしがみついて自爆してやると闘志を燃やす。
その時、思っても居ない出来事が起こった。
突然、歩行戦車がのけぞったかと思うと、四角い胴体部分を爆散させて吹き飛んだのだ。
それに続いて村を襲いに来た敵とは別の方角から地面を揺らす振動と、凄まじい駆動音が聞こえてくる。
これは……。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
先ほど撃破した歩行戦車の残骸が何故か目に見える形で残っている。
壊された雑魚キャラは爆発の後は消滅するはずなんだが、変だな?
まあ、この方が雰囲気は出るか。
この点だけは良い仕様変更だと認めよう。
全然反撃が無いので、もしかすると敵が一機だけだったなんて落ちじゃないだろうな? と不安を感じ始めたところ、少し遠くの街道先から団体さんがやってくるのが見えた。
近距離レーダーに映るだけでも20以上居て今も増えていやがる。
編成は、戦車とホバー戦車が殆どだが、先ほど倒した歩行戦車の同型機以外にも四脚や少し世代の進んだ歩行戦車も混じっている。
おかしい、おかし過ぎるよ。
MAP全体でこの数なら全然ありなんだが、一箇所に大量に敵が集まって襲い掛かってくるなんて初めての経験だ。
やっぱり自称「神」の嫌がらせだったか……。
まあいい、結構長い時間遊ばせてもらったし、そろそろ流石に目が覚めてしまうだろう。
最後にでかい花火でも打ち上げてやるさ。
出来れば自称「神」に右ストレートをぶち込んでやりたかったが、それは又の機会かな。
さあ、行くぞ俺の相棒。
まずは、先行してる奴らをスナイパーライフルでぶち抜いてやる。
早速敵もやる気な様子で、何台か居る四脚は榴弾砲を盛大に空へと撃ち上げていた。
榴弾砲は山なりの弾道を取るので着弾まで時間がかかるのがネックだよな。
着弾予想地点から全速で移動を開始するが、相手がへたくそな所為で逆に着弾地点がばらけていて全てを回避することが出来ない。
とりあえず、榴弾砲は範囲攻撃判定が有るのと、直接当たらなくても衝撃でこちらの照準がずれてしまうのがウザイから先に始末させてもらおう。
くそ、こんなに敵の数が多いと分かっていたなら、こっちも範囲攻撃兵器で構築してきたのに。
敵の構成的に軽装甲の物ばかりなので、多連装ロケットの釣瓶打ちとか、曲射を長距離から徹底的に叩き込めばそれだけであっさり片が付きそうな気がする。
まあ、少しくらいは縛りがあったほうが緊張感があって良いか。
先行していた足の速いホバー戦車を狙って発砲、次の瞬間ホバー戦車はHEAT弾に貫かれて四散する。
明らかなオーバーキルだが、中途半端に生き残られるのが一番邪魔なのでこれで良い。
スナイパーライフルがオートリロード中で使えなくなったので、次は四連装マシンガンで中距離を維持しながらの攻撃だ。
足を使って敵集団を中心に反時計回りに移動する。
建物を遮蔽に使ってもよかったのだが、それよりも機体が建物に引っかかって足が止まるほうがまずいと判断して開けた場所へと向かう。
破壊した残骸が敵の足を止め距離を一定に保つように、ついでに、敵がお互いを射線に入れてフレンドリーファイアを誘発するように自分の位置を調整。
まずは、うるさい四脚を黙らせることにする。
ここからは削りあいになるので相手側に数が揃っているのが非常に厄介だ。
元々は近距離兵器に分類されるマシンガンだが、連射性能と4本を束ねて密度を上げている所為もあり、中距離からの射撃とはいえ一機辺り2秒も撃ちつづければきれいに吹き飛んでくれる。
そもそも、相手側が馬鹿みたいに多いので狙って撃たなくても勝手に敵のほうが当たってくれているような状況だ。
だが、数が多いということは当然敵の方が一回に発射できる武器の数も多いということなので、俺も無傷ではいられない。
最初の榴弾砲で足回りを少し削られたのは仕方が無いとしても、飛んでくる大量の散弾とマシンガンの弾がガリガリと正面装甲を削っていく。
一番まずいのは視界確保のために今の俺の機体にはコクピット正面方向にわずかだが隙間が有る状態なのだ。
偶然隙間からコクピットに弾が飛び込んできたりすると洒落にならない。
それを防ぐためにも常に動き続ける。
そして、リロードが完了したら適当にスナイパーライフルを使い、空いている時間はマシンガンの弾をばら撒く。
やってることはこれだけだ。
勿論、敵も一方的に撃たれているわけではないので着弾の衝撃が俺の機体を小刻みな振動で揺らす。
相手がNPCなのは少し残念だが、これだけ数が多いとPCよりも手ごわいかもしれない。
夢の中とはいえ、俺も熱くなって来ましたよ。
開戦からまだ一分も経っていないだろうに、機体全体の装甲値は既に半分を切っている。
正面装甲なんて、もう役に立たない位ボロボロだ。
ただ、此方も手当たり次第に撃ちまくったおかげで、見える範囲に無傷の敵は存在しないし、半分以上は沈めてやった。
こちらも冷却器が吹き飛んでしまったようでオーバーヒートが近い。
まあ最後は相打ちになるかもしれないが、少なくとも今の調子なら負けることは無さそうだ。
やっぱり最後は盛り上がらなくちゃな、俺の夢最高!
途中で目が覚めるとかは無しにしてくれよ?
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
突然現れた所属不明機(所属を示すエンブレムが付いていない!)は、歩行戦車を破壊した後、村を背にならず者の集団と激しい撃ち合いを始めた。
……味方してくれるのか?
当初考えていたよりも遥かに多い敵の集団に、突然現れた謎の所属不明機も苦戦するが、恐ろしい性能を発揮し次々と敵を破壊していく。
機体性能も凄まじいが、戦場を自分の有利な形へと変えていくその戦い方を見ていればパイロットも戦いなれているのが良く分かる。
強力な3門の大口径砲と4連装の対歩行戦車用マシンガンの響かせる爆音といって差し支えない発射音、それに発砲炎が凄まじい。
音だけでも体を殴られているかのような振動が響いてくる。
最初に敵が発射してきた着弾と同時に大爆発を起こす大砲のようなもののおかげで村の何軒かの住宅が半壊してしまった。
所属不明機は、村への被害を避けるためなのか、反時計回りに移動を続け、その間めまぐるしく武器を切り替えながら戦い続ける。
時間にしてどれくらいたったのだろう?
何時間も経ったような、ほんの数分だったような、奇妙で衝撃的な時間が過ぎた後、気が付いたら敵の集団は壊滅していた。
所属不明機は、オーバーヒートを強制的にキャンセルして砲撃を続けていたようだ。
戦闘終了後しばらくして大量の煙を上げたかと思うとそのまま爆発してしまった。
結局その正体は分からなかったが、その行動が村を救ってくれたことは間違いない。
ありがとう、名も知らぬ勇者よ。
そして、この正体不明の救い主を遣わしてくださった神に感謝をささげよう。
「神よ感謝します!」
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
目を開くと又あの白い空間だった。
俺の傍には奴の気配が……。
振り向くと、丁度奴が何かを言おうとして口を開いた所だった。
「ま」
だが俺にそれを待ってやる義理も理由もない。
「くらえっ、右ストレーーーーーート!!!!」
グシャっと言う良い音を立てて渾身の右ストレートが奴の油断しきった頬に炸裂する。
「たギャワー!?」
おしまい(色々な意味で)




