4話 光に守られて
ある日、弟と話せるようになった頃のことだ。
俺が魔法の訓練をしていると、話しかけてきた。
「お兄ちゃん、その水どうやって出すの?」
弟に魔法を見せてあげるために、優しく手を握り、森の中へ行くことにした。
「いってらっしゃい。異変を感じたらすぐ戻るのよ。」
「は〜い!」
声を合わせて言った。
よちよち歩く弟の姿を見て、俺がしっかり見本にならなきゃと思わせた。
ーーここら辺でいいか。
そう思った瞬間、ガサガサと音がした。後ろには弟がいることを考えると、心臓の鼓動が早くなった。
慎重に音の鳴る方へ向かう。
そこには文献で見たことのないリスがいた。しかも弱っている…
急いで家に連れて帰ると、母に手当てをしてもらった。
リスは回復し、すっかり俺に懐いてしまった。
「このリス飼ってもいい?」
目をうるわせながら言う。
「飼っていいわよ。」
母の許しを得て、俺は名前を「ルミナ」と名付けた。
この世界では、動物に名付け、相手が受け入れると、契約を交わすことになるという。
「よろしくね。」
頭の中に声が響く。
契約したことで念話することができるようになった。
嬉しさが胸を突き上げ、同時にこの小さな命を守らねばという重みが肩にずっしりのしかかる。
ルミナの存在が、不思議と俺の魔力を引き出す気がした。
こうして、ルミナとの日常が始まった。
ルミナと出会ってからは、いつも一緒にいる。
魔力総量が増えたと思ったけど、どうやらルミナの力のようだ。おかげで魔法の練習も捗る。
この頃から、俺は冒険がしたくなった。
リーファ村にある小さなギルドへ向かう。今、俺は5歳だが、登録はできた。
冒険者の入り口と考えるとワクワクでしかない。
「まずはビギナー級からね。ビギナー級は、薬草集めや簡単な手伝いが中心よ。でも、大人の同伴がないとダメだからね。」
俺は大きく頷き、ギルド嬢からビギナー級の証明書を受け取った。思わず笑みがこぼれる。
ブロンズ級だと受けられる任務も限られるが、小さな俺にはこれで十分だった。
ある日、ルミナと一緒に薬草を取りに森の奥へ向かった。もう、薬草集めも慣れた頃だ。
この森は滅多に魔物が出ないことで有名だ。
進むうちに背筋にぞくっと悪寒が走っても、俺は気にせず自由気ままに歩いていた。
ふとしたとき、大人の姿はなくなっていた。
その瞬間、目の前にぷるぷると揺れる影が。
「……スライム!?」
気づけば逃げ道は塞がれ、戦うしかなくなっていた。
ーーまだ魔物と戦ったことがなかったが、この状況下でも少し自信があった。魔法を使えば倒せるだろう。
俺の後ろにルミナを隠した。
俺が一番得意な水魔法を詠唱した。
掌に水のエネルギーを集中させ、弾丸状に形を作る。
「ウォーターバレット!」
スライムに放つと、表面が揺れる――しかし、形を変えて弾き返すだけで、ほとんど効いた様子はなかった。
だが、俺には火魔法もあった。
手をかざすと、掌に小さな炎が宿る。火球を作り、スライムに投げる。
「ファイヤーボール!」
小さな炎が命中し、焦げた匂いが漂う。表面が少し黒くなるが、スライムはゆっくり形を戻し、何事もなかったかのような様子だった。
背後で微かに光が揺れた気がした。別の敵か…?
後ろにはルミナしかいなかった。
ーーおかしい、前世の記憶ではスライムは弱いはずなのに…
焦りで、うまく詠唱できない。
酸が太ももに触れ、焼ける痛みが走る。
足がもつれ、倒れそうになる。
――まだ死にたくない…!
