終幕
「――ハナちゃんがミヒメさんに、このダンジョンコアを渡して欲しいと言ってます」
目の前に差し出された花蜜大女王蜂が命をかけて花蜜で覆ったダンジョンコアを受け取っていいのか分からずに、ミヒメはヒナタとフウタを行ったり来たりと伺い見る。
ミヒメとしては、ダンジョンコアよりも、覆っている花蜜が欲しくて、兄たちの了解が得られれば、すぐにでも受け取りたくてしょうがなかった。
「えっと……ミヒメさんに、ここに封印された魂たちを解放して欲しいそうです」
「たましいをかいほう?」
「今日はもう無理だけど、明日以降なら、花蜜をミヒメさんにお渡しします――とハナちゃんが」
「うん、ミミ、やる!! かいほうする!!」
「あぁ~」
「そうきたか……」
ニールはハナちゃんに言われるままに、ダンジョンコアをミヒメに差し出しているだけで、事情は理解していない。
ミヒメも完全に理解はできていなくても、報酬に目が眩んでいる。
ヒナタとフウタは事情を察しても、自分たちは解放の仕方は分からない。
花蜜で覆われたダンジョンコアは持っても大丈夫そうだと、明後日の思考で遠くを見ていた。
受け取っていいものか悩む兄たちが頼りないと大根が立ち上がった。ポケットから這い出てきた。
どらちゃんはミヒメの肩まで素早く上っていくと、ミヒメとコソコソと耳打ちしていた。
「うんうん、わかった。どらちゃん、ありがとう。ミミ、がんばるね」
「あっ!?」
「ヒメちゃん!?」
兄たちに阻まれるよりも前に、ミヒメは素早くニールの手のひらの上にあるダンジョンコアを手に取った。
「たましいさんたち、自由にな~れ!」
ミヒメはダンジョンコアを乗せた両手を空高く上げた。
太陽の光がダンジョンコアに射し込むと、黒い炎に包まれた。ボンッと音を立てると黒い炎は光る玉に変化し――割れた。キラキラした光の粒々が飛び散り、天へと登っていった。
その光の粒の中に、父のナイトに似た男女の姿をミヒメたちは見つけていた。
「お父さん、お母さん……はやく会いたいな……グズッ」
「今、何処にいるのかな?」
「こっちに向かってるんじゃねぇの?」
ミヒメはダンジョンコアを覆っていた花蜜も一緒に浄化されてしまったために、悲しみは倍増していた。
ヒナタとフウタは、両親のことも思い出して泣き出したミヒメの口の中に、チトセから貰った甜菜飴と大根飴を交互に入れていた。
その頃のナイトとリゼットは何処にいるかというと――ワスレナグサ村に居た!
「久しぶりだな、えっ~と……」
「今は、チトセだ。そっちは……」
「わたしはリゼットで、こっちは旦那のナイトだよ。改めてよろしくね」
「息子たちと娘が世話になった、な……!?」
「こちらこそ、いろいろ助かった……さ!?」
3人の頭上に、キラキラ光る粒が天へと昇っていくのが見えた。
「親父にお袋も……そうか……」
「父さん、母さん……蜜の……も……お元気で」
ナイトとチトセともに、光の粒にそれぞれの両親の姿を見つけていた。
「そっか、ミヒメちゃんの所に……無事に解放できたんだね。良かった……」
リゼットの桃色の瞳から涙が零れ落ちる真下には、大根と甜菜が受け止めていた。
再び、ミヒメたちのところに戻り――。
「――全然、よくない……噓でしょ~!?」
ヒナタは絶叫していた。
ニールたちが命からがら逃げてきた魔物の正体が、ヒナタの心的外傷となった――錫魔蜂だったのだから。
錫魔蜂は、触覚や首が錫のような金属に似ているからと名付けられた。
「遭遇してもいいように、対策を練ろう――ヒナタ、オレが守ってやるから」
戦慄するヒナタの肩をポンポンと叩くフウタの手は少しばかり震えていた。
「ミミもひーたん守る!!」
ヒナタを見上げてガッツポーズするミヒメ。
「あ~もう、ボクはお兄ちゃんなんだから、ボクがみんなを守るよ!!」
もうこれ以上、カッコ悪いところは見せたくないとヒナタは気合を入れた。
ダンジョンコアに封印された魂を解放したミヒメを見て、ヒナタとフウタは更なる危機感を抱いた。
この先、同じようなことが何度も起きてもおかしくないと思うと、特にヒナタは天敵にビビってる場合じゃない、逃げている場合じゃないと弱気な心にメスを入れる。
実際に遭遇してみないと本当に乗り越えられるのかは今のところは分からないが、予め遭遇する可能性があると分かっているのだから、対策を取れば何とかなるだろう、いや、何とかすると意気込んだ。
フウタも、できるだけ近づきたくないと、どうすれば近づかなくて済むのか、対策を練っていく。
ミヒメも頭の中で影魔法を使う練習を繰り返している。くぅちゃんも静かに眉間に皺を寄せながら目を瞑っていた。
そしてニールも、ハナちゃんたちを守るために闘う決意をしていた。
ニールと花蜜蜂たちを加えてのミヒメと愉快な仲間たちのワートル村への過酷な旅が始まろうとしていた――。




