ダンジョンコア3
――バチバチッ。
焚き火の爆ぜる音でヒナタとフウタ、二人同時に目が醒めた。
もうすぐ日が昇るのだろう。空は赤色に染まっていた。
「起きたのか」
焚き火の前で寝ずの番をしていた父の声は少し掠れていた。膝枕で寝ている妻と娘を起こさないためか、囁くような声だった。
「父さん、おはよう」
「おはよう」
薄い麻布の上でヒナタとフウタは並んで寝かされていた。優しく包み込むように柔らかな毛布のなかで身じろぎをしながら、できるだけ小さな声で、父への朝の挨拶をするも、咽喉がからっからに乾燥していたのか、父よりも掠れていた。
「おはよう。よく眠れたか?」
起きたときに、お互いの瞳を見て、元の紫陽花色に戻っていることを確認して、夢を視ていたのかもしれない、一瞬、そう思いはしたものの、胸が疼く感覚に、現実だったのだと改めて認識させられた。
父のいつもの空色の瞳の色にほっとしながら、ヒナタとフウタはゆっくりと起き上がった。
「うん」
「まあ、それなりに」
熟眠感はあったけれども、身体は重怠く感じた。特に、頭に靄がかかったようにスッキリとしない。
昨日は、色々なことがいっぺんに起こりすぎて、頭が混乱していた。
寝ぼけ眼な息子たちに、父は予め用意していた目醒めの効果がある薬草茶をカップへと注ぎ、ヒナタとフウタに差し出した。
二人は同時にカップを受け取り、口につけた。一口味わいながら呑み込む姿は、息が合うようにピッタリだった。思ったよりも苦みがあるのか、二人とも同じような険しい顔をしていた。
ようやく思考の整理がつき、周りをぐるっと見回すと、自分たちが妹に『ぺっと』された場所とそう遠く離れていないことが分かった。
野営をしていたのが、自宅とは反対側の森の入り口にも気づく。
数か月も前に15歳の成人を迎えはとはいえ、成長期真っ只中の身体はまだ成人男性とは言い難いものの、二人の男を連れて家に帰るのは容易ではないことは分かる。しかし、何故、逆側を野営の場所に選んだのかが、疑問に残った。
そういえば、名も知らない、名乗り合うこともできずに終わった若い冒険者がダンジョンコアを拾った場所がここら辺ではなかったか。半日前にも満たない、まだ記憶にも新しい悲しい出来事に胸がキュッとつままれたように痛んだ。
ヒナタとフウタは契約紋のある胸の上をそっと手を置く。救えなかった命を弔うように、失われてしまった命が確かに存在していたことを自身の心臓へと刻み込むかのようにググッと拳を押し付けた。
「此処は……数年後には、ダンジョンになっていたのだろうな」
父の呟きに、偶然、この場所で野営をしたのではないことが窺えた。
「ダンジョンコアは魔力を吸い上げる。この草原は、魔力を帯びた薬草が豊富だ。ダンジョン化するのも、早かっただろう。この場所は、冒険者だけではなく、多くの村人が薬草を求めてやってくる。ダンジョンコアと親和性の高い白の魔力を持つ者は特に、惹きつけられやすい」
普段、口数が少ない父にしては珍しく饒舌だった。
先程までは風で揺れていた木の枝がしなる音もなくなり、静寂な森の入り口で、大声を出しているわけでもないのに、父の声は重く響いた。
詳細な話の内容と照らし合わせるように、胸の奥に刻まれた若者の姿、淡い紅茶色の髪色が思い出し、納得した。
回復魔法に属する白の魔力を持つ者は総じて、淡い髪色をしている。その中でも、白い髪は、瘴気に侵された土地や人間を浄化できる神聖力を持ち、聖職者の証ともいわれている。
ふと父の短い髪を見て、気づく。金色の髪は、透けるように淡いことに。
父の声で目覚めた母がミヒメを抱きしめたまま起き上がり、父の胸に寄りかかる。緩んでいた髪紐が解け、胸の辺りまでの長さのある髪がふわっと広がった、その銀の髪色も朝日に照らされると、白く見えた。
「ダンジョンコアは――聖女の心臓だ」
真剣な強い眼差しでヒナタとフウタに向ける父の瞳は、一瞬だけ、柘榴色に染まった。




