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この度、妹にペットされまして……双子の兄弟は先輩の大根と妹を愛育しながら旅をする!  作者: 三田黒兎素
第6章 かいとう

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たたかい2

 錫魔蜂の(キング)であることには変わりないが、巨体すぎる。頭から足先まで全身が錫のような鎧で、ただの王ではない――。


「――何で、こんなところに錫魔蜂の大王がいるんだよっ!!」


 粋がって叫ぶフウタの足はガクガクと震えている。これまでの戦闘からくる肉体の疲労による筋肉の痙攣もあるが、大王クラスの魔物との遭遇は初めてだった。その恐怖が引き金となり、極度に震え、立っているのもやっとの状態だった。


「――クソッ」


 新たに会得した戦術――扇風陣を錫魔大王蜂に向かって放つも、傷ひとつ負わせられない。

 錫魔大王蜂は逃げもしない。簡単に風撃が当たるというのに、全身を覆った鎧にはかすり傷すらも残らない。その鎧は錫とは思えないくらいに硬かった。

 幸か不幸か、相手は近づいてはこない。ただ様子を窺っているだけのようだった。鎧兜から見える口角が厭らしく上がっていて、にやついているように見えた。


「――んグッ!」

「ヒナタ!?」


 薙刀で向かっていったヒナタが、錫魔大王蜂の腕にいとも簡単に振り払われて、木の幹に背中から突っ込み衝突した。受け身も取れずに、そのまま地面に落ちて行った。

 落ちる高さはそれほどでもなく、地面にはたくさんの落ちた葉がクッションとなり、骨折などの大怪我には至らなかったようで、ヒナタはゆっくりと上半身を起こした。背中の衝撃を引き受けた魔導の皮鎧が小さな光を発し、バラバラになった。それでも受けた衝撃は凄まじかったのか、立ち上がれずにいた。何度挑戦するも、腰が上がっていかない。


 ――勝てない。レベルの差がかけ離れすぎている。


 錫魔大王蜂と対峙する誰もが、頭の中には絶望の言葉しか出てこない。

 ミヒメは出発するまえにヒナタにネームドについて教えてもらっていた。銀の王冠を被るハナちゃんという存在を知ったから、理解もしやすかった。だから、ネームドと遭遇しても、勝てると思っていた。大したことはないと思っていた。でも、違った。目の前の巨体は、得体の知れない化け物だった。歯がガチガチ鳴るだけで噛み合わない。

 ミヒメと同じく、ニールも腰が引けて、ガクガクと戦慄させながら、座り込んでしまっていた。

 辛うじて立っているのは、フウタだけだった。

 刺し違えることさえ不可能だと理解していた。守れるのなら、自分の命を懸けても構わないと思っても、ただの無駄死にしかならない。それが痛いほどに判ってしまったから、フウタも動けずにいた。


『――フウタ、いいか。絶対無駄死になんかするんじゃないぞ。生きるのだけは絶対に諦めるな』


 不意にナイトの声がフウタの頭の中に響いてきた。

 錫魔蜂に囲まれてヒナタを助けようとフウタが無防備に突っ込もうとしていたことを後で聞かされたナイトが、フウタを叱りつけた。その一部始終が脳裏に映し出された。

 あの時は――偶然通りがかった金剛級の冒険者が、助けに行こうとするフウタを放り投げ、ヒナタを助けてくれたのだった。最上級の万能薬をヒナタに使い、ヒナタの命を救ってくれた。


『無理だと判ったなら、助けを求めろ! とにかく助けを呼べ! 誰を呼んでいいか分からなかったら――俺を呼べ!!』


 もしかしたら、両親は近くまで来ているかもしれない――その希望をフウタは胸に抱く。


「父さ――」

「父ちゃん、助けて!! 父ちゃ~ん、助けて~!!」


 フウタよりも早く、ニールが涙ながらに大声で叫んだ。それはもう必死に。

 ニールの声が森の中で木霊(こだま)するも、何も返ってこない。

 反応したのは、目の前の錫魔蜂大王だけ。もう遊びはお終いだとでもいうかのように、ジワジワとミヒメたちの前に独り立つフウタたちとの距離を縮めていく。

 助けを呼ぶフウタの叫びは不発に終わった。それが悪かったのだろうか、助けは来そうにもない。

 何の手も打てないフウタは、最後の足掻きと、ミヒメたちを隠すように両手を大きく拡げた。


「オレだけを見ろ。そうだ、オレだけ見るんだ……」


 その言葉通り、錫魔蜂大王はフウタだけを見据えた。そして、腕を上げてフウタに振り下ろそうとした、その時――。


「アオーン、アオーン」


 くぅちゃんがフウタの前に出てきて、前脚を上げて半立ちになり、錫魔蜂大王に向かって吠えた。


 ――空気が振動した。


 視界が揺れ、衣服が靡き身体も揺れる。振動が頬を撫でていく。温度は感じないのに、優しさに包まれているような気がした。

 振動が収まり、錫魔蜂大王を見ると、腕を上げたまま固まっていた。赤い目をギョロギョロと動かしてフウタを捉えているが、全身が氷の塊になっていた。錫は熱も冷も通しやすい。刃物は通りづらくとも、冷気には弱かったのだろう。助かったと、フウタは拡げた両手を下ろしていった。


「くぅちゃん!?」


 フウタの前で倒れているくぅちゃんに向かって、ミヒメが這いずっていく。

 ヒナタも、薙刀を杖代わりにして、フウタの隣に立っていた。


「くぅちゃん、起きて!」


 ミヒメが涙をボロボロと流しながら、くぅちゃんの胴を揺すっていた。

 くぅちゃんは虫の息だった。力を使い果たしたのは明白だった。

 命を燃やし、最後の力を振り絞ったくぅちゃん必殺の超音波冷凍口撃が錫魔蜂大王を氷塊にした。


「うん」

「ああ」


 ヒナタとフウタは目を合わせ、頷き合う。

 力を合わせて、くぅちゃんと同じように命を懸けて――倒す。二人の熱い想いは太く繋がった。

 くぅちゃんが作ってくれた最高の機会を無駄にはしない、絶対に倒す――そう誓いながら命を燃やしていく。

 最後の仕上げとばかりに、魔力を練り上げていると――。


 突然――錫魔蜂大王の首が落ちた。

 頭部を失った錫魔蜂大王の胴体は、氷塊のまま地面へと倒れて行った。

 硬く凍っていたようで、ドシンと大きな音が立っても、氷にヒビも入っていなかった。

 目の前には錫魔蜂大王の姿は無くなったというのに、新たな全身鎧姿が現れた。しかもその全身鎧は錫魔蜂大王よりも一回り大きく、見慣れない武器を両手に持っていた。武器の端と端を繋ぐ銀色の線がキラリと光る。


「――えっ!?」

「――あっ!?」


 練り上げた魔力が拡散してしまい、新たな敵に立ち向かうべく、もう一度闘志を燃やしていくヒナタとフウタの間を小さな影が通り抜けていく。


「――父ちゃん!」


 ニールが全身鎧に向かって駆けて行き、飛びついた。

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