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東京都立祓除高等専修学校  作者: まどか
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2.頬の赤い少年

 静かすぎる車内の中で、幼い少年はバックシートに身を預けて、ぼんやりと流れ行く景色を眺めていた。

 車は高速道路を走っていた。

 料金所を通過し、どこまでも果てしなく続く無機質な道路を突き進んでいる。道路標識が次々と移り変わって行くが、わずか6歳の子どもである彼には漢字を読むことが出来ず、目的地など皆目見当もつかなかった。

 どれほどの時間、車に揺られているのだろう。

 手足の細い小鳥のような少年は、行儀ただしくバックシートに座っていた。一般的な同年代の子供なら、十分もしないうちに、退屈でたまらないと言った様子で体を揺らし、頬を膨らませながら不満を紡ぎ始めるだろう。

 しかし真純は違っていた。彼のガラス玉のような瞳は、外の景色を静かに映しているだけだった。

 その少年は、薔薇色の頬をした、小さな人形のようだった。

 光の束を集めたように、きらきらと輝く繊細な金の髪に、星々の瞬くアクアマリンの大きな瞳、小さくふっくらとした唇は芍薬の形をしていた。

 彼は、妖精の国の住人のような愛らしい (かんばせ)をしていたが、体は酷く痩せこけていて、衣服から飛び出る手足は痛々しいほどか細く、青い血管が目立っていた。

 はじめて真澄に会った者は皆『守ってあげたい』『仲良くなりたい』と思う。しかしその思いは長続きしない。真澄は生まれつき、敵の作り方を知っていたからだ。

 長時間の移動により、少年の体は軋み、痛みを感じていた。朝から何も口にしていないため、喉が渇き空腹だった。しかし、真純は苦痛を表情に出さず不満も漏らさなかった。ただ平然とした顔をして黙って耐えていた。

 少年が父から、今は亡き祖父が住んでいた田舎の家へ引っ越すと告げられたのが数日前。祖父は三年前に亡くなり、そこから家は無人となっていた。

 突然の引越し――それは、真澄の母親が亡くなったことが理由だった。

 少年は生まれ育った都会の街を離れ、心機一転、父と2人暮らしを始めることになる。

 ガラス窓を通して、灰色の景色を眺めながら、真澄は不安という不快な感情が、胸の奥をじわじわと侵食するのを感じていた。清い透明な水の中に、一滴一滴墨汁を垂らすように。

 暗く濁ったものに心が侵されつつあることを感じ、少年は小さく頭を振ると、隣座席に置いてある青色のリュックに手をのばした。

 ぱんぱんに膨らんだリュックの中には真澄が気に入っている本が数冊入っていた。

 真澄は本を読む時間が何よりも好きな子どもであり、僅か6歳でありながら小学校中学年向けの本を読んでいた。

 読書は少年にとって唯一の現実逃避であり、普段彼は、時間が許す限り本を読み漁っていた。

 少年はリュックを両手で引き寄せると、チャックをゆっくりと開けて【夢みる小鳥】と書かれた文庫本を取り出し、膝の上に置いた。

 そして、リュックのチャックを閉めた後、両膝の上の本を手に取り、栞紐のページを開いた。


 長い時間高速道路を走っていた車は、都会の喧騒から離れ次第に景色が変化して行った。

 群れを成す高層ビル群が減り、視界が開け、空が広くなっていく。

 2人を乗せた車は、大きな青い看板の下で左折し、下道へと進路を変えた。

 そしてそのまま、一般道路をひたすら突き進んで行く。

 景色は自然豊かにものへと移り変わって行った。

 畑や田んぼ、河川に古い神社仏閣。家もまばらになっていた。

 それらの景色がしばらく続いた後、突然ぷつりと終わりを告げ、真澄を乗せた車は未舗装の山道に入った。

 木々が道を囲うように生い茂っており、そこは昼間というのに光が届かぬようだった。

 剥き出しの地面を走る車は、がたがたと揺れて不安定だったが、真澄は気にする様子もなく本に夢中になっていた。

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