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この度、妹にペットされまして……双子の兄弟は先輩の大根と妹を愛育しながら旅をする!  作者: 三田黒兎素
第1章 ダンジョンコア

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ダンジョンコア2

 地面と衝突したダンジョンコアは、脆い薄いガラスのように、パリンと割れて砕け散った。

 砕けた欠片は溶けたようなドロッとした黒い墨のような形へと変わり、バラバラだった欠片が磁石のように集まっていった。次第に体積が大きくなり、黒い影となって襲い掛かるように弟に向かう。


「フウタ――」


 弟のフウタを守るように兄が覆いかぶさったが、黒い影は兄弟二人をあっけなく吞み込んでしまった。

 黒い影は、兄弟を逃がすまいと檻で囲うようにその身を変え、縮めていく。

 広大な草原の中にポツンと四角い黒い物体が存在していた。

 中は光が一切届かない真っ暗闇だった。唯一感じられるのは、お互いの体温だけしかなかった。

 そっと身を寄せ合った。手足が半分も伸ばせず、暗闇の中は窮屈だった。


「……ヒナタ、ごめん」


 兄のヒナタを巻き込んでしまった自分が情けない。自己嫌悪で俯いたフウタの額が丁度、塩梅よくヒナタの肩に収まった。


「僕もこっそり、フウタの後ろから覗いていたから、お互い様だよ」


 いつものようにあっけらかんと笑っているのだろうか。ヒナタの肩が大きく揺れた。

 ヒナタは何が起きても、あまり動じない。初期設定だとでもいうように、いつも笑っている。視界が遮られている分、余計にヒナタの笑顔が浮かんでくる。ヒマワリを背負っているかのような、眩しい笑顔が。

 それに比べて――気持ちが沈んでしまっているフウタの目の端は涙で滲んでいた。

 幼い頃は、最後に一つ残ったおやつの取り合いで、殴り合いの喧嘩になることもしょっちゅうで、負けるのはヒナタの方が多かった。咽び泣く回数も。

 泣き虫だったのは、ヒナタだったのに――こんな時こそ、笑顔だ! なんて息巻いてみるも、自嘲にしかならないのが感覚で分かり、気分が更に落ち込んだ。

 悔しさに息が詰まる感じがして、息が上手く吸えない。

 ヒナタも同じなのか、短く吐く息遣いが、居心地の悪くなった小刻みに動くヒナタの肩を通して伝わってきた。

 空気が薄くなっているのか、魔力が吸い出されすぎた枯渇からくるものなのか。呼吸困難の原因は、恐らく、両方だろう。


 どのくらいの時間が経過したのだろうか。

 短いのか長いのか、時間の感覚も薄れていく。

 まだ生きている、そう感じることが出来ているのは、手の中で握りしめる暗闇の中に閉じ込められても決して離すことのなかった、本来の目的だった採取した薬草の少しトゲトゲした葉触りと鼻にツンとくる匂いがあったから。

 お互いが見えなくとも、同時に頷いたのが分かった。


「とど、け、なきゃ……」

「やく、そ、く、したん、だ……」


 こんなところで、燻っているわけにはいかない。時間を無駄にしている場合でもなかった。

 先程の若者のように、亡骸さえも残らない、自分たちの存在が消えるなんて嫌だ。冗談ではない。

 それよりも、手の中にある『薬草』を無きモノにはしたくない。

 負けるものか。ありったけの魔力をかき集めて、最後の力を振り絞った。


 ――ヒナタの右手の、フウタの左手の中にある薬草が仄かに光った。


 その光が合図だったかのように、バキンと耳が痛くなるくらい大きな音と地面が揺らいだ直後、囚われていた暗闇の檻は一瞬にして消滅し、煌々とした金銀の二つの月の光が、ヒナタとフウタを照らした。

 周囲の地面が濡れていたようで、蒸発するように黒い煙が立っていた。

 視界がぼやける中で、大中小の3つの人影が、二人に向かって伸びているのが見えた。

 大きな影は、剣に纏っていた黒い炎を振り払い、鞘に仕舞っているところだった。

 中くらいの影は、空になった瓶を持っていた。蓋が足元に転がっていた。


「ひーたん! ふうちゃ!」


 そして、小さな影が、こちらに向かってタタタッと駆け寄ってきた。

 舌足らずは何年も前に卒業したはずなのに、今も愛称のように自分たちを呼ぶ、誰よりも一番会いたかった妹だった。


「ヒメちゃん!?」

「ミヒメ……!?」


 姿かたちは妹のミヒメのはずなのに、自分たちと同じ瞳ではなかった。


「ミミがひーたんとふうちゃをたすけてあげるからねっ!」


 頼もしくも可愛らしい声なのに、光彩が父にも母にも似ていて家族の絆のような紫陽花色は見る影もなく、血を滴らたような柘榴色の瞳だった。

 ミヒメの一歩後ろに立っていた両親の瞳も空色でも桃色でもなかった。魔獣の瞳と同じでもある柘榴色だった。

 座り込んでいるヒナタとフウタに向かって両手を広げて、それぞれの胸に押し付けるように手を置いた。


「ぺっと~!!」


 ミヒメの柘榴色の瞳は、燃えるように光った。

 胸の奥、心臓が蒸し焼きされたように熱く、ほんのひと時、鷲掴みされたように苦しかった。

 この時、ヒナタとフウタは、見えない鎖で繋がれたのを感じた。

 二人の胸には、『ぺっと』の証となる、契約紋が刻まれていた。服の上からでも分かるくらい、はっきりと紅く光っていた。次第に光は身体に収まるように消えていった。

 ミヒメらしい契約紋だと、兄弟は助かったことに喜び微笑み合う。その瞳が家族お揃いになっていたことに気づくもすぐに、二人の柘榴色の瞳は瞼で閉ざされていった。


 ――こうして二人の兄は、妹に愛玩(ぺっと)されたのだった。

3人合わせて、ひふみ兄妹です。

今後ともよろしくお付き合いくださいませ。

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