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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

君のはなになったなら

作者: Yuki
掲載日:2026/05/19

僕には好きな人がいます。

その人は誰よりも優しくて可愛い,天使のような人です。

僕はその人の彼氏になりたかった。

僕はその人のおまけになりたかった。

僕はその人の花瓶になりたかった。

僕はその人のはなになった。

斉藤莉々。あだ名はりーちゃん。一人っ子で××小学校出身。隣町の高校に電車で通っている。髪の毛を初めて染めたのは中二で,ピアスを明けたのも中二。変な仲間とつるむようになったのは中3で,おじさんと街を歩くようになったのも中3。


莉々ちゃんは電車で立つのを嫌がる。

前に痴漢されたことがあるからだ。はっきりとものを言える莉々ちゃんは,やめろよとおじさんに注意をして殴られていた。

クラスの皆に,りーどうしたのそれ,彼氏?と聞かれて,痴漢された,マジ死ねよ,と答えていた。

僕は隣の車両でずっと見ていたんだ。

莉々ちゃんのことは全部わかるよ。


莉々ちゃんの彼氏は10個上。金髪のホストみたいな男で,たまに殴られる。それでも莉々ちゃんは別れられない。お金を借りているから。おじさんと腕を組んだ写真を撮られているから。

可哀想な莉々ちゃん,僕が莉々ちゃんになってあげたいと思う。

そうしたら,僕は莉々ちゃんの体を傷つけない。莉々ちゃんを守り抜くと誓う。


学校に入ると,すぐにイスに座って足を組む。りーどした,機嫌悪いじゃんと仲間が言う。そうしたら莉々ちゃんは,きもちわりーおっさんに胸ガン見されたんだけど,と吐き捨てる。そして僕と目が合うと,こっち見てんじゃねーよロリコンと大声で蔑む。

それがなんと興奮することか。

莉々ちゃんは僕の天使だ。


そんな莉々ちゃんの彼氏になりたかったけど,先にいるからもうダメだ。

じゃあ僕は何になれるんだろう?

莉々ちゃんの相棒?

莉々ちゃんの夫?

莉々ちゃんの息子?

莉々ちゃんのトラウマ?

莉々ちゃんは花みたいな人だ。華も似合うけど,まんまの意味で花みたい。

鮮やかで綺麗で可愛くて,ずっと見ていられる。そんな莉々ちゃんの花瓶受けくらいにはなりたかったものだ。

もういっそ僕が莉々ちゃんの花になれたら。

神様,僕を莉々ちゃんのはなにしてください。


次の日,目覚めたら僕は莉々ちゃんの部屋にいた。

莉々ちゃん,莉々ちゃんと声をかけても起きない莉々ちゃんの寝顔がどうしても見れない。視界に入ってきたのは,大きくはだけた胸元と脱ぎ捨てられたパジャマだった。

まったく,莉々ちゃんは警戒心がないなぁ。

莉々ちゃん,僕が教えてあげるよ。

莉々ちゃんはね,可愛い可愛い女の子なんだよ。いくら僕のような男を部屋にあげてるからって,無防備なところは晒さないこと。わかった?

返事はない。莉々ちゃん,どうしちゃったんだろう。

体が勝手に動いた。

莉々ちゃんの声がする。

莉々ちゃん,おはよう。僕のことわかる?莉々ちゃん,ついに僕のこと好きになってくれたのかな?部屋にまでいれてくれるなんて…ううん,初めてじゃないよ。ずっと見てたもん。莉々ちゃんがいないときに莉々ちゃんの部屋に行ったこともあるし,莉々ちゃんのハンカチ何枚か借りたまんまなんだ。後で返すね。

女の人の声が聞こえてきた。

お母さんだ。

莉々ちゃん,お母さんに僕を紹介してくれたの?ありがとう,今度僕も紹介するね。

莉々ちゃんは僕と一緒に階段をおりる。莉々ちゃんの寝起きの匂い,嗅いでみたかったんだ。莉々ちゃんは洗面所に向かう。トイレまで一緒は,恥ずかしいなぁ。何回も見てるはずなのに,未だにドキドキしてしまう。

莉々ちゃんが鏡を見た。

僕がいた。

僕は莉々ちゃんの鼻になっていた。


莉々ちゃんの鼻の暮らしはとても楽しい。莉々ちゃんのトイレからお風呂,友達との電話や彼氏とのデートまでずっと一緒なのだ。彼氏とのデートは嫉妬してしまったけれど,莉々ちゃんは僕を気遣って彼氏と手を繋がない。急に彼氏に殴られて,僕がひどく曲がったことがあったけど,莉々ちゃんは笑っていた。そうだ,僕が人間に戻ったら,莉々ちゃんを殴ってあげよう。きっと喜んでくれるさ。

莉々ちゃんは友達とたくさん笑ってたくさん話す。地元のヤンキー友達が妊娠して高校退学になったとか,先生に体を売ったら留年取り消してくれたとか。なんだソイツは,先生なのか。クソだな,そんなやつ。

