1話 この世界の魔法と未来予知
一ヶ月もすれば、この体にも、この世界にも慣れていった。
母の腕の中で、父が窓際で黙々と布を動かす背中は、不器用なくせにどこか優しかった。
不思議と安心してまぶたが重くなる。
どうやら俺の名前はアレンというらしい。まだ実感はないが、響きが良くて気に入っている。
俺が生まれたリーファ村は王国の外れにあるが、自然に恵まれた小さな集落だ。落ち着いた毎日が続いている。
そんなある日、俺は歩けるようになった。
文字はまだ完全には読めない。それでも家の本を読んでいるうちに、ひとつだけ興味深いことを知った――この世界では、魔法が使える。
*
1歳になって、文字が完全に読めるようになったある日、初級魔導書を読んでいると母がやってきた。
「あら、本を読んでいるの? えらいわね」
本を覗き込む母に驚き、「えっ!? 初級魔導書……じゃない」と呟く。
母は驚きつつも、この世界の魔法のことを教えてくれた。
「魔法を使うにはね、まず“流れ”を感じるの」
母は両手を包み、次の瞬間、体の奥から熱が広がっていく。
――燃えるというより、巡る。
心臓から腕、指先へと何かが巡るのが分かった。
「……これが、魔法?」
「今のはただ魔力の流れを感じただけ。魔法を使うのはまだ先よ」
母は笑い、父の声が遠くから聞こえる。母は父の方へ行ってしまった。
できると知った日から、毎日密かに母の横で練習した。
1年後、初級魔法は使えるようになり、弟のフィンも生まれた。可愛くて仕方がない。フィンを見るたびに、俺の頬は上を向く。
父の帰りは遅くなり、村の外れで魔物が見つかる話を何度も耳にするようになる。家の空気は少し張り詰めていた。
*
ある夜、夢の中で窓の外で低い唸り声と木が軋み壊れる音がした。獣のものとは明らかに違う、粘ついた音だ。
背中がゾワっとし、目が覚める。トイレに行く途中で外を見ると、家の裏の柵が内側から壊れていた――夢と少し似た光景だった。
日を重ねるごとに違和感は大きくなり、雨の夢を見て目を覚ますと、雨が降っていた。――未来予知…なわけないか、と自分に言い聞かせる。
しかし翌日も、その4日後も、夢で見たことが現実と重なることが増えていった。
一週間後、夢の中はぼんやりとしていたが妙に生々しい。村人たちが叫び、逃げ回る。村の外には黒い影。
母に呼び起こされ、目を覚ますと夢と同じ光景が目に入った。焦げた匂い、泣き叫ぶ人々、崩れた家、瓦礫の山。そして父は片腕を失って倒れていた。
言葉が出ず、逃げなければと分かっても足は動かない。母は無理やり俺を教会まで連れて行った。
教会には怪我をした人々がいて、血の匂いが充満していた。母は戦いの場へ向かい、俺は膝を抱えて泣く。
ご老人が慰めに来て、「きっと、大丈夫」と言ってくれたが、俺は泣き止めなかった。気づけば泣き疲れて寝ていた。
目を覚ますと戦いは終わり、母を探して教会の外に出る。入り口には服がボロボロの母がいた。
「母さん…!」
抱きつき、父の様子を尋ねると、母は「……大丈夫よ」と答えた。初めてほっとする。
リーファ村は、父の警備隊と母の回復魔法のおかげで全壊は免れた。
そして、この事件で、俺は1つ確信せざるを得なかった。
――俺は未来を垣間見る力を持っている。
しかし変えられない未来を知るだけでは意味がない。このままでは前世と同じく、後悔だけが残る――そんな気がした。
事件の翌日から、俺は父の看病を毎日続けた。父はあの日以来、目を覚まさない。
看病で疲れ、隣の椅子で眠っていると、父が目を覚ます夢を見た。――未来予知だ!
目を覚まそうともがくが開かず、父が体を揺らし叫ぶ。
「アレン、アレン、大丈夫か!」
「父さん!」
声が震え、涙が止まらなかった。
——未来を知るだけじゃ、足りない。
守れる力が、欲しい。
初めての小説です!
読んでくれてありがとうございます。至らないところも多いと思いますが、お手柔らかにお願いします。
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