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Snow rabbit  作者: 神楽の蔓
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見えなくなった息の先に

「じゃあな。二人とも風邪を引かないようにね……それと、たまに新聞を見るように」

「ああ」

「ルイさんもお大事に。もちろん、これからも」

 コリー・バーンの作ったポンチョを大切そうに抱きかかえたルイはにっこりと満面の笑みでもちろんだと胸を張って見せる。少女の姿でも身体は強い、とやけに自慢がある様子だったが、汽笛が鳴ると列車の時間だ、といってきびすを返して行ってしまった。

「忙しないねえ……というか、僕驚いたよ」

「なにがだい?」

「ちゃんとルイさんの迎えがいたこと。いや、女王がいないなんて許されるわけもないんだけど、北部支部の人に任せると思っていたから、中央の役人が来るとは思ってなかったよ」

 エリシアはシルヴァの言葉に納得したようにうなずくと、ワルキュアに帰ってくるなり暑さにやられてしまったヒューイとコートを抱えてセラド行きの列車に乗り込んだ。シルヴァも続けて乗り込むと指定の席まで歩いていく。行きと同じ個室の向かい席に座り、二人は落ち着いて息を吐いた。

 シルヴァの快復を待って行われたあの逮捕劇から更に三日、当初は北部支部がするかに思えたコロネリの護送は中央の役人によって行われていた。証人として更に三人の兵士と支部長を伴っての護送はそれなりの人数になってしまったが、中央の役人は慌てた様子もなく事務にあたっていた。

「それもルイの計算のうちだったのだから、別にいいだろう」

「それだったら僕たちがいかなくてもよかったように思うけど」

「ルイとしては他の王族に頼るのが嫌だったのだろう。王政とはいえ、彼女より年上の血族などたくさんいるし、目の上のたんこぶに弱みは見せられないからな」

「それもわかるけど……けど、やっぱり隠れ蓑に利用されたんだよね」

 ルイが初対面のシルヴァも巻き込んだのも、エリシアの友人という以上に情報の漏洩を恐れてのことだったと、シルヴァは思い至りため息を吐く。それに連絡手段は不明だが、あの中央の役人を手配したのもルイならば、完全にダシに使われたことになる。しかも危険な目に合わせることも前提で連れて行ったのだ、他でもないエリシアを。

 過ぎたことは仕方がないにしても切ない、とシルヴァはもう一度ため息を吐き出した。

「でもエリシアはそれでいいの? 王家のこと、嫌いじゃなかったっけ?」

「あまり関わり合いにはなりたくないね。けれどルイは私にとって姉のようなものだし、本当に困っているのなら、できるだけ手を貸したいんだ……まあ、君に怪我をさせる結果になった時は、本当に後悔したがね」

「それはいいけど」

 シルヴァとしては、してしまった怪我も仕方がない。それよりも、失ったものが大きいことのほうが重大だった。

 当初、コロネリの護送にはワグナー伯爵も参考人として召喚する運びとなっていた。伯爵の精神はほとんど壊れていたが、疑いがあるのならばせめて取り調べなければならなかった。だからとシルヴァたちも伯爵の所在を案じていたが、中央から来た役人たちはすぐさまそれらしい遺体を見つけた。

 廊下に転がる他のいくつかの死体に混じって銀貨を握り締める男性の遺体を。ほぼダルマ状態のその遺体は問いただすとすぐに、コロネリが殺したのだといった。最後の望みだと。

首を切ったのがコロネリの趣味だとすればとんでもない悪趣味だが、一重にそう捉えることもできずに、シルヴァとしては小さなわだかまりとなっている。

「悔しいけど、せめてこれからも引っ張りまわされなければいいねえ」

「大丈夫だろう。メイスが閉じられた町などといわせん、と息巻いていたし、当分はそちらで手一杯だろうさ」

「そうだといいね。寒暖の差も大きくて、今回は本当に疲れたし」

 暖かいワルキュアの空気に、不意にシルヴァの瞼が重くなる。実際、働きづめのような状況におかれ、しかも怪我をしたこともあり、シルヴァの体力もかなり落ちていた。エリシアにしてもルイの代わりに王族の人間を演じていたため、慣れないことに精神的にもかなりきていた。

 ヒューイはとっくに寝ている、というのが、また二人の眠気を誘う。移動中にもかかわらず家にいるような安心感がつきまとうのだ。

「シヴァ、そっちにいってもいいかい?」

「え? うん、いいよ」

 二人がけイスの真ん中に座っていたシルヴァが席の窓側に移動すると、ヒューイを抱えたエリシアが空いた横に座る。そのままこてりと頭をシルヴァの肩口にもたれかけさせ、ことさら安心したように、静かに目を閉じていく。

「おやすみ、エリシア」

 こっそりと囁き、シルヴァもまどろむ。その先に、夏の太陽に溶かされていく雪の町が思い出されて、胸中の隅で小さく、メイスの幸せを願った。

 夏の陽気は場所に関係なく降り注いでいた。

あとがき 


 拙作を最後までお読んでいただき、ありがとうございます。

 あらすじにて説明したように、この作品は大学の課題として書いたものです。締切が決まっていて、私としては大変珍しく早めに書き上げました。その分スピードに任せたので、おかしな点などたくさんあると思います。設定過多なのに枚数は限られてる……ので色々削りました。そのせいで見にくい点もあろうかと思います。


 実はこの作品で一番困ったのが村の名前です。困りきって「メイス」にしましたが……武器かよ、と思わず突っ込みました。友人にも突っ込まれました。皆さまも突っ込んでくれたら私は嬉しいです。


 あとがきとも言えませんが、改めまして、この拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

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