そんな思いが俺に詠唱させた。
「ふぁいや…!」
そのとき、背後からの光で目の前が白く包まれた。
光が落ち着くと、赤い石が地面に落ちていた。
負傷した左足を引き摺りながらもなんとか大人と無事に合流した。
俺の太ももに火傷したような跡ができたのを見て、深くアタを下げ、ポーションを無料でくれた。
ポーションを火傷の部分にかけると、じんわり痛みが引いていった。
俺たちは薬草をすべて回収し任務は無事完了した。
薬草を持って、リーファ村へと帰ろうとしたとき、
意識がなくなった。
気がつくと家の天井が目に入った。
母に心配され、俺は魔物に遭遇したことを話した。
母は心配で仕方がない様子で、怪我はないか念入りに尋ねる。
大丈夫だと言っても、母は聞かず、回復魔法を五回もかけてくれた。
そして拾った赤い石を見せると、母の目が点になった。
「それって変異種の魔石じゃないかしら。おそらくそのスライムにはほとんど魔法は効かないわよ。シルバー級でも倒せない魔物よ。」
「シルバー級ってどのくらい?」俺は尋ねる。
「ビギナー、ブロンズ、シルバー、ホワイト、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド、ミスリルの8段階。あなたはビギナーだから、二段階上ね。アレン。あなたが倒したの?」
「いや……目の前が眩い光に包まれて、気がついたら石が落ちてたんだ。」
「それ、多分光魔法よ。誰かが助けてくれたのかしら。」
あの場には誰もいなかった。
俺はルミナの方を見て、念話で問いかけた。
「助けてくれたのか?」
すると、ルミナは誇らしげに微笑んだ。
――もしかすると、ルミナは思ったより強いのかもしれない。
ルミナがいなかったらと考えると、ゾッとする。
全く太刀打ちできなかった屈辱が、俺をさらなる特訓へと駆り立てた。
*
木の下で、俺は考え事をしていた。
昨日の戦いで未来が見えた気がした。
ーー魔法を発動するときとは、何かが違う。
無意識のうちに、魔力の流れが、逆転するような感覚だ。
魔力が腹の奥から渦を描き、胸を抜け、腕や足へ外へ、外へと押し流される感覚。
これが、いつもの魔法だ。
これとは逆に、未来予知をするときは体の外から内へと流れていく。胸の奥、さらに深く――思考の深淵を覗かれている感覚。
試しに、その感覚で魔力を流してみた。
だが、何も変わらない――そう思い、上を見上げる。
すると、木の葉が二つ重なって見えた。
次の瞬間、視界が割れ、頭の奥を直接掴まれたような痛みが走る。
次の瞬間、膝から崩れ落ちた。
気がつくと、夕陽が沈みかけていた。
ふらつく体を起こし、俺はそのまま家へ帰った。
夜、寝る前に自分の部屋で朝と同じことを試してみる。
――魔力の流れを、逆転させる。
俺はゆっくりと逆転させてあった。
ーー何も起こらない。木の下で見ていたのはただの目眩だったのか。
俺の勘違いに苛立ちを覚えた。
その瞬間、遠くから音が聞こえてくる。
「ダッダッダッダッ」
廊下を急に曲がりルミナがこちらへ飛び込んできた。
俺は慌てて腕を伸ばし、受け止めようとする。
「……?」
少し違和感があった。
衝撃が遅れて、伝わってきたのだ。
しかも、うまくルミナをつかめなかった。
すると、どこからか懐かしい声が響いた。
「おまえさん、ようやく自分のものにしたようじゃな。」
あの時の婆さんの声だ。
「……?」
最初は、何を言われているのかわからなかった。
「どういうことだ。」
「未来を見ることができたんじゃ」
俺はそう言われはっとする。
ーー未来予知…
そう、ルミナが飛び込んでくる結果、つまり未来を俺は“見て”いたのだ。
もう一度試そうとする。
しかし、世界が二重に見えるせいで、頭の奥がじんと痺れる。
――これ、まだ慣れが必要だな。
まだ完全には使いこなせない。だが、未来を覗く力が、確かに俺のものになろうとしている――恐ろしくも、心躍る感覚だ。
読んでくれてありがとうございます。至らないところも多いと思いますが、お手柔らかにお願いします。
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