かいとう3
「おっかちゃん、帰ってきたぞ~。ニールも一緒だ~」
ボウは、村の外れの自宅全体がはっきり見えたところで、大きな声で叫んだ。
見晴らしも良く、遮る障害物ともないからか、ボウの声は遠くまで届いたようで、帰って来るのを今か今かと玄関先で待っていたのかもしれない。そう思うくらいに、すぐに家の中から家人が出てくるのが見えた。
「母ちゃ~ん」
ニールがボウを追い越して、母親のところまで元気よく走っていった。
その後ろをボウがニールを追い越さない速さで追いかけ、ミヒメたちも駆け足でボウの後に続いた。
「母ちゃん、ただいま!」
ニールはそのままボウと再会したときのように飛びつくかと思いきや、寸でのところで一時停止し、ゆっくりと母親に抱き着いた。
「ニール、おかえり――うっ!」
その理由は、母親の大きなお腹を見て気づく。母親のお腹の中にはニールの弟か妹が宿っているのだろう。そのお腹はいつ産まれてもおかしくないくらいに大きく――産気づいた。
「た、たたたたた大変だ~!! オレサマは産婆を呼んでくる。ニール、後を頼んだ」
「分かったよ、父ちゃん。ぼくに任せて!!」
ニールの返事を最後まで聞かずに、ボウの姿は村の中へと瞬く間に消えて行った。
「あたたたた……もうあの人はあわてんぼうさんなだから。そんなにすぐは産まれないって。可愛いお客さんを放って、もう。あたしゃ、ニールの母親のイオリだ。よろしくね。ちょっと散らかってるけど、お客さんを泊める部屋はあるから、入った入っ――うぅ!? 破水した!!」
「母ちゃん、母ちゃん……父ちゃ~ん、母ちゃん、産まれそうかも~父ちゃん、早く~」
イオリが前かがみに倒れそうになり、ヒナタとフウタが慌てて両側で支えていると、全速力でこちらに向かってくるボウが見えた。
「連れてきたぞ~」
ボウに背負わられている産婆らしき姿もチラチラと見えた。
「いてててて……もうちょっと年寄りを労わり――こりゃいかん。さっさと準備始めるよ。お前さんたちも手伝うんだよ。ボーっとしているじゃないよ」
産婆は腰を摩りながらボウの背中から降り、イオリを見るとすぐに曲がった腰をピンと伸ばすなり、ヒナタとフウタも顎で使い、出産の準備を始めて行った。
「ミミ、何か手つだう?」
「あ~うん、今は特にないかな?」
「赤ちゃんが産まれるまでは、おとなしく待ってるくらいだろうな」
お手伝いといっても、出産する部屋を清掃魔法で綺麗にしたくらいで、準備も万全で、ヒナタとフウタも出産をただひたすらに待つだけだった。他所様の家の中を探検するわけにもいかず、居間でのんびりと天満茶を淹れて一息つき、ミヒメたちはのんびりしていた。
ボウとニールは出産に立ち合っている。ハナちゃんたちは流石に立ち会うわけにもいかず、ハナちゃんはくぅちゃんの隣で、花蜜蜂兄弟たちは巣箱の中で、羽をソワソワさせながら、居間でニールたちが出てくるのを待っていた。
「おぎゃあ、おぎゃあ~」
小一時間ほどで赤子の元気な鳴き声が聞こえてきた。ハナちゃんの羽がパタパタと動いていた。飛んでいきたいのをじっと我慢しているようだった。
「女の子かな~、男の子かな~」
「どっちかな~、女の子かな~」
「どっちだろうな~、男の子かもな~」
ミヒメはヒナタとフウタとのんびりしていると、居間の扉が開き、ハナちゃんが飛んでいった。
「ハナちゃん、弟が生まれたよ~」
ニールとハナちゃんがハグしていた。
ハナちゃんは弟の誕生の祝福の喜びで、銀の王冠から、いくつもの花蜜玉が落ちてきていた。
「あれはニールの弟くんのだよ~」
「ミミ、分かってるもん」
物欲しそうに花蜜玉を凝視するミヒメを嗜めるヒナタのやりとりにフウタは苦笑しながら、『生まれた弟は一応、ハナちゃんの弟になるのか』と苦笑を更に深めていた。