莉々ちゃんは僕の話もする。

莉々ちゃんはツンデレなのだ。いつもはいわないありがとうも,友達の前では言えるみたい。

莉々ちゃんは行方不明になった僕を心配してくれていた。

クラスの誰からも覚えられていない名前を呼んでくれたのは,莉々ちゃんだけだ。

莉々ちゃんと同じクラスになれてよかったと心から思う。莉々ちゃんは僕の全てだ。


莉々ちゃんが整形したいと言い出した。

そんな,僕はどこに行くの?莉々ちゃん,僕を捨てるの?そんなことしたら,莉々ちゃん殺すよ。


莉々ちゃんはとても不器用だ。カミソリで眉毛や産毛を剃ろうとして鼻を傷つける。

莉々ちゃんに傷つけられたなら,この傷は癒えなくてもいい。莉々ちゃんになら殺されてもいい。


莉々ちゃんは被害者家族だ。

お兄さんを去年亡くしている。

莉々ちゃんは未だに犯人を捜している。

莉々ちゃんは犯人を見つけたようだ。

だから彼女になって犯人と近づいた。

莉々ちゃんは見た目に寄らず頭がいい。

だけど野生の勘は大ハズレ。

犯人の証拠がつかめず,暴力を振るわれているだけになっている。

莉々ちゃんはお兄ちゃん思い。

毎日一緒に電車で登校してたから,今もたまに隣を見る。

莉々ちゃん,犯人は僕が殺してあげるよ。莉々ちゃんは安心してね。


莉々ちゃんの彼氏は最悪な人だ。仲の良かったお兄さんを,ノリが悪かったってだけで殺したらしい。莉々ちゃんは口癖のようにパパとママにいう。パパはもう死んだけど,ママは莉々ちゃんのために働いている。パパが死んでからすぐ大金が振り込まれていたけど,これは何だったんだろう?

莉々ちゃんは行動力がある。

莉々ちゃん,ついに彼氏を直接問い詰めた。

僕の方がドキドキしてきた。莉々ちゃんを傷つけるようなら,僕が絶対に許さない。

莉々ちゃんが泣いてる。どうしたんだろう。莉々ちゃん,あともうちょっとだよ。莉々ちゃん,頑張って。お兄ちゃんのために,頑張って。莉々ちゃん,本当に好きになっちゃったってどういうこと?莉々ちゃんはアイツが好きなの?莉々ちゃん,アイツは犯人だっていってたじゃん。絶対に許さないって言ってたじゃん。あ,アイツも泣き出した。俺は本当に殺していない?俺も本当に愛している?なんで?莉々ちゃんは僕のことが好きなんだよ。莉々ちゃん,噓だって言ってよ。莉々ちゃん,殺すよ。


目が覚めた。

莉々ちゃん。

莉々ちゃんはどこにもいない。

生ゴミの匂いと,莉々ちゃんの下着の甘い匂いが混ざって気持ち悪い。

莉々ちゃんの鼻ではなくなった。

莉々ちゃん,今何してるんだろう。

こっそり渡しておいた監視カメラで見たら,莉々ちゃんは彼氏と寝ていた。

莉々ちゃんの嘘つき。

僕しか見ないって約束したじゃん。

僕のことが好きだったんでしょ?

莉々ちゃんの嘘つき。

莉々ちゃんはもう噓がつけないように,舌をとっておこうか。

僕は3週間ぶりの体を動かして莉々ちゃんの家へと向かった。


莉々ちゃんには内緒でつくった合鍵で部屋に入ると,莉々ちゃんは一人だった。

莉々ちゃん。

なに?

なんで噓ついたの。

噓?

僕のことが好きなんじゃないの?

待って

嘘つき,莉々ちゃんは嘘つきだ

待って

嘘つきは地獄に落ちろ

先生

包丁を振り上げた僕の手を,警察官が握りしめた。

莉々ちゃん,全部莉々ちゃんのためなんだよ。莉々ちゃんが,お兄ちゃんなんて嫌いって言うから,殺した方がいいかなって。莉々ちゃんのためなんだよ。ねぇ莉々ちゃん,獄中婚でもしようか?莉々ちゃんはあとちょっとで卒業だから,先生と結婚できるね。先生,ずっと好きだったんだよ。莉々ちゃんの担任になってから,ずっと莉々ちゃんを見守ってきた。

莉々ちゃん,どこいくの?

莉々ちゃん,それ,何?

莉々ちゃん,痛いよ,莉々ちゃん。

莉々ちゃん,息できないよ。

莉々ちゃん,血が止まらないよ。

莉々ちゃん,吐いてごめんね。

莉々ちゃん,僕,生きてる?

あぁ,莉々ちゃんが抱きしめてくれた。

莉々ちゃんは僕の首を優しく抱いてくれる。

莉々ちゃん,僕,あと少ししか生きられないんだと思う。

莉々ちゃん,最後に伝えさせて。

莉々ちゃん,ずっとあなたのことが――。

莉々ちゃん,待って,莉々ちゃん,落ち着いて,莉々ちゃん,莉々ちゃん,莉々ちゃん。

莉々ちゃんに殺されるなんて,そんな。

嬉しい。

ありがとう。

大好き。

僕の死体は笑っていた。

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