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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ゴミの向こう側

掲載日:2026/06/23

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 食べ物、飲み物をこぼしてしまった。

 生きていると、どうしてもこの手のミスをしてしまうものだと思う。手がつるりんと滑ることもあれば、他からの不可抗力で被害を受けることも。

 謝罪うんぬんをまず考えてしまうけれども、こいつは本来、接する機会のなかった者同士が触れ合う機会であるともいえるんじゃないか?

 経験上、こいつとこいつを接触させると、化学変化なりが起こってマイナスの影響を与えうるというのは、長年の研究や経験で多くの人に共有されているものも多い。けれども、まだ完全に再現性が確保されていない例もたくさんあることだろう。

 多くは失敗し、不利益に終わる。けれども、ひょっとしたら利を成すことができる機会が存在しているかもしれない。ゆえに、夢やロマンは追われ続ける。

 最近、友達から聞いた話なのだけど、耳に入れてみないか?


 ちょっと前の話だ。

 友達は自分で麺をゆでるタイプのインスタントラーメンが好きでね。その日も二人前の麺をゆきひら鍋にぶち込んでいた。

 火の扱いを覚えた当初は、火元で様子を見続けなくては危うく、じっとコンロとかの前で立ちんぼになる経験。君にはないかい?

 私は今でもしばしばやるが、他に離せない用事があったりすると、ついついお世話をおろそかにしてしまう。それでいて事故のたぐいが起こらないとなれば、そのうち気を抜いてしまうようになるだろう?

 友達のケースも、それだった。そのときはパソコンでやっている作業がいいところであり、そちらへ集中していたかったのだという。

 ヘッドホンまでつけていたから、すぐには異常に気づけなかった。しかし、ふと外してコンロから聞こえているべき、火や沸騰の気配がだいぶ弱まっていることを察したんだ。


 ふきこぼれ。

 鍋のふちには白いあぶくが溜まるばかりか、そこから鍋はだを伝って流れ落ち、本来なら自身をあぶってくれているであろう火を、すっかり消してしまっていた。

 それだけじゃない。友達の家のコンロの裏手にも泡はこぼれ落ちていたんだ。友達がコンロの掃除をするのは、非常にまれだった。その裏についても同じこと。

 そこにはクモの巣のごとく、ほこりが張って泡をしっかり受け止めていたのだとか。

 洗濯ひもを渡したところへ、干された布団のよう……とたとえるには、いささか風情に欠ける。勤労の結果ではなく、怠慢の結果なのだから。

 さすがに友達も手を出し、ティッシュで泡まみれのほこりをからめとると、これまた部屋の隅へ置いてあるゴミ袋へ放り込む。

 このゴミ箱も、ここのところこの手のぬぐったティッシュが多めに詰まっている。生地や畳の上を免れたというだけで、ココアに麦茶にジュース……友達がメインとしている飲み物類をふんだんに取り入れ、たっぽりと溜まっている状態だった。

 気を抜いているつもりはない。なのにそれらは、突拍子もなく自らの手をすり抜けて、家の各所をもろともに汚してしまうんだ。

 そうなると、道具や自分自身に原因を求めたくなる。友達は自分の握り手や、道具の汚れなどを気にして、丹念に拭いていたりしていたそうな。


 ――ちょっとゆとりはあるが、もう明日にはゴミ出しちまおうかな。


 小バエが湧きだしそうな環境、どうにも好ましくない。

 それでも袋がまだ半分程度ゆとりがあるのと、生来の不精気味な性格もあいまって、なかなかアクションにうつせず。朝にやればいいかなと、ぐずぐずしていたとのことだが。


 その日の夜中。

 布団へ横になりながらも、なかなか眠れずにいた友達の耳に、ゴミ袋が「かさり、かさり……」と震える音が飛び込んでくる。

 小バエならば、こうはならない。彼らは音ではなく、視界に映って不愉快さをかもすのが主な仕事だ。

 けれども質量的に袋を動かしうるとなれば、もうちょいサイズの大きい輩。そして、視界に入れるにはちょっと度胸が要ることが多いメンツ……。

 友達の決断は早い。

 枕元へいつも置いている殺虫剤を手に、ゴミ袋の近くへ。なおも音がしていることを確認すると、明かりもつけないままに、袋のあるあたりへ目がけて缶の中身を噴射したんだ。

 左右へ軽く揺らしながら10秒、20秒……カタキでも相手にしているかのように、死の霧をまき散らしていたはずだった。


 その闇の中から。

 ぬっと、別の手が伸びてきて、友達の手をつかんだ。

 ひとり暮らしの空間だ。誰かがいる可能性は皆無のはず。しかも、手が伸びてきた方向はゴミ袋の中からしか考えられない。

 不意打ちだったこともあり、友達は反射的にあげそうになった悲鳴を呑み込んで、掴んできた手を乱暴に振り払う。

 手は引っ込んだものの、代わりに殺虫剤の缶をわしづかみ。そのまま友達の握りからもぎ取るや闇の中へ引っ込んで、袋をがさごそと鳴らした。

 すぐさま明かりに飛びついた友達だけど、そこで見たのはなぜか空っぽになっているゴミ袋だけだったという。

 中身も、殺虫剤も、あの伸びてきた手もどこにも見当たらなかったのだとか。

 あのゴミたちが招いたものだったのかどうか……友達には判断しかねるところだと。

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