0話 プロローグ
俺の名前は平林元太、31歳。生まれも育ちも埼玉の成人男性だ。
中高一貫の男子校に通ったが、学問も運動も中途半端にダラダラと過ごすだけの学生時代。
まともな青春は一切なく、気づけば卒業していた。
学生時代に培った引っ込み思案な性格は大人になった今も変わらず、女性と話す機会もほとんどない。
カップルが横を通るたび、羨ましい気持ちに嘘をつき、小さく舌打ちをする。
ブラック企業に勤める俺は会社の福利厚生もろくに使えず、休める日はお盆と年末だけ。
両親も既に他界し、親孝行らしいことは何一つしてやれなかった。
今日は正月。
人で賑わう初詣には行くはずもなく両親の墓参りのため地元の埼玉へ戻ってきた。
俺のできる、唯一の親孝行。
ーーごめんな、お父さん母さん。こんなことしかできなくて。
空っぽな思い出が湧き出てくる。
そして、俺はため息をついた。
白い息が空に溶ける。
まるで俺の人生のようだった。
自宅へ帰る途中、神社へ向かう道には、家族連れが意気揚々と歩いているのを横目に見ていた。
信号が赤に変わり、俺は立ち止まった。
そのとき、
俺の目の前で子供が道路へ飛び出した。
「おい!」
横からは大型トラックが迫っていて、このままだと子供が助からない。
「ぷーーーー!」
クラクションが鳴り響く。
咄嗟に、俺は道路へ飛び出し、子供の背中を押し出した。
数秒後には、意識が朦朧とする中、地面が赤く染まるのが見えた。
そして、人の悲鳴がかすかに聞こえた。
あぁ、死んだのか。
ーーこんな歳で死ぬなんて親不孝ものだな。
若いうちから行動してれば…
スキーにフェス、そして旅行…やるべきことはたくさんあったのに何一つしていなかった。
ーーこの年になってようやく理解したよ。父さん、母さん。
そして、なぜか俺は目を覚ました。
*
目を開くと、聞き覚えのない声がした。
視界の端で、大人たちがこちらを見下ろし、嬉しそうに笑っている。
⸻誰だ、この人たち。
体を動かそうとしたが、手足に力が入らない。
金縛りのような感覚だ。
「…かわい……男の子ですよ」
俺を抱いている女性が告げるが、はっきりとは聞き取れない。
俺はよく耳を澄ませた。
「ちゃんと淡い青色の目だな。さすがアルヴィス家の血を引くものだ。」
ーーアルヴィス家?
「そうね、本当に可愛いわ。」
柔らかな声を部屋に響かせ、俺の頬にキスをした。
ーー可愛い…?
どう考えても、俺に向けられる言葉じゃない。
やっと気づく。俺は記憶を持ったまま、生まれ変わったのだ。
こうして、思いがけない2度目の人生が始まった。




