会心率が死ぬほど低いけど会心ダメージが鬼のように高いダウナーギャルの宗像さんが俺に会心の一撃を入れようとしてくる
「会心率が……低すぎる!」
昼休み。
俺こと穂村 優人は隣に座る少女のスマホの画面を覗きこみながら某楽天の懐かしい広告よろしくそう言い放った。ところで今これを知っている人はどれだけいるんだろうか?
「はぁー? 会心ダメージは高ければ高いほど良いよってアンタが言ったんじゃん」
隣に座る少女、宗像氷織が気だるげな目つきでこちらをジロリと見つめてくる。
パッと見怖いが別に彼女は怒っているわけではない。彼女にとってはこれが平常運転なので俺は動じずに会話を続けた。
「いやまぁ確かに言ったよ? でも会心ダメージ400%で会心率5%は流石にやりすぎだよ。会心率5%っていったらデフォルトの確率だから1%も上げずに会心ダメージに全部極振りってことよ? ……あれ? 逆にコレって結構凄くないか? そうかな? そうかも」
俺が顎に手を当ててウンウン唸っていると宗像さんが俯いた。
「……せっかく厳選頑張ったのに」
そうポツリとこぼした彼女の顔は暗い。
こんな悲しそうな顔は"あの時"以来だ。
「ま、まぁでも俺も手伝うからさ! また厳選頑張ろうよ! ね?」
「……ん」
慌てて俺がフォローすると宗像さんが小さく頷く。
良かった。なんとか元気になったようだ。
俺は安堵の溜息を吐いてから彼女の横顔をジッと見つめる。
パッと見は怖いがよく見ると幼さの残る可愛い顔立ちをしている。
視線を感じたのだろう。
彼女がこちらを見て少し顔を赤らめた。
「……なに? 人の顔ジロジロ見て」
「別になんもないよ。今日も可愛いなと思って」
「っ!? な!? かわ!? え!? は!?」
あ、凄い。
耳まで真っ赤になってる。
なんだこの生き物面白いな。
「わはは。セイセイ落ち着いて、嘘嘘、冗談だよ宗像さん」
「……よし表出ろ。ウチ軽音部だからさ。アンタの顔面で演奏してやるよ。もちろんグーでな」
「だから冗談ですやん姉さん」
プンプン怒る宗像さんをなだめながら俺はつい数週間前にあったことを思い出していた。
◇
「……ない」
放課後。
俺が自分の机で帰り支度をしているとそんな声が背後から聞こえてきた。
振り向けば銀髪黒マスクの少女が自身のポケットをまさぐり何かを探している。
すでに教室にいた生徒達はほとんど帰ってしまい、もう俺たちの他には数人しか残っていない。
俺はその少女に声をかけるべきか少し迷ったが、結局声をかけることにした。
「何か無くしたの?」
少女がこちらをギロッと見る。
鋭い目つきだ。
他の生徒達なら威圧されてさっさと帰ってしまうところだろうが俺は気にせず再び話しかけた。
「俺も一緒に探そうか?」
「……いい。自分で探すから」
ぶっきらぼうに、そして気怠げにそう言い放つその少女の名前を俺は知っている
彼女の名前は宗像 氷織。
俺のクラスメイトであり、そして俺の後ろの席の生徒でもある。
彼女はいつも不機嫌そうな顔をしていて教室では1人でいることが多い。
もちろん俺も今まで話したことはない。強いてした会話と言えばプリントを渡す時の「はいどーぞ」「ん」くらいのものだ。
だが俺はそんな彼女に常日頃からある種の親近感のようなものを抱いていた。
そう、彼女も俺と同じ日陰者なのだ。
だからなのかもしれない。
「俺も探すよ」
気付いたらそんな言葉が口から出ていた。
彼女は一瞬面食らったようにこちらを見た後、すぐに視線をそらし面倒くさそうに溜息を吐く。
そして数秒後、再びギロッとこちらに視線をよこすと小さい声で言った。
「……御守り」
「ん?」
「御守りを無くしたの」
「あー」
「昔、死んだおじいちゃんからもらったやつ」
そう言った後、宗像さんが少し寂しそうな表情を浮かべた。
ような気がした。
黒マスクであまり顔が見えないので仕方ないね。
まぁでも、なるほど。
それは確かに彼女にとって大切な物だろう。
俺たちはしばらく教室内を探し回った。
が、いくら探しても見つからなかったので俺は彼女にたずねる。
「そーいえば最後にその御守りを見たのはいつなの?」
