ダンジョンコア1
――ダンジョンコアを破壊した者には、魔王の呪いが降りかかり、やがて死を迎えるだろう。
7歳を迎えたとき、神聖教会で祝福を受ける前に説かれる教えがそれだった。
数千年もの大昔に魔王が現れた。
聖剣を手にした勇者が魔王討伐へと向かった。
長く辛い戦いの末、聖剣を魔王の心臓に突き刺し、勇者が勝利した。
けれども、魔王は息を引き取る直前、勇者に呪いをかけた――死の呪いを。
魔王の心臓から黒い影が現れ、聖銀に輝く聖剣を暗黒に染め、勇者をも呑み込んでしまった。
そして、最後に残ったのは、漆黒の小さな丸い塊だけだった。
漆黒の塊を破壊した者はみな、勇者と同じ呪いにかけられた。
誰も近づく者もいなくなり、次第に忘れ去られていった。
漆黒の塊は、長い年月を経て、ダンジョンコアとなった。
かつての戦場はダンジョンとなり、魔獣が溢れ出てきた。
魔獣は人や家畜、全ての生き物を襲い、喰らいつくした。
魔獣が踏み荒らした土地は瘴気に侵され、誰も住むことができなくなってしまった。
勇気ある者たちが、ダンジョン攻略へと挑んだ。
ダンジョン制覇した者が辿り着いた先には、ダンジョンコアがあった。
しかし、誰もダンジョンコアを破壊することはできなかった――ダンジョンコアを破壊した者は、魔王の呪いが降りかかり、死することになったのだから。
幼い子供の寝物語として今もそう語り継がれている。
そんな寝物語を思い出してしまうくらい、目の前の現実から逃避していたが、何度瞬きしても、現実は変わらない。
――目の前の冒険者が手に持っているのは、十中八九、ダンジョンコアに違いない。
神聖教会で祝福を受けた後、説法する神官の横に置かれていた幼児の頭くらいの大きさのガラスケースようなものに封印されたダンジョンコアと全く同じだった。
「なあ、これって……ダンジョンコア、だよ、な?」
どう返答したらいいのか、素直に肯定もしたくなくて同じ顔をした相方に目配せするも、首を縦に振って、2回肯いた。
「封印するモノ、なんて、持ってない、よな……」
冒険者の手の上にあるダンジョンコアは、どう見ても封印が施されているようには見えなかった。
ただの頑丈な革の手袋にしか見えない両手で恐る恐る包み込んでいるそれは、むき出しの状態だった。
「ボクは、持ってない」
「オレは、持ってない」
同じ顔の二人の返答は、ほぼ同時だった。
違うのは、髪色だろうか。
ハチミツのような金色の髪の左側の一房が銀色が兄で、ミスリル鉱のような銀色の髪に右側の一房が金色が弟で、二人は双子の兄弟だった。
目の前のダンジョンコアを目を凝らしてじっと見つめる四つの瞳は土の性質で色が変化する紫陽花のような色をしていた。光彩により、瞳が幾つもの色に変化していた。
途方に暮れたような顔をされても、非常に困る。ダンジョンコア確保を依頼される高ランクの冒険者でなければ、封印する魔導具など持ち合わせていないのだから。
淡い紅茶色の髪色で瞳は栗色をしている冒険者は年は同じか、少し上くらいだろうか。装備も似たようなものだから、冒険者ランクもそう変りないだろう。
新しいダンジョンが発見されたという知らせはなかった。魔獣大量発生兆候の警告もなかった。
聞き出したところ、草原の奥に見える森の手前に落ちていたらしい。ただの黒い魔石かと思って手に取ったら、ダンジョンコアだったと。元の場所に戻そうとしたものの、手にくっついて離れなかったという。
「コレ、どうしたらいい?」
冒険者の青年は泣きそうな顔でダンジョンコアを包み込んだ両手を突き出してきた。
物騒なモノを近づけるなと怒鳴りたい気持ちを抑えつつ、間近で見る機会もそうそうないからと、兄の注意する声も無視して、弟は興味本位に一目見ようと顔を近づけてしまった。
成人男性が両手で余裕で包み込める大きさの漆黒のダンジョンコアからは、特に禍々しさは感じられなかったが、神聖教会で見た、封印されてはいても僅かに感じる揺らぐ気配は一致していた。
ダンジョンコアとの距離が縮まっていくうちに、少しずつ魔力が減っていくのを感じた。
――吸い取られている。
気づいた時には既に遅かった。
ダンジョンコアを持つ若者のはずの手が老人のように皺くちゃになっていた。体中の水分が抜け落ちてしまったように一気に干からびていき、最後は骨だったものが砂のように崩れていった。
支えがなくなったダンジョンコアは地面へと落下していった。




