祥子
そこには燦々と照らす朝日があるはずだ。祥子は全身で感じていた。こちらが東、朝の力強い陽射しが差す側。今では自分がそちらに少しく身体をもたげて生えているのを感じる。毎朝くりかえしそちら側に気がいってしまうのである。そうして今も、野原の草はみな揃って、朝日を求めてからだを傾げていた。
こんな夏の日に暖まりすぎると具合が悪い。下の方(人であったとき、庭先の砂利の間から生えたタンポポの仲間を抜きながら、ま、まるでゴボウみたいな根、などと思ったものだ。それ、その根っこ、だ)からぐつぐつと具合が悪くなる。それでも動くことが叶わないことに、なぜかはじめから慣れている。自分が間違いなく、あの日土手で望んだように草になったのだと、全身が理解していた。
あなた、ちょっとあなた。無遠慮に割り込む声がする。せっかくこんな身分になったのに一体なんだと、祥子はいやいや耳をそばだてた。その瞬間、生温い液体が全身を覆い、妙に苦しくなった。満足げな犬がはふはふと息を切らして顔を寄せてくる。オシッコをかけられたんだわ!祥子は身震いしながら妙なものが這い上がるのを感じていた。
そのうち慣れるから。変わらず遠慮のない声が介入する。こういうのが嫌で草になったのに。祥子は憤慨する。マンション住まいをしていた時、ゴミを出す度にかならずこういう婦人に出くわした。親切そうにじろじろと人のゴミ袋を透かすように見て、今日は資源ゴミじゃないのよ、とか、一軒で三袋までなのよ、とか親切めかして言う。同じではないか。こんな植物があるとは。祥子はじっと身構えた。