かいとう5
「ニーくん、どうしたの? 具合わるいの?」
庭の隅っこでニールが背中を丸めて、顔を膝に付けてうずくまるように座っているのを見かけたミヒメが声をかけた。
「あ、ミーちゃん。ううん、具合は悪くないよ。ただ、休んでいただけだよ」
一度顔を上げてミヒメも見つめ返すも、ニールはすぐに俯いてしまった。
具合が悪そうには見えないものの、表情には陰りが見えた。
「……そう」
ミヒメは一言返すと、ニールの横に静かに座った。そのミヒメの声も、どこか沈んでいた。
しばらく二人は無言で座り込んでいたが、黙っているのも心も身体も窮屈で、ミヒメから話し始めることにした。
「ひーたんもふうちゃも、くぅちゃんのからだをちっちゃくするまどうぐをつくるのにいそがしくて、ミミ、つまんない」
「そっか……ぼくもウォルテが生まれてから、ハナちゃんがウォルテにつきっきりでつまんないんだ」
「おなじだね」
「うん、同じだ。へへっ」
「ふふっ」
二人で空笑いしあうとまた無言になった。
ニールの弟――ウォルテが生まれてから、一週間が経った。
どうしても家の中は、生まれたばかりのウォルテが優先になってしまうため、一通り自分のことができるニールは、構われる機会が減ってしまった。誘拐されて、やっと家に帰ってきたと思ったら、弟が生まれてしまい、どうしても後回しにされてしまうことが多くなり、面白くなかった。
ボウやイオリがウォルテに手を焼くのは仕方がないとしても、四六時中一緒だったハナちゃんまでもがウォルテの傍にいってしまい、ニールは寂しかった。
ミヒメも、ヒナタとフウタがくぅちゃんの身体の大きさを自由自在にする魔導具作りで忙しくなったため、工場を訪れても邪険にはされないまでも、触ると危ない道具が散らばっているからと邪魔扱いされてしまった。
どらちゃんはイオリのサポートを担い、くぅちゃんは花蜜蜂たちが草原に蜜を集めにいくときの番犬として付き添って今はいなかった。そのため、幼児返りしているようで、少しばかり拙い喋り方に戻っていた。
放置され気味なミヒメとニールは同じ穴の狢のようで、愛称で呼び合うくらいに仲が良くなっていた。
「なんかおもしろいことないかな?」
「そうだね~。ぼくたち、なんだかんだと盗まれているようなものじゃない? ぼくは父ちゃんと母ちゃんにハナちゃんで、ミーちゃんは、お兄ちゃんたちに従魔たちが盗まれちゃってない? だから、一日くらいは取り返してもいいんじゃないかなって。どう思う?」
「そうだよね、ミミ、ぬすまれたもの、とりかえす!!」
「それじゃあ……」
ミヒメはニールと内緒話をして、盗み返す遊びの相談をし始めていく。
そして、翌日――。
「――――え? 何もない??」
「見事に空っぽ……ん? 手紙か?」
工場に行くと、部屋の中には何一つなかった。机も椅子も、道具や素材が入った魔導鞄までもが。
残されていたのは、置手紙。飛ばされないようにと、大きな石を上に置いてあった。
フウタが手紙を拾い上げて、封を開けて中の文字を読み上げていく。
「何々……おにいちゃんたちのだいじなものはあずかった。かえしてほしくばむらのひろばにこい。かいとうミールより、だと!?」
「かいとうミール!? え、それ、何? 何なの??」
手紙を読んでも、内容の意味がよく分からないと呆然としていると、「ワッハッハ」と大きな笑い声でボウが工場に入ってきた。
「やられたな~。そういや今日は、子供たちの可愛い悪戯が許される日、だったか。忘れてたな。まあ、お前たちも今日は魔導具のことは忘れて、楽しんで来い。毎日追いつめられるように魔導具を作っても、できるもんもできんさ。気分転換してこい!! おっかちゃ~ん――ニールが怪盗になっちまった。オレサマは村の広場にちと行ってくるわ」
「あいよ~、気をつけてな。怪盗を捕まえてきなね~怪盗の好きなお菓子用意しとくね~」
「お~う、行ってくる」
「いってらっしゃーい」
ボウは言いたいことだけ言うと、ヒナタとフウタを置いて、さっさと村の広場へと向かっていった。
「かいとうって、あの盗人の怪盗か~」
「怪盗ミールって、ミヒメとニール合わせてミールか?」
「よく分からないけど、広場に行ってみよっか」
「そうだな、行くか。盗まれたモノは取り返さないとな」
失敗続きの魔導具作りは、今日は忘れて、ミヒメと怪盗ごっこしに行こうと、ヒナタとフウタは村の広場へとボウを追いかけて行った。