「……確か、昼休みトイレに行った時にハンカチ出して」
「いや絶対それじゃん。すぐ行こう今すぐ行こう」
「っ!? ちょ、引っ張んな!」
そんなわけで、来なくていいという宗像さんの言葉を無視しながら俺たちは女子トイレの前まで移動した。そしてそのまま女子トイレにズンズン入っていこうとする俺の襟首を宗像さんが凄い力で掴む。
「ぐぇー」
「何サラッと入ろうとしてんだよ。変態かっつの」
言われてみれば確かにそうだ。
俺は名残惜しい気持ちを抑えながら女子トイレに入っていく宗像さんの背中に手を振った。
数分後。
「なかった」
トイレから出てきた宗像さんが開口1番そう言った。
それを聞いて俺は肩を落とす。
「……そっかぁ」
なんとなく見つかるだろうと思っていただけに落胆の気持ちもそれなりに大きい。
俺が俯いていると額を指で軽く弾かれた。
「いて」
「ありがと。もういいよ」
驚いて彼女のほうを見る。
彼女の目元は少しだけ笑っていた。
「もう探さなくて大丈夫だから。うん、もう諦めた。……じゃあウチ今から部活だから。またね」
そう言って宗像さんは階段のほうに歩いていく。
彼女の背中が見えなくなり、少ししてから俺は全身を使って大きな伸びをした。
彼女がああ言った以上、俺にできることはない。
「……帰るか」
そんな俺の独り言は上の階から聞こえる軽音部の演奏と外でけたたましく鳴いているセミの声にかき消された。
「はいこれ」
次の日。
いつものように不機嫌そうな顔で座っている宗像さんに俺はひとつの御守りを差し出した。
「……は?」
宗像さんは今までに見たことないくらい目を大きく見開き、俺と御守りを交互に見つめてくる。
おいおい、そんなに目を大きくしたら昔の少女漫画のキャラみたいになっちゃうぞ。あいつら目の大きさが顔の3分の1くらいあるからな。
「あれ? もしかしてこれ宗像さんのじゃなかった?」
だとしたら困る。
急いで元の場所に戻してこないといけない。
なんかの呪物だったら怖いもん。
「……いやウチのだけど。……けどなんで? 昨日もう探さなくていいってウチ言ったよね?」
そう言う宗像さんの声は少しだけ震えている。
彼女の目元に浮かぶ透明な雫を俺はあえて見ないように視線を逸らした。
「言ってたね」
「……じゃあなんで」
「だって大切なものなんでしょ?」
俺がそう言った瞬間、彼女の肩がピクっと揺れた。瞳にあった雫は溢れ、雨のようにポタポタと机の上に降り注いでいく。
「っ……それは……そうだけど……! あれからずっと探してたの? 1人で?」
「いやー大変だったよ。色んなクラスのゴミ箱やら何やらひっくり返してさ。あ、でもゴミ箱には入ってなかったから安心して……あれ? 宗像さん?」
気付けば宗像さんが机に突っ伏していた。
その体は少し震えている。
俺はそれ以上何も言わず、彼女の机の上に御守りをそっと置いて自分の席に座った。
それからしばらくして。
後ろから小さな声で
「ありがと」
そう聞こえたような気がした。
◇
あれから宗像さんはよく俺に話しかけてくるようになった。
『あ。お、おはよ』
『……えと、良かったらさ、一緒にご飯食べよ』
『あ、アンタがよくしてるゲームさ、ウチにも教えてくんない?』
てな感じに。
普段見せないようなモジモジとしたそんな彼女の姿に最初のほうの俺は呆気にとられたものだ。
「……ふん」
そして現在。
俺はいまだに拗ねてそっぽを向いている宗像さんの肩をポンポンと叩く。
「宗像さんごめん。ごめんて。なんでもするから許してよ」
その瞬間。
「……なら、ウチに早く告白してこい」
「え?」
一瞬自分が何を言われたか分からず固まる。
俺が硬直していると宗像さんがゆっくりとこちらを向く。
「……冗談だよ。ばーか」だいすき
その顔はマスク越しでも分かるくらい赤く、そして満面の笑顔だった。
「あはは」
俺もつられて笑う。
最後に小さく「だいすき」と聞こえたのはきっと俺の聞き間違いだろう。
……全く。
今のは良いのが入っちゃったな。
会心率が死ぬほど低いけど会心ダメージが鬼のように高い銀髪黒マスクダウナーギャルの宗像さんが俺に会心の一撃を入れようとしてくる
―完―




